大熊が服部印刷に到着すると、少し古いファイルを小脇に抱えた宮田部長の姿が目に入った。
宮田部長:
大熊先生、そういえば、大掃除のときに資料の整理をしていたら、以前、先生から教えていただいた電子申請の資料が出てきました。その資料を見ると、2011年のものだったのです。あれから5年、早いものですね。
大熊社労士:
そうでしたか。確かに説明した記憶が少しだけありますね。何を話したのだっけなぁ?
福島さん:
電子申請を行うには、電子署名を取る必要があるということでした。結構、手間がかかるのだなぁという印象を持った覚えがあります。
大熊社労士:
なるほど。そんなお話をした覚えがあるような、ないような...(笑)。
宮田部長:
その後、社会保険の手続きで電子申請を利用している人は増えたのですか?
大熊社労士:
う〜ん、いまのところ大して増えていないという印象を持っています。ちょうど、少し前に総務省から「平成26年度における行政手続等オンライン化等の状況」という資料が発表されましたのですが、これによれば「社会保険・労働保険」の分野におけるオンライン利用率は、6.9%です。
福島さん:
えぇ?6.9%!?ずいぶん低い数字ですね?
大熊社労士:
私も資料を見たとき同じように思いました。すごく低いなぁと。5年前を見てみると、平成21年度は1.4%ですので、5倍以上に増えたという表現もできますが、いかんせん、割合はかなり低いですよね。
服部社長:
電子申請って、例えば税の分野などでも取り組みが行われていますよね?電子政府も推進も力が入れられているように思っていましたが、まだまだなのでしょうか?
大熊社労士:
いいえ、実は「国税」の分野は、57.0%の利用率になっており、中には「国税申告手続(酒税申告)」の90.9%という高い利用率のものもあります。
宮田部長:
90%!?社会保険・労働保険の分野とすごい差があるじゃないですか!?こりゃ、だめだなぁ。
福島さん:
でも、なぜ、そのような開きがあるのですか?
大熊社労士:
はい、理由はいろいろあると思うのですが、考えられること・いわれていることのいくつかを確認しましょうか。まず、社会保険の分野は手続きの件数が多いことが挙げられます。社会保険・労働保険の分野では、全体の申請等件数が約1億5,000万件(154,497,996件)。一方の国税の分野は、約3,000万件(31,741,609件)となっています。
宮田部長:
え!社会保険・労働保険の分野が5倍も多いんだ!
大熊社労士:
そうなんです。あ、この数字ですが、改善促進手続と言って、国民や企業による利用頻度が高い年間申請等件数が100万件以上の手続と100万件未満であっても主として企業等が反復的又は継続的に利用する手続として選定されたもののことを指しているのでご注意ください。まぁ、いずれにしても社会保険・労働保険の分野は、まず申請数が多くあります。実際にオンライン利用件数を見てみると、社会保険・労働保険の分野が、約1,000万件(10,652,387件)で、国税の分野が約1,800万件(18,095,153件)となっており、利用率と比較すれば件数はそこまで開きはありません・・・といっても国税の半分強となると、まだまだ少ないのですけどね・・・。
服部社長:
そもそも件数が多いということは、いろんな人が携わっていて、まだまだ以前からある紙での届出も多いということが想像されますね。
大熊社労士:
はい、おっしゃるとおりですね。続いて2つ目の理由ですが、社会保険・労働保険の分野は、個人を対象とするものも多くあります。例えば、年金の裁定請求などです。「国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書」を見ると、1,506,786件の申請等件数がある中で、オンライン利用件数はわずか2件。利用率は0.0%の表示になります。
宮田部長:
え?0%!?
大熊社労士:
はい。そもそもオンライン利用件数が0件という手続きもあります。これも個人を対象としたものです。特に老齢年金の関係は、普通に考えると年配の方が手続きをするため、なかなかオンラインでの申請というのがイメージしづらいですよね。
宮田部長:
確かに、私がする場合でも年金事務所に出向くなぁ。そもそも電子申請をしようという発想もないと思います。
大熊社労士:
そうですね。そのようなことも利用率が上がらない理由なのですよね。
服部社長:
まぁ、理由は様々なのでしょうけれども、インフラの整備のために多額の税金も利用されていますよね?そうなると、何とか有効活用して欲しいものですね。
大熊社労士:
はい、おっしゃるとおりだと思います。マイナンバー制度が開始され、社会保険・労働保険の分野でも雇用保険から、マイナンバーの利用が始まりました。これを機に電子申請が進むかも知れません。
服部社長:
そうかも知れませんね。また、何かありましたら情報を提供くださいね。ありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は電子申請を利用率についてみてみました。マイナンバー制度が始まり、個人番号カードが発行されるようになりました。電子申請では、事業主個人の個人番号カードも公的個人認証サービスの電子証明書として利用できることになっています。このような利便性のアップもありますので、今後の利用率の向上に注目したいと思います。
関連blog記事
2011年12月12日「電子申請をする際の電子証明書はどのように取得すればいいのでしょうか?」
http://blog.livedoor.jp/ookumablog/archives/65532078.html
2011年12月5日「離職票の電子申請がスタートしたと聞きました」
http://blog.livedoor.jp/ookumablog/archives/65530652.html
2011年11月29日「離職票の電子申請スタートに伴い、電子化された雇用保険の各種返戻書類」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51892783.html
2011年11月22日「電子申請で離職票手続きを行なう際の離職者本人の署名取扱い」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51890538.html
2011年11月14日「電子申請で手続きを行なった離職票手続きは電子公文書による発行に」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51888262.html
2011年10月17日「11月28日から予定される離職票の電子申請交付とその申請方法」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51880942.html
2011年9月20日「ネットから印刷して利用できるようになった雇用保険の帳票類」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51874539.html
2011年6月29日「離職票発行の電子申請は平成23年11月28日から受付開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51856892.html
参考リンク
総務省「平成26年度における行政手続等オンライン化等の状況」
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyokan05_02000045.html
厚生労働省「詳細資料「マイナンバー制度の導入に向けて(雇用保険業務)〜事業主の皆さまへ〜」」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000103610_2.pdf
(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/
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