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洋榎ちゃん(小5)に友達ができるようです。

 


 セーラと泉が清水谷なんちゃらってやつと試合しにどっかの小学校へ行くらしい。

 もの好きな奴らやで。

 もしそいつがホンマに少しでもできるやつやったとしても、うちらが楽しめる程とはとても思えん。

 ま、言うてもうちが行かへんかったのはそんな理由ちゃうんやけどな……。

 うちの名は愛宕洋榎。小学5年生。

日本麻雀プロ、愛宕雅江の娘。

 麻雀界期待のサラブレット。

 強くて当たり前の存在。

 プロのレッスン受け放題のずるいやつ。

 ……どうやら世間の奴らからはそういうレッテルを張られとるらしい。

 まあべつにええんやけどな。

 オカンから教えてもらっとるのも嘘ではないし。

 自分でも才能がある思うし。

 そら周りのやつらからしたらおもろないんやろ。

 セーラは庇ってくれるけどな。

 でもうちホンマはセーラがああいうやつらの言うことにいちいち反応して怒ったり、自分まで嫌われ者になっとる方が嫌やねん。

 あいつのはうちのことなんか気にせず素直に麻雀を楽しんでほしい。

 つまらん思いをするのはうちだけで十分や。

 ……まあホンマのホンマを言うと、うちも気楽に楽しく麻雀したいんやけどな。

 

 オカンが迎えに来るのは夕方になってかららしい。

 セーラには忙しい言うて断ったけど、実はなんも予定ないねん。

 てことはうちは今日一日街でひとりで過ごさなあかんちゅうわけや。

 アカン、暇や……。ごっつ暇や……。

 街をひとりプラプラ歩くのも飽きてきたな……

 せや、あまりに暇やからその場でグルグル回ったろ!

 うちグルグル回った後のこのフラフラする感じが好きやねん。

 とか思ってたら通りすがりのおっちゃんにぶつかって怒られた。

 ごめんやでおっちゃん。

 しかし一回どつかれたくらいでやめるほど、この愛宕洋榎は弱ないで!

 おっちゃんが立ち去ったのを見計らって再度グルグルする。

 と思ったけど、アカン……回り過ぎてホンマに気持ち悪うなってきた。

 うちは思わずよろめいてしまう。と、そのよろめいた先に人がいるのに気が付いた。

 しかもうちと同じくらいの小学生や。

 アカン、ぶつかる。

どしーん。

 なすすべなくうちとそいつはぶつかった。

 うちは地面にしたたかに尻を打ち付けた。アカン尻が割れる。

 どうやらむこうも尻もちをついたらしく、痛そうに尻をさすっている。

 すまんなあ自分、だいじょうぶか?

 ぶつかったのはこっちなので先に謝る。

 すると痛そうにうつむいていたそいつは顔を上げ、こっちをにらんできた。

 うお、目つき悪ぅ……。

 

 「まったく、すまんで済んだら警察はいらんやろ。こんな道端でコマみたいに回りよってからに。頭のネジ抜けとるんちゃうか?」

 

 ぐぬぬ。

 チビな癖に口の悪い奴やな。

 でも悪いのはこっちやらか言い返せへん。

 と、そいつの手を見ると擦りむいて血が出とる。アカン手当せんと。

 

 「え? いやええよ、このぐらい。うちこれから図書館で勉強せなアカンし」

 

 そういうわけにはいかんやろ。ええからこい。

 うちは文句を言うそいつの手を引っ張って近所の公園へと向かった。

 

 

 公園の手洗い場でそいつの手を洗ってやる。小さくて冷たい手やった。

 いちおう奇麗にはなったけど後から微妙に血がにじんできとったから、うちが持ってたハンカチを包帯代わりに巻いてやった。

 

 「すまん、おおきに……

 

 そいつはおずおずと礼を言う。

 いや、悪いのはこっちやから礼なんていらんのやけどな。

 こいつ口は悪いけど性格は悪くなさそうや。

 

 「なあ……ところで、さっきから気になっとったんやけど」

 

 ん? なんや?

 

 「お前の服、なんで後ろに星て書いてあるんや?」

 

 へ? ああ……

 確かにうちが今着てるパーカーの背中にはでかでかと星の字が書かれている。

 これはセーラと二人で作ったうちらの通り名「凶星」の星や。

 ちなみにセーラの背中には凶の字が書いてある。

 そのことをそいつに伝えると、驚いたようにそいつの目が見開かれた。

 

 「まがつぼし……。な、なんやカッコええな……」

 

 どうやらこいつにはうちらのセンスが理解できたらしい。

 せやろー、カッコええやろー。

 

 「それにはどうやったら入れるんや?」

 

 どうやらこいつはうちらの仲間に入りたいらしい。

 凶星はうちとセーラの通り名やし、ほかの奴をいれるつもりなんかないんやけど、なんとなく無下に断るのも悪い気がした。

 そやなぁ、うちらと同じくらい強なったら入れたってもええで。

 

 「強い? 喧嘩でもするんか?」

 

 ちゃうちゃう。麻雀や

 

 「麻雀?」

 

 せや麻雀や

 

 「麻雀て……なんや?」

 

 なんとこいつ麻雀を知らんらしい。

 世界の麻雀人口は10憶人を超えたんちゃうんかい。

 とりあえずうちはその辺に落ちてた木の枝で地面に牌や点棒の絵を描き、麻雀のルールをざっくりと説明してやった。

 でも結構複雑やからそんな簡単に覚えられるわけないけどな。

 

 「なるほど……この牌ていう四角い物を順番に引いてトランプのポーカーみたく役を作って点数を競うんやな」

 

 まさかの理解できたらしい。

 こいつ賢いな。

 

 「でも、今聞いた限りやとこのゲームちょっと運の要素が多すぎひん? 強いも弱いもあるんか?」

 

 鋭い。

 確かに麻雀はどんなに強いやつでも、どんなに上手い打ち方をしても初心者のツキにあっさりと負けることもある競技や。

 それでもちゃんと研究をして効率よく打てるようになれば、それだけ勝つ確率だって上げることができる。

 

 「ふうん……」

 

 そいつは頷いて、しばらく考えるように黙り込んだ後、ポツリと言った。

 

 「うちでも……強くなれるかな?」

 

 「なれると思うで」

 

 うちはためらいなく返事をした。

 さっきの説明をあっさりと理解したところを見るに、こいつは賢い。

 麻雀は頭が良くないと強くなれん競技や。

 しかしそいつはうちの返事にも心配そうな顔を崩さない。

 後ろ向きというか用心深い性格なんかな。

 

 「うち、今まで勉強ばっかで競技とかなんもしたことないんやけど、それでもか……?」

 

 「なれるて」

 

 うちが頷くと、そいつはようやく笑顔になった。

 最初は目つき悪いとか思うたけど、笑うとなかなかかわええやないか。

 

 それからしばらくうちはそいつに麻雀の話を聞かせてやった。

 世界で活躍してる麻雀のプロの話やら、うちの過去の名勝負の話やら。

 他愛も無い話やったけど、そいつはうちを見つめながら熱心に話を聞いていた。

 でも、結局最後までうちがプロ雀士の娘であることは言えへんかった。

 せっかく友達になれたこいつに、万が一にも嫌われたくはなかったから……。

 

 

 「あっ!」

 

 そいつは不意に声をあげる。

 視線は公園の真ん中にある時計台に向いていた。

 これから用事か?

 

 「う、うん。塾の時間なんや」

 

 そか。もうちょっと話したかったけど、時間ならしゃあないな。

 そいつは名残惜しそうに視線をさまよわせ、やがて言った。

 

 「なあ、うち、麻雀やってみるわ」

 

 それがええわ。お前なら絶対強くなれるで。

 うちがもう一度言うと、そいつは嬉しそうにはにかんだ。と思ったら、突然うちの手を握った。

 さっき手当してやった時と違い、うちが巻いたハンカチ越しでもわかる、熱い手やった。

 それにつられたんか、うちの顔もなぜか熱くなった気がした。

な、なんや?

 

 「うち、強くなる。あんたみたいに強く。せやからその時は絶対あんたの仲間にしてや」

 

 うちは思わずたじろいだ。

 まっすぐな瞳。

 強い意志のこもった言葉やった。

 うちは頷く。

 せやけど麻雀は簡単やない。

 いろいろ難しいことや苦しいこともあるやろけど、メゲたらアカンで?

 

 「ああ! うち頑張るわ!」

 

 そう言ってそいつは公園の外に向かって駆けていった。

 最後にもう一度振り返り「約束やで!」そう言って去っていった。

 

 そいつの背中が見えなくなるまで振っていた手を下ろしてから、うちは気が付いた。

 あいつの名前を聞いてへんし、うちの名前も教えてへん。

 せっかく友達になれたのに、あいつに会う方法がない。

 しばらく愕然と立ち尽くしてしまったが、すぐに思いなおす。

 まあええわ。あいつがホンマに強くなったら、嫌でもうちの前に現れるやろ。

そん時あいつはうちのことをどう思っとるやろか。

ほかのやつみたく、うちをずるい奴やと思っとるやろか。

……いや、そんなことはどうでもええか。

あいつが最後に見せた、まっすぐな眼。

強くなりたいと純粋に願う強い眼やった。

あいつがホンマに強くなれたらええな。うちが思うのはそれだけや。

そしてそん時は、約束通りあいつと仲間になれたらええな。

次にあいつに会った時にうっかり追い越されてへんようにうちももっと強くなっとかんと。

ま、今日のところはセーラの清水谷なんちゃらについての土産話でも聞いとくか。

うちはそんなことをぼんやりと考えながら夕暮れを歩いた。