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爽誓です。
まだユキちゃんが中学生の時の話お話です。




部室



爽「やっほー」

誓子「遅かったわね」

爽「ちょっと先生に呼ばれちゃってねー」

誓子「……そう」

爽「?」


私はチカの反応にわずかに違和感を感じた。
この感じはチカの機嫌が悪いときのそれだ。


爽「んー? 揺杏と成香は?」

誓子「ユキを迎えに行ったわ」

爽「え、今日ユキ来るって?」

誓子「……うれしそうね、爽」

爽「そりゃあ、まあ。ユキも受験勉強あるし、たまにしか来られないしね」

誓子「……ふぅん」

爽「チカはうれしくない?」

誓子「そんなことないけど」

爽「じゃ、なにさ?」

誓子「ユキがなんにも言わないからってあんまり好き勝手にするのはどうかしらね」

爽「いいじゃんべつに。本人も嫌がってないんだし。それに……あのまま放って置くわけにもいかないだろ?」


どうやらご機嫌ななめの理由はこのあたりにあるらしい。
おおかた最近私たちがユキにばかり構っているからやきもちを焼いているのだ。
こまったもんだ。


誓子「そうだけど……」

爽「けど……なんだよ?」

誓子「……」

爽「黙ってちゃわかんないよ?」

誓子「爽、また……助けてもらう気なの?」

爽「え……?」

誓子「昔みたいに、あの変なのに」

爽「それは……」


予想外の答えに私は口ごもる。
チカはこちらに視線を向けず俯いたまま小さく、けれどはっきりした声で言った


誓子「ユキのために色々してあげるのはいいけど……私はそれで爽がまた無理したり傷ついたりするのを見たくないの、私は」

爽「……」


普段のチカとは違う素直な言葉だった。
チカはやきもちを妬いていたわけではなく、純粋に私のことを心配していたのだ。
私は誤解をしていたことを恥じると同時にチカに心の中で謝罪した。


誓子「……」

爽「……」


チカはそれからなにも言わず黙ったまま視線を落としていた。
私も返す言葉が見つからずなにも言えずにいた。



と、そこでなにかに気づいたのかチカがふと顔を上げ窓の方を向いた。


誓子「あ、ゆき……」

爽「え?」


一瞬、ユキがいるのかと振り返るが、すぐにそうではないとわかった。
窓の外を僅かではあるが雪がちらついていたのだ。


誓子「あの子たち傘持ってってないわ」

爽「マジか。迎えに行ってくる」


コートを羽織りながら部室の扉に手をかけた私をチカは呼び止める。


誓子「爽、ちょっと待ちなさい」

爽「なに?」

誓子「あったかくしていきなさい」


チカはいつも自分が使っているベージュのマフラーを私に掛けてくれた。
襟元でマフラーを結び、形を整えてくれている彼女の長いまつ毛を眺めながら私は言った。


爽「……チカ、あのさ」

誓子「うん?」


視線だけこちらに向けられる。


爽「大丈夫だから」

誓子「なにが」

爽「もうチカを泣かせたりしないから」

誓子「……」

爽「だから、大丈夫」

誓子「そうだといいんだけどね」


ため息を付きながら諦めたようにそう言って、結び終えたマフラーをポンと叩く。


誓子「はい、いいわよ」

爽「ありがとう」

誓子「どういたしまして」

爽「このマフラー、チカの匂いがする」

誓子「ばか」


追い出されるように部室を出た。

廊下を歩き昇降口に置いてある貸出用の傘を2本引っ掴んで外に出る。
寒い。
マフラーを鼻元まで上げる。
鼻水ついた。やっべ。

私はふと部室の方を振り返った。
部室の窓からチカがこちらを見ていた。
手を振る。
チカは早く行けとでも言うようにおざなりに振り返した。
笑っちゃう。


チカは私が「彼ら」の力を借りることを恐れていた。
けど、大丈夫。
昔よりはずっと私たちの関係は良好だ。
使いこなす自信はある。
だから大丈夫。

……もし大丈夫じゃないことになっちゃったとしても、私は後悔しない。

それはそれでいいこともあるさ。

冷たい雪が降ったら、チカがマフラーを巻いてくれたように。

チカがああやって見てくれてる限りは私は大丈夫。たぶん。

あれ、でもそれだとやっぱりチカは泣くことになっちゃうな。
また嘘ついちゃったな。


なんだか可笑しくなって笑いながら歩みを進めていると、揺杏と成香とユキが、頭にくっつく雪を払いながらこちらに歩いてくるのが見えた。
私は傘を持ったまま3人にむかって大きく手を振った。