episode 3
 
『話しかけないでオーラ』
 
 
サユリが4才、長女が6才のころ。長女のお稽古ごとの送迎に
 
サユリもいつも一緒に連れて行っていました。
 
ママ友たちは、とくにサユリのことについて何も聞いてはこなかったけれど、
 
4才になっても歩かずしゃべらずだから、障がい児だということは、
 
当然わかっていたようです。
 
あるとき、ママ友のひとりが、本当に申し訳なさそうに
 
「あの…ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
 
と言ってきました。
 
 
 
ママ友の長男の、幼稚園送迎バスの停留所のすぐ近くに、
 
大人の障者が通所先に通うための送迎バスの停留所が
 
あるのだそうです。
 
もちろん、そのママ友は、大人の障がい者が毎日何のために送迎バス
 
乗って行き、どこで何をしているのかも知りません。ただ、毎日同じぐ
 
らいの時間にお互いに停留所でバスを待ち、障がい者のバスのほうが
 
少しだ早く来るのだそうです。
 
そしてママ友にとって、ばつの悪いことに、長男が、障がい者をバスに
 
乗せるためのリフトに興味津々で、リフトで車イスごとバスに乗るところを
 
横でジーッと見ているのだそうです。
 
相手は、40代くらいの男性障がい者とその母親らしき初老の女性。
 
ママ友から見たところ、その男性障がい者はほぼ動けず、しゃべることもでき
 
ないらしいとのことでした。そして彼女の悩みは、毎朝会い、リフトに乗る
 
ところを興味深く見させてもらっている障がい者とその母親に、挨拶を
 
かどうか、でした。
 
「顔見知りといってもいい間柄なんだから、挨拶ぐらいしようと思うんだけど
 
…なんだか話しかけないでくれオーラで、バリアを張られているような気が
 
するの。
 
いろいろ聞かれたら、いやだと思うのかしら? Oさんならどう思う?」
 
ということでした。
 
 
 
今でこそ、障がい者への福祉も教育もかなり整っているのですが、
 
がい者ご本人が40代以上の方々が生きてこられた時代は、
 
本当に大変だったという話を先輩方から聞いています。
 
周囲の人々からの視線も、今よりもっと厳しかったに違いありません。
 
だから、
 
「障がい者そのご家族がある程度年配の方ならば、やはり
 
周囲の人と簡単には打ち解けられないかもしれない。一方的になって
 
しまうかもしれないけれど、気負わずに普通に“おはようございまーす”
 
って挨拶しておけばいいんじゃないかな」
 
とアドバイスしました。
 
 
 
私も当時はまだ障がい児の母親になってまだ日が浅く、そんなに堂に
 
入ったものでもなかったので、小さい子の正直でまっすぐな視線や、
 
気まずいものを見てしまったとばかりに大人がサユリから視線を外す、
 
その場の雰囲気がとても苦手でした。
 
でも、ママ友からの相談を受けて、こちらが苦手だと思っているのと
 
同じくらいに、相手もどう対応したらいいかわからなくて困っているんだな、
 
と思うようになりました。
 
 
 
そりゃそうですよね。私だって、もし娘が重度障がい児でなかったら、
 
見ていいのか見ない方がいいのかと迷っていたはずです。今までの
 
人生で障がい者に接したことがなかったのですから、障がい者とその
 
家族がどう思っているのか、察することもできなかったと思うのです。
 
 
 
サユリと一緒にいるときは、話しかけないでオーラをだしてバリアを
 
張らないように、まずこちらから「こんにちは」「おはようございます」と
 
挨拶してみようって思いました。
 
 
                              執筆者:O