洋服屋、街を生きる。オーダーサロンタナカ店主blog

名古屋、錦3丁目のオーダースーツ、オーダージャケット、オーダーシャツのお店の店主です。名古屋のまんなかに生まれ、ずっとここで生活し六十年。オーダーメイドのこと、街の暮らしのなかで感じたことをつづっていきます。

紳士服地、素材研究

裏地、天然由来ということ(2018/7/13)

オーダーサロンタナカはスーツ、ジャケットを仕立てるときキュプラ100%の裏地だけを使っています。今日はキュプラについてお話しましょう。
ウール、綿は天然繊維です。それに対してポリエステル、ポリウレタン、ナイロンなどは石油などからの合成繊維と言われています。我々が使っているキュプラは一見ポリエステルなどの合成繊維と似ていますが天然由来繊維、もしくは再生繊維とも言われ、木材、パルプなどのセルロースを銅アンモニア法によって溶かし、ノズルから細く長い絹に似た繊維に生まれ変らせています。レーヨン (ビスコースレーヨン) に比べ、耐久力や耐摩耗性などに優れていて、天然素材であるため、土に埋めると短期で自然分解されます。

特に旭化成のベンベルグ(=キュプラの商品名)はコットンの実の産毛であるコットンリンターでできていると聞いていました。コットンリンターとは綿の種子に生えている短い繊維で、綿の実についている繊維のうち長い繊維「リント」を取り去ったとき、その根本に残って生えている短い繊維「リンター」のことをいいます。ある程度長さがある繊維は「糸」にすることができますが短い繊維は用途が極めて限られます。ただコットンと同じ組成なので溶かす材料のセルロースとして最適なのです。同じセルロースでも木材よりコットンリンターのほうが出来上がるキュプラが良質なのでしょう。昨日旭化成からコットンリンターの現物サンプルをいただきました。まさに天然物。これを見れば天然由来ということがはっきりわかります。

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綿花 ふわふわの白い部分を使います。
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ふわふわの白い部分を取り去ると毛に覆われた種子が現れる。

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種子の産毛を集めたのがコットンリンター。コットンと同じだが繊維長が短い。
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コットンリンターを銅アンモニア法で溶解して細いノズルから長繊維に再生したのがキュプラ。

7月、セットアップスーツについて考える。(2018/7/3)

7月になりました。日差しは強いが初夏のさわやかさが残る朝、母と覚王山の近くに恒例の墓参にいきました。さてどんな7月になりますでしょうか。

先の土曜日、ブログを愛読していただいている北九州のお客さまがご来店。貴重なおみやげまでお持ち頂き大感謝です。お客さまのご要望は「3シーズン着用可能」「ジャケットとしても使えるスーツ=セットアップスーツ」でした。いろいろ考えてヴィターレバルベリスカノニコ社SUPER150「REVENGE」ブラウングレーのシャークスキン無地をおすすめいたしました。穏やかなツヤのあるブラウングレーなのでワル目立ちしませんし、落ち着いたダークカラーはシャツやネクタイの着こなしで素敵になります。ジャケットの脇ポケットはパッチポケットにして抜け感を表現しました。すてきなセットアップスーツになるはずです。

洋服はTPOつまり季節、場所、状況ごとに服を選んで着るのがオシャレとされてきました。もちろんそれはそうでしょう。しかしスティーブ・ジョブズ氏は黒のタートルネックを何百枚ももってどんなときも同じ物をきていてそれがオシャレだとされる、今はそんな時代になってきました。自分のキャラクターを表現する服がひとつだけでもあればそれは素晴らしいオシャレだという考え方は決して否定できません。ミニマルを尊重するという考え方をオーダースーツに置き換えてみるとセットアップスーツがそれにあたるのではないでしょうか。

先月行われたピッティイマジネウォモの一週間の出張はスーツ1着のみを持っていきセットアップにしたりスーツにして着回していきました。それでなんとか手荷物だけでも一週間の旅をまかなうことができました。

このようにセットアップスーツはとても便利ですがセットアップスーツは「素材の選択」と「着こなし」を問われます。
素材の選択」ですがまずストライプは基本セットアップスーツには向いていません。無地かチェックを選ぶのが一般的です。また素材は表面感も考慮するべきでしょう。
着こなし」について。一着で着回すことでのだらしなさを感じさせてはいけません。セットアップスーツをスーツとして着る場合はドレッシーなシャツやネクタイをよく選び、きちっと着る感じを表現する。そしてジャケットとして着る場合は例えばデニムシャツやプリントシャツ、チーフなどでカジュアル感を演出するべきでしょう。スーツで着るときとジャケットで着るときとちゃんと差をつける。
けっして簡単ではないですが成功するときっとあなたにとって大事な一着になるはずです。

この秋冬にはセットアップにいい素材をいくつか買い付けています。たとえばロロピアーナ社のドリームツイードスーツ、エルメネジルド・ゼニアのエレクタ133など。8月末の秋冬の入荷をお楽しみにお待ちくださいませ。

当店に来た秋冬素材のリファレンスサンプルからセットアップスーツに適した素材をご紹介します。これらはすべて8月末からスペシャルプライスでオーダーいただけます。

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エルメネジルド・ゼニア社133 ダークグレーチェック
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エルメネジルド・ゼニア社133 下からブラウンチェック ブルーチェック グレーチェック

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ロロピアーナ社ツイードドリームスーツ

裏地が良い=良いスーツ(2018/5/14)

スーツの良し悪しを判断する場合、とりあえず内部に使用している裏地がキュプラ(ベンベルグ)100%かどうかを見てください。コストの安いポリエステル裏地、ポリ&キュプラ混紡の裏地を使ったスーツはさらっとした着心地ではなくムレを感じ、静電気も発生し不快で、決していいスーツと呼ぶことはできません。キュプラはコットンリンターを主原料として銅アンモニア法で作られた再生繊維に属する長繊維。断面が丸いため肌触りがよく、湿気を一度吸い込んでそれを外へ吐き出す「吸放湿性」が備わっています。衣服内の環境がキュプラ裏地によって良くなり、スーツ、ジャケットの着心地がどこかサワヤカなのです。詳しくはこちら

当店がスーツ、ジャケットに使う裏地はキュプラ100%のみです。ポリエステル裏地はありません。

オーダーサロンタナカでは無地キュプラ100%裏地のカラーバリエーションを無料で選ぶことができます。ちょっとオシャレに表地と違うカラーを選んでみてください。オーダーメイドらしさを味わえます。

甲州は富士吉田市でジャガード織機を使って織られた和を感じるキュプラ100%裏地でもプラス2000円(税込)でお選びいただけます。このたび、今までの9柄に加え2色追加しました。キレイな水色系で勝ち虫と称される「トンボ」の柄。そしてブルーと赤の鮮やかなアジアンテイストな柄です。

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MYK11 勝ち虫トンボ柄
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MYK12 アジアンテイスト柄
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たった2000円でこんなエレガントになります。

SARTORIA ITALIANA(2018/4/16)

イタリアに行き、イタリア人に日本で何をしているのと尋ねられサルト(仕立て屋)だというと、ほおーーとちょっと賞賛を含んだ反応になることが多い。イタリアではやはりこの職業はリスペクトされているのだろうと感じる。
今日は「英国王室御用達」「セヴィルロウ」の著書があるファッションライター長谷川喜美さんとルーク・カービー撮影の美しい書籍「Sartoria Italiana」を楽しく読んでいる。当店でも人気のあるヴィターレ・バルベリス・カノニコ社が全面バックアップし、北イタリアから南イタリアの27のテーラーに取材した洋服文化への深い愛情を感じる見ごたえのある力作とでもいう本で美しいスーツの画像も魅力的だ。もちろんヴィターレ・バルベリス・カノニコ社の素材が多いが、ロロピアーナのウインタータスマニアンの古いコレクションのスーツを著名サルトが着ていたり、ロロピアーナのサマータイムやソルビアティのサッカーで仕立てたジャケットを発見したりする面白さもある。
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なかにはイタリアでお会いした方もいるので懐かしい思い出が蘇る本でもある。初めて22年前イタリアに出かけた際、ロロピアーナ本社でお会いしたのはたしかにこの本に掲載のサルトリアバルベリスのご主人ジョヴァンニ・バルベリス氏のはずで、クアローナのロロピアーナ本社二階にて、順番待ちもでているくらい仕事が多いなか丁寧にイタリアのサルトの技術を日本のテーラーたちに惜しげもなく何時間もご教授いただいた。
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カノニコの同郷でもあるバルベリスさんの記事「Sartoria Italiana
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21年前ロロピアーナ本社でジャンニさんに指導をしてもらったときの写真

マリックのアンドレアの紹介でフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ近くの建物の二階に上がったセミナーラさんの瀟洒なサルトリアに伺ったのも貴重な思い出。着せてもらったジャケットの柔らかな着心地とともにこのおだやかな紳士のやわらかなトスカーナ地方のイタリア語はいまでも耳に残っている。
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ジェントルマン、ジャンニセミナーラに幸あれ。「Sartoria Italiana

イタリア大使館で二年前行われたヴィターレ・バルベリス・カノニコ社のパーティでお会いした二人のアントニオ、リベラーノさんとパニコさんもイタリアトップクラスのサルトとして紹介されている。実際にお会いしたことはないが、ナポリのマリネッラさんのスタッフが自慢していたジャケットを作っていたソリトさんも紹介されている。

シチリアのサルト、サルトリア・クリミのご主人が「Sartoria Italiana」に載ったことをシチリアの新聞で紹介されたとフェイスブックで喜んでコメントしていた。ちょっと驚いたのはその画像は私のお客さまでもあるサカモトさんがシチリアのサルトリア・クリミで仮縫いしている写真だった。サカモトさんは毎シーズン当店で極めてエレガントなロロピアーナ素材をオーダーいただいているがときどきシチリアにでかけサルトリア・クリミでハンドメイドしてもらっている。フェイスブックで紹介されたのはその時の画像。サカモトさんに聞くとクリミのご主人は僕の仕立てたスーツも高く評価してくれてるそう。イタリアのサルトと名古屋の当店がちょっとリンクした気分にもなりました。
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サルトリア・クリミで試着中の我がクライアント、シチリアの新聞記事。内容はサルトリアクリミが「Sartoria Italiana」という日本の書籍に紹介されたということ。
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親子で働くサルトリア・クリミの記事 「Sartoria Italiana

柴山先生と出会った瞬間(2017/12/19)

年もおしせまり、忙しい気分が巷にはあふれているが当店はというと、納品のお客さまはおおくいらっしゃっても、秋冬のオーダーは一段落して、静かな店内だった。だから棚の整理をすることにした。棚の中に乱雑に入っている写真を並べていると一枚の写真がでてきた。

それを見ていつの写真がどこで撮ったのかすぐ思い出した。それは19年前、縫製会社の社長ハマダさんと重役コバヤシさんとピッティウォモに行った時の写真だった。フィレンツェサンタ・マリア・ノヴェッラ駅近くの通りに面した料理屋「ジューリオ・ロッソ」のなかでの一枚だが実はこの写真はぼくの人生にとってとても重要な瞬間だった。私どものスーツ、ジャケット、パンツ、コートなどすべて設計し、縫製も監督している柴山登光先生と初めてあった時の写真だ。柴山登光先生は多くの有名セレクトショップ、有名工場の技術指導をしているいまや日本最高のモデリストとして日本国内のみならず、イタリアの縫製工場も指導しているいわば世界的なマエストロである。この写真は先生53歳頃の写真でまだ青年の雰囲気。このときはまだ先生の素晴らしさに気づかず、どちらかというと初めて会ってとげとげしさすら感じたのを覚えている。それから数年後、先生が設計した本バス毛芯のスーツのモデルの試作品を見て、ウェストの絞り、肩のドレープ感、立体感などいままで縫製上で抱えていた問題がその試作品で解決していた。それを目の当たりにして当店の扱うスーツはすべてその本バス毛芯を使ったモデルにすることを即座に決断した。

この縁を取り持ったハマダさんももうこの世にはいない。きっとぼくがずっと柴山登光デザインのオーダースーツを扱い続けていることをきっと喜んでくれているだろう。
primavolta
一番右が若き日の柴山先生、わたしもこのときまだ40そこそこです。
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