episode 5
 
『エレベーターの中から見える風景(2)』
 
 
 
数年前のできごとですが、またまた
 
サユリとエレベーターに乗り込んだときのことです。
 
 
 
私たちのすぐあとから、小さい女の子と若いママが乗ってきました。
 
すると
 
「あっ、サユリお姉ちゃんだ。『こんにちは』しようね。」
 
とママが女の子に話しかけました。
 
私はもうビックリして
 
「誰だろう・・・? 知り合いだったかな・・・?」
 
と思い出そうとしたけれどわからず、心の中で
 
「どなたかわかりませんが、サユリのことを知っている方なのでしょうか?」
 
と尋ねながらも、
 
ちっちゃく可愛く「こんにちは」と言ってくれた女の子に
 
「こんにちは」と挨拶を返しました。
 
 
 
「もしかして、サユリちゃんのお母様ですか?お散歩しているときに、
 
ときどきサユリちゃんがお母様ではない方と歩いているのに
 
出会うんですよ。」とそのママが言ってくれたので、やっと納得。
 
きっと介護ヘルパーさんと外出しているときです。
 
ヘルパーさんからは何も聞いていませんでしたが、
 
自然にヘルパーさんが仲介役をしてくれていたのでしょう。
 
「自分で挨拶できない娘ですけれど、声をかけてくださって
 
ありがとうございます。これからも、もしサユリに会ったら
 
声をかけてください。今日はお会いできて良かった。」
 
と言って別れました。
 
 
 
エレベーターを降りて別れたあとも、
 
このことがとても印象に残っていました。
 
その理由は主に2つ。
 
 
 
1つめは、私が横にいるのに、
 
私ではなくまずサユリの方を見て挨拶してくれたこと。
 
もともとサユリのことを知っていたのだから当然のはずなのですが、
 
これはなかなか珍しいことです。そしてご自分の娘さんにも、
 
自然と普通に接することを促していたのも印象的でした。
 
いったいこのママは何者だったのでしょうか?
 
 
 
そして2つめは、サユリに私の知らない人脈があったことです。
 
在宅で暮らしている重度の心身障がい者は、何歳になっても、
 
主たる介護者(多くの場合は母親)が、体調から交友関係や
 
スケジュールに至るまでの全てを把握しているケースが
 
多いのではないかと思います。
 
私の知らないところでサユリに知り合いができていたことは、
 
私にとって少し嬉しいことでありました。
  
                        執筆者:O