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末原「私たちの3年間」プロローグ


『姫松へ』

 








末原「とうとう来てしもうたか……」



春。

私は姫松高校へと進学した。

善野監督のあの唐突な誘いに乗ってしまったわけだ。

ちょっと自分の麻雀をほめられて誘われたからといって、
こんな超名門校にほいほい入学してしまう自分が少し恥ずかしい。

しかし、なぜかあのときの善野監督の言葉は私をその気にさせた。

この人についていけば、
この人といっしょに麻雀をすれば、
私はもっともっと違った景色が見られるのではないか。

そんな予感がしたのだ。



しかし入学したのはいいが、これでもし善野監督に


「あれ!? 冗談のつもりだったのにホントにきちゃったの?」


であるとか、


「どちら様だったかしら?」


などと言われたらすぐさま転校してやろうと本気で考えていたのだが、
その心配は杞憂に終わった。



善野「やっぱり来てくれたのね」

入学してすぐに麻雀部に入部届けを出して挨拶にいくと、彼女は出会ったときと同じやさしい笑顔で私を迎えてくれた。


善野「あなたがいればきっと姫松はもっと強くなるわ。いっしょにがんばりましょうね」


新入生である私をやる気にさせるためのリップサービスかもしれない。

自分の実力にまったく覚えのない私からするとそうとしか思えない言葉だったが、
私はうれしかった。

麻雀に関することでこんなことを言われたのは初めてだったから。





入部してすぐにわかったことが、善野監督は思ったよりもふつうの人だということだった。

こんなことを言っては失礼だとは思うが、見た目からしてもっと物静かで近寄りがたい人かと思っていた。が、それは私の勘違いだったらしい。

ふつうに笑うし部員たちとも仲良さそうに接している。
印象よりもずっと社交的な人だった。

しかし、いざ1人で書類に目を通していたり、考え事をしている姿は、
なんというか、儚げでとても美しかった。


由子「なにをぼーっとしてるのよー?」


末原「ひあ!? な、なんや由子。おったんか」


由子「さっきからずっととなりにいたのよー」


由子も私と同じく姫松高校に進学していた。

高校でも私といっしょに麻雀がしたいと言っていた由子。
彼女に姫松を受験することを伝えると、最初こそ少し驚いた様子だったが、
すぐに「おもしろそうなのよー」などと言って自分もいっしょに受けることを決めた。

私について来てくれることは素直にうれしいし、心強くはあるが
由子よ、そんな主体性のない人生でいいのか。


由子「おおきなお世話なのよー」

由子「私は私なりにちゃんと考えがあってここにいるのよー」


ホンマかいな。

しかし、こうみえても由子は私なんかよりしっかりした一面もある。

考えがあるというのも決して嘘ではないのだろう。


由子はその力みのない柔和な性格のおかげか、早くも友人や知り合いをたくさんつくっているようだった。

麻雀部の1年生の中では既に中心的な存在になりつつある。





姫松に来て驚いたことがもうひとつある。

中学3年の夏。
インターミドル県予選で私を負かしたあの愛宕洋榎が特待生として、
姫松高校に入学していることだった。


ただし、私は愛宕のことを覚えていても、むこうはそうではなかったらしく、
入部初日に初めて顔を合わせたときも

「愛宕洋榎や、よろしゅう」

の一言だけでそれきり1度も口をきいていない。

こちらからすると記念すべき中学での最後の対戦相手だったとしても、むこうからすると数多くいる倒してきた相手のうちの1人なのだ。

ようするに私は彼女の眼中にないということだ。


くやしい。

しかしこれが現実だ。



愛宕は入部してからというものの毎日上級生と打っていた。

さすがにレギュラークラスにはまだかなわないもののインターミドル出場者としての実力を存分にふるっている。


優れたコミュニケーション能力を持つ由子。

ずば抜けた実力を持つ愛宕。


由子も、愛宕も、自分の力でこの姫松高校麻雀部の一員としてはやくも溶け込もうとしていた。



一方、私はというと、イマイチこの麻雀部に馴染めないでいた。

麻雀の実力が特別優れているわけでもない。
人と仲良くなったりするのはどちらかというと苦手だ。

ふたりに比べてなにも特筆すべき長所がない私にこの麻雀部で存在意義などあるのだろうか。



善野監督、あなたはなぜ私をここに誘ったのですか?

私なんかがこの麻雀部でできることがあるんでしょうか?

もやもやとした釈然としない気持ちを抱えたまま、私の高校麻雀はスタートした。




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