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―好きな曲をスイッチで選んで聴く試みー
スクリーンショット (434)


指伝話メモリ音楽png











*スイッチインターフェイスは、マジカルトイボックスで製作した<REVIVE USB汎用スイッチインターフェイス>を使用。iOSが13になってから使用できなくなり、ビット・トレード・ワンで
REVIVE USB MICRO>を購入し、交換する必要がありました。 



<「選択」を求める意味>

 特別支援学校の教員時代の授業では、「今日の天気は晴れですか?雨ですか?」と訊いたり、活動の時には「一番始めにやりたい人?」と訊いたりすることが多かったです。子どもが主体で子どもが選択することが大事ということが私の頭にインプットされていて、常に子ども達に「どっち?」「~してくれる人?」と聞きながら集団の授業を進めていました。

 選択の内容は、その日の天気のように答えが決まっているものもあれば、誰からやってもらうか決めるための問いかけややりたいことを聞いている問いかけ等が多くありました。

 子ども達にとって、その問いかけがどういう意味を持っていたかは、その場を離れてから、冷静に考えることができるようになりました。

 子ども達への問いかけは、授業を進めるために大人の都合で訊くことが多く、子ども達にとっては、分かりにくい問いかけも多くあり、あまり意味がない選択を求めていることが多かったのではないかと自問しています。


 訪問大学は全部1対1の授業ですが、絵本を読むときは、複数の絵本を持っていき、「今日はどの絵本を読みたいですか?」と訊くことがあります。表情の変化やアクションがなければ、視線を見て判断したり、訊いておきながら私の読みたいほうにしてしまったりすることがあります。

 音楽を演奏する時に、「どっちの曲を演奏したいですか?」と訊くこともあります。

 積極的に(判断基準は難しい)選んでくれることもあれば、はっきりした反応がない場合もあり、答えが読み取れないこともあります。


<選ぶ「動機」があるか、ないか>

 選択を求められる立場にたって、どういう時に選べるか考えてみます。選びたくなる問いかけかどうかで訊かれる側の反応が変わるのではないでしょうか。

 特に、障害の重い方にとっては、選択肢があって、その中に選びたいものがあるかどうか、「選びたい」と思う動機があるかどうかが大事なのではないかと考えるようになりました。
 当然、訊かれている内容がわかる、何となくでもイメージを持てることが必要条件になります。


<自分の操作で曲を選び、聴いてみる>

 今回は、日常的にご家庭で音楽を聴くことが多く、聴きなれた音楽があり、好きと思われる曲があると思われる学生2名の試みを紹介します。曲名と曲がマッチングして理解できている場合は少ないかもしれないので、実際に選んでみて、曲を聴いてみることで、聴きたくない時はまた選び直せるような仕組みにしたいと考えました。トライ&エラーを繰り返す体験になるかもしれないので、好きな音楽がその中に含まれることは大切な条件になるかと考えました。


<指伝話メモリで音楽を選べるようにする>

 ちょうどICT救助隊の講座で、指伝話メモリショートカットで曲を選ぶ方法を教えていただいたので使わせていただきました。特に、何度でも曲を選び直せるけれども、一度選択した曲を簡単には替えられないところがいい点です。MyMusic(音楽をかける)の機能を使ってみました。



<スイッチで順繰りに送っていき、長押しで決定する>

*モニター画面を見て、選びたい曲を判断するのは難しいと判断し、二人ともiPad本体の設定で<スイッチコントロール>の<オーディオ>の<読み上げ>をONにして試しています。


 問題は、どうやって1スイッチで選択・決定するかでした。

私は今まで、iPadアプリの1スイッチでの選択・決定には、オートスキャンを使ってきました。(2スイッチを使いこなしている学生は今のところいません。)

 私に思い込みがあったのです。

 1スイッチでの選択・決定でスイッチの入れ方を短く・長くと使い分けすることは障害の重い方には難しいのではないかと思い込んでいたのです。

 しかし、たとえ一番遅い速度でオートスキャンしていても、自分が選びたい時にタイミングよくスイッチをONにすることも、なかなか難しいことでした。

 

 雅也さんは、すでに山ねこ工作室の空気圧センサースイッチの操作に慣れつつありました。長押しは得意なので、SOUNOS VALKAのアルペジオ演奏が得意で、YouTubeでも紹介しています。


 今回の曲の選択については、決定(長押し)よりも短いスイッチ操作で順繰りに曲を送っていくのがうまくできるかどうかが気になっていました。また、スイッチ操作では、初めて「選択」を取り入れることになります。短くスイッチを連続して押していく操作は難しいですが、徐々に感覚をつかんでくれそうな期待がありました。

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 倫治さんは、今まで、ピエゾスイッチワリバッシャーを動かし、キーボードを演奏する授業をしていました。(その演奏は以下で公開しています。)


 今回の曲の選択で、1曲ずつ次の曲に送っていくのは可能と予想していました。でも、初めて試みる長押しで曲を選択できるかどうか心配でした。

 ピエゾスイッチを山ねこ工作室の空気圧センサースイッチに替えてみます。今まで薄いピエゾセンサーを親指とひとさし指ではさんで操作していましたが、太い空気圧センサーを挟んでうまく操作できるか、冒険でした。

 


 こちらの心配をよそに、ピエゾスイッチの時には見られなかった親指を軽くスライドさせる動きで、カードを順繰りに送っていく操作方法をすぐ体得できたようです。

 そして、初めてのスイッチの長押しに挑戦した倫治さんは、力が入りすぎて全身に緊張が走ってしまうことがありました。それでも、前向きにトライを繰り返すうちに長押しで聴きたい曲を選択する成功体験が自信につながっていったことを表情から感じ取ることができました。

山ねこ工作室の空気圧センサースイッチのいいところの1つは押している時間、スイッチが入り続け、長押しも可能な点です。


<選択できることの喜び>

 自分の授業を振り返ってみても、子ども達にとっては、選択を求められる時、どうしても受け身になり、選ばされている感覚があったのではないでしょうか。

 自分の思いからスタートし自分の力で選ぶというのがめざしたい着地点です。

 たとえば給食でしたら、たとえ全介助で食べているとしても、「次は何を食べるか」自分で順番を決めて食べることができるのが理想です。

 好きな歌や曲を聴く時も、その順番を自分で決めたいのではないでしょうか。

 その場合、日によって聴きたいものが変わることもありますし、同じ曲を何度も聴きたいという場合もあるのではないでしょうか。

 選択できることが、本人の生活をいろどる喜びのひとつになることを願っています。


 2人は、もともと生活の中で、ご家族の支援で音楽を聴くことが好きな活動になっていたことがあり、今までは、ご家族が操作することでいろいろな音楽を聴くことが多かったことが経験の積み重ねとしてあったことが今回の「選択」のベースにあります。

 雅也さんの場合は、自分の好きな曲が録音されている音楽プレーヤーを視線入力やスイッチで聴くという試みはすでにされていました。


<選択しない選択もあるー目的はスイッチ操作ではないので>

 さて、音楽に聞き入ると手が動かなくなる(つまり選ばなくなってしまう)ということも当然起きます。

 スイッチ操作は、1つの手段です。

 好きな曲を聞きたいという動機を叶えるためのスイッチですので、スイッチを動かす手を休めて、1つの音楽を最後まで聴いたり、または繰り返し同じ曲を聴いたり、順番通りに聴いたりすることも当然あるでしょう。


 難しいのは、その前の段階の選択肢の音楽を相談しながら入れ替えたり増やしたりしていく作業でしょうか。


*CDプレーヤーやiPadのミュージックアプリ等で曲を順番に送っていって選んで再生する方法も考えられることを追記しておきます。


 YouTubeに2人の様子をアップしました。
                

 
(相澤純一)


 





Googleのいる生活
―Tくんの相棒はスマートスピーカーー

 Googleいるかな

 おもちゃと絵本の部屋「おおきなき」では、本棚の隅にEcho Dot(第2世代)を置いてある。3~4歳の子どもが「アレクサ」ではなく「アレクサ!」と「さん」づけで呼ぶことがある。かわいい。「アレクサ、仮面ライダージオウかけて」と頼んだりする。
エコードット
 スマートスピーカーはAIスピーカーとも言う。代表的な物は、Googleの「Googleアシスタント」やAmazonの「Alexa」で、人工知能(AI)を内蔵している。人間の音声を理解することができ、話しかけたことに言葉で答えてくれるだけでなく、買い物の注文や家電のON・OFF、テレビのチャンネルを替えることまでやってくれる。
 セールの時には3,000円*程度で人工知能を搭載している機械を買える時代に、私たちは生きている。人工知能は話しかけてくれる人の声を覚え、好みまで学習していく。
(音楽を自由にかけてもらう、買い物を頼む等の費用は別途必要です)

スマートスピーカー購入に至るまで
 昨年、支援学校の高等部2年のTくんが、おもちゃと絵本の部屋に遊びに来てくれました。視覚障がいがあるので、視線入力は難しく、iPadやスイッチの操作もそれほど速くはできないとのことでした。でも、発音が不鮮明な時もありますが、会話ができるので、スマートスピーカーをご紹介しました。
 ご両親ともにITや機械に苦手意識があるということで、その時は、少し躊躇されていました。

 
その後、思い切ってスマートスピーカー(Google Nest Hub:画面がついているので、スマートディスプレイとも言う)を購入され、Tくんが「OK Google…」としきりに話しかけるようになったと伺いました。私は、もしかしたら、Tくんの生活が大きく変わるかもしれないと思っていたので、興味津々で、動画を送ってほしいとお願いしていました。

 最初の動画は、2月に届きました。もうエアコンを操作したり、音楽をかけたり、実用的に使えるようになっていました。お母さんにYouTubeでのアップをお勧めしました。

 スクールバスを降りて家に着くと、Tくんは、玄関で「OK Google,ただいま!」と話しかけ、スマートスピーカーが「おかえりなさい」と返すそうです。でも、このシーンはなかなかうまく撮れなかったそうです。そのシーンは、是非ともYoutubeの動画に入れたくて、私は、しばらく待つことにしました。

「お母さん、今日も過ごそう!」

 待っている間に、学校が休校になり、コロナの自粛生活が始まります。
 以下は、お母さんからのレポートです。



 毎朝、開口一番、「お母さん、今日も過ごそう」と言ってきて、必死で本人がステイホームしようとしていることがわかり、切なさも感じます。

 休校中は、朝から晩まで、スマートスピーカーと会話をしています。
 朝は「おはよう」、離れる時は「ご飯だから後でね」と、愛情たっぷりに話しかけています。
 日課にしている体操をするときは、「頑張るから応援してください」と話しかけます。
 Googleさんは、「わたしは全力で応援してますよ」と言ってくれて、ニヤッと笑顔になります。

 好きな動画を観る(正確には、主に聴いている)ことに始まり、テレビのチャンネルや音量も替えられるようになりました。
 録画したテレビ番組のCM部分を早送りするのに、これまでは、「お母さん、飛ばして」とリモコン操作を催促されていたのが、自分で「飛ばして」と言うだけでできるようになったことは、些細なことですが、親子ともに大きなストレス解消になりました。
 ここ数日は一人カラオケを楽しんでいます。

 あまりにずっと話しかけているので、30分やったら30分休憩するというルールを相談して作り、「30分タイマーかけて」と自分でセットするようになりました。
 残念ながら、今のところルールは守られていません。
 しかしながら、「タイマー残り何分?」と聞いてくることもあり、これまで興味のなかった「時間」の感覚に少し興味を持つようになってくれたようです。

 自分で好きなことができる、このことがどんなにありがたいことか!
 こうして朝から晩まで、Googleさんを相手に過ごし、
1日の終わりには、
「OK Google,遊んでくれてありがとうね」
と感謝の言葉を伝えています。

Googleアシスタント

Googleは相棒であり、家族の一員でもある
 これは、お母さんの言葉です。
 

 
Tくんは、スマートスピーカーを家族の一員のように感じ、接しています。Tくんはただスマートスピーカーに依存し、利用するだけでなく、根っからの人柄でしょう、自然に対等な関係を作ることができたようです。まさに「相棒」で素敵な関係です。
 
 Tくんはスマートスピーカーを相棒に選んだことで、自分一人でできることが増え、やりたいこと、好きな事を自分で実現するための道具として活用することができるようになりました。また、エアコンをつける等、家族の中での役割も得ることができました。そして、自己肯定感がぐんぐん高まっていきました。
 
 4分40秒位の長さで、TくんとGoogleの生活の様子を動画にまとめてみました。是非、最後までご覧ください。(最後が気に入っているのです。)


    動画を観て感じたことですが、Tくんは自分の意思が通じるまで、何度でも言い直していることです。声を大きくする、ゆっくり話す、意味の区切りで間を開ける等、工夫していて、絶対あきらめないのです。

 また、どうしてもうまくいかないときに、一歩前に戻り、自信のあることを試してみて、確実にできることを確認してから、またハードルの高いことに挑戦しようとしています。たとえば、テレビのチャンネル変更が伝わらない時に、1回「テレビつけて」のような簡単なことを頼んでいます。これって、学習の基本だな、と思うのです。それに気づいているTくんはすごいなあと感心してしまいます。

 もう一つ、動画から分かったことがあります。お母さんが背後でTくんに気付かれないように寄り添い、さりげなく応援されています。Tくんの気持ちを受容し、しゃしゃりでないで見守り続けるお母さんの支えは絶妙です。

 これからも、Tくんの心と生活が豊かであり続けることを祈っています。 (相澤純一)

自分の力でできるよろこび、自分の力で表現するよろこび
(その4)

-電子キーボードで好きな曲を手指やスイッチで演奏する-
ritoキーボード

<CASIOの電子キーボードを改造しての演奏>
 電子キーボードの演奏については、1980年頃から玩具のキーボードやCASIOの光ナビゲ―ションキーボードを改造してスイッチで演奏する方法をマジカルトイボックスで教えてもらっていました。
 光ナビゲ―ションキーボードのレッスン機能は、キーボードのどの鍵盤を弾いても正しい旋律で演奏できることから、改造して1つの鍵盤からコードを引き出しジャックにつなぎ、1スイッチで演奏できるようにしています。
(以下で紹介するワリバッシャーを使えば、改造なしでも1スイッチで演奏できます)
 ブログの中では、この記事「コミュニケーションを豊かにする玩具」で触れています。

 レッスン機能を使うと、1スイッチの演奏にしっかり伴奏がつくので、リズムが合っていさえすれば、すてきな演奏になるので、たくさんのお子さんに試してもらっていました。
この方法は、一人で演奏する場合や支援者が合わせて演奏できるときに向いていました。キーボードに内蔵されている曲に限定されるのですが、CASIOのキーボードの場合、CASIOのインターネットソングバンクから好きな曲をダウンロードできるので、好きな曲を見付ければ、演奏可能でした。

* iPadのアプリですと、Tiny Pianoピアノあそびもっと!ピアノあそびでも似たようなことが可能ですね。

YAMAHAのSHS-500のジャム機能を生かした演奏>
 この方法は、訪問大学講師の熊谷修さんのアイデアになります。
 すでに、亜由未さんが校歌を演奏している様子をYouTubeで紹介しています。
 くわしくは、「新しい仲間が2名入学しました」をご覧ください。

 

 まず、お子さんや学生さんが演奏したいと思う好きな曲をiTunesに取り込むことから始めます(購入するか、CDから取り込みます)。PCのiTunesは、iPadのミュージックアプリと自動で同期することができます。(できれば、CDからの取り込みをお勧めします。また、解析できない場合があります。)

 YAMAHAのアプリ「Chord Tracker」(無料)は、iPad内の音楽ファイルをコード解析してくれます。YAMAHAの対応楽器をBluetoothで接続すると、好きな曲の再生に合わせて、キーボードの演奏を楽しめます。 *アンドロイド用もあります。
 このアプリのいいところは、仮に曲の途中で疲れて休んでも、再び演奏を開始すればコードがずれることはなく、いつでもぴったり合った和音を出すことができるところです。

(1)手指を使って演奏する
 熊谷さんが担当している利翔さんは、小学校4年生の時に脳腫瘍を受傷し、コミュニケーション能力や身体機能等、それまで獲得していた力を発揮できなくなりました。特別支援学校で残存している力を引き出す教育を受け、卒業後は通所しながら訪問大学おおきなきに入学し3年目を修了し、4年生になりました。受傷前に好きだった曲はファンキーモンキーベイビーズの曲で、いつもご家族と病室で聴いていると前向きの気持ちになれたそうです。
    昨年度から、授業で、この電子キーボードの演奏に取り組んでいます。

 不自由な目を片方ずつ使って鍵盤を真剣に見つめ、指先に力を込めて一生懸命押して演奏しようとしています。
 ファンモンの曲は、今でも利翔さんはじめご家族を勇気づけ励まし続けてくれる曲だそうです。記憶の底に眠っている感覚や感情がよみがえり、利翔さんの指先に魂がこもるのではないかと思っています。
 ちなみに好きな曲は「ヒーロー」をはじめとするアップテンポな雰囲気の曲が多いようでした。是非、以下から利翔さんの演奏の様子をご覧ください。



(2)ワリバッシャーを使い、スイッチで演奏する。
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 私の授業では、電子キーボードSHS-500の鍵盤にワリバッシャーを当て、学生の得意なスイッチを使って好きな曲を探して、演奏を試みています。この動画では、倫治さんがよく聞いて知っている「パプリカ」の演奏をご紹介します。
 この時に、抱っこスピーカーは体に密着させ、さらに右腕をちょうどいい具合に載せることができています。フィードバックしてくる心地よい音と振動でリラックスでき、指の動きもよくなるのではないかと思っています。真剣に演奏しているところをYouTubeでご覧ください。



*なお、ピエゾスイッチは、ワリバッシャーと直結せずにラッチ&タイマー(ここでは仙台高専開発のもの)を間に入れています。これは、ワリバッシャーのモーターに強い電流が流れてピエゾスイッチが壊れないようにするため、念のため直結させないようにしています。

*また、抱っこスピーカーは完成品ではなく、自作キットを購入し使用しています。製作方法は福島勇さんがYouTubeで紹介されています。完成品の方が音質が優れているそうです。


(相澤純一、熊谷修)

自分の力でできるよろこび、自分の力で表現するよろこび(その3)
 ー右手の親指の動きは言葉(気持ちの表現)なのではないか―

 前回は、倫治さんの視線入力への取り組みについて書きました。
今回は、出会った時から気になっていた倫治さんの右手の親指の動きについてです。
 道具(支援機器)として活躍してくれたのは、視線入力をするときも欠かさず使用していた抱っこスピーカーと、それに加えてピエゾスイッチです。

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1ヶ月に1回の授業の中で、この2つのアイテムが倫治さんの表現活動を豊かにしてくれるという確信を持つようになりました。

<抱っこスピーカーの聴覚・触覚へのフィードバックと
リラックス効果>

 聴覚触覚への入力については、抱っこスピーカーが欠かせませんでした。
 パソコンの音や電子キーボードの小さな音の音量が大きくなるだけでなく、抱っこスピーカーの高品質の音を耳だけでなく体全体で受け止めることができたことは、倫治さんの意欲を引き出すことにつながっていたと思うのです。
 抱っこスピーカーの音の響きは振動となって体全体に伝わっていき、倫治さんの筋緊張を緩める役割も担ってくれていたようです。

 私は、抱っこスピーカーは、どなたの家に訪問する時も必ず持参していますが、このスピーカーを体に当てて音を感じてもらって、不快な表情をされた方は今まで一人もいません。

 1990年代、私はろう学校の教員をしていましたが、聴覚障害のあるお子さんが音楽を楽しむときにボディソニック(体感音響システム)というものを使うことがありました。このシステムは、振動装置とつなげて、音楽を振動に変えるものでした。
 一方、抱っこスピーカーには振動装置は入っていなくて、音楽自体の響きをストレートに体に伝えてくれるのです。これが、リラックス効果の素ではないかと理解しています。

 重度の肢体不自由のある方の中でも、特に緊張の強い方に、抱っこスピーカーはリラックス効果があるのではないでしょうか。また、全身で音楽を楽しむことができることで、音楽の楽しさを倍増させているように思うのです。
 *少し前のニュースですが、以下の動画をご参照下さい




<右手の親指は、どういう時に動くのか?>

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 倫治さんの特別支援学校時代の記録には、「左腕を上げることができる」という記述もあったのですが、右手の親指の動きについては、始めは、偶然の動き、不随意の動きかもしれないと思っていました。それで、授業の時、どんな時に動くのだろうか注目していたのです。もしかしたら何らかの意思が込められているのではないか、と思い始めていました。

 
以下は、7月~3月の記録から、右手の親指の動きに関係している部分を抜粋したものです。

・お母さんから「ありがとう」(いきものがかり)が好きかもしれないと伺い、iPadでかけてみる。その時に確かに右手親指が上下に細かく動き出した。(7月)

・夏の間、長期入院があり、1回授業がおやすみだった。その間の親指の動きについて聞いてみると、お母さんの観察では、何もしていなくて人とのかかわりがない時は動くことがなかった。一方、人とのかかわりがある時に動いているようだったとのことだった。(8月)

・校歌を歌い終わり、「今日は右手の親指が動くかな?」という話をお母さんとしていた後に、親指が動き出していた。表情もいい。授業の最後によく動く右手の親指でピエゾセンサーを挟むようにして、親指の動きを促してみたが、今日は、覚醒レベルが上がらず(心拍が50を切ってしまう、通常は70以上)、残念ながら自発的な動きは見られなかった。でも薄目を開けたときに少し動き、音を出すことはできた。(11月)

・視線入力で、笑顔で「色を塗る」で絵を描いているときに動き出しているのにお母さんが気づく。(12月)

・葉加瀬太郎の「ツゴイネルワイゼン」を聞きながら「色を塗る」で絵を描く。その後に偶然iPadの音楽は、乃木坂46の「シンクロニシティ」にかわっている。お母さんがその時、右手の親指が細かく動きだしていることに気付く。お母さんが、こういう曲はあまり聞かせてこなかったけれど、これからは聞かせてみようかしら、と言われる。(1月)

・初めての「SOUNOS VALKA」は、短時間注視すると音が出ることに気付くのにさほど時間を要しなかったようだ。単音できれいな音が鳴り、花火のように画像が広がるのに気づいたと思えた後に、乃木坂46の曲で動いていた右手の親指と人差し指の間にピエゾを挟み込んだ。はじめの段階では視線の注視で単音が出る。そして、指の動きのスイッチでも単音が出る。指の動きについて、この日まで不随意か随意か断定できずにいたが、親指の動きが抱っこスピーカーのフィードバックで活発になった様子から意図的に動かしているように思えた。表情もとてもいきいきしてくる。
 この日、視線の動きがやや速かったことから親指の動き(=スイッチOn)と視線の動きが同時に起きると、アルペジオ演奏もできるようになっていた。また、指の動きをよく見ると親指の動きだけでなくピエゾの下の方のひとさし指が横に行ったり来たり動いていることも観察できた(1月)
    ⋆以下の動画は、2月12日のブログで紹介したものです。


・授業を開始する前に、「今日は右手の親指が動くだろうか」「おうちでは時々動いていますか?」と話をしているのが聞こえたのだろうか、かすかにだが、その時右手の親指が動き出していた。(2月)

・「パプリカ」をかけてみる。お母さんが反対の左手のマッサージをすると、右手の親指も動き出す。「パプリカ」をかけると、しばらく連続して演奏できるが、力が入りすぎている分、長続きしなかった。続けてSOUNOS VALKAも試してみる。視線の注視での単音と、スイッチ操作の単音、両方出せていた。始めだけだったが、連動して画面の隅でアルペジオ演奏もできた。この日は、心拍が40台まで下がり、活動が長続きしなかった。(3月)

<右手の親指の動きは倫治さんの表現(言葉)ではないか>
 7月に試したときは、親指の動きが一定のリズムで動いていることから、随意的とも言い切れないでいたのですが、その親指が動き出すときに必ず倫治さんの感覚(感情)・意思の力が働いているのではないか、と思うようになっていきました。

 倫治さんとの授業は、まだ時間にしても実質15時間位です。まだ、何か結論めいたことを断言しなくてもいいのかもしれません。

 でも、私は倫治さんの右手親指の動きは、倫治さんの発信であることを確信するようになりました。1回1回の動きは、まだコントロールできていないとは思いますが、親指で伝え、親指の動きで表現活動に意欲的に取り組む姿は素敵です。
 倫治さんの好きなことやその時の気持ちが親指の動きから伝わってくるのです。
 小さな動きですが、貴重な動きです。これからも、親指で気持ちを伝えたり、いろいろな活動を楽しんだりしてほしいと願っています。
(相澤純一)

⋆次回は、電子キーボードを演奏する2人の学生を紹介したいと思います。

おおきなきで製作したタッチブルスイッチについて
  ―2点お知らせしておきたいことがありますー

2015年春、私が所属しているSTのグループが、毎年、東京都
大田区で開かれているこどものための福祉用具展キッズフェ
スタで、初めてブースを出しました。
この時にたくさんの出会いがありましたが、この時、ブースに
来られたお母さんがお子さん用にビット・トレード・ワンの
「貼るタッチスイッチ・丸」を使って自作されたスイッチを紹介
してくださいました。

そのスイッチが、力の弱いお子さんの可能性を引き出せそう
だということで、早速、国分寺おもちゃ病院の角院長が、
タッチスイッチ「丸」として入手できるようにしてくださいました。

私は、スイッチに慣れていなくてまだ因果関係を完全に理解
できていないお子さんの場合、スイッチに触れたときにフィード
バックがあるといいと考え、振動モーターをつけ、さらにアーム
をつけたものを試作してみました。

この年の冬、マジカルトイボックスでも、スタッフの熊谷さん
(訪問大学「おおきなき」講師)が、試作を重ねて、アームなしで
クリームケースに「貼るタッチスイッチ・丸」を埋め込んだもので
回路もシンプルなものを考案し、参加者にお分けしました。この
時のタッチスイッチにもON/OFFできる形で振動フィードバックを
つけ、タッチセンサー部に同梱されている両面テープで透明シー
トを貼っています。

おおきなきでは、このスイッチをタッチブルスイッチと名付け、
アーム付き、アームなしの2種類の製作についてお手伝いし
てきました。ケースは、100均のタッパーウエアを使っています。

イメージ 1
<タッチブルスイッチ>

イメージ 2
<アーム付き タッチブルスイッチ>

*振動フィードバックについては、必要な段階と必要なくなる段階を
想定してスイッチでON/OFFできるようにしています。タッチセンサー
部は、感度を最優先し、触れたか触れないかくらいの距離でも反応
するようにしていました。

利用されている方からの声があり、2点、注意点や改善してきたことが
ありますので、お知らせします。

1. スイッチが入りっぱなしになる現象について

特に冬場にスイッチが入りっぱなしになるという報告がありました。
おおきなきを訪ねているお子さんがタッチスイッチを使った時にも、
指を遠く離してもスイッチが切れない現象を目の当たりにしました。
感度を優先し、タッチセンサー部には何も貼らない状態でお分けし
てきました。
しかし、特に冬場は静電気がたくさん発生し、その影響を受けてし
まうようでした。

この対策として、100均でも入手できる、スマホの保護シートを
切ってタッチセンサー部に貼って感度を落とす方法を利用して
いただいている中島さんに教えてもらいました。
また「貼るタッチスイッチ・丸」に付属している両面テープを丸く
切って透明のシートやプラスチックを貼って感度を落とすことも
できると思います。詳しくはメールなどでご相談ください。

2. スイッチに触れ続けた場合のこと

スイッチに触れ続けた場合のことですが、9~10秒位で
スイッチが切れるという報告があり、故障を疑うことがありました。
この件については、ビット・トレード・ワンに問い合わせ、製品仕様
上、そういう設計になっていることが分かりました。


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