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『失態』

 





夏になった。

恭子とはあれから口をきいてない……なんてことはなく、普通に会話しとる。
同じ麻雀部員として、同級生としての普通の会話を。
お互いの生活に支障がないような、事務的な会話を。
ふざけるわけでもなく笑い合うわけでもない普通の会話を。
それは決して以前のような『友達』としての、うちが望んだ以前のうちらふたりの会話ではなかった。

赤阪代行はそんなうちらの様子を見て察したのか、うちと恭子の関係についてはもうなにも言ってこなかった。

うちとの関係がそんな調子になっても、恭子は姫松高校麻雀部の頭脳としての仕事を着々とこなしていた。

練習の内容、試合での起用に至るまで、恭子の仕事ぶりには隙がなかった。

それは去年までの善野監督の仕事を誰よりも熱心に見ていたからできることなのか、それとも恭子がもともと持っていた素質なのかはうちにはわからない。
いずれにせよ、本当に選手としてよりもこういった監督としての立場のほうが末原恭子という人間には似合っているのではないか、そう思わずにはいられないほどの手腕やった。

もちろんそういった仕事は恭子が独断で行っているわけではなく、赤阪監督代行に許可を得ている。

しかし、それはあくまでも恭子の考えでチームの方針を決め、それを『確認』してもらって『許可』してもらっているだけだ。
赤阪代行に意見を求めるということは、少なくともうちが見る限り1度もなかった。

赤阪代行が恭子のそういうやり方をどう考えているのかはうちの知るところではない。
赤阪代行はただ、「末原ちゃんがそうしたいんやったらええよ〜」と、いつも通りの、少なくとも見た目はいつも通りに了承するだけやった。






そんな中始まった夏のインターハイ、うちらは恭子の采配も冴え無事に県予選を突破した。

特筆すべきはそのオーダーやった。
今年の姫松の3年生は安定感のあるメンバーが揃っていた。
しかし逆に言えば火力不足の感が否めなかった。

そこで恭子が注目したのが1年生ながら時に爆発的な火力をみせる漫やった。

恭子は先鋒から中堅までを3年生で固め、副将に漫、そして大将にうちを起用した。

これにより前半は3年生が持ち前の安定感で試合の主導権を握り、エース選手が座ることの少ない副将戦で漫に稼がせ、点差を離した上で守備の堅いうちで守りきる。
そんな作戦らしい。

ちなみに通常手堅い選手が起用されることが多い副将に火力の高い選手を置く戦法は現在密かに全国で採用する高校が少しずつ増えて来てる……ちゅう話やけどホンマやろか。

チームは順当に勝ち上がり、県予選を突破した。

懸念してた漫の調子も良くて、うちは大量リードを守るだけで結構楽させてもろた。

副将とはいえ激戦区大阪の各校の選手相手に大したもんや。
鍛え上げて起用した恭子も、その期待に応えた漫も。



……でも、そんな好調も長くは続かんかった。

迎えたインターハイ本戦。
シードのうちらは2回戦からの登場やった。
今現在の状況は副将戦オーラス。
得点差はトップと約50000点差。
ほぼ、副将戦のうちに漫が大量失点した分がそのまま得点差となっていた。
今年のルールでは勝ち抜いて次の試合に進めるのは1位のチームのみ。
1位のチームの大将は全国でも名の通った守備に定評のある選手やった。

正直言って逆転は絶望的な状況。


恭子は失念していたのだ。
いくら自分と特訓を重ね、強くなったとはいえ、漫はまだまだ不安定な1年生だということを。

いくら地区予選では上手くいったとはいえ、それはあくまで予選レベルでのこと。
全国の強豪たちは恭子が考えるほど甘くはなかったのだ。


うちは静かな控え室を見回した。
赤阪代行も、3年生の先輩達も、ほかの部員達も誰も喋らずただ黙ってモニターを見つめていた。
ただひとり、恭子は青い顔で俯いていた。


後悔しているのだろうか、無理を押して漫を起用したことを。
同じ起用するのでももっとほかのポジションがあったのではないか。
そんなことを考えているのだろうか。


他校の副将がツモ和了した。
副将戦終了。ブザーがなる。
うちは大将戦に向かうべく、椅子から立ち上がり、扉に向かう。


末原「洋榎……」


恭子に呼び止められる。
振り返る。


洋榎「なんや?」

末原「いや……あの……」


恭子は相変わらず青い顔で言いよどんだ。
この絶望的な状況に陥らせてしまったのは自分の采配ミスだと痛感しているからだろう。
うちになんと声を掛ければいいのかわからないのだ。
がんばってくれ。なのか、すまん。なのか。

なにかを言おうとしたまま恭子は黙っている。

うちは恭子の言葉を待たずに部屋を出た。
扉を閉める瞬間、もう一度恭子の表情が見えた。
恭子はまだなにか言いたそうやった。

うちは対局室に向かって歩き出しながら拳を握る。

やめろ恭子。

そんな目でうちを見るな。

まるでうちにすがりつくような。

そんな目をするお前を、うちは見たくない。


この夏、姫松高校は初戦で敗退した。




第12話