27歳からの視線入力への挑戦―その5―
 「眼球運動のコントロールの向上を感覚統合から考える」

<眼球運動のコントロールの向上>

 お母さんが雅也さんの好きなキャラクター「アップルちゃん」を動画で観せてから、視線入力の学習ソフト「センサリーアイFX」の「色を塗る」で描いてもらったそうです。その絵が下です。

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                     (2019年8月4日)

 ちなみに、アップルちゃんは、これです。
あっぷるちゃん

 9月9日にも描きました。
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 雅也さんは、この「色を塗る」のソフトでは、今までずっと画面全体に広がる絵を描いていました。アップルちゃんの動画を観ることで描くものがはっきりイメージできたようです。
 アップルちゃんの形を意識したり、色も意識したりしているということが伝わってきます。
 明らかに眼球運動のコントロールが向上してきていると受け止めることができました。

 ただ、雅也さんの場合、2016年に視線入力を始めた時期と比べると確実に減ってはきていますが、眼振はありますし、眼球の不随意運動も視線の動きに含まれていると思われます。お母さんとしては、今までの視線の履歴やヒートマップを見ると、画面の中央を意識的に見ようとしているけれども、まだ、意図的な視線の動きで描いているとは断定できないとおっしゃっています。
 これからも記録を蓄積していき、見比べていきたいとのことです。

 センサリーアイFXの「色を塗る」は、完全な描画ソフトではなく 一筆書きの色遊びのソフトで、もともと意図的に絵を描くのは難しい ソフトです。そして、雅也さんの場合、具体物を描いてもらったのは 2019年8月、今回のアップルちゃんが初めてのことです。
私としては、視線入力に取り組み始めたときと比べて大きく違うのは、雅也さんが楽しそうに描くようになったことだと思っています。
 興味の対象はあっぷるちゃんから別のキャラクターに移ったそうですが、今後の作品を楽しみにしたいと思います。  


 前々回(その3)で書いた視線入力を始めてからの眼球運動の改善を、感覚統合の視点で考えてみます。

図1

          *上記の図は作成された川上康則さんの許可を得て掲載しています。


 川上康則さん(東京都立矢口特別支援学校主任教諭)が作成した感覚統合の図では、視線入力に取り組んで改善の見られた眼球運動のコントロールは、直接的には、視覚、前庭感覚(平衡感覚)、固有感覚の発達と結びつけられています。
 前庭感覚は、身体のバランスをとる感覚で、平衡感覚とも言い換えられます。
 固有感覚は、筋肉や関節の動きを感じ取る感覚です。
 眼球運動のコントロールの向上には、視覚だけでなくこの2つの感覚も大きな役目を果たしています。
 
 感覚統合の発達のベースになるのは、前庭感覚・触覚・固有感覚の3つで、これらが基礎感覚になります。それに視覚と聴覚の発達が統合されていき、やがては認知や言語、運動の見える面での成長につながっていくという図です。

           
<前庭感覚への働きかけ>
 
 前庭感覚への働きかけは、学校や通所施設だけでなく、ご家庭でも取り組まれていました。
 ジョーバ(ここに座りスイッチを入れると馬に乗っているように大きく揺れます。バランス感覚を養ったりダイエットを図ったりする健康器具です)は中古で、送料の方が高くつくような安価で購入できたそうです。

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 バランスボールも使われていました。
 雅也さんは身体が大きいので、直径120㎝の大きいものです。
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<視線入力の取り組みがもたらしたもの> 
 脳に受傷したのは4歳、小児科医に「皮質盲になるだろう」と言われた視覚ですが、見えているか見えていないか確信が持てない中でも、お母さんは絵本でも食事でも、見えているつもりで見せ続けてきたそうです。
 ただ、お母さんが見せることを続けていても、目に見える形でその発達は把握できていませんでした。
 それが、2016年春に視線入力を日常的に開始してから、脳の視覚野がある後頭葉に変化があったようです。以下の記録をご覧ください。

「視線入力を始めた視線入力を始めた年の脳波検査で、発作の起始点がそれまではずっと左側頭葉だったのが、後頭葉に移動していました。思わずドクターに『別の人のデータではありませんか?』 と尋ねてしまったほどです。随分後になってから、もしかしたら視線入力に取り組み始めた影響かもしれないと気付いた次第です。」(お母さんのメールより)

<いろいろな面での変化>

 視線入力の取り組みだけで、すべてが変わったわけではありません。日常生活全体のかかわりの
中で視線入力に重点をおいたかかわりが4年目に入り、雅也さんの変化をお母さんは実感されています。
 具体的には以下のような点です。

    ・目が合うようになってきた。
    ・集中力が出てきた。
    ・眼振(眼球の不随意な揺れ)が止まるようになってきた。
    ・手足の運動が左右対称になってきた。
    ・コミュニケーションがとりやすくなった。等

 
 上記の感覚統合の図を見ると、これらの変化が、視覚への働きかけを中心にしたかかわりがいい結果につながり、他の感覚も統合されてきた結果ではないか、と考えることができるのです。

 次回は、コミュニケーションのことを中心に書きたいと思います。      (相澤)