2019年08月

「わかる・できるを生活の中でどれだけ増やせるか」

         ~EyeMoTから(で)学ぶ~

 

<EyeMoTから学ぶ>

 今回も、雅也さんのお母さんのメールの引用からです。


「伊藤史人先生の EyeMoT が、成功体験を目的としていることを日本賞のプレゼンで知り、そういうプログラムだったのか!と大変驚きました。私も同じような方向で取り組んできたと思います。

私の場合は、子どもにあてはまらない機器の使い勝手を合うところまでカスタマイズすることで子どもが成功するようにしています。

 障害をもつ子どもには、わかる、できるを生活のなかでどれだけ増やせるかが大切なのだと感じております。」

 

<お母さんの工夫>

 固定具などの工夫は、その2ですでに述べましたが、今回は、環境設定の工夫です。

お母さんの努力は、なみなみならぬものがあり、いろいろな工夫をされていました。

特に雅也さんが 静止画に注目するのが難しいということで、3Dで動く画像を作ることにも取り組んでいらっしゃいました。

また、画面に注目できるようにするために部屋の照明を落としたり、ディスプレイの画面が眩しすぎることによって画面に集中できないと考え、輝度を半分くらいに設定したりということにも気を使われています。

 

<風船割りからスタート>

 雅也さんが、EyeMoT3Dに取り組んでいる様子です。(ちょうど視線入力を始めて1年目くらいです)バイブマンも、お母さんが自力で振動枕を改造されて使用されていました。

 masayaEyeMoT2017
(2017年4月16日)


<最近のEyeMoTの活用からー選択課題の取り組みをして受け止めたメッセージ>

 

  初回(2019年6月)「○○○はどっち?」

 EyeMoT3Dの射的がバージョンアップし、「○○○はどっち?」という課題に取り組めるようになり、視線の履歴で評価できるようになったことも、とてもありがたいことでした。

 ただ、「○○○はどっち?」という課題は、障がいの重い方にとって、とても難しい課題なのです。「難しい」という意味には、質問を理解できるかどうかだけでなく、見る対象が興味や関心を持てるものであるかが大きいですし、同じものを選ぶという課題を画面上でやることに意欲を持てるかどうかということもあります。


 EyeMoTは、見本のところに入れられるのは文字だけですが、ここに写真を入れたい場合は、EyeMoTでなくDropTalk等を使えばできると思います。でも、上の1枚が見本で、下の段の同じカードを選んで見るという課題を理解するのは難しいことですし、興味・関心が持てるか、意欲が出るかどうかはまた別の問題かと思います。

まえだあつこ
(りんごと前田敦子さん)

 6月に初めてこの課題に取り組んだ雅也さん、とても神妙な表情で頑張ってくれました。

 「前田敦子さん」と「リンゴ」では、好きなタレントの前田敦子さんの方を見てくれたという手応えがありました。


 2枚の写真から1枚を選択する場合、2枚のモードでは、距離が近く、意図していたほうと反対のカードをたまたま見てしまうこともあるので、3枚モードを使い、真ん中には真っ黒な写真をWindowsのペイントで作り入れてしまっています。(真ん中を注視すると×が出てしまいますので初めに支援者が倒してしまってからスタートするといいかと思います)

ブログ⓵

 
神奈川県立中原養護学校の実践でも写真カードが使われていましたが、文字理解が難しい方の場合、見本のカードは、画面上にカードを提示するのもアイデアの一つかと思います。

 注視して正解すると〇、間違えると×が出て、音のフィードバックがありますが、この時の注視時間の設定もポイントです。こういう細かい設定ができること、視線の履歴が残ることがEyeMoTの素晴らしい点です。雅也さんのお母さんからは0.8秒という数字が提示されましたが、短すぎると無意識に見たときに選ばれてしまいますし、注視時間が長すぎても注視が苦手な方にはハードルが高くなってしまうからです。試してみると、確かに0.8秒が一番よさそうでした。

 
ブログ②

ブログ③

  2回目(8月)―雅也さんの伝えたかったことは?
   5問の選択課題すべての視線の履歴がほぼ同じでした。真ん中ばかり見ていした。正解は半分くらいです。これが何を意味するか、「試されるような課題はもういいです」「もっと面白いことをやって!」という要求を雅也さんは、発信していたのに間違いありません。

  「もうこの課題は卒業だね」と私が言ったときに、雅也さんは吹きだすように笑っていました。

DSCN2759
<りんごと前田敦子さん>

ブログ⓹
<ばななとりんご>


福島勇さんの以下の言葉に共感しています。お母さんも、「この度は福島先生より、

 対象者が見たいと思うモノとは…』それを探すのが、我々支援者の醍醐味」

とのお言葉をいただき、ますます感動しています。」と述べられています。

<センサリーアイFXの神経衰弱の比較>

 取り組む課題に興味・関心を持てるものであるかどうか、つまり、本人が対象を見たいと思えるかどうかは視線入力を進めていく場合に、大きなカギを握っています。その視点から行くと、センサリーアイFXの神経衰弱は雅也さんにとってあまり好きとは言えない課題なのですが、始点と終点がわかりやすい作りになっているので、「できた!」という達成感は得られていたかと思います。

 

センサリーアイFXの神経衰弱の視線の履歴2019年8月9日(4年目)は、とてもすっきりしていて無駄な動きが少なくなってきています。1年3か月前の2018年4月26日(3年目)の視線の履歴の記録と比べてみました。

*記録には、トビー視線ビューワ(Memo参照)を利用しています。

*ただ、気持ちが向かないこともあり、いつもこのようにスムーズに成功するとは限りません。

  神経衰弱2018.4.26

  (2018年4月26日(1ペア開いた状態で、視線のプロットは250番目)


ヒートマップ 視線プロット 2019-08-9 11.11.31

 (2019年8月9日)(3ペア全部開いてクリアしたときに、視線のプロットは199番目)

  

MEMO(視線の履歴の記録について)*************

視線の履歴をデータとして残せることは、視線から思考の過程をたどり直すうえで、また取り組みの変化を比較・検証するときに、とても役に立ちます。

この記事の中では、有料(6万円)のGaze Viewer というソフトウエアを使った記録も利用していますが、


フリーソフトのEyeMoTにも視線の履歴を残す機能がついているので、どう視線入力を進めいくか判断する時の羅針盤の役目を果たしてくれています。

EyeMoTは、多くのお子さん、大人の方の視線入力の導入に活用させていただいています。

 

また、秋田県の特別支援学校の髙橋正義さんも視線記録・アセスメントソフト「記録・確認くん」を公開されています。 

 

 

                     (相澤純一) 

 私たちは、重いてんかん発作を繰り返していたため、通所が難しいAさんの存在を知って、訪問大学の立ち上げを決断しました。
 2014年4月1日のことです。
 木野さつきさんは、開設時からずっと講師としてAさんの学びの支援に携わり、6年目を迎えています。

 以下は、木野さんが原点に立ち返り、Aさんにとっての学びの意味を問い直して書かれた文章です。
木野さん記事イラスト

「学ぶ喜び」が次の自分につながっていく
  ~ 訪問大学講師としての再スタート ~

 私は、訪問大学初の入学生、Aさんを担当させていただいてから、今年で講師6年目になります。
 在宅での生活を主とする方の訪問授業は、現役の教員時代にはない経験だったので、私にとって訪問授業ができること自体が喜びであったことを思い出します。

 私は授業で主に調理活動をしており、Aさんとはこの5年間色々なものを作ってきました。簡単なスイーツ作りが中心だった活動も、今ではホットプレートを使って主食を作るなど、Aさんにとっても、私が行く日は「調理の日=食べる日!」と定着しているのを感じています。

りせ 2019.2.8 バレンタインチョコフォンデュ1
りせ 2019.2.8 バレンタインチョコフォンデュ4
<バレンタインチョコフォンデュづくり>

 最近の授業のことです。天候の不安定な日が続き体調が優れず、授業の3分の2は活動できない状態だったので、その間、お母様と一緒にゆっくりお話をさせていただきました。月1回の訪問で、1.5時間という限られた時間の中で、調理をし、試食をするという工程。凝縮した授業を最後まで集中して取り組むと、その時間はあっという間で、そういえばなかなか

 お母様と一緒にゆっくりお話しする時間はなかったのです。
 お母様とお話していて、私は自分の在り方を振り返りました。
Aさんは、授業のない体調の良い時に、時々「学校に行きたいな」と言うそうなのです。そして「学習したい」という気持ちから、簡単な問題を解いたり、細かな作業に取り組んだりするのですが、途中発作が近づいてくると、作業効率が下がり、作品や課題の完成度が思うようにいかず、自信をなくしてしまうことがあるとのことでした。

 私はそのお話を伺って、ハッとしました。
 Aさんはいつも授業中楽しそうに活動に取り組んでいます。調理も慣れてきて、いろいろな活動を主体的にできる場面も本当に増えてきているなと、私としては感じていました。
 でも、私はその話を伺って思いました。

 「Aさんにとって、私の授業は、Aさんの本当の主体性と、学びの喜びに通ずる授業になっているのだろうか?」と。心からの「学びたい」というAさんの真摯な思いや、身体がコントロールできずに「学んでも自信がなくなってしまう」という気持ちを、私は、きちんと理解できていなかったのではないか…ということに気づいたのです。
りせ 2018.7.6-3 お好み焼き

りせ 2018.7.6-5 お好み焼き

<ホットプレートでお好み焼きづくり>

 お恥ずかしい話ですが、今回のことを通じて、今年講師として6年目にして改めて「人は学びたい気持ちを持っている」ということ、また「学びの喜びが次の自分につながっていく」ということを、自分の心と身体で理解できたように感じています。5年一区切り。私にとっても「学び」の再スタートです。
 この気づきを与えてくださったさんAさんと、お母様との出会い、そして訪問大学に感謝を込めて。
木野さつき

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