「ネオヒルズ族」の創始者で実業家の与沢翼さんが事実上の破産宣言をブログ上で行った。

氏によると

>>2013年8月期決算の法人税、住民税、及び事業税

の支払いが2億円を超え、手持ちの資金がショートしたことが原因らしい。

>>国税局は12分割に応じてくれるという事前情報

を信じこみ手元に資金を残さなかったが

>>12分割をお願いすると、全く交渉は不可能であることを認識

とのこと。年商12億も売り上げておいてフリーエージェントスタイルには税理士ひとりいなかったらしい。


また国税局の請求以外にも

>>取引先のクレジットカード会社から倒産の通知

などの不渡りや

>>紹介された月利5~10%という海外FXに(中略)利益が出るどころか1か月で元本の90%を失った

などの投資(というか博打)の失敗も重なったことが原因のようだ。

本業の情報商材では順調に利益を上げていたようだから、黒字倒産と言っても良いだろう。


虚業家の倒産報告かーと思ってブログを読み進めていたのだが、後半からだんだんと色合いが変わってくる。

なんと与沢氏、いままでの自分のキャラは全て「仕込み」であることを暴露し、そのキャラクターが自分に何をもたらしたのか、率直な言葉で語り始めたのだ。

>>お金持ちを演じることを期待されているのに、もはやお金がない。

>>メディアで発言する自分の言葉に自分が洗脳を受けていき、周りを取り巻く女性たちに逃げ、全てから一時的にでも解放されたいがために飲むアルコール。

これらの飾らない文章は、なかなかに心を打つ。
一人の人間が自ら作り上げたキャラクターに飲み込まれて行き、精神的・金銭的に破滅していく。その光景と心情がありありと目に浮かぶようだ。

実は、この作家としての力量こそ彼の最大の特徴である。
そもそも「実業家 与沢翼」すら「作家 与沢翼」によって創り上げられた虚像に過ぎないのだ。

そもそも「フリーエージェントスタイル」とはどんな事業だったのか?

簡潔に言うなら、情報商材の販売会社である。

まず与沢氏が「俺はこういう方法で金を儲けた!その儲け方を教えてやる!!!」と儲けていない時期に宣伝し、それに騙された人間がお金を払う。

すると与沢氏はだんだんお金持ちになって行き「本当に」儲かるようになる。すると「やはりこの方法は儲かる!!!」ということになり商材の信頼度が上がっていく。

このサイクルが雪だるま式に大きくなってだんだん情報商材(と与沢翼自身)の価値が上がっていき、ついには3800万円をかけた「JR広告ジャック」やテレビ出演などが可能になり、さらに知名度が大きくなりさらに儲かるというものである。

ちなみに肝心の情報商材は「有名人になって儲け方を教える」という内容で、そのまんま「俺の真似をしろ」というもの。要するに知名度のネズミ講である。

この方法、たしかに方法論に論理的な嘘はないし上手くいけば儲かるのだが、「儲けてない時期に『儲けてる』と宣伝し情報を売る」という最初のハードルがめちゃくちゃ高い。

これをクリアするには稀有な才能が必要で、それがつまり私小説家としての才能である。

いじめられっ子が暴走族のヘッドになり、勉学に目覚め早稲田大学に合格し、商売をはじめ大金を掴むに至る、そんなサクセスストーリーを(嘘かホントかはさておき)練り上げることができる。そしてそれで人を感動させ、お金を出させることができる。与沢氏のこの才能があってはじめて「フリーエージェントスタイル」の方法論は機能するのだ。

当然、そんな才能を持っている人間はなかなかいないから、大枚はたいて情報教材を買ってもほとんどの人は成功できない。与沢氏が「詐欺師」と罵られる所以がそこである。

ちなみにこのような商売の方法を「ストーリーマーケティング」といいマーケティングの世界では割と一般的な方法だったりする。人を魅了するストーリーを作りそこから商品に価値を与える、という手法そのものに問題はない。問題はストーリー以外にほとんど価値のない情報商品に極めて高額な値段を設定した点だろう。


余談だが、今回のブログも上手い。
「六本木ヒルズに君臨する敏腕若手経営者」というストーリーにキッパリ見切りをつけ、「金と欲の世界で暴れまわったものの失敗し新たな価値観を見つめ始めた若者」という新しいストーリーの創造に成功している。

今後はこの方向で新たなストーリーを描き始めるのだろう。それは2014年以後の日本という空気に適合したストーリーだし、彼ほどの書き手が綴るならきっと成功すると思う。

少しほとぼりが冷めたあたりでphaさんとか日野瑛太郎さんあたりの「価値観優先」みたいな路線と合流して何か始めるんじゃないかな、と個人的には予想してる。情報商材を叩き売る人生よりは多分そっちのほうが人に迷惑もかからないだろうし、きっと楽しい。

作家 与沢翼の次回作が今から楽しみだ。