大熊が服部印刷に到着すると、福島さんが応接室に通してくれた。
福島照美福島さん:
 大熊先生、今日は、服部が聞きたいことがあると言っていたのですが・・・
服部社長:
 大熊さん、お待たせしてすみません。
大熊社労士:
 いえいえ、今、伺ったところでした。
服部社長:
 つい先ほどまで採用面接をやっていて。宮田部長が「採用するかぎりぎりのところで迷っている人材がいる」というので、色々話を聞いていたら時間がかかってしまいました。
大熊社労士:
 そうでしたか。で、いかがでしたか?
服部社長:
 確かに「採用することがダメ」という部分はないのですが、宮田部長の採用の決め手に欠けるというのがよく分かる人材でした。おそらく、買い手市場であれば採用しないのですが、人材不足の今ですから、難しい判断を迫られることになっています。
宮田部長:
 大熊先生、私も遅れてすみませんでした。今、社長の話が耳に入ってきたのですが、そうなんですよ、とても難しい。仕事はまじめに取り組むのでしょうけれども、周りの従業員とうまくやっていけるかが一番心配です。
服部社長:
 まぁ、ここまで悩むのであれば、今回は採用を見送りにすることにしよう。宮田部長に尽力いただいていたのに申し訳ない。
 あ、それで、大熊さん、このように考えると、人材不足がどんどん深刻化していっています。そこで、現在の60歳定年を65歳まで延長することも視野にいれなければならないと考えています。
大熊社労士:
 なるほど。
福島さん:
 現状は、60歳で定年となり、希望者は役職から外れてもらい、給与額も減らしながら65歳まで1年更新で働いてもらっています。多くの人は65歳まで働いていますが、時折、「給与額が仕事と見合わないよ」ということも耳にします。
宮田部長:
 確かに役職から外れるといっても責任感を持って仕事をしているので、新任の役職者をフォローしたり、役職についていなかった人はほとんど仕事内容が変わっていないのに、給与は下がるという印象を持っているようです。
大熊社労士:
 確かにその点はよく耳にすることですね。今後、問題となってくる可能性もありますし。

服部社長服部社長:
 そこで、一層のこと、定年を65歳まで引上げるのはどうかと考えたのです。もちろん、給与を下げずにいくわけなので、人件費の増加も見込まれます。大熊さんはどう考えますか。
大熊社労士:
 そうですね。私は選択肢として「アリ」だと思っています。特に人材採用が難しくなってきている現状では、解決策の一助にはなると思っています。
宮田部長:
 その後に続くことばは「ただ・・・」ですよね(笑)。
大熊社労士:
 あはは、よく分かりましたね。そうです。ただ・・・服部社長のおっしゃったように人件費の問題等、様々な問題が出てくると思います。
福島さん:
 大熊先生、ふと疑問に思ったのですが、実際に65歳以上を定年としている企業はどのくらいあるのですか?
大熊社労士:
 なるほど、世の中の状況ということですね。厚生労働省の平成29年の調査によると、65歳以上の定年を定めているのは全企業の17.1%となっています。御社のように65歳未満の定年とし65歳までの継続雇用制度を導入している企業が80.3%ですので、まだまだ定年を引上げたり、定年を廃止したりする企業は多くないということになりますね。
服部社長:
 なるほど、そうですか。
大熊社労士:
 服部社長からは人件費という話が出てきましたが、確かに60歳以降も60歳のときの給与以上を維持していくとなると、それだけで給与の額は上がるでしょう。特に賞与を支給する、退職金の制度も維持して65歳までとなると、その額は更にふくらみます。
宮田部長宮田部長:

 そうか、今は寸志の賞与も払うことになると確かに大きいなぁ。
大熊社労士:
 そうですよね。それに加え、今であれば60歳以降、社会保険に入らない労働条件にしている人もいるので、この部分を考えると社会保険料の負担も確実に増えます。
福島さん:
 確かに社会保険に入らない選択をする人もいますね。労働時間を少なくしてぼちぼち働いて、雇用保険からの給付金を受けて、そこそこの生活はできる。子どもも就職したので、生活費も夫婦ふたりであればそこまでいらない。
宮田部長:
 なんか、それもわかるのだよなぁ。定年後はぼちぼち働きたい・・・って気持ち。
大熊社労士:
 あはは、労働者の目線になっていますね。ま、このようなことを考えると、人件費の負担は相当大きなものになります。

服部社長服部社長:
 それを捻出するとなると、どこから行うのかということになり、結果として、60歳以下の従業員の給与に手を付けるかという話になるのですね。
大熊社労士:
 おっしゃるとおりです。最終的には、多少なりともそのような場面が出てくるとは思うのですが、あまりに手をつけると、現役世代の給与水準が他社と見劣りして、現役世代の人材流出ということになりかねません。
福島さん:
 かなり慎重に考えなくてはいけない問題なのですね。
宮田部長:
 私なんて、自分が65歳までしっかりとお給料をもらえるようになる〜!なんて思ってしまいました。
大熊社労士:
 あはは。部長らしくていいですね。この話は宮田部長のように労働者の視点も含めて、いろいろ議論していくことにしましょう。
服部社長:
 そうですね。いずれにしてもこれからの服部印刷を担う現役世代の採用は続けるべきものなので、部長、たいへんかもしれないけど継続的に頼みますよ。
宮田部長:
 承知しました。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 
 こんにちは、大熊です。人材採用難からこのようなご質問を受ける機会が増えています。今後、同一労働同一賃金の観点から定年以降の労働条件の引き下げが認められるのか、雇用保険の高年齢雇用継続給付はどうなるのかといったことについて、一定の情報が出てくるものと思われますので、定年の引上げは慎重に考えていきたい問題になっています。


参考リンク
厚生労働省「平成29年「高年齢者の雇用状況」集計結果」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000182200.html
(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/

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