障がいの重いお子さんのコミュニケーションを考える
     ―ちいさなめ第1回学習会(2019.11.9)を振り返りながらー

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    <ちいさなめ第1回学習会話題提供者>*右から
司会:岡安玲さん(NPO法人あいけあ)、古川綾子さん・結莉奈さん(小学1年生)
名里晴美さん(社会福祉法人訪問の家)、小野麻美さん・結芽さん(小学2年生)
相澤純一(NPO法人訪問大学おおきなき)、柳沼佑介さん(ちいさなめ


<はじめに>
 8月中旬のことだったでしょうか。神奈川県立中原養護学校の柳沼佑介さんから「ちいさなめ」という団体を立ち上げて、障がいの重いお子さんのコミュニケーション支援の学習会を神奈川で行いたい、という話を伺いました。

 神奈川は、おおきなきの事務局の近くを流れる多摩川を渡ってすぐの県で、年1回、NPO法人フュージョンコムかながわ主催のコミュニケーション支援勉強会を地域ケアさぽーと研究所の下川和洋さんと担当させていただいていた縁もありました。
 今回、神奈川の2つのNPO、「フュージョンコムかながわ」と「あいけあ」と共催という新たなスタイルで、訪問大学おおきなきにも声をかけてくださったことに感謝しています。

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 柳沼さんは、障がいの「重い」お子さんの「想い」に応える支援の手が、まだまだ神奈川には届いていない、その現状を自分自身が動くことで少しでも改善していきたいという熱い想いを持っていました。
 30代前半の彼の熱い想いに、60代の私も胸を揺さぶられました。
 柳沼さんが訪問大学おおきなきを支える会員の一人でしたし、共催団体として全面的に協力したいと事務局では考えました。

 そのときすでに話題提供者の4人は、柳沼さんの頭の中では決まっていて、そのうちの一人に私を選んでいただいたのは、とても光栄に思いました。

 私に与えられたタイトルは、「コミュニケーション支援機器の活用と主体的な生活づくり」でした。お伝えしたいことが多すぎて、当日まで話す内容を絞り切れずに、ご迷惑をおかけしてしまいました。少しずつブログに整理し直していくことでお詫びにかえたいと思います。
 *当日のくわしい様子は、ちいさなめのHPをご覧ください。

<障がいの重いお子さんのコミュニケーションを考える>
          
1.
わかることで発信が増えていく!(ろう学校で)
 特別支援学校の教員時代に私は、聴覚障がいと知的障がい、肢体不自由と知的障がいといったように障がいを2つから3つ合わせ持つ、障がいの重複したお子さんを中心に担当していました。

   一番初めに赴任したろう学校では、まだ聴覚口話法が主流でしたがトータル・コミュニケーションというコミュニケーション手段を限定しないで可能なすべての手段を利用する考え方に出会うことができました。
   障がいの重いお子さんには、手話や指文字が必須であると感じ、同じ考えの教員や自分が関係している授業や学級に限定されましたが、目で見て理解できる環境(コミュニケーション環境も)にしていきました。写真カードや絵カード等もたくさん使っていました。

   わかる・理解できることによって子どもたちからの発信が増えていくのです。難しい口形の読み取りをしなくても手話や指文字をたくさん見て意味が理解できるようになれば自分で伝えたいことをストレスなく伝えられるようになるのです。ただ、一歩、ろう重複学級の教室の外にでると、まだまだ子どもたちのバリアは多くあり、ろう教育(ろう学校)に手話を導入する活動にも参加していました。

2.AACとの出会い(肢体不自由校で)
AACとは
 
  肢体不自由の学校に異動になってから、障がいの重いお子さんの授業が大人が主体の進行で、子どもが受け身になっていることが多く、どんなに小さな動きでもいいので子ども達自身からの発信を生かすことかできないかと思っていました。
 当時、現場にいながら大学でAACを学んでいた奥山敬さんの実践を目の当たりにすることができ、さらにはマジカルトイボックスとの出会いから、発想の転換ができヒントをたくさんもらいました。
 VOCA(Voice Output Communication Aids)や改造玩具やスイッチを使いながら、子ども達からの発信を増やしていく方向性が少しずつ見えてきたのです。

3.AACの種類
AACの種類
 最近は、ICT(Information and Communication Technology)やAT(Assistive Technology)が注目されているので、ハイテクに注目が集まりがちですが、コミュニケーション支援機器を使えば、コミュニケーションが豊かになるということではありません。
 私自身は、ノンテクのコミュニケーションがベースになり、コミュニケーションが深まらなかったり効率が良くなかったりする場合に代替手段を使うことになると理解しています。
目の前のお子さんに一番合ったコミュニケーション手段を見付けることが最も大切です。
 ノンテクとローテク、ノンテクとハイテク、ローテクとハイテクの手段の併用もありえますね。
 AACは考え方であり手段で、コミュニケーション自体の内容がお互いの理解を深め、お互いの関係を発展させるものになることが最終目的です。

4.OAKや視線入力との出会い
 なかなか随意的に動かせる体の部位が見つからないお子さん、学生さんにも出会いました。スイッチの適合が難しいのです。手元にすべてのスイッチが全部そろっているわけではありませんし、私の力不足もあります。また、動いているところが見つかっても随意的な動きかどうかの判断が難しく、そういう時は、時間をかけて丁寧に見ていくことになります。
 テクノロジーの進歩により生まれた、空中にスイッチを作ることのできるOAKや視線入力装置なら、なんとかならないかと思い、プロジェクトに参加したり、購入に向けて助成金などの申請を始めたりしました。

 教員時代にも、担任の先生から「視線入力なら可能かもしれない」、つまり障がいが進行していることもあり他の手段は難しいけれども視線入力をコミュニケーションの最終手段として考えているお子さんの相談を受けていました。
 おおきなきを立ち上げてから、障がいの重いお子さんの自己実現を考えるために視線入力は必須の道具になると思い、資金がたまるのを待てずに、2014年に全額ではないのですが助成金をいただき購入に踏み切っています。

5. 私の見通しの間違い
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 上の写真は、マイトビーⅠ15のTobii Communicator5の1画面です。スイッチ操作が難しいお子さんでも、上記のような画面を使えば、視線でYes/Noコミュニケーションができるようにならないだろうか、という見通しを持っていました。少しだけ右を見たり左を見たりするだけですから、容易なことに思えていたのです。
 しかし、今現在、この画面のようなコミュニケーションボードを使って視線入力でコミュニケーションをしている学生はいません。
 まず、必然性がないのです。もし、この画面でYes/Noコミュニケーションができるならば、機械なしでもアイコンタクトをとりながら同じ内容のコミュニケーションができるはずです。
 機械がなくても同様のことができるのなら機械は不要です。

 また、たとえ2択であっても、選ぶことは、障がいの重いお子さん(重度・重複障がいのお子さん)には難しい課題になります。
 特別支援学校の教員時代にも、子ども達に「どっちがいい?」という2択はたびたび行っていました。朝の会でも、障がいの重いお子さんに、例えば「今日の天気はどっち?」と「晴れ」と「雨」の絵カードを目の前に提示して、選んでもらうようなことをしました。視線でどちらかを見たり、手でカードを取ったりする反応はありましたが、あまり手ごたえを感じたことはありません。教員だけが正解か不正解に関心があるけれど、多くの子ども達にとっては問われていることがぴんと来なかったり、どちらでもいいことだったりしたのかもしれません。

 「黙って観るコミュニケーション」(atacLab発行、2016)の中にも、飲み物の選択等の分析がありますが、「本当に子どもたちが選べているか」は、慎重に考えてみる必要があることを実感しています。

6.視線入力の可能性

 訪問大学で私が担当している学生は、ほとんどの方が視線入力に取り組んでいます。とても充実した時間になっています。
 学生を突き動かしているのは、自分の力でやれているという実感だと想像しています。
 ただ、まだ、視線入力をコミュニケーション手段としては活用していません。意思伝達装置としての活用は不十分なのですが、将来的には、フルに活用してくれる学生も現れると思っています。
 訪問大学では、視線入力を主に表現活動に活用しています。視線入力の取り組みを積み重ねることで、コミュ二ケーション等、他の面に変化が見られた方もいます。
 過去にも紹介していますが、今後も、ブログ等で紹介していきたいと思います。(相澤)