27歳からの視線入力への挑戦
  
27歳からの視線入力への挑戦ーその6-

「視線入力で広がった雅也さんの生活とコミュニケーション」

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<視線入力とピエゾスイッチの併用でSOUNOS VALKAを演奏する雅也さん>

<好きなキャラクターを視線入力で、描き続けています>
 雅也さんが、特に好きなキャラクターであるアップルちゃんの絵を、センサリーアイFXの「色を塗る」というアプリで描くようになって、3か月になります。今は、事前の動画視聴の有無など、条件も変えて、描いています。
 1回だけでは、偶然、描けたということもあるので、お母さんは何度も取り組んでいて、私は、その絵を見て、その日の雅也さんの体調や気持ちを想像したり、上達ぶりを感じ取ったりしています。数枚紹介します。

  あっぷるちゃん
                                 <五味太郎作 アップルちゃん>

190922 動画視聴後に、アップルちゃんを描く
<2019年9月22日 動画を視聴後に「アップルちゃんを描いて」と声掛けし描いたアップルちゃん>


191002 アップルちゃん
<2019年10月2日 動画を視聴後に「アップルちゃんを描いて」と声掛けし描いたアップルちゃん>


191017 視聴せず、アップルちゃん
<2019年10月17日 動画を視聴せずに「アップルちゃんを描いて」と声掛けし描いたアップルちゃん>

 雅也さんは、視線入力を始める前は、聴覚情報に頼って生活していました。視覚情報の理解が難しかった一方、聴覚情報の処理能力や記憶は優れています。ただ、それが音声言語の構音や発信にはつながっていませんでした。
   耳から入る音楽や朗読のCDは、特に好きで、好みもはっきりしていて、好きな曲や好きな朗読CDがあります。好きな音楽は、かなり小さな音でも聞き分けているそうです。
 私にとっては小さな音でも、予告なしに再生すると、かなり驚いてしまい、そのショックが尾を引くことがあります。

 最近は、絵本の朗読のCDを聞いて、描くことに取り組み始めています。好きな音楽や朗読を流すと笑顔になり意欲も上がり、眼球運動も活発になり、とても真剣な表情で集中して描いています。

<30歳直前の変化―最近、返事をするようになりました!>
   前回、視線入力を始めて3年半で起きた変化について箇条書きにしました。
   その中の一つに「コミュニケーションがとりやすくなった」ということが挙げられています。
   お母さんは、このように言われています。

「息子が、誰かに指示をされたわけではないのに、小さい声で『うん』と自分から返事をするようになってきた」
 そうです。 さらに続きます。
「視線入力を使う場面で、声で返事をするということではなくて、視線入力とは関係ない日常会話の場面で、こちらから声をかけると息子が声で『うん』と返すようになったということなのです。
  息子が30歳を目前にして見せ始めた変化です。」

 ここで一番気になるのは、今までの雅也さんの日常的なコミュニケーションのありようです。視線入力を始めたのが2016年3月で、日常的に取り組まれているもののまだ3年半しかたっていません。
 一方、雅也さんとのコミュニケーションは4歳で受傷されるまでの4年間とそれ以降の26年間の積み重ねがあるわけです。
 4歳で脳症になり、音声の言葉、音声だけでなくはっきりした形で伝わる発信は失われてしまっていました。
 話しかけに対して、雅也さんが「うん」と返すようになるまで26年かかったわけです。
 お母さんが、雅也さんの小さな変化を読み取り、話しかけ続け、そのリアクションをまた読み取るという丁寧な積み重ねをされてきたことに思いを馳せました。


<視線入力の取り組みよりも大切なもの>
 視線入力の取り組みの記録をお母さんは、こつこつと取り続けています。私は、「もしかしたら、視線入力の取り組みがコミュニケーションの変化を導き出したのではないか」と訊いてみました。
以下がお母さんからの返信です。

「厳しい言い方かもしれませんが、記録が目的の機械的な刺激では子どもの反応は薄いかもしれません。
 伝えたい・つながりたいという人の気持ちや感情が、子どもをコミュニケーションに向かわせることができる唯一の刺激であるような気がします。

 視線入力は雅也さんの可能性を引き出すきっかけや手段にはなっているのは確かだと思いますが、根底にある大切なものを見失わないようにしたいと思います。  (相澤)