2006年07月07日

ランド・オブ・プレンティ4

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 世界が恐怖に包まれた2001年9月11日。

 あの日以降、アメリカでは警戒レベルは高く。常に人々の目線は、アラブ系といった人種をおびえるようになる。

 そんなロサンジェルスの街の通りに、オンボロのヴァンが停まっている。
 
 監視用機材でごった返した車内で監視カメラを設置し、常に街並を覗いている男がモニターを覗いている。

 男の名は、ポール(ジョン・ディール)。ヴェトナム戦争の後遺症を引きずり、アメリカという国家に心酔する一人の男。彼は、2年前のあの悲劇を糧に警備活動を続けている。

 一方、イスラエルの空港から飛び立った飛行機には、一人の少女が乗っていた。

 彼女の名はラナ(ミッシェル・ウィリアムズ)。アフリカとイスラエルで過ごし、故郷であるアメリカへと帰ってきた。

 生まれ故郷に帰ってきた彼女は神に感謝し、ダウンタウンにある伝道所で暮らし始める。

 そこで、支援活動を続けながらも、亡き母から預かった手紙を伯父のポールに届ける為、彼を探していた。

 やがて、一人アラブ人殺害事件を軸として二人は再会する。

 一人の思いは、テロから国を守る為。一人の思いは、血縁の元に遺体を返してあげる為。

 二人は、アラブ人のハッサンの兄の住む、トロナへと向かう。

 ヴィム・ヴェンダース監督が描く。9・11テロ後のアメリカにおける寛容と恐怖の話だ。

 ポールという男は、ヴェトナム戦争からの帰還兵。かつてのアメリカ。強い国アメリカをこよなく愛する国粋主義の男だ。テロという衝撃以来、二度とアメリカにあのような悲劇を起こさせまいと、監視活動を熱心に続けていく。

 まず、根底にあるのはアメリカという国の一面性をこのポールという男が体言している。彼の抱えるものは、恐怖。

 その恐怖に勝ちたい。アメリカという国は負けないという強い信念を感じつつも、そこはかとない違和感を覚えてしまう役柄をジョン・ディールが演じている。

 また、その伯父を頼りにアメリカに渡る少女ラナをミッシェル・ウィリアムズが淡々と演じる。内在するものは優しさと勇敢さ。20歳の価値観と慈愛を繊細な演技で見せる。

 かつて、アメリカという国はどういう国だったのか。人は争いを先決し、悲劇に目をつむり、目の前の事実を受け止めない部分もあったのかもしれない。その時に起こったあの忌まわしきビルの崩壊という現実に飲み込まれ、食い止めようとしても出来ない歯がゆさをスクリーンに投影させてくる。

 たとえポールの正体が分かろうとも、ラナの母の託した思いに比べれば、一番大切な事を選択していくポールに感傷を覚えずにはいられない。

 その事は、決して滑稽では無いし、人ならば当然やってしかるべき事態かもしれないからだ。

 戦争は経済を潤す。人の生活には干渉しながらも、数々の倫理を超え、偏見と破壊が蔓延し、多くの涙が流される。

 そういう恐怖に打ち勝つには、どんな形であれ血のつながりを重視するべきであろう。ポールとラナ。ハッサンとその兄。家族という温かみから溢れ出る笑顔には決して敵わないのだろうと思う。

 豊かな大地には血を流してはいけない。血は巡らせていくものだ。

 そして、この作品の登場人物の背景の大地はそこはかとなく美しい。

 ラストに迫る郷愁感を感じた時。ニューヨークのグランドゼロにある人々の思いは、静かに迫ってくる。その思いは、今、この現実を生きている人々のつながりによって綺麗に締めくくられる。

監督 ヴィム・ヴェンダース
出演 ジョン・ディール
   ミッシェル・ウィリアムズ
   ショーン・トーブ
   ウェンデル・ピアース
   リチャード・エドソン
 
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orange0802 at 22:52│Comments(6)TrackBack(7)映画 「ら行」 

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この記事へのコメント

1. Posted by jamsession123go   2006年07月08日 20:39
こんにちは、jamsession123goです。
この映画を観て、病めるアメリカという言葉をまた思い出しました。
ラナとポールという正反対の人生観を持った人間を見せて、「さあ、どちらが正しいでしょう」みたいな見せ方は、日ごろ何の疑いももたずに生きている人々の足下をぐらりと揺れさせるのではないでしょうか。
ヴェンダースの着眼点を評価しています。
2. Posted by jamsession123goさまへ orange   2006年07月11日 18:27
こんばんわ☆jamsession123goさん。
コメント&TBありがとうございました〜!
アメリカの病める部分・・・どういう人間でも正しい部分と間違った部分を持っているから、そこが着眼点と言われれば、この作品の持つ意味はどこの国にいる人にも当てはまりそうですね。
ラナがハッサンの兄に会うシーンで、少し無防備では無いかと、ハッサンの兄を疑ってしまう気持ちや、ポールの行動にやり過ぎな感を抱いてしまったので、まさに生きていると、疑いや疑心といものを嫌でも考えさせられる作品でもありました。
アメリカはこの後、どのように変容していくのか見ていきたいですね♪
3. Posted by kimion20002000   2006年07月14日 23:08
TBありがとう。
アメリカという国は、もともと、宗教的な使命を帯びた建国をしています。その宗教は「力の民主主義」。
しかし、現在、「民主主義」とはなにかという問題が再び議論されています。
とともに、宗教的使命のメインロードを走った、原理主義福音派が、露骨に、世界主導を果たそうとしていることが、多くの抵抗を生んでいます。
4. Posted by kimion20002000さまへ orange   2006年07月16日 13:46
こんにちわ☆
コメント&TBありがとうございました〜!
アメリカに偏在している宗教観や、保守層の基盤による民主主義への圧力感は凄いものがありますね。
世界のアメリカ。強いアメリカ。という信念感には畏れを感じると同時に、しっかりとした民主主義を模索できるのか不安です。
日本もしかりですが♪
5. Posted by David Gilmour   2006年09月05日 22:25
こんばんは、お久しぶりです。たしか、「きみに読む物語」以来でしたよね。

この映画は、ヴェンダースがアメリカを愛するがゆえに、批判を展開した、そんな印象をもちました。

それでは、またよろしくです!!
6. Posted by David Gilmourさまへ orange   2006年09月09日 17:26
こんにちは☆お久しぶりです。
「きみに読む物語」以来ですね〜覚えてますよ♪
コメント&TBありがとうございました。

ヴェンダースから観たアメリカへの愛と批判を見事に描いている作品でしたね。
短期間で撮影したとは思えない作品です。
同時に、9・11以降のアメリカに生きようとする人間の心を慈愛に満ちた視線で描いていると感じました。

こちらこそよろしくお願いしますね♪

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