先週のブログ記事「自転車通勤における通勤災害の取扱いについて教えてください」では、自転車通勤をしていた従業員が万が一事故に遭ってしまった場合の、通勤災害の取り扱いについて解説したが、今週は通勤手当について解説することにする。


大熊社労士:
 こんにちは。あれ、宮田部長どうしたんですか?元気がないようですけど...。
宮田部長宮田部長:
 いやいや、今朝大変な目に遭ったんですよ。いつも通勤電車の乗車時間は10分くらいなのですが、今朝は事故があったようで、結局満員電車に1時間近く閉じ込められました。お陰で腰は痛いし、朝一の大切な会議にも遅刻して社長には叱られるし、散々でしたよ。
大熊社労士:
 それは大変でしたね。10分程度の遅れは多少余裕を持って通勤していればほとんど影響ありませんが、朝の1時間の遅れとなってしまうと、1日の予定に影響がでてしまいますね。
宮田部長:
 こうなるとやはり俄然、電車通勤より自転車で通勤しようと思いますね。
大熊社労士:
 そうですね。確かに近距離であれば、小回りの利く自転車は一番時間が計算できる通勤手段と言うことができるかもしれませんね。
宮田部長:
 そうなんですよ。でもひとつ引っかかるところがあるんです。昨日お風呂でふと思ったのですが、自転車通勤を制度化した場合、雨が降っていた場合は電車で通勤して、晴れていたら自転車で通勤するという従業員が出てきますが、こういった場合は、どのように通勤手当を支給すればよいのでしょうか?
福島照美福島さん:
 その点は私も先週からずっと気になっていました。もし、自転車通勤者には実態に合わせて、自転車で通勤した日は通勤手当はなし、雨で自転車通勤ができなかった日にはバス代や電車代を支給なんてことになったら大変だなと思っていました。
大熊社労士:
 そうですよね。実はそこが自転車通勤で実務的に一番頭を悩ませるところかも知れませんね。
宮田部長:
 そうなんですよね。もし毎月実態を把握して支給して、なんていったら福島さんに口を聞いてもらえなくなるんじゃないかと心配していたんですよ。
大熊社労士:
 なるほどなるほど(笑)。制度を決めるに当たっては毎月の事務負担も重要なポイントになりそうですね。そもそも通勤手当は会社の賃金規程等の定めに基づいて支給されますが、公共交通機関もしくは自家用車の二択で通勤手当のルールを定めていることが一般的でしょうから、自転車通勤の通勤手当については、そもそも「通勤手当を支給するのか否か」というところから検討する必要があります。そもそも通勤手当は会社が支給しなければならないと法律で決まっているものではありませんから、毎日把握してきっちり実費を支給しても、定額で払うと会社が決めてしまってもよいことになります。
宮田部長:
 そうなんですか。それであれば極端な話、自転車にはガソリンや電車代のように目に見える費用はないので「通勤手当なし」でもよいということなんですね?
大熊社労士:
 はい、そのとおりです。実際の企業の例を見てみると自転車通勤者については「通勤手当なし」という会社が結構多いように思います。しかし、このように規定している企業では、残念ながら必ずといって発生する問題があります。どういった問題か分かりますか?
宮田部長:
 虚偽申請ですか?
大熊社労士大熊社労士:
 そのとおりです。自転車通勤の場合、目に見えるコストは0円なので、コストを削減したい企業としては自転車通勤手当はなしとしてしまいがちです。しかし、そのような場合、電車通勤で届出をしながら、勝手に自転車通勤する社員が出てきて、総務担当者が頭を悩ませるということが往々にして発生します。よってこの対策をどうするかは事前に検討しておく必要があります。
宮田部長:
 なるほど、確かにコスト削減は重要ですが、もっと大事にすべきは「不正」や「虚偽」を発生させない仕組み、つまり従業員から正直に申請してもらえるようにすることですね。特に若くてまだそんなに給料も高くない従業員であれば、自転車通勤であっても黙って電車の申請のままでと思ってしまう気持ちは分かりますね。性悪説に立って誓約書や就業規則でガチガチに縛ってしまうこともできますが、それもうちのカラーではない気がします。他社の事例として、自転車通勤者にも手当を支給している例はあるのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、私の顧問先のある会社では、自転車通勤の場合でも、雨の日の電車代や駐輪場代、自転車の部品代も考慮して、マイカー通勤相当の手当を支給している例があります。
福島さん:
 それはいいですね。1日1日把握するとなると大変ですからね。
宮田部長:
 会社としては、追加コストが発生するわけではないのでコストアップではないのか。でもなんとなく公共交通機関で通勤する従業員と自転車で通勤する従業員の間で不公平感があるような気がするなあ。
大熊社労士:
 そうかも知れませんね。別のある会社では、通勤経路の距離に応じて、一定の基本通勤手当を支給し、それにプラスして、雨の日には本人の申請により電車代も支給していますよ。
宮田部長:
 これは大変そうだね、福島さん。
福島さん:
 そうですよね、部長。これは大変ですよ(苦笑)。
大熊社労士:
 企業のスタンスとして、「実費支給という原則を守る」とすると、これが妥当であるかも知れませんが、かなりの事務負担はかかっていると思われます。また専門誌で見た別の事例としては、事故防止の観点からヘルメットを着用して通勤する場合に限り一律月額5,000円の自転車通勤手当を支給しているケースがあるそうです。更にこの会社は、駐輪場に電動空気入れや自転車工具を配備し、更衣室となんとお風呂まで完備していて、従業員の約3割が自転車通勤をしているそうです。
宮田部長:
 なるほど、通勤手当の支給要件にヘルメット着用を義務付けるアイデアはいいですね。
福島さん:
 お風呂は無理としても、更衣室やシャワー室があるのはいいかも知れません。みんな喜ぶんじゃないかな?
宮田部長:
 そうだね。シャワーと更衣室くらいならなんとかできるかもなぁ。
大熊社労士:
 自転車通勤手当については企業の考え方次第で様々な取扱いができますので、じっくりと検討していただいて御社の考え方にあった制度に決めていくことが大切です。あと一点「自転車通勤手当」の額を決めるに当たっては、全員一律の支給としてしまうと、割増賃金の計算基礎から除外できなくなることがありますので、ゝ離毎に支給額に差をつけること、そして⊆柁駟杤と妥当な額を設定することに注意をしてください。
宮田部長:
 わかりました。単なる思い付きから始まった自転車通勤の検討ですが、「自転車なのに」という簡単な話ではないですね。事故の問題、企業イメージの問題も絡んできますので、一度社長も含めてじっくり検討してみます。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。ほとんどの企業が通勤手当=実費弁償的なものという点を出発点として考えることが多い中、自転車通勤については、行政府においては先進的な取り組みを行っているケースがあります。名古屋市は、国土交通省が定める自転車のモデル地区として登録され、市内に自転車利用者を増やそうと積極的に取組んでいます。例えば名古屋市の職員の自転車通勤とマイカー通勤の手当てを比較してみると2km以上5km未満の場合、自転車:4,000円 マイカー:1,000円、5km以上10km未満の場合 自転車:8,200円 マイカー:4,100円となっており、明らかに自転車通勤が優遇されていることが分かります。自転車通勤については、環境意識の高まりから、企業イメージの向上など従来の通勤手当=実費弁償といった発想を超えたところから考えていくのも面白いかも知れません。

[関連法規]
労働基準法 第37条第5項(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

労働基準法施行規則 第21条
 法第三十七条第五項 の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項 及び第四項 の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一  別居手当
二  子女教育手当
三  住宅手当
四  臨時に支払われた賃金
五  一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

[関連通達]
昭和23年2月20日 基発297号
問 一事業場において、実際距離に応じて通勤手当が支給されるが、最低300円は距離に拘わらず支給されるような場合においては実際距離によらない300円は基礎に算入するものと解する。但しこの際事業場が給与の均衡上除外された通勤手当の一部を算入することは妨げないものと解するが如何。
答 本文については見解のとおりである。但し書については家族手当、通勤手当等、割増賃金の基礎より除外しうるものを算入することは使用者の自由である。


関連blog記事
2010年9月27日「自転車通勤における通勤災害の取扱いについて教えてください」
http://blog.livedoor.jp/ookumablog/archives/65410464.html
2010年9月20日「自転車通勤を許可する際の注意点について教えてください」
http://blog.livedoor.jp/ookumablog/archives/65408452.html
2010年4月21日「日経ビジネスアソシエ 5月4日号「急増する自転車ツーキニスト」」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51725337.html
2009年9月12日「ビジネスガイド2009年10月号「従業員の「自転車通勤」をめぐる問題点と社内規程・書式の作成例」」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51618062.html
2009年6月3日「[ワンポイント講座]社員の自転車通勤を許可する場合の留意点」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51563904.html

(中島敏雄)

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