アニメ版5話のすぐ後、クライブが終わった直後くらいのお話です。
おたえと有咲がちょっと仲良しになるようです。 






 うちの蔵でのライブ、通称クライブから数日たった。

 正式におたえが私たちのバンドのメンバーになってお昼もいっしょに食べるようになった。

 おたえは現在、膝の上に弁当をひろげて香澄となにやら楽しそうに話している。

 まったく香澄のやつ、最近おたえにばっかり構いやがって……。

 ……いやべつにさみしくなんかねぇし!

 

 「えー! おたえの家てそんなにうさぎがいるのー!」

 

 香澄が驚いている。

 どうやら話題はおたえが飼ってるうさぎの話になったようだ。


 うさぎかぁ……。

 私も猫とかは好きだけど、うさぎは飼ったことないしピンとこねえんだよなぁ……。

 

 私がぼんやりとそんなことを考えていると、不意におたえと目が合った。

 

 「……」

 

 な、なに?

 おたえはなにやら意味ありげな目でこっちをじっと見てたかと思うと、すぐに目をそらした。

 こっちが首をかしげても、おたえは気にすることもなく香澄達との会話を続けている。

 意味ありげに見えたのは気のせいだったのか?

 そのときはそう思ったけど、その日の放課後、おたえが私を呼び止めた。

 

 「有咲、今日うちにこない?」

 

 え。

 な、なんで?

 

 「なんででも。だめ?」

 

 いや、だめじゃねえけど……。

 香澄達も呼んでんの?

 

 「いや、有咲だけ」

 

 なんなんだよ一体……。

 

 「いや……?」

 

 いや、嫌じゃねえけど。

 ていうか、ちょっと寂しそうな顔すんなよ。行けばいいんだろ行けば。

 

 断ろうかと思ったけどおたえの妙な強引さに負けて結局行くことになった。

 

 〜

 

 おたえの家に向かう途中も、おたえに変わったところは特になく、いつも通りだった。

 ていうか、おたえのいつも通りを知るほどおたえのことを知ってるわけじゃないからなんともいえないけど。

 ……それにしても、ちょっと気まずい。

 私もおたえも自分からペラペラ喋るほうじゃないし、そもそもふたりきりになるのこれが初めてなんだよな……。

 

 微妙な沈黙に耐えかねた私は、どうして今日私だけを家に誘ったのか聞いてみた。

 

 「有咲にうさぎの魅力を知ってもらおうかと思って」

 

 は?

 

 「お昼ご飯のとき有咲がうさぎのかわいさを知らないような顔してたから」

 

 こっわ。

 心読んでんじゃねぇよ。

 エスパーかよお前。

 でも、確かにうさぎは飼ったことはないけどかわいさを知らないってわけじゃないし、わざわざ家に呼んでもらうほどじゃ……。

 

 「いや、有咲はまだうさぎのポテンシャルをぜんぜん理解できてない」

 

 いや意味わかんねえし。

 

 「今日は有咲の身体にうさぎパワーを刻み込んであげる」

 

 うさぎパワーてなんだよ……。

 

 

 〜

 

 

 なんだこりゃあ!

 

 おたえの家に到着し、おたえのお母さん(おたえに似た美人だった)への挨拶もそこそこに「ここ、うさぎの部屋」と奥の部屋に通された私は入るなり驚いた。

 

 その部屋には、うさぎ、うさぎ、うさぎ……。とても全部は数え切れないけど少なくとも10羽以上、20羽前後のうさぎが所狭しと動き回っていた。

 

 「みんな、ただいま」

 

 おたえが部屋に入ったきたことに気づいたのか、大量のうさぎ達は押し寄せるようにこちらに近づいてきた。

 おたえはうさぎの名前を呼びながら1羽1羽抱き上げたり、撫でたりしている。

 うさぎ達もそんなおたえに甘えていた。

 へえ〜、うさぎってあんなに人に懐くんだな……。

 ていうか、うさぎが私の傍にも集まってきた。

 いや、私は抱っこしたりできねえし!

 タイツを引っ掻くなっての!

 

 「ほら、有咲。私の彼」

 

 初めて触れるうさぎに私がワタワタしているとおたえが1羽のうさぎを抱いてこちらに向けてきた。

 あれ? こいつはたしかクライブの時におたえが連れてきてた……。

 

 「うん、オッちゃんだよ。抱いてみて」

 

 ええ……。大丈夫かよ。

 

 「大丈夫。噛んだりしない」

 

 私は恐る恐るうさぎを受け取る。

 意外にもオッちゃんは大人しく、膝に載せると黙って鼻をヒクヒクさせていた。そのまま頭を軽く撫でてやると嬉しそうにブーブーと鳴いた。

 ……ちょっとかわいいじゃねえか。

 

 「かわいいでしょう」

 

 おたえがドヤ顔で尋ねてくる。

 ま、まあな。

 

 「食べちゃいたいでしょう」

 

 いや、食べたくはないけど。

 なに、こいつら非常食……?

 

 

 〜

 

 

 「有咲はさ。ピアノやってたんだよね」

 

 だいぶうさぎにも慣れてきたころ、おたえがおもむろに口を開いた。

 そうだけど。なんだよ、藪から棒に。

 

 「私も昔ピアノやってたんだ」

 

 そうなのか。

 あー、そういえばそんな話してたっけ。

 通ってたピアノ教室のとなりでギター弾いてた人がいて、その影響でギター始めた……んだったっけ?

 

 「そう。だから私がもしギターじゃなくてピアノ続けてたら、今ごろ有咲とポジション争いになってたかも」

 

 ポジション争いて、部活かよ……。

 私はおたえがピアノやキーボードを弾いている様子を想像してみる。

 今うさぎを撫でている細くて長い指を鍵盤の上で踊らせるおたえ。

 めっちゃうまそうだし似合いそうだ。勝てる気がしねぇ……。

 よかった、おたえがギター始めてくれて。

 

 「うん。私も有咲のお弁当に毒を混ぜたり、シューズに画鋲を入れたりしないですんでよかったよ」

 

 こえぇよ!

 ポジション争いてそういうのかよ!

 蹴落とす気満々じゃねえか!

 

 「そもそもギターをしてなかったら有咲たちとバンドすることもなかったんだよね」

 

 まあな……。

 

 「だから、ギターをやっててホントによかった」

 

 そう言って無邪気に笑うおたえの顔を見てると、なんとなく気恥ずかしくなった私は思わず視線を落とす。

 と、ちょうどそこにオッちゃんがいた。

 オッちゃんは何度か前足をパタパタと振ると、まるで髪の長い女性が髪を梳くかのように、その長い耳を上下に洗っていた。

 それが終わるとそのまま両前足で顔をゴシゴシと洗う。

 やがて綺麗にし終わったのか、オッちゃんは満足そうにブーブーと鳴らした。

 

 か、かわいい……。

 うさぎってこんな仕草もすんのか。

 思わず私が見とれていると、おたえがニコニコしながらこちらを見ていた。

 はいはい、うさぎかわいいですよ……。

 

 「有咲、かわいいね」

 

 はぁ!?

 う、うさぎじゃなくて私かよ。

 

 「うん、有咲かわいい。うさぎみたい」

 

 やっぱりうさぎじゃねえか!

 わけわかんねぇよまったく……。

 

 〜

 

 やがて、おたえのお母さんが晩御飯ができたことを告げにきた。

 うさぎと遊んでいたら、けっこう時間がたっていたらしい。

 

 「有咲、晩御飯食べていくでしょう?」

 

 ホントは人の家でご飯食べるのちょっと苦手なんだけど、今日の私はなぜかそんな気分にはならず、大人しく頷いた。

 そういやここに来る途中おたえとの間に感じていた気まずさもいつの間にか感じなくなってるな……。

 

 部屋を出る直前、おたえが振り返り私に言った。

 

 「有咲。うさぎの魅力、わかった?」

 

 ……まあな。

 確かにうさぎのかわいさは、よーくわかったよ。

 

 「よかった」

 

 おたえは嬉しそうに笑った。

 

 ……まあ。

 わかったのはうさぎの魅力だけじゃないけどな。

 

 「? なにか言った?」

 

 な、なんでもねえよ!