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淡→亦野 です。たぶん。



こんにちは、渋谷尭深です。

授業が終わって部室にやってきましたが、まだ誰もいないみたいです。

お茶でもいれて待つことにします。

あ……。


オソイヨ! マタノセンパイ!

アブナイカラハシルナヨ


そう言ってるうちに淡ちゃんと誠子ちゃんが来たみたいです。


淡「どーん! あ、たかみー。やっほー」

亦野「もうちょっと静かに入れよ……」


淡ちゃんが元気よくドアを開けて、続けて誠子ちゃんも入ってきました。

ふたりはとても仲良しです。

私がそう言うとふたりはそんなことないと言いますし、確かによくケンカもしてますけど、私から見ると充分仲良しだと思います。



尭深「誠子ちゃん、お茶どうぞ……。淡ちゃんも」


私はふたりにお茶を出してあげました。


淡「ありがとう、たかみー!」

誠子「ああ、ありがとう」


ふたりは私の出したお茶を美味しそうに飲んでくれます。


誠子「尭深のお茶は今日も美味しいなぁ」


誠子ちゃんはそう言って笑います。
出したお茶を美味しいと言ってもらえると私もうれしいです。


淡「……」


そんな誠子ちゃんを見ながら淡ちゃんがなにか考えてるみたいです。

なにか思いついたんでしようか。






淡「たかみたかみー」

尭深「どうしたの、淡ちゃん」


案の定、その日の部活の終わりに淡ちゃんが話しかけてきました。


淡「明日はさ……」

尭深「うん」 

淡「私が亦野センパイにお茶入れてもいい?」



どうやら淡ちゃんは、さきほど私が誠子ちゃんに褒められたのが羨ましくて、自分もお茶を入れてあげようという気になったようです。

淡ちゃんのそういうところはすごくかわいいと思います。

私は素直に頷きました。
誠子ちゃんにお茶をいれてあげて「美味しい」と言ってもらう権利を譲るのは少々惜しいですが、かわいい淡ちゃんのために明日は我慢することにします。







亦野「お疲れサマサマです〜。……って尭深? 淡も。どうしたんだふたりそろって」


翌日、なにもしらない誠子ちゃんがやってきました。

淡ちゃんは誠子ちゃんが席に座るや否やさっそく立ち上がり水屋に向かいます。


誠子「どうしたんだ? 大星のやつ」

尭深「今日は淡ちゃんがお茶をいれてくれるんだって」

誠子「大星が〜? どういう風の吹き回しなんだ?」


誠子ちゃんは不思議そうに首を傾げます。


淡「おまたせー!」


やがてお盆に湯のみを載せた淡ちゃんがやってきました。
上手にいれられたのか上機嫌です。


淡「はい! 亦野せんぱい!」

誠子「ありがとう……」

淡「はやく飲んでよ!」

誠子「あ、ああ……」


淡ちゃんに急かされた誠子ちゃんは恐る恐る湯のみに口をつけました。

が……。


亦野「……」


誠子ちゃんの顔がみるみる険しくなっていきます。

私は立ち上がり淡ちゃんが使った急須を開けてみました。

そこには淡ちゃんらしく豪快に投入された茶葉がこんもりと入っていました。

誠子ちゃんが口にしたお茶はそうとう渋いお味になっていると思います。


亦野「これは……その……」


眉間に深いシワを寄せた誠子ちゃんが言いづらそうに口を開きます。


亦野「う、うまいよ……うん」


はっきりマズイと言わない誠子ちゃんの優しさに泣きそうです。


淡「うそばっかり! マズイならマズイって言えばいいじゃん!」


しかし、残念ながらその優しい嘘は見え見えで、淡ちゃんはそれが気に入らないようです。


亦野「だってホントにマズイって言ったらお前怒るだろ!?」

淡「当たり前じゃん! 亦野センパイのクセに私のお茶が飲めないなんて!」

亦野「私はいったいどうすりゃいいんだよ!?」

淡「もう! センパイのバカ! お茶ミサイル!」バシャー!

亦野「あっつい!? こら、やめろ!」


すったもんだになってしまいました。

淡ちゃんがちゃんとお茶をいれられるか確認してなかったのが失敗でした。
責任を感じます。





翌日、私が部室に来ると淡ちゃんが待っていました。


淡「たかみー、お茶の入れ方教えて!」


どうやら昨日のリベンジをするようです。

それにしても、お茶の入れ方を知らないのであればなぜ昨日のうちに聞いてこなかったのでしょうか。


淡「だってお茶くらいみようみまねで入れられると思ってたんだもん」


お茶も舐められたもんです。

とはいえ、実際そんなに難しいものではありません。

事実淡ちゃんは私が正しい手順やコツを教えるとすぐに美味しく入れられるようになりました。


淡「う〜ん……?」


それでも淡ちゃんはどこか納得できない様子でした。
どうしたんでしょうか。


淡「なんかたかみがいつも入れてくれるのとは、ちょっと違う気がする」


そうでしょうか?
私は気づきませんでした。


淡「たかみー、ほかになにかコツとかないの?」


そう言われても……。

うーん。

そうだ。

もしかしたらアレでしょうか。


尭深「心を込めていれるといいんじゃないかな」

淡「こころ?」

尭深「うん。飲んでくれる人のことを想っていれると美味しくなるってきいたよ」


我ながらクサすぎたでしょうか。
言ってから恥ずかしくなってしまいました。

でも淡ちゃんは納得したように頷き、言いました。


淡「じゃあ、たかみのお茶がおいしいのは、いつも私たちのことを想っていれてくれたからなんだね」


……そうかもしれませんね。

やっぱり淡ちゃんはいい子だな、と彼女の笑顔を見ながら思いました。


尭深「だから淡ちゃんも誠子ちゃんのことを想っていれたらおいしくなる……かも」


淡「え〜、でも亦野センパイだしなぁ……」


淡ちゃんはブツブツ言います。
素直じゃありませんね。




しばらくすると誠子ちゃんがやってきました。


彼女は来るや否やお茶の用意をし始めた淡ちゃんを見て顔をこわばらせましたが、私が目配せをするとおとなしく座りました。

今度は大丈夫だよ。たぶん。


やがて、用意ができたのか、淡ちゃんがお盆に湯のみを載せてやってきました。

その顔はこころなしか緊張しています。


亦野「い、いただきます……」


湯のみを手に取る誠子ちゃんもちょっと緊張しています。

なんだか私もドキドキしてきました。


誠子ちゃんはゆっくりと湯のみに口をつけ、淡ちゃんがいれたお茶をひと口飲みました。


亦野「……」ゴクリ

淡「……」ゴクリ

尭深「……」ゴクリ


お茶を飲む誠子ちゃんと、固唾を飲む私たち。

一瞬の静寂の後、誠子ちゃんの目が少し開かれました。


亦野「……おいしい」

淡「ホント……?」

亦野「うん、美味しいよ淡」


顔をほころばせ、誠子ちゃんは言いました。

淡ちゃんもホッとしたように笑顔になり、ふたりは笑い合いました。

よかった。
ふたりの笑顔を見ていると私もうれしくなりました。







淡「たかみたかみ」


その後、淡ちゃんはこっそりと私に話しかけてきました。


尭深「なに?淡ちゃん」

淡「明日からはいつも通りたかみがお茶をいれてあげてね?」

尭深「せっかく美味しくいれられるようになったのに、いいの……?」

淡「うん。私はやっぱりたかみのいれたお茶がいちばん好きだし、それに……」

尭深「それに?」

淡「たかみの楽しみを取っちゃたら悪いもんね」


そう言って淡ちゃんは笑いました。

やっぱり淡ちゃんはいい子ですね。


 







亦野「しかし大星も負けず嫌いだよなぁ」


その日の部活が終わった後、ふたりで帰っていると誠子ちゃんが言いました。

私はなんのことかわからずに小首を傾げます。


亦野「だって尭深がいれるお茶が美味しいからって、自分もお茶をいれる練習をするなんて、よっぽど尭深に負けたくないんだな」


そう言って誠子ちゃんは笑います。

……どうやら誠子ちゃんは淡ちゃんが私への対抗心から美味しくお茶をいれられるようになったと思っているようです。

やれやれ。

淡ちゃんがお茶に込めた「想い」が誠子ちゃんに正しく伝わる日は来るのでしょうか。

私は少し心配です。





カンッ