March 25, 2000

イタリアの女性起業支援策 

8fa455fa.jpg1 はじめに〜日本とイタリア,どっちが進んでる?
・ネット起業家として期待される日本女性?
 今年の7月に、アメリカのComputer Economicsが発表した、今後5カ年にみるE-businessへの女性の参入に関する期待感は、日本がカナダ、アメリカを押さえて第1位、ヨーロッパ先進諸国では、フランス、オランダ、スペインが続き、イタリアが第16位と低位だった。この評価指標には、高等教育進学レベルやインターネット利用度、コンピュータ教育の進展、英語力といったことが使用されたため、日本女性への期待感第1位とありがたい(?)推定がなされたわけだ。しかし、女性がE-businessに参入する以前に、社会基盤としての日本の国内状況は果たして女性起業家や経営者に追い風であるといえるだろうか。
・「雇用」優先、「独立」まで手が回っていない?
  この4月、「改正雇用機会均等法」と「男女共同参画社会基本法」の成立をみたばかりであり、依然として施策の大半は、雇用労働女性の環境整備に注がれている。雇用改善のための創業や新産業創出の原動力として、積極的に女性の力を引き出そうとする具体的な施策はまだ乏しい。
 他方、中小企業の活躍で注目を集めてきたイタリアだが、女性の自営業比率はヨーロッパ諸国(平均10%)日本(12%弱)と比較して16%以上と高い。そして、慢性的な高失業率の改善や女性の活動の経済分野への広がり、経営意志決定への参加をねらって、女性起業者支援プログラムがさまざまに実施されてきている。このレポートでその一部を追いかけてみたい。

2 女性企業家支援法とその余波
・1992年に女性企業家支援法が誕生
 イタリアは、1977年にすでに「労働の場における男女平等取り扱い法」を生み、女性労働力は飛躍的に増大した。その後、90年代に入ると、1990年法律第164号で首相直轄の男女機会均等国内委員会の設置、翌年に法律第125号「男女平等のための積極的行動法」の施行と労働省内機会均等委員会の設置、さらに92年法律第215号「女性企業家支援法」により、商工業省内に女性企業委員会の設置と女性企業家への具体的支援策が実現した。この法律は、イタリア国内の全産業分野と全業種サービス部門について、50人以下の従業員をもつ女性企業家、又は構成員の女性比率が最低6割である個人経営会社あるいは協同組合、少なくとも出資者の3分の2が女性あるいは3分の2の女性管理職をもつなど一定の条件を満たす場合、税制優遇、有利な資金貸し付け、税の減免措置などの経営面だけでなく女性企業家への投資行為にも納税の優遇措置がある。この法律の制定以降1993年から96年にかけて、農・工業、サービスいずれの部門でも女性企業家は増加を見せた。

・州レベルでもさまざまな女性支援策を展開 また、従来、州や県レベルを中心に、産業振興策がとられているが、起業や自営業支援策に男女平等取り扱いを定めた条例をもたない州はなく、女性のみ対象とした積極支援条例は3本(アブルッツォ州・1995年第143号、カラブリア州・1995年第22号、ラツィオ州・1996年第96号)、女性への優遇措置を含む条例としては、15州で24本制定されており、そのうち、16本が1992年以降の制定。前述の商工業省第215号法の影響をうかがわせている。ただし、女性優遇措置を含む州条例は、北部や中部の州に偏っており、国内の開発途上地域のような扱いの南部では未だ産業振興の底上げ策が優先されるものと思われる。州条例の数は、最も多いトレンティーノ州の15本から最も少ないピエモンテ州やトスカーナ州の2本までさまざまで、各州の独自性がうかがえ、女性支援策を実施する窓口も多岐にわたってわたる。では具体的な動きを中部からみていこう。

3 トスカーナ州:「ドンナ・プロデュース(女性の生産)」
・進路指導プログラム「ルトラヴァイエ」
 先述の起業や自営者支援策に女性支援の視点を含んだ州法を2つしかもたないトスカーナ州は、中世に共和制が行われていたため、県の自立性や独自色が強く、州全体のまとまりが各分野でいま一つみえにくいのが特徴である。しかし、女性の就労支援において、EUの共通プログラムである「ルトラヴァイエ」という女性の再就職プログラムを導入し、その普及を進めてきた。もともと70年代に、フランスの社会学者エヴリーヌ・シュルロ女史が開発したこのプログラムが、イタリア・ミラノに導入されたのは1987年のこと。1997年時点で30センター、そのうちトスカーナ州は8センター、エミリア・ロマーニャ州7センターと中部で半数を占めている。ちなみに、日本では1988年に財団法人横浜市女性協会が移入し唯一の実施主体となっているが、EU諸国全体では7ヶ国に展開され、イタリアは本家のフランスについで普及度が高く、国内委員会も有している。
 本来、この「ルトラヴァイエ」は、結婚や出産育児を理由として離職した女性を再就職させる目的をもったプログラムだったが、就労継続があたり前になってきたこと、実際の就労先が少ないことなどから、イタリアでは「ルトラヴァイエ・クラシコ」(古典的ルトラヴァイエ)と位置づけられている。現在では、このプログラムの根幹にある「オリエンタメント」(本人の生き方の方向付けを含んだ進路指導)を機軸にした、さまざまなバリエーションのプログラムがあり、その一つが女性の起業支援プロブラムとなっている。

・94年から毎年秋に啓発イベントを実施
 フィレンツエとローマの間、赤ワインで有名なキャンティ地方を含むシエナ県では、県の男女機会均等センター兼ルトラヴァイエセンターが、毎年秋に啓発イベント「ドンネ・プロデュース(女性の生産)」を主催している。シエナ商工会議所や1472年設立のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行のスポンサーを得て、州や近隣の自治体、また、EUのビジネスセンターBICと協力ネットワークを組みながら、女性の起業家紹介や啓発・情報提供活動を進めている。場所はシエナ市の中心的歴史地区、大聖堂前にある中世からの病院跡を美術文化センターと多目的ホールに再利用している「サンタ・マリア・デッラ・スカラ」で、1994年からテーマを変えて開催されてきた。食品加工や手工芸、古文化財や美術品修復、編集・広告デザイン、観光サービス、アグリツーリズモ、コンピュータ関連ビジネスなど女性起業家たちの活動を紹介する展示コーナーや美しいPRキットを作成。それぞれの活躍の支援に努めている。

・きめ細かい起業プログラム 
このイベントで筆者が垣間みた女性の起業支援コースの公開講座では、一方的な座学ではなく、女性の主体的な能力開発の視点が明らかだった。会計士による税制度や経営管理の説明の後、即座に受講者が順番に講師になって、同じ内容をボード代わりの大型模造紙に書きながら模擬講義しなければならない。まとまった人数の人前で、自分の考えを正確に明快に伝える訓練機会をなかなかもたない女性たちには、自然にプレゼンテーション能力が身に付き、また自分の理解不足をすばやく感知することも可能だ。起業志願の女性にOJTなどという悠長な訓練はないことを考えると、少人数だが効果的なきめ細かいプログラムが練られている印象を受けた。プログラム全体は少なくとも50時間の構成。このような起業プログラムはほとんどの国内ルトラアヴァイエセンターで実施されており、他の公共機関への出張講座も行われている。
 
・女性による協同組合
 昨年行われた「ドンネ・プロデュース(女性の生産)」では協同組合形式をとりながら起業する女性達がテーマだったが、商工省による女性企業家支援法が、前述のように、単に会社組織のみならず女性の協同組合も支援しているため、シエナ県やその周辺でも92年以降2ー3人からというごく小規模の協同組合形式で起業する女性が増えている。その分野も、畜産、保育や老人デイサービスのような社会的公益サービスなど日本でもおなじみの分野もあれば、観光サービス、舞台衣装制作、文化財修復といった文化事業にも広がっている。機会均等センターの解説によると、女性たちは協同組合方式によって労働市場の改革に向かい、連帯的精神によって新たな企業文化を開発しようとしているのだという。イタリアには戦前からの永い協同組合活動の実績があるが、従来、個人主義のより強いトスカーナ州では消費者協同以外の活動になかなか広がりがないといわれてきた。しかし、この女性たちの小さな連帯はトスカーナの穏和で安らかな風土の上にもう一つの豊かさを切り開こうとしているかのようだ。なお、国内の代表的な協同組合中央組織の一つ、レーガコープでは労働省の支援も得ながら、WEBサイト上に「ファーレ・インプレーザ(創業)」プログラムを提供。ビジネスプランの作成法を初めとする各種資料がダウンロードでき、実にきめ細かい情報提供を行っている。

4 ロンバルディア州:メントーレ(よき指導者)プログラム
・地域ニーズに密着した研究機関

北部イタリアの豊かな経済基盤を形成するロンバルディア州、州都ミラノの郊外にあるビジネスシンクタンクISTUDでも、ユニークな女性企業支援プログラムが現在展開中である。ISTUDは、1970年に、ミラノの企業連合組織アッソロンバルダ(4,705社、251,229人従業員)とイタリアの大企業グループ(ピレッリ、オリベッティ、IBM,SMI他)のイニシアティブによって創立された。当初はハーバードのような大規模ビジネススクールをモデルにスタートしたが、今日では地域ニーズに密着した経営管理技術のノウハウを提供しながら、国際的科学文化研究機関として実績を積んでいる。社会的政策、小規模企業と地域発展、非営利組織管理、労働市場のなかの女性活用、公的部門と民間部門の事業活動評価、コンピュター技術などの調査研究の他、ビジネススクールとしても機能し、企業会員として約90企業の参加を得ている。

・WEBやEメールも活用
 このISTUDの調査研究部門の一つ、女性企業支援プロジェクトWEMPが、昨年9月から1カ年かけて取り組んでいる女性企業支援プログラムに「メントーレ(メンター=よき指導者)」がある。80年代後半に日本でも企業内に女性の登用が進んでいったころ、組織内メンターの必要性が指摘されたことがあったが、ここでは、メンターと女性起業家や企業家同士をインターネット上で結びつけ、そのなかでビジネスプランの作成は元より、経営指導や個別コンサルティングを提供していこうというものだ。プログラムの開発には、オランダやフィンランド、ドイツのビジネススクールや生涯教育機関との共同研究が基礎になっているという。
 このプログラムは、企業の発展レベルにより3段階のクラス分けがあり、起業段階、強化段階、発展段階それぞれに10人から15人程度のグループ編成が組まれている。起業段階を例にとると、12か月のうち最初の3カ月は、方向付け指導が個人的な面と事業化に向けた面とで進められ、次の6か月で具体的な経営管理科目を2日ずつ10科目学び、ビジネスプラン作成支援にのべ12日の面談がつく。その後はコンサルタント指導をメールや面接でフォローしていく。通常はWEBやEメールが利用され、実際に参加者がオフで面談を受けるのは原則月2回程度。家事育児にも忙しい女性たちがインターネットを使っていつでも相談できるよき先輩をもち、的確な情報を得ることができるわけだ。このなかで、なかでもユニークな試みとしては、強化段階や発展段階の対象者は女性経営者ばかりでなく、経営者の妻あるいは娘といった立場の女性もターゲットにしていること。意識的に彼女たちを経営中枢のなかに組み込み経営改善実施を戦略的に行うことで、企業活動の中の女性の存在を確かなものにしていこうというねらいがこめられている。

5 おわりに〜次世紀に向かって必要なこと
・日本より10年早い平等法
 このように、イタリアの女性起業支援策のいくつかを紹介してきたが、これらのバックボーンにはEUの施策が強く働いている。特に、国際間協調によるNOW「女性の新機会創出」プロジェクトが進める教育プログラムの開発が効果をあげてきている。このプロジェクトの4つの機軸の一つに、小規模企業や協同組合形式の起業支援教育プログラムの重点的開発が掲げられているため、起業への後押しができている。また、EUのなかの法整備圧力によって、日本より10年早く雇用平等法制を整備したイタリアが、さらに90年代初頭に商工業省によって女性企業家支援法をもったことは注目に値する。首相直轄の男女機会均等委員会が省間セクショナリズムを越えて機能したと思われる。1996年に機会均等省の誕生をみる前に、就業関係の実質的な施策は打ち出されていたことになる。機会均等大臣の設置は法律の実効性をさらに強化させる意図をもっている。
・かたや日本では?
 かたや、日本では省庁再編のなかで、男女共同参画大臣の可能性等もはや消え去ったかに見えるが、「男女共同参画社会基本法」のもとで、通産省が、強力な優遇措置をもった個別法として「女性企業家支援法」を提案することがぜひとも望まれる。
 21世紀の超高齢社会における労働力不足、仕事無き失業を改善するための新たな雇用創出。日本とイタリアに共通の重い課題だが、イタリアは、すでに次世紀に向かって女性の創業力を積極的に導き出し、新たな企業文化を育てようとしている。
(了)
初出(『オンラインマガジンべんべん』1999年10月7日号http://ven.liba.co.jp)小野(山口)順子が著作権所有者です。


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