2007年03月25日
ブラックブック

ナチス占領下を舞台にした作品は本当に多い。スピルバーグの『シンドラーのリスト』ポランスキーの『戦場のピアニスト』などの代表作も筆頭に上げられそうだけれども、最近感じるのはドイツの映画が非常に秀逸な作品が多いこと。
『ヒトラー 最期の12日間』や『白バラの祈り ゾフィー・ショル 最期の日々』などはナチスの姿を双方向から描いたが、『グッバイ!レーニン』や『善き人のためのソナタ』といったドイツの影を描いた人間のドラマもまたここから影響を受けているのかもしれない。
この物語は、時を同じくして1944年のナチス占領下のオランダで生きていたユダヤ人歌手のラヘル(カリス・ファン・ハウテン)が隠れ家から逃亡していく様から導入する。
南部へ逃亡する途中、ドイツ軍に家族を殺され、かろうじて生き延びる彼女は、レジスタンスに協力する農民に助けられ、やがてその身を活動に投じていく。
名前を捨て、髪をブロンドに染め、エリス・デ・フリースとして、細々と働いていた折に、活動への誘いが来る。
命と隣り合わせの任務だったが、エリスは家族を皆殺しにされ、何も失うものが無い状況であり、また悲しみからも脱却していた生きる波動をその活動に見出そうとする。
そしてある活動の帰りに、ピンチを切り抜ける為、列車で居合わせたナチス親衛隊将校ムンツェ(セバスチャン・コッホ)の懐に入り込み、そして、ナチスの深い暗部に切り込んでいこうとするのだが・・・
スパイ活動と言ったら、あまりにも格好が付きすぎるかもしれない。ナチス将校と寝る事にためらいを感じつつも、次第にムンツェに惹かれてしまう女性としての側面と、ナチス幹部を出し抜こうと盗聴活動から生まれてくる駆け引きをサスペンスフルに緊迫感を表情に表していく。
アイデンティティを失ってまでも貫こうとする信念とは何か、彼女の心の底にあるのは何よりも復讐劇だと思っていたが、当初はナチスに反抗していくレジスタンス活動に心酔していたかに見えた思いはやがてゆれ始める。
物語はレジスタンス活動の一連の動きが伏線となり、ラストまで収束していく疑惑の視点が非常に面白い。運悪く捕まってしまうレジスタンスのメンバーと、それを助けようとする活動家の動き、エリスの家族が犠牲になった裏に隠された忌まわしい計画と金の匂い。そして全てを裏付けるネズミが誰なのか?というアンフェアを探し出すまでのキーが正に題名のブラックブック。
主人公ことラヘル=エリスを演じたカリス・ファン・ハウテンは体当たりの演技が、話題に上っているが、どちらかというと、この時代に生きた失うものが無く、どこか冷め切っている一方で心の底に青い炎を静かに燃やしたような演技をする。ムンツェとの疑惑の駆け引きや家族を殺した男を見咎めた時の青ざめた表情、真相を突き止める為に動き出す心の乗り方を微細に演じ分けている。
エリスが愛してしまう将校に『善き人のためのソナタ』でも存在感を顕にした、セバスチャン・コッホが自然体で演じていて面白い。強烈なインパクトを残すレジスタンスのハンス(トム・ホフマン)が印象に残る。
良く言えば非常に運の強い女性だ。同時に華も持ち合わせている。一方で時代の弊害をこれでもかと受け、そこから脱却する強さもある。
彼女が吐く印象的なセリフがある。「自由になったとたんに、恐怖を感じる」という時代の浮遊的な恐怖を顕したセリフ・・・どこに行っても、どこで住んでいてもついぞ感じてしまうのは、ホロッと安心することの出来ない心情を実しやかに語っているのではないか。
安息の地が無かったホロコーストの時代に何よりも求めていた自由は手からスルリと抜け落ち、レジスタンスに身を投じても安らぐ事が全く無かったのだろう。次第に愛してしまうムンツェの胸の中だけが頼る術だったのだろうけれど、それも虚構の愛のように感じてしまう彼女の感情が狂おしくも切ない。
ポール・ヴァーホーベンは、この時代に生きた人間像をしっかりと描き、またそこにある真実を見事にあぶり出していった。時代の悲劇を描く事も厳しいハードルではあっただろうけれども、同時に物語のミステリーをも見事に表出していくラストの展開は正直目が離せないほどにサスペンスフルで面白い。
彼女が異国の地で見た眼差しに宿るものは過去のものなのか・・・もしくはこれからもどこかで起こりうる犠牲なのか。それを思うとラストの状況もまた寂しく、乾いた空気に行き詰りそうになる。
監督 ポール・バーホーベン
出演 カリス・ファン・ハウテン
セバスチャン・コッホ
トム・ホフマン
デレク・デ・リント
3月24日 アミューズCQNにて鑑賞
『ブラックブック』 (原題 BLACK BOOK)

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