image








8月下旬


洋榎「ふいー、今日もおつかれさんー」

末原「主将、ちょっとええですか?」

洋榎「おう恭子。どないしたんや?」

末原「来週の土曜ってなんか予定とかあります?」

洋榎「来週の土曜? 午前中の部活以外はとくになにもないな~」

末原「そうですか、よかった」

洋榎「なんかあるん?」

末原「その日隣の市の夏祭りがあるんですけど」

洋榎「お! ええな。ゆーこたちも誘っていこか」

末原「いえ」

洋榎「?」

末原「ふたりだけでいきたいんです」

洋榎「へ……?」

末原「ダメですか?」

洋榎「い、いや……べつにええけど……」

末原「決まりですね」

末原「詳しいことはまた。それではお疲れ様でした」

洋榎「え、あ、うん。い、いや、きょーこ……?」


洋榎(な、なんや恭子のやつ……ふたりだけでいきたいやなんて……どないしたんやろ……)


後日


末原「やから漫ちゃん、ここはやな……」

漫「は、はひ……」

洋榎「……」


洋榎(あれから何日かたったけど……恭子のやつなんも言わへんな……)

洋榎(みたところいつもと様子がちがうっちゅうわけでもなさそやし……いったい何考えとんねん……)

洋榎(まわりのやつに聞いてみたいけど、もしふたりだけでいくことを恭子が内緒にしとるんやったら気まずいし……)

洋榎「あー、もう! どういうことやねん!」ウガー

由子「洋榎ちゃんどうしたのよー」



祭りの日当日

洋榎(結局なんもないまま当日になってもうた……)

洋榎(こう音沙汰ないと誘われたんも夢かなんかやったような気がするわ……)

末原「主将」

洋榎「ひゃあ! な、なんや恭子?」

末原「? なにを驚いとるんです?」

洋榎「い、いや、なんでもないわ」

末原「そうですか?」

末原「今日のことなんですが、いったんうちに帰って6時に駅前集合でええですか?」

洋榎「お、おう。それでええで」

末原「では、そういうことで。お先に失礼します」

洋榎「おつかれさ~ん……」

洋榎(やっぱり夢やなかったんや……)

洋榎(6時か……なんやちょっとドキドキしてきたわ……)


愛宕家

絹恵「おねえちゃ~ん」

洋榎「ん? なんや絹?」

絹恵「そろそろ準備せんと」

洋榎「え、6時集合やからまだはやいやろ……って、絹なんでしっとるんや?」

絹恵「なんでって……末原先輩からきいたんやで?」

洋榎(絹には話しとるんやな……)

絹恵「それよりほら。これを着んと」

洋榎「これって……浴衣やないか」

絹恵「そうやで?」

洋榎「い、いや絹。恭子といくんやで? べつにわざわざ浴衣やなんて……」

絹恵「なにいうてんの。末原先輩といくからこそ浴衣なんやろ?」

洋榎「え、ええ?」




絹恵「えーと、ここをこうして……」シュルシュル

洋榎「……」

洋榎「な、なあ絹」

絹恵「んー?」

洋榎「最近の恭子、ちょっと変やないか?」

絹恵「えー、そう? いつもどおりやけどなぁ?」

洋榎「いや、部活ではふつうなんやけど……」

洋榎「突然うちとふたりだけで……とか、なんかおかしいやん……」

絹恵「うーん……そやなあ……」

洋榎「やろ?」

絹恵「それは……末原先輩も覚悟を決めたっちゅうことなんやないかな」

洋榎「覚悟?」

絹恵「おねえちゃんとの距離を変える覚悟……みたいな?」

洋榎「うちと恭子の距離……?」

絹恵「お姉ちゃんは、末原先輩のことどう思っとんの?」

洋榎「え……」

洋榎「恭子は、うちにとって……」

絹恵「うん……」

洋榎「大事な……」

洋榎「……」

絹恵「……」

洋榎(大事な……なんなんやろ……)

絹恵「……うちは、末原先輩から今日はお姉ちゃんとふたりだけで出かけたいってことしか聞かされとらん」

絹恵「でも……そのことをうちに話してる時の末原先輩は……すごく、真剣やったよ」

洋榎「……」

絹恵「末原先輩のことどう思っとるか、末原先輩とどうなりたいか……しっかり考えといたほうがええかもしれへんよ」

洋榎「……」

洋榎「……うん。わかった」

絹恵「さ、できたで」

洋榎「あ……」

絹恵「ふふ、お姉ちゃん、綺麗やで」

洋榎「……なんや、はずかしな」

絹恵「そんなことあらへんよ」

洋榎「う、うん」

絹恵「さて、そろそろ時間やで」


玄関


洋榎「じゃ……いってくるわ」

絹恵「うん」

洋榎「……」

絹恵「お姉ちゃん」

洋榎「ん?」

絹恵「お姉ちゃんがどんな答えを出しても……うちはお姉ちゃんを応援しとるよ」

洋榎「……うん、ありがとな。絹」

洋榎「いってきます」

絹恵「いってらっしゃい」


ガラガラガラ…… ピシャッ


絹恵「……」






洋榎「……」


洋榎(恭子はうちにとって……なんなんやろ……)

洋榎(友達……親友……仲間……相棒……)

洋榎(そしてこれからうちらはどうなりたいんや……)





洋榎「……」

洋榎(恭子はまだきとらんな)


ワイワイ ガヤガヤ


洋榎(今日は人が多いな……浴衣の人もおる……祭りにいく人なんやろな……)

洋榎(みんな綺麗やなぁ……うちも浴衣やけど、こんな格好何年ぶりやろ……)

洋榎(おかしゅうないかな……?)ソワソワ

洋榎(……)

洋榎(ち、ちょっとトイレで確認してこよ……)スック


末原「主将、お待たせしました」

洋榎「ひゃ!」

洋榎(あ、アカン。恭子きてもうた……)

洋榎「お、おう。きょう……こ?」

末原「? どないしました?」

洋榎「……」

末原「……主将?」

洋榎「いや……」

洋榎(恭子……浴衣めっちゃ似合っとる……)

洋榎(インハイで着替えたときも思ったけど……恭子ってやっぱ美人やな……)

末原「主将も浴衣で来てくれたんですね」

洋榎「あ、ああ。絹が用意してくれたんや」

末原「よう似合ってます。綺麗ですね」

洋榎「!?」

洋榎(めっちゃうれしい……)

洋榎「おおきに。その……恭子もめっちゃかわええで」

末原「そうですか? なんか照れますね」エヘヘ

末原「うちも由子に着付けてもらったんです」

洋榎「そうなんや………」

洋榎(かわええ……)

末原「じゃ、そろそろいきましょか」

洋榎「そうやな」



電車の中


ガタンガタン……


洋榎「……」

末原「……」

洋榎(恭子……ええにおいがするな……)

洋榎(うなじがすごい綺麗や……)

末原「主将」

洋榎「な、なんや?」

末原「あんまじっと見られるとはずかしいんですけど……」

洋榎「ぅあ……す、スマン……」

末原「いえ」

洋榎(アカンアカン……みとれてしもた……)


洋榎「恭子」

末原「はい?」

洋榎「その……今日はどないしたんや? ふたりだけでいきたいやなんて」

末原「……」

末原「なんていうか……久しぶりに主将とふたりだけで話したかったんです」

末原「主将と参謀じゃなく、昔のうちらに戻ってみたくなった。そんな感じですかね」

洋榎「昔のうちらに……」





ガヤガヤ ガヤガヤ


洋榎「すごい人やな……」

末原「ですね……」

末原「手……」

洋榎「え?」

末原「手ぇ……繋いでいきませんか? その……はぐれたらあかんし」

洋榎「そやな……」

ギュ

洋榎「……」

末原「……」

洋榎(恭子の手、冷たいんやな……)

末原「じゃ、いきましょか」

洋榎「あ、恭子」

末原「え?」

洋榎「昔のうちらに戻るんやったら……喋り方も戻した方がええんちゃうか?」

末原「……そやな」

末原「今日ぐらいは堅苦しいのはなしにしよか、洋榎」

洋榎「……」ドキ

洋榎(ひさしぶりに名前呼ばれたわ……)

末原「さ、洋榎。今日はせっかくふたりだけなんやから思いっきり楽しもか」ニコ

洋榎「そ、そうやな! 今日はめっちゃくちゃあそぶでー!」

洋榎(恭子がどういうつもりなんかもわからんし、絹が言うてたことも気になるけど、せっかく恭子とふたりなんやから楽しまんとな)

末原「ふふ、その意気や」





洋榎(恭子がこんなふうにくだけた話し方してくれるのも久々や……)





末原「あ、洋榎。金魚すくいやっとるで」

洋榎「ホンマや。よっしゃ恭子! どっちがたくさんすくえるか勝負や!」

末原「ええけど、はりきって浴衣よごさんようにな」

洋榎「わかっとるわ!」







洋榎(1年ちょい前……うちが主将になるまではずっとこんな感じやったんやけどな……)





末原「ふたりで一匹ずつしかとれんとは……」トホホ

洋榎「あそこの店、ポイの紙うっすいねん、はらたつー!」

末原「まあまあ……あんまぎょうさんとってもしょあないし」

洋榎「そらそうやけどー」





洋榎(今でこそ恭子はうちをたててくれとるし、うちも恭子を認めとるけど……1年の頃なんかは喧嘩ばっかしやった)






末原「気を取り直してなんか食べよか」

洋榎「たこやき食べるで!」

末原「出店のたこやきて微妙なんあるけどな」

洋榎「大阪のたこやきに不味いもんはないんや」

末原「いや、んなこたないやろ」





洋榎(あの頃のうちは調子に乗っ取ったし、真面目な恭子はそんなうちが気に入らんかったんやろな……)




洋榎「お、うまいでこのたこやき」

末原「ホンマやな」

洋榎「うちのゆうたとおりやろー。さすがやろー」

末原「はいはい」

末原「あ、洋榎、ソースついてるで」フキフキ

洋榎「おう……すまんなぁ」




洋榎(それが今はふたりとも浴衣で手繋いどるやなんて……わからんもんや)





洋榎「ふいー、結構あそんだなー」

末原「ちょっと疲れたな……ちょっといったとこにちっちゃい公園あるから、そこで休もか」

洋榎「んじゃ途中でかき氷買ってそこで食べるで!」

末原「まだ食べるんかい」



公園



洋榎「うーん、うまいわー」シャクシャク

末原「あんまいそいで食べると頭いたなるで」



洋榎(それにしても……最初は緊張しとったけど、なんやかんやでいつもどおりやないか)

洋榎(絹が色々言うから変に意識してもうたけど、恭子もふつうにうちと遊びたかっただけなんやないか)

洋榎(拍子抜けやけどホッとしてしもうたわ。やっぱうちらはこんな感じなんやろ)



末原「……」

末原「……あ、洋榎。こんどはシロップついてるで」

洋榎「ん? どこや?」

末原「ここや」スッ

洋榎「え?」


ペロッ


末原「とれたで」

洋榎「」

洋榎「……な、なんや恭子びっくりするやないか」

末原「……」

洋榎「……恭子?」

末原「……なあ、洋榎。さっきゆうたことなんやけどな」

洋榎「さっきて?」

末原「電車の中で言ったことや」

洋榎「昔のうちらに戻りたい……ってやつか?」

末原「そや」

末原「あれな……嘘や」

洋榎「え……」

末原「本当はうちな……」

末原「洋榎と……もっと違う関係になりたいねん」

洋榎「……そ、それって」

末原「洋榎、うちな……」

末原「お前のことが好きやねん」

洋榎「……」

洋榎(絹の言う通りやった……)

洋榎(恭子は……ホンマにうちを……)

洋榎「ほ、ホンマか……」

末原「ホンマや」

洋榎「ホンマのホンマか……?」

末原「ホンマのホンマや」

洋榎「ホンマのホンマのホンマか?」

末原「ホンマのホンマのホンマや」

末原「ホンマに……洋榎が好きやねん」

洋榎「……な、なんで……」

末原「……え?」

洋榎「なんでうちやねん……」

末原「なんでて……」

洋榎「お前のまわりには頭も良くて気遣いのできるゆーこもおる、やさしくて女の子らしい絹もおる、いつも一生懸命でお前を慕ってる漫だっておる……」

洋榎「やのになんでよりによってうちやねん……」

末原「……」

末原「……そやな」

末原「はっきり言ってお前はガサツでやかましくてお調子者で女らしさもなくて麻雀以外はなんもできんくて……」

末原「初めて会ったとき……そんなお前が大嫌いやったわ」

洋榎「……うう」

末原「でも、お前といっしょにいるうちにわかったんや」

末原「明るくて求心力とリーダーシップがあってなによりみんなを引っ張っていく強さがある……」

末原「お前はうちにないものをみんなもっとる……そんなお前にうちは嫉妬してただけやったんや」

洋榎「恭子……」

末原「それに気づいてから、うちはお前にどんどん惹かれていった」

末原「お前はいつも……うちを引っ張ってくれた。うちが悩んでるときも、うちが苦しいときも、ずっと傍で導いてくれた」

末原「お前を誰よりも尊敬しとる……そんで、お前を誰にもわたしたくないんや」

末原「ずっと……ずっとうちの傍にいてくれへんか?」

洋榎「恭子……」

洋榎「うちも……」

洋榎「うちも……恭子のことが好きや」

洋榎「正直今日こうして誘われて、絹に言われるまで意識してなかったけど……」

洋榎「生真面目で努力家で、いつもうちを支えてくれる恭子が……うちも好きや」

洋榎「うちも恭子の傍にいたい……」

末原「洋榎……ありがとう」


ヒュルルル~ バーン


洋榎「あ……」

末原「花火や……」

洋榎「きれいやな……」




洋榎「なあ恭子……きいてもええか?」

末原「なんや?」

洋榎「なんで……今日言おうと思ったんや?」

末原「……自分の中で、インハイが終わったら告白しようって決めてたんや」

洋榎「インハイが終わったら……?」

末原「そや。まだ国麻が残っとるけど……姫松というチームとしての戦いは終わりや」

末原「やから、もうええかなと思って」

洋榎「そか……じゃあ、また明日から名前で呼んでくれるんか?」

末原「いや、それは引退するまではやめとこ」

洋榎「なんでやねん」

末原「……だって、突然呼び方変えたらみんな驚くやろし……示しがつかへん」

洋榎「ええやんべつに」

末原「ダメや」

洋榎「真面目やな恭子は……」

末原「お前を支えるにはこれぐらいの気構えやないとあかんねん」

洋榎「そか。そんなら……」

洋榎「今日はずっと一緒にいてくれへんか?」

洋榎「そんで、うちのことを洋榎って……ぎょーさん呼んでや」

末原「……もちろんや」

洋榎「ふふ、うれしいわ」

末原「まあ、もっとも……」

洋榎「?」 

末原「今日だけやのうて、これからずっと一緒やけどな」

洋榎「そか……それは、ええなぁ」

洋榎(喧嘩相手……友達……親友……仲間……相棒……)

洋榎(恭子とはいろんな関係になったけど……)

洋榎(今日からは……大事な恋人や)

洋榎「恭子……うち幸せや」




カン






洋榎たんイエイ〜