―好きな曲をスイッチで選んで聴く試みー
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*スイッチインターフェイスは、マジカルトイボックスで製作した<REVIVE USB汎用スイッチインターフェイス>を使用。iOSが13になってから使用できなくなり、ビット・トレード・ワンで
REVIVE USB MICRO>を購入し、交換する必要がありました。 



<「選択」を求める意味>

 特別支援学校の教員時代の授業では、「今日の天気は晴れですか?雨ですか?」と訊いたり、活動の時には「一番始めにやりたい人?」と訊いたりすることが多かったです。子どもが主体で子どもが選択することが大事ということが私の頭にインプットされていて、常に子ども達に「どっち?」「~してくれる人?」と聞きながら集団の授業を進めていました。

 選択の内容は、その日の天気のように答えが決まっているものもあれば、誰からやってもらうか決めるための問いかけややりたいことを聞いている問いかけ等が多くありました。

 子ども達にとって、その問いかけがどういう意味を持っていたかは、その場を離れてから、冷静に考えることができるようになりました。

 子ども達への問いかけは、授業を進めるために大人の都合で訊くことが多く、子ども達にとっては、分かりにくい問いかけも多くあり、あまり意味がない選択を求めていることが多かったのではないかと自問しています。


 訪問大学は全部1対1の授業ですが、絵本を読むときは、複数の絵本を持っていき、「今日はどの絵本を読みたいですか?」と訊くことがあります。表情の変化やアクションがなければ、視線を見て判断したり、訊いておきながら私の読みたいほうにしてしまったりすることがあります。

 音楽を演奏する時に、「どっちの曲を演奏したいですか?」と訊くこともあります。

 積極的に(判断基準は難しい)選んでくれることもあれば、はっきりした反応がない場合もあり、答えが読み取れないこともあります。


<選ぶ「動機」があるか、ないか>

 選択を求められる立場にたって、どういう時に選べるか考えてみます。選びたくなる問いかけかどうかで訊かれる側の反応が変わるのではないでしょうか。

 特に、障害の重い方にとっては、選択肢があって、その中に選びたいものがあるかどうか、「選びたい」と思う動機があるかどうかが大事なのではないかと考えるようになりました。
 当然、訊かれている内容がわかる、何となくでもイメージを持てることが必要条件になります。


<自分の操作で曲を選び、聴いてみる>

 今回は、日常的にご家庭で音楽を聴くことが多く、聴きなれた音楽があり、好きと思われる曲があると思われる学生2名の試みを紹介します。曲名と曲がマッチングして理解できている場合は少ないかもしれないので、実際に選んでみて、曲を聴いてみることで、聴きたくない時はまた選び直せるような仕組みにしたいと考えました。トライ&エラーを繰り返す体験になるかもしれないので、好きな音楽がその中に含まれることは大切な条件になるかと考えました。


<指伝話メモリで音楽を選べるようにする>

 ちょうどICT救助隊の講座で、指伝話メモリショートカットで曲を選ぶ方法を教えていただいたので使わせていただきました。特に、何度でも曲を選び直せるけれども、一度選択した曲を簡単には替えられないところがいい点です。MyMusic(音楽をかける)の機能を使ってみました。



<スイッチで順繰りに送っていき、長押しで決定する>

*モニター画面を見て、選びたい曲を判断するのは難しいと判断し、二人ともiPad本体の設定で<スイッチコントロール>の<オーディオ>の<読み上げ>をONにして試しています。


 問題は、どうやって1スイッチで選択・決定するかでした。

私は今まで、iPadアプリの1スイッチでの選択・決定には、オートスキャンを使ってきました。(2スイッチを使いこなしている学生は今のところいません。)

 私に思い込みがあったのです。

 1スイッチでの選択・決定でスイッチの入れ方を短く・長くと使い分けすることは障害の重い方には難しいのではないかと思い込んでいたのです。

 しかし、たとえ一番遅い速度でオートスキャンしていても、自分が選びたい時にタイミングよくスイッチをONにすることも、なかなか難しいことでした。

 

 雅也さんは、すでに山ねこ工作室の空気圧センサースイッチの操作に慣れつつありました。長押しは得意なので、SOUNOS VALKAのアルペジオ演奏が得意で、YouTubeでも紹介しています。


 今回の曲の選択については、決定(長押し)よりも短いスイッチ操作で順繰りに曲を送っていくのがうまくできるかどうかが気になっていました。また、スイッチ操作では、初めて「選択」を取り入れることになります。短くスイッチを連続して押していく操作は難しいですが、徐々に感覚をつかんでくれそうな期待がありました。

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 倫治さんは、今まで、ピエゾスイッチワリバッシャーを動かし、キーボードを演奏する授業をしていました。(その演奏は以下で公開しています。)


 今回の曲の選択で、1曲ずつ次の曲に送っていくのは可能と予想していました。でも、初めて試みる長押しで曲を選択できるかどうか心配でした。

 ピエゾスイッチを山ねこ工作室の空気圧センサースイッチに替えてみます。今まで薄いピエゾセンサーを親指とひとさし指ではさんで操作していましたが、太い空気圧センサーを挟んでうまく操作できるか、冒険でした。

 


 こちらの心配をよそに、ピエゾスイッチの時には見られなかった親指を軽くスライドさせる動きで、カードを順繰りに送っていく操作方法をすぐ体得できたようです。

 そして、初めてのスイッチの長押しに挑戦した倫治さんは、力が入りすぎて全身に緊張が走ってしまうことがありました。それでも、前向きにトライを繰り返すうちに長押しで聴きたい曲を選択する成功体験が自信につながっていったことを表情から感じ取ることができました。

山ねこ工作室の空気圧センサースイッチのいいところの1つは押している時間、スイッチが入り続け、長押しも可能な点です。


<選択できることの喜び>

 自分の授業を振り返ってみても、子ども達にとっては、選択を求められる時、どうしても受け身になり、選ばされている感覚があったのではないでしょうか。

 自分の思いからスタートし自分の力で選ぶというのがめざしたい着地点です。

 たとえば給食でしたら、たとえ全介助で食べているとしても、「次は何を食べるか」自分で順番を決めて食べることができるのが理想です。

 好きな歌や曲を聴く時も、その順番を自分で決めたいのではないでしょうか。

 その場合、日によって聴きたいものが変わることもありますし、同じ曲を何度も聴きたいという場合もあるのではないでしょうか。

 選択できることが、本人の生活をいろどる喜びのひとつになることを願っています。


 2人は、もともと生活の中で、ご家族の支援で音楽を聴くことが好きな活動になっていたことがあり、今までは、ご家族が操作することでいろいろな音楽を聴くことが多かったことが経験の積み重ねとしてあったことが今回の「選択」のベースにあります。

 雅也さんの場合は、自分の好きな曲が録音されている音楽プレーヤーを視線入力やスイッチで聴くという試みはすでにされていました。


<選択しない選択もあるー目的はスイッチ操作ではないので>

 さて、音楽に聞き入ると手が動かなくなる(つまり選ばなくなってしまう)ということも当然起きます。

 スイッチ操作は、1つの手段です。

 好きな曲を聞きたいという動機を叶えるためのスイッチですので、スイッチを動かす手を休めて、1つの音楽を最後まで聴いたり、または繰り返し同じ曲を聴いたり、順番通りに聴いたりすることも当然あるでしょう。


 難しいのは、その前の段階の選択肢の音楽を相談しながら入れ替えたり増やしたりしていく作業でしょうか。


*CDプレーヤーやiPadのミュージックアプリ等で曲を順番に送っていって選んで再生する方法も考えられることを追記しておきます。


 YouTubeに2人の様子をアップしました。
                

 
(相澤純一)


 





雅也さんが毎回やっているキャリブレーションの意味

<キャリブレーションとは?>
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 視線入力の取り組みを2016年3月から積み重ねてきた雅也さんですが、お母さんが毎回事前準備として丁寧に取り組んできたことに「キャリブレーション」があります。

 部屋の照明を落とし、画面の背景も黒にし、見る目標である刺激(ターゲット)も立体的な動画を自作されています。真剣勝負の環境調整をして本腰を入れて取り組まれています。

 「キャリブレーション」は、私も訪問した時に導入として1回は行っていますし、お母さんから、ご家庭でのデータを拝見するときに「何回目に成功しましたか?」と伺うことがあります。そうすると「今日は5回目です」「なかなか同じ刺激だと見なくなってしまうので、刺激を替えるようにしています」という話を伺います。

 基本に立ち戻ることになりますが、あらためてキャリブレーションについて考えてみたいと思います。

 キャリブレーションは、自分に合ったメガネを作るのと同じで、視線入力をするときに、パソコン(ディスプレイ)のその人が見たところがきちんと反応するように調整していく作業です。

<キャリブレーションは必須ではないがやってみる価値はある>
 でも、キャリブレーションは必須ではありません。
    障がいが重い方の場合は、キャリブレーションが取れなくても、支援者がキャリブレーションを行い、そのデータでやりたい活動は、文字入力等を除いてほぼできると思って差し支えありません。

 ただ、キャリブレーションをすることで、視線入力に取り組んでいる方の眼球運動の様子について見えてくることがあるだけでなく、繰り返し行っていくことでいいこともあるようです。

<視線入力に取り組んでいる方の眼球運動の様子が分かる>
 見ているところが分かるGazeTraceを表示することで、キャリブレーション時に画面に出てくるターゲット(刺激)に対して、どのような眼球運動をしているかを知ることができます。(Gaze Traceは、キャリブレーション時だけでなく、メインの活動の中でも邪魔にならなければ出しておくといいです。)

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Tobii(PCEyeえくすぷろあや4Cの場合)のドライバーソフトのGaze Traceをクリックすると色が青く変わります。この時に画面の見ているところに動く円(写真の右側の赤い矢印のところ)が立ち現れます。バブルと呼ぶこともあります。

 繰り返し行っていくことでいいことは、キャリブレーション自体が眼球運動の練習になります。また、最近のテレビ番組で、次のようなことが紹介されていました。

 9月3日のNHKのまちかど情報室で脳科学者が紹介した「朝めし前の脳トレ」の1つが眼球運動でした。四角いものの真ん中を見て、それから眼球だけ4隅に動かすというまるでキャリブレーションのような動きが紹介されたそうです。集中力を高める効果があるそうです。(この情報は、ビジョン ジョイさんのFBで知ることができました。)
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<キャリブレーションもEyeMoTのように成功体験が大事>
 雅也さんが制度を使って購入した視線入力装置は、重度障害児者向けのTobii PCEyeえくすぷろあ(現在販売中止)です。


 えくすぷろあを使うための視線マウスアプリは、Gaze Pointでした。
 Gaze Point自体は、単体でインターネットから無料でダウンロードすることが可能で、Tobii Eye Tracker 4Cでも活用することが可能でした。

 Gaze Pointは、伊藤史人さん(島根大学)もYouTubeで紹介されていましたが、視線入力に取り組まれる方のキャリブレーションについて、最大限のカスタマイズができるように工夫されています。
  キャリブレーションタイプで、<正確>モードの3つの小さな青いドットがつぶれるまで注視するのが難しい方は、<簡単>モードを選びます。
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・背景色→15種類から選択可能
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・刺激→13種類から選択可能、さらに写真や動画等、自作の物を使うこともできます。
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・キャリブレーションのポイント数は4種類から選択可能
・キャリブレーション範囲→自由に設定可能
・刺激は自動で動かすか手動で動かす(ステップスルー)かが選択可能。
 本人が刺激を見るのを確認して刺激を動かすことでキャリブレーションの成功率は上がります。
・刺激の大きさ、刺激のスピードは、3種類から選択可能です。
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 私は、刺激の動かし方については、ほとんどの場合、ステップスルーをONにして、こちらから視線入力に取り組まれる方の眼球運動に合わせて刺激を動かし(具体的には、各ポイントを見てくれるか近づくまでGaze Traceを見ながら辛抱強く待ちます)、キャリブレーションの成功を狙っています。

 一方、雅也さんのお母さんは、ずっと「自動」で取り組まれてきていました。お母さんはなかなか雅也さんが刺激に注目してくれない、その結果キャリブレーションが成功しないので、刺激をより注意をひきやすいものにする、それを自力で作ることをずっと考えられていました。その答えが、静止画像よりも立体画像、立体画像の中でも動く立体画像でした。
 以下がお母さんが作られた動画の例です。
キャリブレーション用動画

<大事なことはキャリブレーション自体ではなく…>
  さて、雅也さんですが、この前、私が「キャリブレーションはあまり面白くないから見ないんだよねー」とつぶやいたタイミングで吹きだして笑っていました。こちらの意図はお見通しで「もうこれはやりたくない」という意思表示をしっかりしているようです。そういう意志疎通が一番大事なことかと思います。
 雅也さんのキャリブレーションの実際の様子は、YouTubeでご覧ください。




<補足>
 最後に補足です。
(1)キャリブレーションの結果の活用ですが、特にステップスルーで本人に合わせて成功させたキャリブレーションのデータを次の活動に使うかどうかは、とても微妙な判断になります。支援者の高品質のキャリブレーション結果を使ったほうが正確に見ているところが反応しやすいことも十分にありえますので、視線入力に取り組まれる方の様子をよく見て、どのキャリブレーションのデータを使うかを慎重に判断してください。

(2)キャリブレーションの様子を見る時に、視線入力に取り組まれる方が見ているところを知らせてくれるGazeTraceがあるかないかで大違いです。Gaze Traceは、本人にもフィードバックしてより分かりやすくなっていますが、支援者にとっての意味のほうが大きく、刺激の動きと本人の視線の動きの相対的な関係で眼球運動を把握することができます。

(3)  注意点になりますが、<正確>モードでは、GazeTraceは出ません。また、新しいプロファイルを作成するときには、Gaze Traceは消えてしまいます。必ず支援者がプロファイルを先に作り、仮のキャリブレーションをしておいて、その上書きで、本人のキャリブレーションを行うようにしてください。

 
(相澤純一)

オンラインでNPO法人訪問大学おおきなき第1回総会実施!

 NPO法人訪問大学は、会員の皆様のご支援のもとに運営しています。会員の種類は3つあり、正会員(直接的に活動にかかわる支援)、賛助会員(資金面での支援)団体会員(団体として資金面での支援)で成り立っています。

 2020年6月20日(土)、第1回総会は、新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインでZoomミーティングを利用して開催しました。
 「ピンチをチャンスに」という言葉がありますが、オンラインにしたことで、多くの訪問大学の学生さんも参加することができるという大きなメリットがありました。また、遠方の会員も参加できたこともメリットでした。

総会写真2020.6.20
*写真は、仙台の阿部晃子さんがおおきなきの原点と言える阿部恭嗣さん(晃子さんの伴侶、筋ジス患者)の本「七転び八起き寝たきりいのちの証し」を紹介しているところです

<学生のご家族の声>
 総会に参加された学生さんのお母さんから願いや感想をいただきました。  



「自分の地域でも将来的に生涯学習の場が作れるようにつなげていきたいです。」
(Kさん、Sさん)
「おおきなきに関わっているみなさんのつながりをとても心強く感じました。成人となり、出会いが少なくなるばかり、と思っていましたが、おおきなきの仲間に入れていただき、世界が一気に開けたように感じます。」(Iさん)
「給付金で、子どもの好きな楽器を購入し、訪問大学の授業で演奏したいです。」
(Tさん)
「身体を使うことで、本人の反応が出やすくなるかもしれないので取り組んでみたいです。」(Nさん)

 
 画面越しの交流でしたが、心のつながりを感じることのできる温かい総会兼交流会になりました。

NPOとしての2年目は苦しいスタートに
 訪問大学2019年度を締めくくる修了式は、感染の拡大により3月中にできなかった学生もいるのですが、講師の判断でオンラインも使い、4月の初めに無事全員終えることができました。
 しかし、2020年度、NPOとしての2年目の春は、スタートを切れないまま、感染拡大による緊急事態宣言の間、活動を休止せざるをえませんでした。
 解除後は、一人ひとり個別に相談しながら、感染防止対策を確認し、訪問授業を徐々に再開しています。

来年度予定の文化祭の実施についても再検討
 少し先のことになりますが、4年に1回の開催を目指している文化祭についてです。2017年度に第1回文化祭を行いましたが、来年度(2021年度)に予定していた第2回文化祭は、結果として東京オリンピックの後の時期になってしまうことになり、予定通りオリンピックが実施されれば、世界の中で大きな数の人が動きますので、その後の訪問大学文化祭が実施できるかどうか見通せず不安を抱えざるをえません。
 訪問大学の学生生活は、「命に不安のない状態」を保持できたうえで成り立つことですので、文化祭の実施時期や開催方法については、延期やSNS上での発表等も含めて、あらためて検討していきたいと思います。

どんなに重い障がいがあっても伝えたい気持ちがある
 さて、先日、神奈川の津久井やまゆり園の判決が出ました。被告の刑が決まりましたが、被告一人の考えではなく、社会に似たような考えがまだまだ根強くあることが分かってきています。

「意思疎通のできない人間は、生きる価値がない」という考えに対して、私たちは
「重い障がいがあっても生まれてきたこと自体が祝福されることであり、ありのままの自分で生きていくことを支えることができる社会」
であってほしいと願っています。

 そして、これは第1回文化祭のテーマとしたものですが、「どんなに重い障がいがあっても伝えたい気持ちがある」ということを、私たちは、多くの方に知ってほしいと願っています。
 訪問大学の授業の中では、一人ひとりの「伝えたい気持ち」を表現することや「やってみたいこと」を実現すること、見えない心の中の想いを形にすることを目指していきたいと思います。

苦難の時代でも、変わらずに発信し続けたい!
 訪問大学おおきなきは、まだまだとても小さな団体ですが、支える仲間(会員)は少しずつ増えてきています。
 お一人お一人の心のこもったご支援に、いつも感謝の気持ちでいっぱいです。
 学生の生きている姿、学ぶ姿を知っていただき、皆さんとつながり続けていきたいです。
 細い糸でも束ね、織っていけば1枚の布になると考えて、地道な活動を続けていきたいと思っています。

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⋆「佳澄」大田区立下丸子公園「紫陽花の丘」で撮影

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⋆「てまりてまり」大田区立下丸子公園「紫陽花の丘」で撮影

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⋆「愛華」大田区立下丸子公園「紫陽花の丘」で撮影


(相澤純一)      

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