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※1年前のインターハイのお話です。
    永水と対戦してることや姫松のオーダーなどはもちろん私の妄想なのであしからず。
    地の文ありは初めてなのでお見苦しい点や意味不明な点があるかもしれません。
 





霞「ツモ。1000・2000です」

 

オーラス、永水女子の石戸霞がツモあがりした。

この瞬間、私たち姫松高校の敗退が決定した。

結果としては2着。

我が姫松の大将、箕野先輩の必死の追い上げも石戸霞の堅い守備に阻まれ届かなかった。

私は立ち尽くしたまま、卓にうなだれる箕野先輩を写したモニターをにらみつけたまま必死に負けた原因を考えていた。

 

視界の隅に目に涙を浮かべたまま唇をかみ締めている漫ちゃんの姿が見えた。

 

 
ちがう。漫ちゃんのせいじゃない。

私の代行への密かな進言によりこの大会では1年生ながら副将を務めることになった漫ちゃん。
漫ちゃんは結果としてはマイナス収支となってしまったが、四喜和を2回も和がった薄墨初美によくくらいついていた。
 



今大会では先鋒を務めた梅垣先輩がソファーに拳を叩きつけた。

ちがう。梅垣先輩のせいでもない。

うちで1番うまい梅垣先輩が結果的にはこの試合で最も多くの点棒を失った。
しかしそれは永水の神代小蒔が不可思議な和がりを連発し、怪物じみた強さを見せたせいだ。
梅垣先輩に止められないならうちでは誰が打っても同じ結果となっただろう。



次鋒に入っていた洋榎。
中堅に入っていた主将の中岸先輩。


この2人だって調子は決して悪くなかった。
いや、むしろよかったはずだ。


誰のせいでもない。

姫松高校は全員がベストを尽くした。

それは今大会、参謀役としてチームに帯同させてもらった私、末原恭子も同じだ。

善野監督や代行と相談して最高のオーダーを組んだはずだった。
データをきっちりと集め、相手の長所も弱点もすべて知り尽くしたはずだった。

それにもかかわらず負けた。

これが永水女子の。

いや、全国の力なのか。





洋榎「ふいー。さっぱりしたで」

背後からシャワーを終えたらしい洋榎の声が聞こえてきた。

洋榎「恭子、シャワー空いたで」

私はというとホテルの部屋に帰ってきてからずっと窓の外をぼんやり眺めていた。

洋榎「……なんや、まだショック受けとんのかいな」

末原「なあ洋榎……東京の夜景てなんでこんなキラキラしとるんやろな……」グスッ

洋榎「……そら眼に涙ためて見とるからやろ……ほら、はよふき」

そう言って洋榎は自らの頭を拭いていたバスタオルを渡してくる。
それで涙を拭うとシャンプーのいい香りがした。

洋榎「そんなに落ち込むなや」

末原「そないなこと言われたって……」グスッ

洋榎「べつに恭子のせいで負けたわけちゃうし」

末原「でも……オーダー決めたのうちやし……」

末原「せっかく善野監督が、うちのメンバーのこと1番知っとるのは恭子や言うて……決めさせてくれたのに……」

洋榎「でも最終的に決定したんは監督と代行やろ」

末原「うちがもっとちゃんと考えてれば今日も勝てたかもしれへん……」

洋榎「んなわけあるかい。完全なうちらの力不足や」

末原「それでも……それでもなんかやりようがあったんやないやろか」

末原「うちが……うちが、えらそうにオーダーに口出しなんかしたから、負けてしもうたんや……」グスグス

洋榎「き、恭子? ちょい落ち着きや」オロオロ

考えれば考えるほど涙が止まらなくなった。

一粒、二粒と大粒の涙が絨毯の上に落ちてゆく。

末原「さ、最初から……全部代行に……ヒグッ……任せときゃよかったんや……」

末原「う、うちに……善野監督の代わりなんて務まるはずないのに……グスッ」

末原「うちは……うぬぼれとったんや……うちの力で姫松を優勝させることができるて……」

末原「凡人のうちでも……洋榎たちの役に立てるて……そう思っとったんや……」

末原「でも……結局凡人は凡人……なんの役にもたてへんかった……」

自分でも考えすぎだということはわかっている。
けれども敗戦のショックは思いのほか私を動揺させたらしい。
涙とともに情けない台詞ばかりが止まらなくなった。


洋榎「……」

いつしか洋榎は黙りこんで私のうしろで立ち尽くしていた。


泣きじゃくる私をみてあきれてしまったのだろう。

こんなかっこ悪いところを洋榎に見せたくはなかった。

ああ、穴があったら入りt……


むぎゅう。


不意に背中に暖かい感触がした。

末原「……」

洋榎「……」ギュウ

どうやら洋榎が私の背中から抱きついているようだ。
彼女の慎ましい胸が背中にあたっているのがわかる。
先ほどのバスタオルと同じいい香りがした。

末原「……なにしとんねん」

洋榎 「んー? ちょっとはげましたろかと思ってな」

洋榎の声がすぐ近くで聞こえる。
私の耳元で喋っているため、なんだかくすぐったかった。

末原「やめーや、はずかしい」

洋榎 「まあまあ、ええやないか」

末原「やめえって」

洋榎「まあまあ」

末原「やめろや」

洋榎「いーや」

洋榎は一向に私を離す様子がない。
ふりほどこうと思えば簡単にふりほどけるほどの力だが私にはそれができなかった。

それは私の肩越しに見える洋榎の顔がこの上なく楽しそうな笑顔だからなのかもしれない。

末原「なんやねん、もう……」

洋榎「恭子はうちにこういうことされるのいやなんか?」

末原「いやべつにそういうわけやないけど……」

洋榎「やったらええやないか」

末原「いやあかんて」

洋榎「なにがあかんねん」

末原「うちらこういうんとちゃうやろ」

洋榎「こうゆうんて?」

末原「いや、その……抱きついたりとか」

洋榎「なんでやねん。べつにええやろ」

末原「ええやろ……って、そもそもなんでいきなり抱きついてきてんねん」

洋榎「んー? なんかうれしゅうなってしもうて」

末原「うれしい?」

洋榎「せや」

末原「意味わからん」

洋榎「だってはじめてやん?」

末原「なにがや?」

洋榎「恭子がうちの前でそうやって泣いてくれたんが」

末原「……洋榎はうちが泣いたのがうれしいんか?」

洋榎「せや」

末原「なんで?」

洋榎「恭子は普段つらくてもそれを見せへんからな」

末原「……」

洋榎「でもうちの前ではちゃんと泣いてくれた。それで安心したし、なによりうちにそういう一面を見せてくれたんがうれしかったんや」

末原「……そんなこと」

末原「そんなこと言うんやったら、洋榎だってそうやないか」

洋榎「うちが?」

末原「洋榎だって、つらい顔とか悩んどるとこうちに見せたことないやないか」

洋榎はいつも明るく元気だ。
麻雀しているときも普段の生活も、彼女が迷ったり悩んだりしているところは見たことがない。

洋榎「まあ、せやな」

末原「洋榎はなんか悩んどることとかないんか?」

洋榎「……あるで」

末原「なんや」

洋榎「うちな……今度主将になることになったんや」

末原「主将……」

洋榎「せや」

末原「よかったやん。なにがあかんねん」

洋榎「いや、うちなんかにつとまるんかなーって」

末原「めずらしく弱気やないか」

洋榎「だってうち、ホントは恭子がなったほうがええと思うとったし」

末原「うちが? まさか」

洋榎「だって恭子以上にチーム全体のことが見えてるやつなんておらんやろ」

洋榎「うちにはとてもやないけどそんなことなんてできる気がせえへんのや」

末原「べつに……洋榎がチームのことなんて見る必要ないわ」

洋榎「え?」

末原「洋榎、主将ってのはかならずしもチームのまとめ役である必要はないと思うで」

末原「まっすぐ目標に向かって突き進む主将をまわりの人間が支える。それもまたひとつのチームの形や」

末原「やから洋榎はまっすぐ前だけを向いとったらええ。細かいことはみんなうちがやったるわ」

末原「うちが洋榎を支えたるわ」

洋榎「ふふ……」

末原「な、なんや。なにわろとんねん」

我ながらちょっとカッコつけすぎたかと少し焦る。

洋榎「ええかんじに調子がでてきたみたいやな、恭子」

末原「え? あ……」

いつの間にか先ほどまであふれていた涙が止まっていた。
洋榎は得意げな顔でふふんと笑った。

洋榎「ま、うちにかかれば恭子を泣き止まさせるのもお茶の子さいさいやで」

私の体から腕をほどいて洋榎が離れた。
彼女の身体から感じていた暖かな体温がなくなり、私は妙な喪失感を感じた。
私は思わず彼女の方へ向き直る。
思えば試合が終わってから初めて彼女の顔をみることができた気がする。

洋榎「泣く恭子も黙る洋榎さまってわけやな」

自己主張の少ない胸をいっぱいに張って洋榎が言い放つ。
なんやそれ、と私は返しながら唇をとがらせる。

末原「さっきの主将がつとまるか不安ってのも嘘か。うちを元気づけるための」

洋榎「うそやないで」

末原「え?」

洋榎「うちに主将がつとまるか不安なのもホンマ。恭子のほうが適任なんやないか思うとったのもホンマや」

洋榎「でも恭子にそう言ってもらえて安心したわ」

洋榎「ありがとな、恭子。頼りにしてるで」

そう言って洋榎は笑った。

末原「ふふ……」

いつの間にか私も笑っていた。

やっぱり洋榎にはまだまだかなわへんなあ。

レギュラーとしてチームを支える洋榎と参謀役としてチームを支える私。

立場は違えど同じチームで戦うものとしてやっと対等な立場になれたかと思っていたが、まだまだ洋榎のほうが全然上のようだ。雀士としても人間としても。 

でも、いつかは追いつきたいと思う。 


末原「こっちこそ、ありがとうな。洋榎」


あと1年。
洋榎がこのチームの主将でいる間は私も参謀として洋榎のために力を尽くそう。
もし、この人が主将としてひっぱるこのチームを、私の力で支え続けることができたら。
私は洋榎に追いつけたと思えるだろうか。


末原「それと……」

 
もし、洋榎に追いつくことができたら。
洋榎のそばに並び立つことができたら。


そのときは……。


末原「よろしくお願いしますよ、主将」