5F。


ここのところ、もうずっと意識が千切れてしまいそうなくらい眠たくて眠たくて仕方がないのだけれど、労働と睡眠の際限のない繰り返しはまるでゆっくりと死んでいるみたいで悲しい。

それで、どうにか時間を見つけては連日真夜中の三軒茶屋をひたすら徘徊している。

昨日はもうほとんど眠ったまま行く宛もなくふらふらと歩いていたら、いつのまにか西友三軒茶屋店5階家電売場の一角にある室内照明のコーナーで、まるで高校球児みたいに行儀よく一列に並んだ蛍光管のディスプレイをずいぶん長いこと眺めていたみたいだった。

あのあざといまでの放電現象がじりじりと網膜を焼いて、いったい何をやっているのかと我に返る。




幼少の頃、母にひどく叱られてからはもうずっと口にすることのなかった「弱音」とかいう極めて粘性の高い言葉が、尖らせたべろの上でうずくまっている。

きゅっと結んだ右と左の口角のその隙間からそれがぽろぽろとこぼれ落ちそうになる度に、室温で温くなった烏龍茶で胃袋に流し込んでは安堵する。

不条理にも慣れてしまって、理不尽にも慣れてしまって、何をされても怒らない僕のかわりにいつも余計に怒ってくれたかつての恋人の有り難みを今になって思い知るけれど、だからこそ今あの人がこの部屋にいなくて良かったなとも思う。

僕はだいたい親指のことを考えているのだし。









i

G町。


長い間ずっと書けなくて半ばほったらかしにしていた歌がようやく書けた。

本当のことを言えば、まだ歌詞は所々穴が空いたままで到底完成なんて言えたものではないのだけれど、それでもはじめに言葉にしようと思った一番大事なところが上手く歌になったものだからもうそれで十分だと思った。

久しぶりに部屋にこもって耳鳴りがするまで宅録なんかしてみたいとも思うのだけれど、そうもいかなくて歯痒い。

親指に優しいサンダルが欲しいのです。

グッバイ グッバイ。


7月19日。木曜日。

もう何年も前に三軒茶屋から京都に引っ越して行ってしまった僕の友人細谷くんが三軒茶屋の僕の部屋を訪ねてきた。

また来た。

ついこのあいだ来たばかりなのに。


涙腺やら汗腺やらその他ありとあらゆる外分泌腺からセンチメントの濃縮液を垂れ流して生きている彼は、何故か僕の部屋に来ると決まって僕の高校時代の卒業アルバムを見たがるものだから本当に困っている。

それで、僕が当時想いを寄せていた水口さんという女の人を、あの有象無象犇めく集合写真の中から躍起になって探そうとするものだから本当に困っている。



7月20日。金曜日。

昼過ぎまで阿呆の仕事。

夕方からはセンチメンタル細谷と三軒茶屋の駅南口にある回らないお寿司屋さんへ行き、いいお値段のする握り寿司をつまみながら大して飲めないビールを必死で飲む。

いいお値段のするわりにはあんまり美味しくなくて、これならいつもの廻るお寿司屋さんでよかったなとも思う。

お代は細谷くんが払う。

細谷くんはかっこいい。



7月21日。土曜日。

朝まで阿呆みたいな仕事。

午前中は部屋でメランコリック細谷と一緒にビデオをみる。

かつて彼がやっていた懐かしいバンドの懐かしい映像を延々流したり、かつて僕がやっていた懐かしいバンドの懐かしい映像を延々流したり、なんならいままでそっと蓋をして目を逸らしてきたはずの黄色い思い出をただただ部屋中に垂れ流しながらげらげら笑う。

それにしても、あのとき僕らが必死になってチケットノルマを払っていたライブハウスはだいたい何処も潰れてしまった。

そんなことにいちいちセンチメンタルになれるほど僕らはあのライブハウス特有の居心地の悪さみたいなものをいまいち好きになれなかったし、鼻孔の奥の奥にまでこびり付いてなかなか離れない煙草の匂いにもいつまでたっても慣れやしなかったのだから、どうでもいいのだけれど。


昼からはもはやゴーストタウンのような様相の公営団地のど真ん中を歩いて三宿のファミリーレストランまで。

いつまでも終わらないおしゃべり。
いつまでも止まらないドリンクバー。

そのまま昼下がりの世田谷公園をぶらぶら歩き、変わったようで変わらないもの、変わらないようで変わったものの話をする。

それからリョウタの話をする。


7月22日。日曜日。

朝まで阿呆の仕事。そして昼からは阿呆みたいな仕事。

明日の朝の電車で京都に帰るという細谷くんとは今日でお別れ。

けれどもこのあいだみたいに大きな荷物を抱えた彼を玄関で見送って、ひとりぼっちの部屋に取り残されるよりは随分ましか。

今度は彼が誰もいないこの部屋に鍵をかけてひとりで出て行くのだ。

そう考えると、ささやかだけれどもこのあいだのせめてもの仕返しができるような気がしてすこし嬉しかった。


7月23日。月曜日。

阿呆みたいな仕事。


7月24日。火曜日。

32時間労働を終えておぼつかない足取りで帰宅。

誰もいなくなったいつもの部屋に電気をつけると、結局またいつもみたいになんだか負けたみたいな気持ちになって悔しかった。

今度はどんな仕返しをしてやろうかと思う。

テーブルの上にはおそらく彼の筆跡に違いない拙い文字の置き手紙。

内容は勿論こんなところでは書けないけれど、僕は嬉しくて思わず涙ぐんでしまった。

僕の大事にしているMSN-100とMSZ-006の玩具をまるでペーパーウェイト代わりに使うあの乱暴な運用方法に僅かばかり憤りを感じたけれど、僕は嬉しくて思わず涙ぐんでしまった。

今度はどんな仕返しをしてやろうかと思う。







livedoor プロフィール
カテゴリ別アーカイブ
livedoor × FLO:Q
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ