気がつけば5月。トロルドハウゲンの春は今年は遅く、今日も最高気温が10度以下のどんよりとした曇り空です。それでも、植物たちは着実に成長し、カタクリ、エゾエンゴサクも咲き始めました。1年に一度の貴重な出会い。春は1年の中で、一番足下の小さな自然に励まされる季節です。
 さて、最近なかなかブログを更新できなかったのは、一冊の本にかかりきりになっていたからでした。昨年出版された家庭画報特別編集の『ショパンの世界へ』の第2弾として、『ブラームス 音楽の森へ』にずっと取り組んでいたのです。
 ブラームスはドイツ出身の作曲家ですが、29歳のときウィーンに移り住み、以後亡くなるまで35年間同地で暮らします。が、特筆すべきは、夏の過ごし方。毎年、ちょうど今くらいの5月頃から夏いっぱいにかけて、ドイツ、オーストリア、スイスなどの自然豊かな地に滞在し、作曲活動を行っていたのです。朝は4時か5時に起き、近くの森を散歩。作曲の構想を練っていました。今回、この本の取材のため、ブラームスゆかりの地を巡りましたが、どこもみなすばらしい景勝地ばかり。森や湖や山があって、自然の中に身を置くことによって作曲の霊感を得ていたブラームスにはぴったりな場所でした。
 ブラームスの音楽は、さまざまな「生」が生き生きと響き合う「森」のよう。何度も聴いていると、その豊かで大きな心に守られているような気がしてきます。そんなブラームスゆかりの地の美しい写真を見ながら、ブラームスの音楽を聴き、かみくだいた文章によって生涯をたどることで、ちょっと敷居が高いと思われがちな、でも実際は心や優しき巨匠だったブラームスさんとお近づきになりませんか、というのが、この本のコンセプトです。何より、美しい写真を見ているだけで、心が洗われる、そして救われます。人は、大変な状況のときこそ、美しいものを求めるのかもしれませんね。私は、この本の表紙写真が印刷されたものをはじめて見たとき、心の底から励まされる気がしました。
 美しいもの、そして、妥協せずに全身全霊をかけて取り組んだ作品やその人生に触れることで、少しでも心温まる、豊かな時間を過ごせてもらえたら…。そんな想いで取り組んだ本です。ぜひ手に取ってみてくださいね。

 ブラームス「音楽の森」へ(世界文化社)カバー 
ブラームスカバー 1ブラームス ショパン カバー