モコさんが描いてくださった絵↑に私が小説をつける企画がとうとう完成しました!(遅!)
今日は年に一度の体育祭。
うちは自慢やないけど麻雀部という文化部の主将でありながら運動神経には自信がある。
1年生の頃のこの時期なんかには恭子とどっちが活躍出来るか競い合ったもんや。
というわけで今年も恭子に「今年も負けへんでー!」的な宣戦布告をさっきしてきたんやけど……。
「……なにアホ言うとんですか。それよりインハイも近いんですから、ケガだけはせんでくださいよ、主将」
……。
むきー!
なんやなんやなんや恭子のやつ!
自分だけ大人な意見言いおってからに!
さとり世代か! はりきっとるうちがアホみたいやないか!
これはなんとしても今日、恭子をぎゃふんと言わせてやらなアカンな。
でもそのためには恭子にやる気を出させる必要がある……。
でも、どうすれば……。せや!
「やい、恭子! 今日はうちと勝負や!」
「なんですか主将? まだそんなこと言うとんですか」
「お前がやる気にならんのんやったらやる気出させたるわ」
「へえ。どうやってですか」
「うちに勝ったらお前の言うことなんでも聞いたるわ」
「……なんでも?」
恭子の眉がぴくりと反応した。
「せや。この愛宕洋榎さまが今日一日お前の犬になったるわ!」
「……へえ、犬に」
恭子の鋭い目が光る。
「その言葉に二言はないやろな? 洋榎」
うお。
ひさしぶりにタメ口で名前で呼ばれたわ。
一歩、二歩とこちらに詰め寄りそう言う恭子の不敵な笑みに思わず心臓がドックンドックン言い始めた。
アカン。ちょっとやばいかも……。
ま、まあとはいえ、さいきんの恭子は部屋ん中で麻雀やら研究ばっかやっとるからな! 運動能力は落ちとるやろ。へーきへーき。
~
……という、うちの予想はあっさりと裏切られた。
恭子のやつ、ひとつめの種目の徒競走でぶっちぎりの一等賞をとってみせた。
そうやった……。あいつはあの太腿をみてのとおり短距離走は大の得意やったわ……。
善野さんが元気やったころはスプリントの仕方を教えてもらってたこともあったし、足の速さはピカ1なんや。
いや、まだわからんで。あいつが1位を取ったとしても、うちも1位をとればイーブンや。
ちょうどもうすぐうちの番やし。
よっしゃ、やったるでー!
と、張り切りながらいっしょに走る娘等をみると……。
ああ!? あいつは陸上部のエース山下さん(仮)!
アカン! あいつは去年短距離でインターハイ出とるんや! なんぼなんでもあいつには勝たれへん!
そこでふとゴール後の待機列に並ぶ恭子と目が合った。
恭子はうちと一緒にならんでる娘等を一瞥し、そして勝ちを確信したようにニヤリと笑う。
はらたつー!
こうなったらなにがなんでもここで1位とったるわ!
~
……とはいうたものの、そんなうまくいくはずもなく、うちはあっさり山下さん(仮)に負けた。
勝てるわけないやん……。
競技後、がっくりとうなだれて待機テントに戻っていると後ろから肩を叩かれる。
みると恭子やった。
やつはうちの耳元に顔を寄せると、
「これでうちの1点先取やな」
と、ささやいて行きおった。
ま、まだ1回勝っただけやろ!
これからやこれから!
うちがそう言い返すと恭子は実に楽しそうに笑って去っていきおった。
あいつえらいウキウキやな……。
そんなにうちを好き放題にするのが楽しみなんやろうか?
負けたらいったいなにやらされるんやろ……。
まさかこないだ恭子がうまいうまいて食ってた蛸風船(近所のたこ焼き屋)のたこ焼き1か月分おごらされるとか……?
アカン! それはアカン!
こないだ絹といっしょにおこづかいはたいてニン〇ンドース〇ッチ買ったばっかで金欠なんや……。
このままじゃオカンに土下座しておこづかい前借りするハメになる!
それだけはアカン!
幸い次のパン食い競争ではうちと恭子は同じ組や。
ここでうまくだしぬいて挽回するで。
~
と、いうわけでパン食い競争スタート。
恭子は相変わらず速い足でまっさきにパンまでたどり着き、ジャンプしてくわえようとする。
そうはさせへん!
「おいこら洋榎! これはうちのやで!」
「やかましい! 早いもん勝ちや!」
飛び上がった恭子がパンをくわえる瞬間、横からそれにかぶりついたった。
それぞれパンの端っこをくわえた恭子とうちが引っ張り合う形になる。
「はなせアホー!」
「お前こそはなせや!」
パンをくわえたままモゴモゴ言い争っとるうちに、うちらは自然とパンを食べてしまう。
どんどん小さくなるパン。
近づいていくうちらの顔。
観客席からなぜか「キャー! スエヒロー!」とか黄色い声があがっとるけど気にしとる場合やない。
鼻がくっつくくらいまで顔が近づく。
と、そこでそれまでは構わずうちと顔を突き合わせていた恭子の動きがわずかに鈍り、やがてなにかを思案するように動きが止まった。
恭子の瞳にうちの目が映り込む。
そこで恭子はとつぜん我に返ったみたいにうちから離れると残り少なくなったパンをくわえたまま走っていってしまった。なんや?
ちなみにこの競走の結果はうちがひとのパンを横取りしたと判定され反則負けとなった。なんでや!
~
こんにちわー。とつぜんだけど真瀬由子なのよー。
今日の体育祭ぜんぶお見せしたいところなんだけど、長くなりそうだからここでハイライトをお送りするのよー。
種目『借り物競争』
洋榎の札「パンツ」
末原の札「おもち」
「ぱんつ!? パンツってなんや?」
「漫ちゃんいくで!」
パンツという謎の物体を誰も持っておらず、右往左往する洋榎に対し、末原はおもちをおもちの漫をつれて走り出す。しかし漫がゴール前で転ぶ。
そのすきに先ほどのパン食い競争のパンをふたつ抱えて「パンツーや!」と言い張る洋榎がギリギリでまくり勝利。
なお競技後、漫はデコに油性された模様。
種目『騎馬戦』
ばいーん。
ふたりともそれぞれ大将騎の上を任され最終的にふたりの一騎打ちに。
同時に意を決して飛び込むも、それぞれの馬の先頭を務めていた絹恵と漫のおもちがぶつかった反動でふたりとも同時に落馬しドロー。
種目『フォークダンス』
「いや、これは勝ちも負けもないやろ……」
「き、恭子のやつ踊っとる顔も凛々しいやんけ……」
これはさすがに勝負にならないかと思いきや、末原の踊る姿に見とれた洋榎が相手の足を踏んでしまい、審査員真瀬の判定による負けとなる。
以上、ハイライトなのよー。
ほかにもいろいろと種目はあったけど割愛させていただくのよー。
とりあえずふたりの勝ち数はだいたい同じくらいなのよー。
~
いよいよ残す種目は組対抗のリレーのみや。
恭子とうちはどっちもそれぞれ別のチームのアンカーとして走る。
「洋榎、もうキリがないんでこのリレーで決着をつけるで」
リレーのスタート位置に並ぶときに隣の恭子がそう言ってきた。
とはいえ脚の勝負では恭子に勝てる気がせん……こらもう万事休すか……。
「アホ。うちらの前走者をよく見てみ」
うちが負けを覚悟してどんよりした気分になっとることを察したのか恭子は、トラックの反対側にいる、うちらにバトンを渡すこととなる娘等を指さした。……なんや?
ああ!? うちの前走者は陸上部のエース山下さん(仮)!
それに対して恭子の前走者は名前も知らん、たぶん帰宅部の娘!
これは……。
「そうや。たぶん山下さん(仮)はうちの前の娘よりだいぶ速く洋榎にバトンを渡す。それをハンデにしたる」
ぐぬぬ……。
ハンデをもらわんと勝負にならんちゅうのは悔しいがまともにやったら負けるのは確実……。ここはありがたくハンデを受け取るしかあらへん。
「ふ、ふん! 後悔するんやないで恭子! 覚えとるやろな! 負けたらなんでも言うこときいてもらうで!」
そんな強がりを言うのが今のうちには精一杯や。
「ああ、わかってる」
ハチマキを結び直しながら恭子はクールにそう言った。
へっ、すかしおってからに。
今にみとれー!
~
そんなこんやでリレーがスタート。
うちと恭子のチーム入れて全4チームのレースは抜きつ抜かれつの割といい勝負で進んでいく。
けどそれもうちらの前走者にバトンが渡るまでの話やった。
うちの前走者の山下さん(仮)はバトンを受け取るや否やの急加速。
ものすごい勢いで後続を突き放しアンカーのうちへと迫ってくる。
はえ~……すっごいスピード……。
あっという間にうちのところまで辿り着いた山下さん(仮)からなんとかバトンを受け取ってうちは走り出す。
トラックを半周するだけの短いコース。
うちはそのコーナーの頂点、すなわちちょうど半分走ったところで他チームのバトンリレーを横目で伺う。
どうやら恭子はようやくバトンを受け取って走り出すところやった。
さすがの恭子もこの差を逆転することはでけへんやろ。
アホやな恭子!
ハンデなんて余裕ぶっこいてるからこんなことになるんや!
悪いけど勝たせてもらうで!
うちがそんなことを考えとるとはつゆ知らず、恭子は懸命に走る。
その目はいっさい諦めていない。
うちに追いつくことだけを考えた愚直なまでの走りやった。
そうか……。そうやった。
お前はいつもそうや。
うちとどんな差があろうといつも懸命に追いかけてくる。
そんなお前やからうちは……。
「うおっ!?」
足がすべった。
リレーと関係ないことをごちゃごちゃ考えていたうちの足を文字通りすくうかのように、左コーナーを曲がるために軸足として体重を預けていた左足が唐突にスライドした。
とつぜんのことにうちの身体は反応できず、たいした受け身をとることもままならずにそのまま激しく転倒した。
痛ったー!
い、いや。痛がっとる場合とちゃう。
はよ起きて走り出さんと恭子に追いつかれる……。
そう思って、身体を起こし立ち上がろうと左足をたてると……。
「痛っつ……!」
みると左膝の皿のあたりを派手に擦りむいとった。
皮膚に小石がめり込み血が垂れとる。
ちょっと動かすだけでも結構痛い。
アカン……。動けへん。
うちのそんな様子に会場がザワつく。
みると救護テントでは先生が担架とか用意し始めた。
ちょ、まっ、やめて!
こんなケガでそんなもんに乗せられてたまるか恥ずかしい!
「なにしとんねんお前……」
そんなことを考えとったら後ろから声がかかる。
振り返るとあきれた顔の恭子がいた。
あかん追いつかれた。もう終わりや……。
「ケガせんようにて言うたやろ」
「し、しゃあないやろこけてもうたもんは……」
言い訳らしい言い訳もできずモゴモゴ言うとるうちを見かねてか、恭子はひとつため息をつきながら、しゃがんでうちの左腕を自分の肩に回し、そのまま立ち上がらせた。
またも「キャー! スエヒロー!」とか声が聞こえるが気にしとられん。
「まったく。世話やかすで」
「すまん……」
うちを気づかいながら、恭子はゆっくりとゴールに向かって歩いていく。
そうこうしてるうちに残りのふたりのアンカーの娘たちも追いついてきてうちを気づかってくれたり声をかけてくれたりした。
会場からは暖かい拍手と声援が送られ、見守られるようにうちらはゴールした。
めっちゃ恥ずかしい……。
こういうのって傍から見ると美しい光景かもしれんけど、当人のうちからしたらただただ恥ずかしいだけやわ……。
みんなこんなうちを見んといて!
そこのおっちゃん写真とかやめてー!
~
うちはゴールしてすぐに恭子に肩を抱えられたまま保健室に連れてこられた。
手当するだけならホンマは救護テントの方が近いんやけど、傷口を洗った足洗い場が保健室に近かったから、そのままこっちに連れてこられた。
綺麗なシーツと消毒液の匂いがする保健室は電気を付けなくても窓から差し込む太陽だけで充分明るかった。
保険の先生も救護テントに行っとるから保健室にはうちと恭子のふたりしかおらん。
「これでよしっと。できたで、洋榎」
椅子に座ったうちの前に跪いた恭子は消毒液を塗ったうちの傷口にガーゼを貼り付けた。
「ああ、おおきに……」
「? どないした?」
うちの礼に覇気がなかったのが気になったのか、恭子はうちの前に膝をついたまま首をかしげる。
「転んだから落ち込んでんのか? 子供みたいやな」
「ちゃうわ!」
「それにしてもいきなしコケるやなんてらしくないな?」
「いや、それは……」
まさか恭子に見とれて転びましたとはとても言えへん。
うちが黙ってると、恭子は「まあええけど」とすぐに話を切った。
「勝負はうちの負けやな……」
「へ? ……ああ」
立ち上がり、手当てに使ったガーゼと消毒液を戸棚にしまっていた恭子は、一瞬キョトンとした顔で振り返ったが、すぐに合点が言ったのか少し笑う。
「同時にゴールしたやん」
「どう考えても負けやろ……手当までしてもろうて」
「べつにもうええて」
「いーや! この愛宕洋榎、一度言ったことは曲げへんで! たこ焼きでもなんでも奢ったるわ! なんでも言えや!」
「たこ焼き……? ようわからんけど……ホンマになんでもええんか?」
「くどいで! うちに二言はない」
こうなりゃもうヤケや!
オカンに土下座でもなんでもしておごったるわ!
「ふぅん……」
恭子は腕を組むと、なにか言いたげにこっちを見ては目をそらし、悩んどる。
なんや? たこ焼きかお好み焼きか、どっちにしよか迷っとんのか?
やがて恭子は、うちの目を見てるか見てないのか微妙な目の逸らし方をしながらポツリと言った。
「……なあ、パン食い競走のとき、どう思った?」
「パン食い競走?」
なんやとつぜん?
もしかしてパンが食いたいんか?
そういやあのあんぱんうまかったな。こしあんやった。
うちがわけがわからないという様子で首を傾げているのを見かねてか、恭子は座っとるうちの目の高さに合わせるように中腰の体勢になり、今度はまっすぐうちを見ながら言った。
「うちは」
「へ?」
恭子の顔がせまる。
な、なに?
「このまま、したいて思った」
なにを?
と、うちは言いかけたが塞がれた口はなんの言葉も発することもできんかった。
~
「……さて、私は閉会式に出てきますね。主将はここにいてください。その足じゃ無理でしょう」
「……」
うちはなにも言えず、立ち上がる恭子をぼけっと見つめたままやった。
「なんやかんやで今日は久々に楽しかったですよ、主将。ありがとうございます」
まるでなにごともなかったかのように、今日一日が夢やったんやないかと思ってまうほど、いつもの口調いつもの態度に戻った恭子。
丁寧に頭を下げた後、恭子は保健室の出口に向かう。
え……夢、ちゃうよな?
「あ、あの……恭子」
恭子の後ろ姿になんとか声を発する。が、振り返った恭子にすぐに遮られた。
やつはうちの目を見ずにまくしたてるように言った。
「文句は受け付けませんよ。なんでもいいっていったのは主将ですからね。……それに」
「私も初めてですから」
そう言って恭子はうちがなにか言うまもなくさっさと保健室を出ていってしまった。
夢やない……。
うちはなにもできず何も考えられずにしばらくぼーっとただそこに座っとった。
どれくらいそうしていたやろうか。
保健室のドアが開いた。
「洋榎ちゃん、ようすをみにきたのよー。だいじょうぶー?」
入ってきたのは由子やった。
「派手に転んだから心配してたのよー。……洋榎ちゃん?」
椅子にすわったままなにも言えないうちを妙に思ったのか、由子がうちの顔を覗き込む。
「うわ! 洋榎ちゃん顔真っ赤なのよー! 風邪ひいたのー?」
由子は驚きながら手をうちのおでこにあてる。
はは……真っ赤か。まあ、そやろなあ……。
「さっき恭子ちゃんも顔赤かったし、きっと風邪が流行ってるのよー! ふたりともベッドに寝かすのよー!」
……え、ちょ、ま。由子さん?
うちが止める間もなく、由子はうちを無理やりベッドに寝かすや否や保健室を飛び出して行き、やがて「い、いや、ゆーこ、だいじょうぶやから!」と嫌がる恭子を無理やり連れてきて、うちの隣のベッドに寝かしつけた。
こうしてうちのオカンが迎えに来るまでの間、うちと恭子はなにも喋れずただただ保健室の天井を見つめとった。
やがて迎えに来たオカンは、そんなうちらの様子を見て不思議そうに「……自分ら、なんかあったん?」と首を傾げたが、その後うちと恭子の『い、いやなにも!』と台詞をハモらせた様子に、察したとばかに頷いた。いや、なにをやねん。
超お久しぶりです。
私です。
例の私です。
さて、暮れも押し迫り、すっかり寒くなって参りましたが、盲腸炎などになっていませんか?
それにしても、もうすぐ私たちの誕生日ですね!
今年も例年のように、いちゃつくカップル共に履かなくなったスニーカーをぶつけて私たちの生誕を祝いましょうね。
うふふ。
ちなみに、のよーは末原も洋榎も呼び捨てですよ!
これからは気をつけてくださいね!
今度やったらまそはんの手の指をモンキーレンチで粉々に砕くのでそのつもりでいてくださいね!
それと、エイスリンが反日思想に目覚めて左翼活動家として活躍する話を早くお願いしますね!