大熊が会社に到着すると、福島さんが待ち構えていた。


福島さん:
 こんにちは、先生。
大熊社労士:
 こんにちは、福島さん。なんだか、切羽詰まったお顔ですね。何かあったのですか?
宮田部長宮田部長:
 はい、今月末に65歳になる嘱託社員が、再雇用後65歳の期間満了で退職という時期に、自宅の階段から転げ落ちて大ケガをしたのです。その嘱託社員は女性ですが、福島さんが入社したときから福島さんの面倒を見てくれた人で、彼女にとってはお母さん的存在の人なんです。
福島さん:
 65歳の退職となる大切なときに、こんなことになるなんてショックです。
大熊社労士:
 どのぐらいの大ケガなのですか?
福島さん:
 はい、手、足、胸などの骨折でかなり打ち所が悪かったようで、全治3ヵ月だそうです。
大熊社労士:
 全治3ヵ月ですか!それは大変ですね。退職となる時期に出勤できない状況で、ご本人も相当辛いでしょうね。
福島照美福島さん:
 それで、その方のために力になってあげたいと思いまして。健康保険の給付について考えていたのです。病院での入院、治療については、窓口負担がかなりかかりそうですから、限度額適用認定証を発行しなきゃいけませんよね。
大熊社労士:
 そうですね。大ケガですし、自己負担の限度額を超える金額を支払わなくて済む限度額適用認定証は必要でしょうね。
福島さん:
 その上で、休業となりますので傷病手当金の申請が必要ですよね。
大熊社労士:
 はい、退職日まで欠勤であれば、傷病手当金の対象となります。退職後にも傷病手当金がもらえるかどうか、要件を確認しましょう。被保険者期間が継続1年以上あること 資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること 退職日当日に勤務していないことの3点です。
宮田部長:
 は、定年退職後の再雇用者だから、楽々クリアーですね。は…?
福島さん:
 退職日まで、年次有給休暇をすべて取得したとすると、どうなりますか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、退職日までに年次有給休暇を取得した場合は傷病手当金の対象とはなりませんが、実際に傷病手当金を受給していなくても、連続3日の待期期間とプラス休んでいる日が1日あれば、傷病手当金を受ける条件を満たすことになります。この4日間については、有給、無給は問われません。
宮田部長:
 とすると、退職日まで年次有給休暇を取得しても大丈夫ということですね。しかしの退職日当日に出勤すると傷病手当金はもらえないのですか?
大熊社労士:
 はい、そうです。退職日当日に引継や挨拶等で出勤した場合は、勤務できる状況とみなされて、退職後の給付は不支給となってしまいます。
宮田部長:
 へぇ〜、そんなことになるのですね。
福島さん:
 おそらく退職日も出勤はできないと思いますので、退職後に傷病手当金を受け取ることができる要件は満たしそうですね。よかった。
大熊社労士:
 その方について、1点注意が必要です。退職後に傷病手当金と老齢年金を受給される場合は、両方を受け取ることはできません。
宮田部長:
 ええっ?傷病手当金と老齢年金は両方もらえないのですか?
福島さん:
 傷病手当金と障害年金は両方もらえないってことは何となく覚えているのですが、確か障害年金も、同一の傷病である場合の障害年金でしたよね?
大熊社労士:
 さすが、福島さん。その通りで、同一の傷病で傷病手当金と障害年金をもらう場合は併給されず、年金が優先という考え方になります。ただし、傷病手当金と障害年金は金額が異なりますので、障害年金を360で割った金額が傷病手当金の金額より少なければ、その差額が傷病手当金として支給されるということになります。この差額調整は、老齢年金も同様に行われます。
宮田部長:
 ふぅ〜ん。障害年金だけでなく、老齢年金も併給されないのか〜。何となく解せない感じがするのですが…。
大熊社労士:
 確かに、傷病手当金は在職中に受け取けとる在職老齢年金とは調整がなく両方受給することができますが、退職後は、給与との調整がされない満額の老齢年金を受け取ることになりますから、傷病手当金と併給はしないことになっています。
福島さん:
 そうすると、傷病手当金と老齢年金を両方受け取れる場合には、どうしたらいいのですか?
大熊社労士:
 はい、傷病手当金支給申請書には、「健康保険の資格を喪失した方について、老齢年金を受給していますか」という項目がありますので、そこに必要事項を記入することになります。
宮田部長:
 なるほど、そこで健康保険の保険者はその人が年金を受給しているかどうかを判断し、差額調整もするという訳ですね。
大熊社労士:
 そのことを知らずに傷病手当金を受け取った場合、老齢年金と調整となる傷病手当金の金額を返還することになりますので、老齢年金について正しく申請しておく必要があります。
福島さん:
 わかりました。そうならないように退職後の傷病手当金と老齢年金の両方は受け取れないことについても、しっかりお伝えします。ありがとうございました。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。退職後の傷病手当金について、上記 銑の要件をみたしている場合には、支給開始から1年6ヵ月までの労務不能の期間は傷病手当金を受給することができます。傷病手当金と老齢年金の両方が受給できる場合には、原則傷病手当金は支給されません。年金額を360で割った額と傷病手当金の額を比べ、傷病手当金が多い場合は、その差額が傷病手当金として支給されることになっています。老齢年金と調整されず傷病手当金が支給された場合は、調整後の傷病手当金を返還しなければなりません。傷病手当金と老齢年金の両方を受給できる退職者の場合、併給されないことを伝えておくようにしょう。

参考リンク
全国健康保険協会「傷病手当金」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271
全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139


(小浜ますみ)

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