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末原「よろしくお願いしますよ、主将」

↑の1年後のお話です。

末洋です 。
ふたりがいちゃいちゃしてますので苦手な方は注意。

姫松敗退になってますが私は姫松を応援しています。 

とある方の誕生日プレゼント用に書きました(シャレにならないくらい遅れましたが……) 

 













咲「ツモ、1000オールです」


恒子「決まったあー! Bブロック準決勝ついにけっちゃくー!」

恒子「激闘を制し決勝へ駒を進めたのは、臨海女子と清澄高校!」

恒子「姫松高校と有珠山高校はおしくも敗れました!」

恒子「臨海女子、ヴィルセラーゼ選手は有珠山、獅子原選手の猛攻により削られながらもなんとか首位をキープ!」

恒子「そしてこの試合なんといっても目立ったのが清澄、宮永選手と姫松、末原選手の激しい2位争い!」

恒子「清澄と姫松の順位が実に3度入れ替わるデッドヒート!」

恒子「その激闘を制したのは清澄の1年生宮永選手だー!」




終わった、か。

せいいっぱいやったつもりやったけど結局宮永に勝つことはできんかったな。



でも、なんでやろな。

すごく清清しいわ。

もちろん悔しい気持ちもあるけど、それ以上に満ち足りた気分や。

うちが持てるすべての力を出し切れた、そんな感じ。



咲「あ、あの……末原さん」


控え室に戻ろうとした私に宮永が声をかけてきた。

それにしてもこいつホンマ対局中とは別人やな。なんやねんそのか細い声。



咲「その……ありがとうございました」

末原「こちらこそ、ありがとな」

末原「自分、やっぱ強いな。かなわんかったわ」

咲「そ、そんな、末原さんもすごく強かったです! 私、ホントに勝てないかと……」

末原「ははっ、お世辞でもそう言ってもらえるとうれしいわ」

咲「そんな……お世辞なんかじゃ」


たしかにお世辞で言うとるようには見えへんな。

ま、うちにはうちなりにこの怪物に一矢報いることはできたっちゅうことか。



末原「決勝、うちらの分もがんばってな。応援しとるで」

咲「は、はい! ありがとうございます」

咲「それと……あの、わたし……」


ん? なんや?


咲「末原さんと打ててすごくたのしかったです!」




……。

そりゃあ、まあ。勝ったんやからそらたのしいわなあ。

思わずそんなツッコミ入れようかとも思ったけど……。

でも……。


末原「うちもたのしかったわ」


ホンマ、たのしかったわ。


末原「またどっかで打てたらええな」


こんなこと言う柄やないけど今日ぐらいはええやろ。


咲「はいっ!」


こいつはこいつで嬉しそうやし。

でもこれ以上恥ずかしい台詞言ってしまわんうちにさっさと引き上げたほうがよさそうや。








洋榎「ふいー。さっぱりしたで」

背後からシャワーを終えたらしい洋榎の声が聞こえてきた。

洋榎「恭子、シャワー空いたで」

私はというとホテルの部屋に帰ってきてからずっと窓の外をぼんやり眺めていた。

洋榎「……なんや、もしかしてまた落ちこんどるんか?」

末原「いえ…その逆です。なんだかすごく清清しい気持ちなんです」

末原「今日は負けはしましたが自分の中で長いこと思い描いとった理想の麻雀ができました。ただそれが……うれしいんです」

洋榎「な~んや、うちはてっきりまた去年みたく恭子が泣きだすんかと思ったで」


洋榎が意地悪く笑う。


末原「そんなこともありましたね……」

洋榎「あんときはホンマ大変やったで。恭子がとつぜん負けたんはうちのせいやーゆうてピーピー泣き出してな」

末原「や、やめてくだいさいよ……//」

洋榎「ひひ、ええやないかうちらしかおらんのやし」

末原「そういう問題やなくてですね」

洋榎「そんでうちが後ろから抱きついたったらピタッと泣き止んでな~」

末原「……むむ」


まったく洋榎は……。
こうやってすぐ調子にのって人をからかいつづけるんやから。

これはちょっと反撃したらなアカンな。


洋榎「あんときはホンマかわいかったで~……ん? どないしたんや恭子?」

末原「主将、前言撤回です。うち今も泣きそうなんで今年もお願いしてもええですか?」

洋榎「へ? な、なにをや?」

末原「また抱きしめてください」

洋榎「え? うええ!? なにを言うてんねん恭子!」


いつもの私やったらこないなこと絶対言わへんけどたまにはええやろ。こういうのも。
洋榎もこんなにおどろいとることやしな。


末原「ええやないですか減るもんやなし」

洋榎「い、いや、とつぜんそないなこと言われてもやな……」

末原「去年はしてくれたやないですか」

洋榎「だ、だって去年は恭子が泣いとったからどーにかせんとって思て……」モジモジ

末原「なにをぶつぶつ言うとんですか」

末原「こないならこっちからいきますよ」

洋榎「ふえ!? ちょ、ま、まちーや、きょう……こ……」

洋榎の制止を無視して私は洋榎を無理やりベッドに座らせると前から抱きしめた。
去年洋榎が泣いている私を抱きしめてくれたときと同じく、シャンプーのいいにおいがした。

末原「ふふ、捕まえましたよ主将」

洋榎「き、恭子……どないしたんや……いつもの恭子やないで……」

末原「主将はいやですか? うちにこういうことされるの」

洋榎「……そんなん……いやなわけないやん」

末原「やったら……ちょっとの間このままでもええですか?」

洋榎「まあ……ええけど……」

そう言って洋榎も私の背中に腕をまわしてきた。
私と洋榎の身体がさらに密着する。

洋榎「ホンマどないしたんや恭子……」

末原「さあ……自分でもよくわかりませんけど、変なテンションなんです」

洋榎「宮永との対局でアテられてしもうたんやないやろな……」

末原「もしかしたらそうかもしれませんね……」








どのくらいの間そうしていただろうか。
抱きしめあっているため洋榎の表情は見えないが、横目に見える耳は心なしか赤い。

洋榎「なあ、恭子」

末原「なんですか?」

洋榎「うちがここで去年言ったこと、おぼえとるか?」

末原「え?」

洋榎「うちに主将が務まるか不安、恭子のほうが適任やないかって話や」

末原「ええ……おぼえてますよ。もちろん」

洋榎「あれな、前も言ったかもしれんけど、本気で言っっとたんやで」

洋榎「でも恭子が言うてくれたんやったな」

洋榎「洋榎はまっすぐ前だけを向いとったらええ、うちが洋榎を支えたるってやつ」

洋榎「ごっつうれしかったで。ホンマ」

洋榎「全国優勝できなかったのは残念やったけど、うちが主将としてやってこれたのもほとんど恭子のおかげやと思うとる」

洋榎「ありがとな、恭子」

末原「いえ……そんな……」



洋榎の言葉は素直にうれしい。
しかし、それ以上に私の心にある部分が引っかかった。

全国優勝できなかった。

そうだ、私たちは負けたんだ。


宮永との戦いで私は自分に持てるすべての力を出し切ることができた。

満足する対局をすることができた。


しかし、それがなんだというんだ。

姫松は負けた。

善野監督や代行。由子や絹ちゃんや漫ちゃん。ほかの部員や応援してくれていたすべての人。
そしてもちろん私と洋榎の悲願であった姫松の全国優勝。

それを達成できなかった。

私が負けたことによって。

その事実が今更ながら私の心にのしかかった。



末原「あの……主将」

洋榎「んー?」



気がついたときには私は口を開いていた。


末原「もし……もし、主将が大将だったら……宮永に勝てましたか?」



こんなこと今更言うべきじゃない。
今更言ったってしかたがない。
わかっていながらも言葉はとまらなかった。



洋榎「……」



洋榎「……そんなん、わからんわ」

洋榎「恭子も知ってるやろうけど、うちは負けるつもりで麻雀したことなんて一度もあらへん」

洋榎「相手が宮永やろうが、仮に宮永の照のほうが相手やったとしても、うちは当然勝つつもりで卓に座る」

洋榎「でも麻雀ってのはそれこそ時の運や。勝つこともあれば負けることもある」

洋榎「うちが仮に今日の大将卓にいたとしても……結果なんてのはわからんのや」



末原「……」

洋榎「恭子。まさか自分が宮永と戦ったことを後悔しとるんか?」

末原「……それは」



すぐに答えることができなかった。
大将が私ではなく、洋榎だったならば。
宮永咲を倒して姫松を決勝の舞台に連れていくことができたのではないか。
そんな考えが私の頭を離れなかったからだ。


洋榎「……うりゃ!」

末原「え? ……ひゃあ!?」

洋榎が不意に私を抱きしめたままベッドに押し倒した。

末原「……し、主将?」

洋榎「……」

洋榎が覆いかぶさるような形で私を見下ろしている。
その表情は笑っていた。
去年この部屋で、私を励ましてくれたときと同じ優しい笑い方をしていた。

洋榎「なあ恭子、うちはな、恭子が大将でホンマよかったと思うとるんや」

末原「……え?」

洋榎「なんでか教えてほしいか?」

そう言ってもうちょっとで鼻と鼻がくっつきそうなくらいにまで顔を近づけてきた。
その表情はイタズラをする子供のように無邪気だったがなぜか先ほどよりも頬が赤い。

末原「え、ええ……」

洋榎「それは恭子がやな……むっちゃかっこよかったからや」

末原「……は?」

洋榎「さっき自分でも言うとったやろ? 自分の理想の打ち方ができてうれしいて」

洋榎「恭子が自分の思い通りに心から楽しんで麻雀をできてた。あんときの恭子は今までで1番イキイキしてた」

洋榎「かっこよかったで、恭子」

末原「……」


うれしい。

でもまっすぐに見つめられながらそんなことを言われたら流石に照れてしまう。


末原「……よっ」ゴロン

洋榎「うひゃっ! な、なんや?」

洋榎のそんな視線から逃れるように洋榎の身体を掴んだまま体を反転させた。
先ほどとは逆に私が上になった。

末原「そんなん言うたら……主将のほうがかっこええですよ」

末原「私からみたら主将はいつだって心からたのしんで麻雀してるようにみえます。やから主将のほうがずっとずっとかっこええですよ」

私がそう言うと洋榎はくすぐったそうに笑った。

洋榎「ふふーん、ま、そうやろな。うちはいつでもかっこええやろ。せやけどな……」ゴロン

末原「わわっ」


今度は洋榎が私を掴んだまま体を回転させる。
またも私が下の体制になった。

洋榎「今日に限っては恭子のほうが絶対かっこよかったわ」

末原「っ……」

末原「いやいや」ゴロン

洋榎「おっと」

末原「主将のほうがかっこええに決まっとるやないですか」

洋榎「なに言うとんねん」ゴロン

末原「うわっ」

洋榎「恭子のほうや言うとるやろ」

末原「いや主将が」ゴロン

洋榎「恭子やて」ゴロン

末原「主将」ゴロン

洋榎「恭子」ゴロン

末原「主将」ゴロン

洋榎「恭子」ゴロン



密着したままゴロゴロとベッドの上を転がる私と洋榎。


末原「ふっふふ……」

洋榎「ははっ……」

次第におかしくなってしまい私と洋榎は笑っていた。


洋榎「まったく……なにやっとんやろなうちら」

末原「ホンマですね」

洋榎「ほんなら明日ゆーこたちにきいてみよやないか、うちと恭子どっちがかっこよかったか」

末原「ええですよ。ま、みんな主将って言うでしょうけどね」

洋榎「いーや恭子やな」

そう言ってまたふたりで笑った。

洋榎「ふう……」

末原「……」



ひとしきり笑いあった後、私たちの間に奇妙な沈黙が訪れた。

なぜだかお互い見つめあったまま動けなかった。

洋榎の眼の中に私の顔が映りこんでいる。



洋榎「もう一回だけ言うとくけどな」

末原「はい」

洋榎「今日の恭子、ホンマかっこよかったで。ようがんばったな」

末原「……ありがとうございます、主将」

洋榎「……」

末原「……」

洋榎「恭子……」

末原「……はい」

洋榎「名前で……呼んでくれへんか」

末原「……」

末原「ダメですよ、主将」

洋榎「え……」

末原「私は主将が主将でいるあいだはずっと姫松の参謀です」

末原「やからそのときまで主将は私の主将のままでいてください」

洋榎「そか……」

末原「そやから今は……」

洋榎「っん……!?」

末原「これで我慢してください。主将」 

末原「ぜんぶが終わったとき……そのときに、また……」

洋榎「……」 

洋榎「……うん」 




カンッ