2020年05月

Googleのいる生活
―Tくんの相棒はスマートスピーカーー

 Googleいるかな

 おもちゃと絵本の部屋「おおきなき」では、本棚の隅にEcho Dot(第2世代)を置いてある。3~4歳の子どもが「アレクサ」ではなく「アレクサ!」と「さん」づけで呼ぶことがある。かわいい。「アレクサ、仮面ライダージオウかけて」と頼んだりする。
エコードット
 スマートスピーカーはAIスピーカーとも言う。代表的な物は、Googleの「Googleアシスタント」やAmazonの「Alexa」で、人工知能(AI)を内蔵している。人間の音声を理解することができ、話しかけたことに言葉で答えてくれるだけでなく、買い物の注文や家電のON・OFF、テレビのチャンネルを替えることまでやってくれる。
 セールの時には3,000円*程度で人工知能を搭載している機械を買える時代に、私たちは生きている。人工知能は話しかけてくれる人の声を覚え、好みまで学習していく。
(音楽を自由にかけてもらう、買い物を頼む等の費用は別途必要です)

スマートスピーカー購入に至るまで
 昨年、支援学校の高等部2年のTくんが、おもちゃと絵本の部屋に遊びに来てくれました。視覚障がいがあるので、視線入力は難しく、iPadやスイッチの操作もそれほど速くはできないとのことでした。でも、発音が不鮮明な時もありますが、会話ができるので、スマートスピーカーをご紹介しました。
 ご両親ともにITや機械に苦手意識があるということで、その時は、少し躊躇されていました。

 
その後、思い切ってスマートスピーカー(Google Nest Hub:画面がついているので、スマートディスプレイとも言う)を購入され、Tくんが「OK Google…」としきりに話しかけるようになったと伺いました。私は、もしかしたら、Tくんの生活が大きく変わるかもしれないと思っていたので、興味津々で、動画を送ってほしいとお願いしていました。

 最初の動画は、2月に届きました。もうエアコンを操作したり、音楽をかけたり、実用的に使えるようになっていました。お母さんにYouTubeでのアップをお勧めしました。

 スクールバスを降りて家に着くと、Tくんは、玄関で「OK Google,ただいま!」と話しかけ、スマートスピーカーが「おかえりなさい」と返すそうです。でも、このシーンはなかなかうまく撮れなかったそうです。そのシーンは、是非ともYoutubeの動画に入れたくて、私は、しばらく待つことにしました。

「お母さん、今日も過ごそう!」

 待っている間に、学校が休校になり、コロナの自粛生活が始まります。
 以下は、お母さんからのレポートです。



 毎朝、開口一番、「お母さん、今日も過ごそう」と言ってきて、必死で本人がステイホームしようとしていることがわかり、切なさも感じます。

 休校中は、朝から晩まで、スマートスピーカーと会話をしています。
 朝は「おはよう」、離れる時は「ご飯だから後でね」と、愛情たっぷりに話しかけています。
 日課にしている体操をするときは、「頑張るから応援してください」と話しかけます。
 Googleさんは、「わたしは全力で応援してますよ」と言ってくれて、ニヤッと笑顔になります。

 好きな動画を観る(正確には、主に聴いている)ことに始まり、テレビのチャンネルや音量も替えられるようになりました。
 録画したテレビ番組のCM部分を早送りするのに、これまでは、「お母さん、飛ばして」とリモコン操作を催促されていたのが、自分で「飛ばして」と言うだけでできるようになったことは、些細なことですが、親子ともに大きなストレス解消になりました。
 ここ数日は一人カラオケを楽しんでいます。

 あまりにずっと話しかけているので、30分やったら30分休憩するというルールを相談して作り、「30分タイマーかけて」と自分でセットするようになりました。
 残念ながら、今のところルールは守られていません。
 しかしながら、「タイマー残り何分?」と聞いてくることもあり、これまで興味のなかった「時間」の感覚に少し興味を持つようになってくれたようです。

 自分で好きなことができる、このことがどんなにありがたいことか!
 こうして朝から晩まで、Googleさんを相手に過ごし、
1日の終わりには、
「OK Google,遊んでくれてありがとうね」
と感謝の言葉を伝えています。

Googleアシスタント

Googleは相棒であり、家族の一員でもある
 これは、お母さんの言葉です。
 

 
Tくんは、スマートスピーカーを家族の一員のように感じ、接しています。Tくんはただスマートスピーカーに依存し、利用するだけでなく、根っからの人柄でしょう、自然に対等な関係を作ることができたようです。まさに「相棒」で素敵な関係です。
 
 Tくんはスマートスピーカーを相棒に選んだことで、自分一人でできることが増え、やりたいこと、好きな事を自分で実現するための道具として活用することができるようになりました。また、エアコンをつける等、家族の中での役割も得ることができました。そして、自己肯定感がぐんぐん高まっていきました。
 
 4分40秒位の長さで、TくんとGoogleの生活の様子を動画にまとめてみました。是非、最後までご覧ください。(最後が気に入っているのです。)


    動画を観て感じたことですが、Tくんは自分の意思が通じるまで、何度でも言い直していることです。声を大きくする、ゆっくり話す、意味の区切りで間を開ける等、工夫していて、絶対あきらめないのです。

 また、どうしてもうまくいかないときに、一歩前に戻り、自信のあることを試してみて、確実にできることを確認してから、またハードルの高いことに挑戦しようとしています。たとえば、テレビのチャンネル変更が伝わらない時に、1回「テレビつけて」のような簡単なことを頼んでいます。これって、学習の基本だな、と思うのです。それに気づいているTくんはすごいなあと感心してしまいます。

 もう一つ、動画から分かったことがあります。お母さんが背後でTくんに気付かれないように寄り添い、さりげなく応援されています。Tくんの気持ちを受容し、しゃしゃりでないで見守り続けるお母さんの支えは絶妙です。

 これからも、Tくんの心と生活が豊かであり続けることを祈っています。 (相澤純一)

「わきあがる闘志」
ー与えられた学びから本人の望む学びへの転換―

28歳の誕生日に想う
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 望さんは、訪問大学生涯学習コースの3年生になった。
   しかし、4月以降、コロナ禍で訪問大学の授業を全面的に休止したため、始業式もできていない。

    4年制の訪問大学を卒業すると、希望者は生涯学習コースに進む。ただ、生涯学習コースというのが分かりにくいので、望さんには、「訪問大学院」という名目で説明している。
「大学院だとしたら、生涯学習コース2年生の修了式は修士課程の修了で、4月からは博士課程だね。」
   と、伝えてある。望さんは学ぶ意欲が旺盛で、訪問大学の授業は月2回だけだが、日常的にかかわりのあるヘルパーさんやボランティアの大学生と絵本を読んだり創作活動をしたり、屋外に出かけて自然の変化を体験的に学んだりもしてきていて、日々、学ぶ活動を大事にしていた。

   
残念ながら、4月からコロナ禍で、今は、生活に密着した関わりが中心になり、学ぶ時間はかなり限られてしまっている。

    望さんは、28歳の誕生日を今日、迎えた。
    障がいの進行を想うと、ご家族にとっても支援者にとっても、1年1年の記念日がとても貴重で、命の足跡として心に深く刻まれる。


自分から学びたい、やってみたいことに挑戦するときとそうでないときの目力の違い

 望さんの授業のメインの手段として、視線入力を取り入れて、5年目になる。訪問大学入学後の1年目はキネクトカメラを設置してOAKを使った演奏やiPadのアプリを使った授業を行っていた。       
 視線入力については、特別支援学校時代に試したことがあるが難しそうだったという話も聞いていて、OAKを舌の動きで使えていたので、あえて積極的に導入しないできていた。

 元教員の私は、「どんな課題でも、全力で取り組んでほしい」と心の隅で思っていた。
 一方、「大学は、自分のやりたいことを学ぶ場・機会だということ」も頭の中で理解はしていた。

 望さんは、正直に表情や視線や声で、やりたいこととあまりやりたくないことを表現してくれていた。分かりやすかったので、少々気持ちの読み取りが苦手でやや鈍感な私も気づくことができた。明らかに前者と後者で目力が違っていたのだ。

与えられた学びから本人の望む学びへの転換

 音楽で、電子キーボードの内蔵曲を1スイッチで演奏する課題にすると、OAKのカメラでとらえている舌の動きが止まることが多くなっていた。私は、大好きな「嵐」の曲の演奏なら楽しめるのではないかと思い込んでいた。
 「嵐」の曲を聴くのは好きかもしれない。でも、演奏となると、また別物だ。
 長く一緒に取り組んでいるヘルパーさんのアドバイスもあり、OAKを止めて視線入力の導入を決断した。

 といっても、視線入力なら、何でも一生懸命取り組めるわけではない。
 手段がよいとしても、動機がなければ「学び」にはつながらない。
 たとえば、DropTalkで視線入力を使った文字の学習に何度か取り組もうとしたこともあるが、それは、残念ながら望さんの心をとらえなかった。

 望さんが選んだ課題は、絵を描くことと、SOUNOS VALKAでの即興の演奏だ。
 手段としては、OAKやスイッチを使った学びから視線入力を使った学びに変更したわけだが、望さんにとって大きかったのは手段の変更ではなかった。
 「やってみたい」「やり続けたい」と心が動く内容が大切だったのだ。

わきあがる闘志

 
3月の修了式の望さんの生涯学習コース2年生のまとめは、大宮エリーさんの詩画集「虹のくじら」の中から「わきあがる闘志」という詩の朗読とのコラボ演奏だ。
 詩の題名でもある「闘志」が、望さんの内面から湧きあがってくるのを肌で感じた。
 射るような視線に心を打たれて、しばらくその余韻に浸ることになった。

  
 
 前日まで体調を崩していたこともあり、帰る前に挨拶をしようとした時には、ぐっすり眠ってしまっていた。
 寝顔は、2時間、真剣に画面に向かい力を出し切ったことを物語っていた。(相澤純一)

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