「火と庭の話」

現代の、あるいは時代を経た「庭」「庭園」「Garden」と呼べれるをものを見ても、火を焚く装置などほとんど見受けられない。もしあるとすればそれはほとんど照明用の装置であろう。たとえば灯籠のように。
歴史的な記録(エジプト、アッシリア、中国、あるいは古代日本)を探っても、そこには巨大な庭園の記録があるばかりで、大々的な水の装置はあるが、火の装置は照明以外に見受けられない。火と庭の関係について考えてみよう。

「ニワ」の原点

「ニワ」の原点を探そうとしても、歴史的記録では限界があり、方法論として「ニワ」という大和言葉から出発した。
古語では「ニハ」と表記されている。岩波古語辞典で調べてみると、
にはニワ【庭・場】《作業・仕事をする平らな一定の地域。神事・狩猟・漁業・農事作業などが行われる。転じて、今日の庭の意》とある。

「ニワ」はまず平らな場所で、そこで様々な人間の営みが行われる。その中でも最も重要なのが神事ではなかろうか。豊穣・安全を祈り、神に感謝をささげる。いずれの宗教にも欠かすことができないのが、「火」と「水」。神殿が建てられるようになると、ほとんどの神事は建物の内部で行われるようになったが、もともとは屋外の「ニワ」で行われていた。神への捧げものを火で焼き、天上の神に届ける。やがて、捧げものを全て焼き尽くすのではなく、その一部を人と神とが供食し、神と人がつながり、人が神の恩恵を受けるという方向へ移行する。それが料理の始まり。

このように推理してくると、庭の中央には炉がなければならない。

旧約聖書の出エジプト記に興味深いことが書かれている。
主はモーセに「幕屋と庭」を作ることを命じ、その大きさ、方向、材料などの詳細を伝える。いわば設計図面をわたした。幕屋には「契約の箱(アーク)」が収められている。庭には神への捧げものを焼く「祭壇、つまり炉」を作られている。そして幕屋の入り口には「洗盤」が設えられる。庭には「火」と「水」が装置として設えられていることになる。
幕屋と庭
幕屋と庭の模式図

兵庫県西宮市の「西宮神社」通称「戎さん」の境内に、「庭津火神社」がある。板状の拝殿の格子から向こう側を覗き込むと、石ころ交じりの土盛りが見える。祭神は「奥津日子神」で竈三柱神の一神。この土盛りは元は炉であったのだろうか。伊勢神宮でも神事に屋外での火は欠かせない。
屋外での、つまり庭での火祭りは世界各地に今も残っている。
やがて庭の火は建物内部に取り込まれてしまう。

陰陽五行説と庭

陰陽五行説」は天地万物の生成原理を読み解こうとする中国発の思想とされている。ここでは詳しい説明は避ける(興味のある方はリンク参照)。五行とは「木・火・土・金・水」の五つの要素。これを庭の構成要素と対比してみると、
木・・樹木が主要材料
火・・これが通常見当たらない
金・・金属を表すが石もこれにあたる、石も主要材料
土・・中心の要素
水・・これなくして庭は育たない、また景観上も多用される

「木・金・土・水」この四つの要素はほとんどの庭で使われている。金=石の使われていない庭もなくはないが、何らかの形で使われていることが多い。ところが、火が見当たらないことが多い、五行の五つの要素がバランス良く配置されていることを理想とするなら、火の要素も取り入れられてよいのではなかろうか。今日のように電気による照明ができる前は、篝火や松明が照明として使われてい居ただろうから、火の要素は存在した。「茶庭」に燈籠を取り入れたのは千利休とされている。利休も五行の要素を重視したのかもしれない。
現代の庭にも、炉、石窯、焚火台などを取り込むことによって、五行の要素のバランスをとることが可能になる。火はエネルギーが強いのでそのシンボルを庭に設置し、時折実際に火を焚くと、人が集まってくる。


火について考える

①火をコントロールして扱えるのは人だけ。
②平らな空間と火が人を人として進化させた。
③火で食材を加熱するのが調理(クッキング)。=神との供食。
④調理することによって、安全でかつ効率よく食することができるようになる。
⑤火は夜間の照明。=神と共に居る。
⑥暖を与える。
⑦通信手段にもなりうる。(狼煙など)
⑧火をもたらす材料(燃料)の元は植物(光合成によって太陽のエネルギーを蓄える)。
⑨火をもたらす材料、その多くは薪。薪の得られない草原などでは乾燥牛糞が燃料として使われる。それゆえ牛は神聖視された。
⑩やがて燃料はより経済的な化石燃料(石炭・石油)に移行する。それが電気に代わり、経済力が弱く、流通に難点のある薪や炭は忘れ去られてしまった。
⑪この数十年間で、薪の利用は極端に減少してしまった。それゆえ里山が荒れ果て、ジャングル化してしまっている。
⑫住まいの中心から火が消えたことによって、深いコミュニケーションも希薄になってしまった。=神が居なくなった。

火の復活

①住まいの中心から火が消えたことによる違和感を覚える人たちが出だしてきた。(「火が消えたよう」という言葉は活気を失って寂しくなったさまをいう。=神が居ない。)
②薪ストーブの人気は、単なるファッションではなく、上記の感覚による。
③薪の活用によって、里山の再生は可能。
④火の復活のためには、安全に火を扱う技術と道具が必要。
⑤火を焚くとなぜか人が集まり語り合う。深いコミュニケーションの復活。
⑥原点の「ニワ」でも火を復活しよう。
⑦安全で合理的に作られた炉あるいは屋外用ストーブ、石窯などを作り、ガーデンクッキングを楽しもう。
⑧「ニワ」「庭」に火を取り戻すことによって、鑑賞本位の庭から、生活の場としての本来の庭に立ち返る。
⑨「火」は「日」・「霊」と同義語。火は魂をも復活させる

火の技術

①火は、「燃料、空気(酸素)、熱」の三要素によって起こる化学反応。
②効率良く燃やすためには保温が必要。
③ボウボウ燃やすのではなく、ゆるゆる燃やすのが、安全で効率が良い。
④着火は上から。
⑤灰の有効活用。
⑥消し炭の再利用。火消壺。
⑦消火は確実に。温度を下げることによる消火(水をかける)。空気の遮断(蓋をする-火消壺)。
⑧火を使った調理技術。石窯ダッチオーブンなど。
⑨安全な焚火道具。
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アメリカ製の屋外用ストーブ(焚火台)。アメリカの屋外用焚火道具には必ずといってよいほど網がかぶせられている。網をかぶせることによって火の粉が飛ぶのを防ぐことができる。薪がはじけても飛び出すこともない。残念ながら、日本製の焚火台で網のかぶせたものをまだ見たことがない。
⑩薪の確保。(庭木の剪定屑などの積極的活用。)

実演

実際に焚火台を使って火を熾してみましょう。
そして、焚火の楽しさを実感してみましょう。
時間の都合で、調理まではできませんが、茶でも点ててみましょうか。

元々「ニワ」には火があったということを実感してみましょう!