カテゴリ: 訪問大学『おおきなき』のひととき

―好きな曲をスイッチで選んで聴く試みー
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指伝話メモリ音楽png











*スイッチインターフェイスは、マジカルトイボックスで製作した<REVIVE USB汎用スイッチインターフェイス>を使用。iOSが13になってから使用できなくなり、ビット・トレード・ワンで
REVIVE USB MICRO>を購入し、交換する必要がありました。 



<「選択」を求める意味>

 特別支援学校の教員時代の授業では、「今日の天気は晴れですか?雨ですか?」と訊いたり、活動の時には「一番始めにやりたい人?」と訊いたりすることが多かったです。子どもが主体で子どもが選択することが大事ということが私の頭にインプットされていて、常に子ども達に「どっち?」「~してくれる人?」と聞きながら集団の授業を進めていました。

 選択の内容は、その日の天気のように答えが決まっているものもあれば、誰からやってもらうか決めるための問いかけややりたいことを聞いている問いかけ等が多くありました。

 子ども達にとって、その問いかけがどういう意味を持っていたかは、その場を離れてから、冷静に考えることができるようになりました。

 子ども達への問いかけは、授業を進めるために大人の都合で訊くことが多く、子ども達にとっては、分かりにくい問いかけも多くあり、あまり意味がない選択を求めていることが多かったのではないかと自問しています。


 訪問大学は全部1対1の授業ですが、絵本を読むときは、複数の絵本を持っていき、「今日はどの絵本を読みたいですか?」と訊くことがあります。表情の変化やアクションがなければ、視線を見て判断したり、訊いておきながら私の読みたいほうにしてしまったりすることがあります。

 音楽を演奏する時に、「どっちの曲を演奏したいですか?」と訊くこともあります。

 積極的に(判断基準は難しい)選んでくれることもあれば、はっきりした反応がない場合もあり、答えが読み取れないこともあります。


<選ぶ「動機」があるか、ないか>

 選択を求められる立場にたって、どういう時に選べるか考えてみます。選びたくなる問いかけかどうかで訊かれる側の反応が変わるのではないでしょうか。

 特に、障害の重い方にとっては、選択肢があって、その中に選びたいものがあるかどうか、「選びたい」と思う動機があるかどうかが大事なのではないかと考えるようになりました。
 当然、訊かれている内容がわかる、何となくでもイメージを持てることが必要条件になります。


<自分の操作で曲を選び、聴いてみる>

 今回は、日常的にご家庭で音楽を聴くことが多く、聴きなれた音楽があり、好きと思われる曲があると思われる学生2名の試みを紹介します。曲名と曲がマッチングして理解できている場合は少ないかもしれないので、実際に選んでみて、曲を聴いてみることで、聴きたくない時はまた選び直せるような仕組みにしたいと考えました。トライ&エラーを繰り返す体験になるかもしれないので、好きな音楽がその中に含まれることは大切な条件になるかと考えました。


<指伝話メモリで音楽を選べるようにする>

 ちょうどICT救助隊の講座で、指伝話メモリショートカットで曲を選ぶ方法を教えていただいたので使わせていただきました。特に、何度でも曲を選び直せるけれども、一度選択した曲を簡単には替えられないところがいい点です。MyMusic(音楽をかける)の機能を使ってみました。



<スイッチで順繰りに送っていき、長押しで決定する>

*モニター画面を見て、選びたい曲を判断するのは難しいと判断し、二人ともiPad本体の設定で<スイッチコントロール>の<オーディオ>の<読み上げ>をONにして試しています。


 問題は、どうやって1スイッチで選択・決定するかでした。

私は今まで、iPadアプリの1スイッチでの選択・決定には、オートスキャンを使ってきました。(2スイッチを使いこなしている学生は今のところいません。)

 私に思い込みがあったのです。

 1スイッチでの選択・決定でスイッチの入れ方を短く・長くと使い分けすることは障害の重い方には難しいのではないかと思い込んでいたのです。

 しかし、たとえ一番遅い速度でオートスキャンしていても、自分が選びたい時にタイミングよくスイッチをONにすることも、なかなか難しいことでした。

 

 雅也さんは、すでに山ねこ工作室の空気圧センサースイッチの操作に慣れつつありました。長押しは得意なので、SOUNOS VALKAのアルペジオ演奏が得意で、YouTubeでも紹介しています。


 今回の曲の選択については、決定(長押し)よりも短いスイッチ操作で順繰りに曲を送っていくのがうまくできるかどうかが気になっていました。また、スイッチ操作では、初めて「選択」を取り入れることになります。短くスイッチを連続して押していく操作は難しいですが、徐々に感覚をつかんでくれそうな期待がありました。

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 倫治さんは、今まで、ピエゾスイッチワリバッシャーを動かし、キーボードを演奏する授業をしていました。(その演奏は以下で公開しています。)


 今回の曲の選択で、1曲ずつ次の曲に送っていくのは可能と予想していました。でも、初めて試みる長押しで曲を選択できるかどうか心配でした。

 ピエゾスイッチを山ねこ工作室の空気圧センサースイッチに替えてみます。今まで薄いピエゾセンサーを親指とひとさし指ではさんで操作していましたが、太い空気圧センサーを挟んでうまく操作できるか、冒険でした。

 


 こちらの心配をよそに、ピエゾスイッチの時には見られなかった親指を軽くスライドさせる動きで、カードを順繰りに送っていく操作方法をすぐ体得できたようです。

 そして、初めてのスイッチの長押しに挑戦した倫治さんは、力が入りすぎて全身に緊張が走ってしまうことがありました。それでも、前向きにトライを繰り返すうちに長押しで聴きたい曲を選択する成功体験が自信につながっていったことを表情から感じ取ることができました。

山ねこ工作室の空気圧センサースイッチのいいところの1つは押している時間、スイッチが入り続け、長押しも可能な点です。


<選択できることの喜び>

 自分の授業を振り返ってみても、子ども達にとっては、選択を求められる時、どうしても受け身になり、選ばされている感覚があったのではないでしょうか。

 自分の思いからスタートし自分の力で選ぶというのがめざしたい着地点です。

 たとえば給食でしたら、たとえ全介助で食べているとしても、「次は何を食べるか」自分で順番を決めて食べることができるのが理想です。

 好きな歌や曲を聴く時も、その順番を自分で決めたいのではないでしょうか。

 その場合、日によって聴きたいものが変わることもありますし、同じ曲を何度も聴きたいという場合もあるのではないでしょうか。

 選択できることが、本人の生活をいろどる喜びのひとつになることを願っています。


 2人は、もともと生活の中で、ご家族の支援で音楽を聴くことが好きな活動になっていたことがあり、今までは、ご家族が操作することでいろいろな音楽を聴くことが多かったことが経験の積み重ねとしてあったことが今回の「選択」のベースにあります。

 雅也さんの場合は、自分の好きな曲が録音されている音楽プレーヤーを視線入力やスイッチで聴くという試みはすでにされていました。


<選択しない選択もあるー目的はスイッチ操作ではないので>

 さて、音楽に聞き入ると手が動かなくなる(つまり選ばなくなってしまう)ということも当然起きます。

 スイッチ操作は、1つの手段です。

 好きな曲を聞きたいという動機を叶えるためのスイッチですので、スイッチを動かす手を休めて、1つの音楽を最後まで聴いたり、または繰り返し同じ曲を聴いたり、順番通りに聴いたりすることも当然あるでしょう。


 難しいのは、その前の段階の選択肢の音楽を相談しながら入れ替えたり増やしたりしていく作業でしょうか。


*CDプレーヤーやiPadのミュージックアプリ等で曲を順番に送っていって選んで再生する方法も考えられることを追記しておきます。


 YouTubeに2人の様子をアップしました。
                

 
(相澤純一)


 





オンラインでNPO法人訪問大学おおきなき第1回総会実施!

 NPO法人訪問大学は、会員の皆様のご支援のもとに運営しています。会員の種類は3つあり、正会員(直接的に活動にかかわる支援)、賛助会員(資金面での支援)団体会員(団体として資金面での支援)で成り立っています。

 2020年6月20日(土)、第1回総会は、新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインでZoomミーティングを利用して開催しました。
 「ピンチをチャンスに」という言葉がありますが、オンラインにしたことで、多くの訪問大学の学生さんも参加することができるという大きなメリットがありました。また、遠方の会員も参加できたこともメリットでした。

総会写真2020.6.20
*写真は、仙台の阿部晃子さんがおおきなきの原点と言える阿部恭嗣さん(晃子さんの伴侶、筋ジス患者)の本「七転び八起き寝たきりいのちの証し」を紹介しているところです

<学生のご家族の声>
 総会に参加された学生さんのお母さんから願いや感想をいただきました。  



「自分の地域でも将来的に生涯学習の場が作れるようにつなげていきたいです。」
(Kさん、Sさん)
「おおきなきに関わっているみなさんのつながりをとても心強く感じました。成人となり、出会いが少なくなるばかり、と思っていましたが、おおきなきの仲間に入れていただき、世界が一気に開けたように感じます。」(Iさん)
「給付金で、子どもの好きな楽器を購入し、訪問大学の授業で演奏したいです。」
(Tさん)
「身体を使うことで、本人の反応が出やすくなるかもしれないので取り組んでみたいです。」(Nさん)

 
 画面越しの交流でしたが、心のつながりを感じることのできる温かい総会兼交流会になりました。

NPOとしての2年目は苦しいスタートに
 訪問大学2019年度を締めくくる修了式は、感染の拡大により3月中にできなかった学生もいるのですが、講師の判断でオンラインも使い、4月の初めに無事全員終えることができました。
 しかし、2020年度、NPOとしての2年目の春は、スタートを切れないまま、感染拡大による緊急事態宣言の間、活動を休止せざるをえませんでした。
 解除後は、一人ひとり個別に相談しながら、感染防止対策を確認し、訪問授業を徐々に再開しています。

来年度予定の文化祭の実施についても再検討
 少し先のことになりますが、4年に1回の開催を目指している文化祭についてです。2017年度に第1回文化祭を行いましたが、来年度(2021年度)に予定していた第2回文化祭は、結果として東京オリンピックの後の時期になってしまうことになり、予定通りオリンピックが実施されれば、世界の中で大きな数の人が動きますので、その後の訪問大学文化祭が実施できるかどうか見通せず不安を抱えざるをえません。
 訪問大学の学生生活は、「命に不安のない状態」を保持できたうえで成り立つことですので、文化祭の実施時期や開催方法については、延期やSNS上での発表等も含めて、あらためて検討していきたいと思います。

どんなに重い障がいがあっても伝えたい気持ちがある
 さて、先日、神奈川の津久井やまゆり園の判決が出ました。被告の刑が決まりましたが、被告一人の考えではなく、社会に似たような考えがまだまだ根強くあることが分かってきています。

「意思疎通のできない人間は、生きる価値がない」という考えに対して、私たちは
「重い障がいがあっても生まれてきたこと自体が祝福されることであり、ありのままの自分で生きていくことを支えることができる社会」
であってほしいと願っています。

 そして、これは第1回文化祭のテーマとしたものですが、「どんなに重い障がいがあっても伝えたい気持ちがある」ということを、私たちは、多くの方に知ってほしいと願っています。
 訪問大学の授業の中では、一人ひとりの「伝えたい気持ち」を表現することや「やってみたいこと」を実現すること、見えない心の中の想いを形にすることを目指していきたいと思います。

苦難の時代でも、変わらずに発信し続けたい!
 訪問大学おおきなきは、まだまだとても小さな団体ですが、支える仲間(会員)は少しずつ増えてきています。
 お一人お一人の心のこもったご支援に、いつも感謝の気持ちでいっぱいです。
 学生の生きている姿、学ぶ姿を知っていただき、皆さんとつながり続けていきたいです。
 細い糸でも束ね、織っていけば1枚の布になると考えて、地道な活動を続けていきたいと思っています。

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⋆「佳澄」大田区立下丸子公園「紫陽花の丘」で撮影

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⋆「てまりてまり」大田区立下丸子公園「紫陽花の丘」で撮影

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⋆「愛華」大田区立下丸子公園「紫陽花の丘」で撮影


(相澤純一)      

「わきあがる闘志」
ー与えられた学びから本人の望む学びへの転換―

28歳の誕生日に想う
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 望さんは、訪問大学生涯学習コースの3年生になった。
   しかし、4月以降、コロナ禍で訪問大学の授業を全面的に休止したため、始業式もできていない。

    4年制の訪問大学を卒業すると、希望者は生涯学習コースに進む。ただ、生涯学習コースというのが分かりにくいので、望さんには、「訪問大学院」という名目で説明している。
「大学院だとしたら、生涯学習コース2年生の修了式は修士課程の修了で、4月からは博士課程だね。」
   と、伝えてある。望さんは学ぶ意欲が旺盛で、訪問大学の授業は月2回だけだが、日常的にかかわりのあるヘルパーさんやボランティアの大学生と絵本を読んだり創作活動をしたり、屋外に出かけて自然の変化を体験的に学んだりもしてきていて、日々、学ぶ活動を大事にしていた。

   
残念ながら、4月からコロナ禍で、今は、生活に密着した関わりが中心になり、学ぶ時間はかなり限られてしまっている。

    望さんは、28歳の誕生日を今日、迎えた。
    障がいの進行を想うと、ご家族にとっても支援者にとっても、1年1年の記念日がとても貴重で、命の足跡として心に深く刻まれる。


自分から学びたい、やってみたいことに挑戦するときとそうでないときの目力の違い

 望さんの授業のメインの手段として、視線入力を取り入れて、5年目になる。訪問大学入学後の1年目はキネクトカメラを設置してOAKを使った演奏やiPadのアプリを使った授業を行っていた。       
 視線入力については、特別支援学校時代に試したことがあるが難しそうだったという話も聞いていて、OAKを舌の動きで使えていたので、あえて積極的に導入しないできていた。

 元教員の私は、「どんな課題でも、全力で取り組んでほしい」と心の隅で思っていた。
 一方、「大学は、自分のやりたいことを学ぶ場・機会だということ」も頭の中で理解はしていた。

 望さんは、正直に表情や視線や声で、やりたいこととあまりやりたくないことを表現してくれていた。分かりやすかったので、少々気持ちの読み取りが苦手でやや鈍感な私も気づくことができた。明らかに前者と後者で目力が違っていたのだ。

与えられた学びから本人の望む学びへの転換

 音楽で、電子キーボードの内蔵曲を1スイッチで演奏する課題にすると、OAKのカメラでとらえている舌の動きが止まることが多くなっていた。私は、大好きな「嵐」の曲の演奏なら楽しめるのではないかと思い込んでいた。
 「嵐」の曲を聴くのは好きかもしれない。でも、演奏となると、また別物だ。
 長く一緒に取り組んでいるヘルパーさんのアドバイスもあり、OAKを止めて視線入力の導入を決断した。

 といっても、視線入力なら、何でも一生懸命取り組めるわけではない。
 手段がよいとしても、動機がなければ「学び」にはつながらない。
 たとえば、DropTalkで視線入力を使った文字の学習に何度か取り組もうとしたこともあるが、それは、残念ながら望さんの心をとらえなかった。

 望さんが選んだ課題は、絵を描くことと、SOUNOS VALKAでの即興の演奏だ。
 手段としては、OAKやスイッチを使った学びから視線入力を使った学びに変更したわけだが、望さんにとって大きかったのは手段の変更ではなかった。
 「やってみたい」「やり続けたい」と心が動く内容が大切だったのだ。

わきあがる闘志

 
3月の修了式の望さんの生涯学習コース2年生のまとめは、大宮エリーさんの詩画集「虹のくじら」の中から「わきあがる闘志」という詩の朗読とのコラボ演奏だ。
 詩の題名でもある「闘志」が、望さんの内面から湧きあがってくるのを肌で感じた。
 射るような視線に心を打たれて、しばらくその余韻に浸ることになった。

  
 
 前日まで体調を崩していたこともあり、帰る前に挨拶をしようとした時には、ぐっすり眠ってしまっていた。
 寝顔は、2時間、真剣に画面に向かい力を出し切ったことを物語っていた。(相澤純一)

自分の力でできるよろこび、自分の力で表現するよろこび
(その4)

-電子キーボードで好きな曲を手指やスイッチで演奏する-
ritoキーボード

<CASIOの電子キーボードを改造しての演奏>
 電子キーボードの演奏については、1980年頃から玩具のキーボードやCASIOの光ナビゲ―ションキーボードを改造してスイッチで演奏する方法をマジカルトイボックスで教えてもらっていました。
 光ナビゲ―ションキーボードのレッスン機能は、キーボードのどの鍵盤を弾いても正しい旋律で演奏できることから、改造して1つの鍵盤からコードを引き出しジャックにつなぎ、1スイッチで演奏できるようにしています。
(以下で紹介するワリバッシャーを使えば、改造なしでも1スイッチで演奏できます)
 ブログの中では、この記事「コミュニケーションを豊かにする玩具」で触れています。

 レッスン機能を使うと、1スイッチの演奏にしっかり伴奏がつくので、リズムが合っていさえすれば、すてきな演奏になるので、たくさんのお子さんに試してもらっていました。
この方法は、一人で演奏する場合や支援者が合わせて演奏できるときに向いていました。キーボードに内蔵されている曲に限定されるのですが、CASIOのキーボードの場合、CASIOのインターネットソングバンクから好きな曲をダウンロードできるので、好きな曲を見付ければ、演奏可能でした。

* iPadのアプリですと、Tiny Pianoピアノあそびもっと!ピアノあそびでも似たようなことが可能ですね。

YAMAHAのSHS-500のジャム機能を生かした演奏>
 この方法は、訪問大学講師の熊谷修さんのアイデアになります。
 すでに、亜由未さんが校歌を演奏している様子をYouTubeで紹介しています。
 くわしくは、「新しい仲間が2名入学しました」をご覧ください。

 

 まず、お子さんや学生さんが演奏したいと思う好きな曲をiTunesに取り込むことから始めます(購入するか、CDから取り込みます)。PCのiTunesは、iPadのミュージックアプリと自動で同期することができます。(できれば、CDからの取り込みをお勧めします。また、解析できない場合があります。)

 YAMAHAのアプリ「Chord Tracker」(無料)は、iPad内の音楽ファイルをコード解析してくれます。YAMAHAの対応楽器をBluetoothで接続すると、好きな曲の再生に合わせて、キーボードの演奏を楽しめます。 *アンドロイド用もあります。
 このアプリのいいところは、仮に曲の途中で疲れて休んでも、再び演奏を開始すればコードがずれることはなく、いつでもぴったり合った和音を出すことができるところです。

(1)手指を使って演奏する
 熊谷さんが担当している利翔さんは、小学校4年生の時に脳腫瘍を受傷し、コミュニケーション能力や身体機能等、それまで獲得していた力を発揮できなくなりました。特別支援学校で残存している力を引き出す教育を受け、卒業後は通所しながら訪問大学おおきなきに入学し3年目を修了し、4年生になりました。受傷前に好きだった曲はファンキーモンキーベイビーズの曲で、いつもご家族と病室で聴いていると前向きの気持ちになれたそうです。
    昨年度から、授業で、この電子キーボードの演奏に取り組んでいます。

 不自由な目を片方ずつ使って鍵盤を真剣に見つめ、指先に力を込めて一生懸命押して演奏しようとしています。
 ファンモンの曲は、今でも利翔さんはじめご家族を勇気づけ励まし続けてくれる曲だそうです。記憶の底に眠っている感覚や感情がよみがえり、利翔さんの指先に魂がこもるのではないかと思っています。
 ちなみに好きな曲は「ヒーロー」をはじめとするアップテンポな雰囲気の曲が多いようでした。是非、以下から利翔さんの演奏の様子をご覧ください。



(2)ワリバッシャーを使い、スイッチで演奏する。
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 私の授業では、電子キーボードSHS-500の鍵盤にワリバッシャーを当て、学生の得意なスイッチを使って好きな曲を探して、演奏を試みています。この動画では、倫治さんがよく聞いて知っている「パプリカ」の演奏をご紹介します。
 この時に、抱っこスピーカーは体に密着させ、さらに右腕をちょうどいい具合に載せることができています。フィードバックしてくる心地よい音と振動でリラックスでき、指の動きもよくなるのではないかと思っています。真剣に演奏しているところをYouTubeでご覧ください。



*なお、ピエゾスイッチは、ワリバッシャーと直結せずにラッチ&タイマー(ここでは仙台高専開発のもの)を間に入れています。これは、ワリバッシャーのモーターに強い電流が流れてピエゾスイッチが壊れないようにするため、念のため直結させないようにしています。

*また、抱っこスピーカーは完成品ではなく、自作キットを購入し使用しています。製作方法は福島勇さんがYouTubeで紹介されています。完成品の方が音質が優れているそうです。


(相澤純一、熊谷修)

自分の力でできるよろこび、自分の力で表現するよろこび(その3)
 ー右手の親指の動きは言葉(気持ちの表現)なのではないか―

 前回は、倫治さんの視線入力への取り組みについて書きました。
今回は、出会った時から気になっていた倫治さんの右手の親指の動きについてです。
 道具(支援機器)として活躍してくれたのは、視線入力をするときも欠かさず使用していた抱っこスピーカーと、それに加えてピエゾスイッチです。

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1ヶ月に1回の授業の中で、この2つのアイテムが倫治さんの表現活動を豊かにしてくれるという確信を持つようになりました。

<抱っこスピーカーの聴覚・触覚へのフィードバックと
リラックス効果>

 聴覚触覚への入力については、抱っこスピーカーが欠かせませんでした。
 パソコンの音や電子キーボードの小さな音の音量が大きくなるだけでなく、抱っこスピーカーの高品質の音を耳だけでなく体全体で受け止めることができたことは、倫治さんの意欲を引き出すことにつながっていたと思うのです。
 抱っこスピーカーの音の響きは振動となって体全体に伝わっていき、倫治さんの筋緊張を緩める役割も担ってくれていたようです。

 私は、抱っこスピーカーは、どなたの家に訪問する時も必ず持参していますが、このスピーカーを体に当てて音を感じてもらって、不快な表情をされた方は今まで一人もいません。

 1990年代、私はろう学校の教員をしていましたが、聴覚障害のあるお子さんが音楽を楽しむときにボディソニック(体感音響システム)というものを使うことがありました。このシステムは、振動装置とつなげて、音楽を振動に変えるものでした。
 一方、抱っこスピーカーには振動装置は入っていなくて、音楽自体の響きをストレートに体に伝えてくれるのです。これが、リラックス効果の素ではないかと理解しています。

 重度の肢体不自由のある方の中でも、特に緊張の強い方に、抱っこスピーカーはリラックス効果があるのではないでしょうか。また、全身で音楽を楽しむことができることで、音楽の楽しさを倍増させているように思うのです。
 *少し前のニュースですが、以下の動画をご参照下さい




<右手の親指は、どういう時に動くのか?>

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 倫治さんの特別支援学校時代の記録には、「左腕を上げることができる」という記述もあったのですが、右手の親指の動きについては、始めは、偶然の動き、不随意の動きかもしれないと思っていました。それで、授業の時、どんな時に動くのだろうか注目していたのです。もしかしたら何らかの意思が込められているのではないか、と思い始めていました。

 
以下は、7月~3月の記録から、右手の親指の動きに関係している部分を抜粋したものです。

・お母さんから「ありがとう」(いきものがかり)が好きかもしれないと伺い、iPadでかけてみる。その時に確かに右手親指が上下に細かく動き出した。(7月)

・夏の間、長期入院があり、1回授業がおやすみだった。その間の親指の動きについて聞いてみると、お母さんの観察では、何もしていなくて人とのかかわりがない時は動くことがなかった。一方、人とのかかわりがある時に動いているようだったとのことだった。(8月)

・校歌を歌い終わり、「今日は右手の親指が動くかな?」という話をお母さんとしていた後に、親指が動き出していた。表情もいい。授業の最後によく動く右手の親指でピエゾセンサーを挟むようにして、親指の動きを促してみたが、今日は、覚醒レベルが上がらず(心拍が50を切ってしまう、通常は70以上)、残念ながら自発的な動きは見られなかった。でも薄目を開けたときに少し動き、音を出すことはできた。(11月)

・視線入力で、笑顔で「色を塗る」で絵を描いているときに動き出しているのにお母さんが気づく。(12月)

・葉加瀬太郎の「ツゴイネルワイゼン」を聞きながら「色を塗る」で絵を描く。その後に偶然iPadの音楽は、乃木坂46の「シンクロニシティ」にかわっている。お母さんがその時、右手の親指が細かく動きだしていることに気付く。お母さんが、こういう曲はあまり聞かせてこなかったけれど、これからは聞かせてみようかしら、と言われる。(1月)

・初めての「SOUNOS VALKA」は、短時間注視すると音が出ることに気付くのにさほど時間を要しなかったようだ。単音できれいな音が鳴り、花火のように画像が広がるのに気づいたと思えた後に、乃木坂46の曲で動いていた右手の親指と人差し指の間にピエゾを挟み込んだ。はじめの段階では視線の注視で単音が出る。そして、指の動きのスイッチでも単音が出る。指の動きについて、この日まで不随意か随意か断定できずにいたが、親指の動きが抱っこスピーカーのフィードバックで活発になった様子から意図的に動かしているように思えた。表情もとてもいきいきしてくる。
 この日、視線の動きがやや速かったことから親指の動き(=スイッチOn)と視線の動きが同時に起きると、アルペジオ演奏もできるようになっていた。また、指の動きをよく見ると親指の動きだけでなくピエゾの下の方のひとさし指が横に行ったり来たり動いていることも観察できた(1月)
    ⋆以下の動画は、2月12日のブログで紹介したものです。


・授業を開始する前に、「今日は右手の親指が動くだろうか」「おうちでは時々動いていますか?」と話をしているのが聞こえたのだろうか、かすかにだが、その時右手の親指が動き出していた。(2月)

・「パプリカ」をかけてみる。お母さんが反対の左手のマッサージをすると、右手の親指も動き出す。「パプリカ」をかけると、しばらく連続して演奏できるが、力が入りすぎている分、長続きしなかった。続けてSOUNOS VALKAも試してみる。視線の注視での単音と、スイッチ操作の単音、両方出せていた。始めだけだったが、連動して画面の隅でアルペジオ演奏もできた。この日は、心拍が40台まで下がり、活動が長続きしなかった。(3月)

<右手の親指の動きは倫治さんの表現(言葉)ではないか>
 7月に試したときは、親指の動きが一定のリズムで動いていることから、随意的とも言い切れないでいたのですが、その親指が動き出すときに必ず倫治さんの感覚(感情)・意思の力が働いているのではないか、と思うようになっていきました。

 倫治さんとの授業は、まだ時間にしても実質15時間位です。まだ、何か結論めいたことを断言しなくてもいいのかもしれません。

 でも、私は倫治さんの右手親指の動きは、倫治さんの発信であることを確信するようになりました。1回1回の動きは、まだコントロールできていないとは思いますが、親指で伝え、親指の動きで表現活動に意欲的に取り組む姿は素敵です。
 倫治さんの好きなことやその時の気持ちが親指の動きから伝わってくるのです。
 小さな動きですが、貴重な動きです。これからも、親指で気持ちを伝えたり、いろいろな活動を楽しんだりしてほしいと願っています。
(相澤純一)

⋆次回は、電子キーボードを演奏する2人の学生を紹介したいと思います。

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