以前pixivに投稿した末洋です。

いつもと違い小説風のため地の文ありです。

ちなみに最後のシーンでこのふたりが同じチームに入ってるのは、べつに恋愛関係とかそういうわけではなく、一度このふたりには同じチームでやってみてほしいという個人的な妄想と、あと竹〇久の転んでもただでは起きない感じを出したかったからです。

 





 「洋榎の様子が変やて?」

 

 そうなのよー。と、由子は答えてから、ずずずっとマクドシェイクを吸った。

 私は広げたノートの上でシャープペンをクルクル回しながら鼻で笑う。

 

 「あいつはいつも変やろ」

 

 「いや、そういう変じゃないのよ」

 

 季節は秋。

 私たちは麻雀部を引退してからというもの受験勉強に勤しんでいた。

 この日も私と由子は近くのファーストフード店で参考書とノートを広げつつ、合間に休憩という名のお喋りに興じている。

 

 「じゃあどういう変やねん」

 

 「うぅん……なんていうか、コソコソしてるのよー」

 

 「コソコソぉ?」

 

 これは驚きだ。

 あのいくらスベっても、ない胸を張り続ける愛宕洋榎がコソコソとしているそうだ。

 

 「恭子ちゃんはなにか気づいたことはないのよ?」

 

 「そうは言うてもなぁ、うち最近あいつとあんま絡んでへんし」

 

 それぞれの志望大学を受験する私たちと違って、洋榎は数ヶ月後に控えたドラフトに指名されることがほぼ確定している。

 勉強漬けの私たちの傍にそんなお気楽な自分がいるのは不味いという気遣いなのか、洋榎は前に比べると私たちと少し距離を置いていた。

 だからといって別に仲が悪くなったとかそういうわけでもなく、クラスで喋る時には普通に喋る。

 ただ、放課後や休み時間に一緒にいる時間を減らしたというだけの、一種の暗黙の了解というやつだ。

 今日も洋榎は放課後になるや否や、絹ちゃん率いる新姫松麻雀部を指導するために部室に行っているはずだ。

 

 「ちょっと暇があったら調べてみてほしいのよー」

 

 「べつにええけど。由子じぶんで調べてみたらどうや?」

 

 なんの気なしの私の問いだったが、由子は妙に意味ありげな視線でこちらをじっと見つめた後言った。

 

 「恭子ちゃんの『主将 』でしょう? 恭子ちゃんがなんとかして」

 

 「……なんやそれ?」

 

 首をかしげる私だったが、由子は素知らぬ顔でシェイクを啜るのみだった。

 よくわからんけど、調べてみることに私もやぶさかではない。

 コソコソする洋榎ってのも見ものやしな。

 

 

 〜

 

 

 後日、私は麻雀部の部室を訪れていた。

 目的はもちろん絹ちゃんに会うためだ。

 洋榎の現況を知るならば絹ちゃんに聞くのがベストだろう。

 

 「お姉ちゃん、最近スマホがなる度にビクビクしてるんです」

 

 ビクビクぅ?

 コソコソの次はビクビクかいな。

 

 「どうやらLINEで誰かとやりとりしてるみたいで」

 

 「相手はわからんの?」

 

 「それが、聞いても教えてくれないんです」

 

 それは妙やな。

 私や由子が相手のやりとりやったら隠す必要なんかないやろうし、そもそも洋榎はそこまでLINEを積極的に使わへん。直接会える人間に言いたいことは直接言う奴や。

 ……となるとLINEの相手は直接会うのは難しく、なおかつ向こうからLINEを送ってくるほど積極的な相手、やろうか。

 そういえばインターハイが終わった後、何人か洋榎とLINEのID交換しとった奴がおったな……。

 

 「……絹ちゃん、ちょっと頼みたいことがあるんやけど」

 

 「はい?」

 

 

 〜

 

 

 数日後の土曜日。

 私のスマホに着信があった。

 絹ちゃんからだ。

 

 「末原先輩、お姉ちゃんが出掛けました」

 

 「どこにいくて?」

 

 「駅に行くとだけ、理由は教えてもらえませんでした」

 

 絹ちゃんには洋榎に妙な動きがあったら連絡してくれと頼んでおいたのだ。

 洋榎があの仲良しの絹ちゃんに理由も告げず出かけていく、これは怪しい。

 

 「充分や。ありがとな絹ちゃん」

 

 私は礼を言ってから通話を切り、素早く身支度を整えた。

 

 

 〜

 

 

 休日の駅前は大勢の人でごった返していた。

 それでも私は駅周辺を粘り強く張り込むことで見慣れたポニーテールを見つけた。

 洋榎は改札口前の少し手前で立ち止まり、そのまま腕を組んでソワソワしている。

 明らかに誰かがやってくるのを待っている様子だ。

 私は見つからないように駅の柱の影から様子をうかがうことにする。

 やがて、電車から降りてきた人々が改札口から次々と出てくる。と、そこに私の知った顔がいることに気がついた。

 そいつは洋榎の姿を見つけると手を振り近づいていく。

 洋榎も手を振り返しそいつを迎える。

 やはり洋榎はこいつと会う約束をしていたらしい。ふたりは短く言葉を交わすと並んで歩いてゆく。

 私は後をつける。

 

 

 

 〜

 

 

 「主将、こんなとこでなにしとるんですか」

 

 ごった返していた駅から少し離れた静かな通り。そこで私はふたりの後ろ姿に声をかけた。

 わざと冷たくした声色に洋榎の体がビクンッと反応する。

 

 「き、恭子……!? なしてこないなとこに?」

 

 隣のやつと一緒にいるところを見られたくなかったのか、洋榎は明らかに動揺している。

 なるほど、たしかにコソコソビクビクな洋榎や。めずらしいもん見れた。

 そういう点では感謝するが、洋榎がここまで動揺するということは、ただ洋榎と遊びに来たというわけではないのだろう。

 私は洋榎の隣にいるやつに真意を聞くべく視線を向けた。

 

 「あら、偶然ね末原さん。お買い物かしら」

 

 洋榎の隣にいた人物、竹井久は私が突然現れたことにさして驚いた様子もなく、とぼけるようにそう言った。

 

 「久しぶりやな、竹井。あんたこそ大阪観光かいな」

 

 こっちもとぼけ返してみる。

 竹井はふふっと面白そうに笑うと口を開きかける……が、洋榎が私たちの間に割って入った。

 

 「そっ、そう! かんこう、観光なんや! 久が大阪に来るいうからうちが案内したろー、思ってな!」

 

 ワタワタと説明する洋榎。

 明らかに嘘である。

 そんな洋榎と、私の表情をみて誤魔化しきれないと踏んだのか、竹井はため息のように少し息をついた

 

 「いいわ、洋榎。私が説明するから」

 

 「せやけどな久……」

 

 なおも誤魔化そうとする洋榎を竹井は制して言った。

 

 「じつはね、洋榎と大事な話をしに大阪まできたの」

 

 「……大事な話?」

 

 「ええ。でも、そうね。せっかくだから末原さんにも聞いてもらった方がいいかしら」

 

 でもここじゃなんだから、といって竹井は私たちの後ろに見えるファミレスを指さした。

 

 

 

 

 〜

 

 

 

 

 「んー、おいしー」

 

 ファミレスに入ってからも竹井はすぐに話を始めようとはしなかった。

 それどころか「お腹すいたしなにか食べましょ」といってメニューを開き始め、結果今はカルボナーラを食べている。

 私は竹井の向かいの席でドリンクバーのコーヒーを啜りながらその様子を伺っていた。

 フォークで麺を絡めとる優雅な仕草と口に運んだあとの無邪気な笑顔。

 なるほど、確かに竹井久は私ですらこんな話し合いの場などではなく純粋に共に食事を楽しみたくなるほど魅力的にみえる人間のようだ。

 

 「末原さんも食べる?」

 

 竹井は私の視線に気づいたのか、カルボナーラを巻き付けたフォークをこちらに向けながら言った。

 なるほど、意識的にか無意識的にか知らんが、こいつはこんな感じで人を籠絡するわけやな。

 竹井が女たらしちゅう噂はホンマのようやな。

 

 「いらん」

 

 でも残念やな。

 私はそんな簡単に丸め込まれへんで。

 竹井は「つれないわねぇ」と言って肩をすくめた。

 私の隣に座る洋榎はそんな竹井と私をビクビクと交互に見ながらいちごパフェを口に運んでいる。

 お前こんな状況でよくそんな浮かれたもん注文できたな。

 

 

 〜

 

 

 「洋榎には私のチームに来てもらおうかと思ってるの」

 

 「……は?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまった。

 竹井と洋榎がそれぞれ食べ終わり、私が2杯目のコーヒーを飲み終わりそうな頃、竹井は食後の紅茶を啜り唐突に切り出した。

 

 「私ね、大学で新しくチームを作ろうかと思っててね、いろんな娘に声をかけてまわってるの。洋榎にはそこのエースになってもらう予定よ」

 

 「……どういうことや?」

 

 私は思わず洋榎の方を向き直るが、洋榎はメニューで顔を隠している。いやなにしとんねんお前。


「……なんのためにそんなことを? わざわざそんなことせんでも、お前やったらいくらでも入ってくれて頼んでくる強豪大学はあるやろ」

 

 「ええ、まあね。実際いくつかスカウトもきたわ」

 

 「やったら……」

 

 「でもね、末原さん……。私の特性って知ってる?」


 私の脳裏にインターハイ準決勝の時の竹井の姿が思い浮かぶ。

 あの風神と愛宕洋榎を同時に相手にした大立ち回り。

 

 「……悪待ち、か」

 

 「そ、ただ単純に強いチームに自分がいくよりも、いっそ新しく作った方が私の性に合ってそうだし、なにより……」

 

 「おもしろい、って思ったからよ」


 竹井の眼が一瞬するどくギラついたように見えた。

 冗談ではなく本気で言ってるのだ。

 

 「その悪待ち人生に洋榎が手を貸すメリットはなんや? ドラフト候補なんやぞ」

 

 「ええ、もちろん知ってるわ」

 

 「じゃあ竹井のチームに入るのは無理やん」

 

 「あらどうして?」

 

 竹井は不思議そうに小首を傾げる。

 その様子もまた小憎らしいほどかわいらしい。

 

 「いや、どうしてって……」

 

 「べつにドラフトで指名されたからって必ずプロ入りしなきゃいけないわけじゃないでしょう? 実際、指名されたけど大学や社会人でプレーしてからプロに入り直す選手だってごまんといるわ」

 

 いや、そりゃまあそうやけど。

 

 「でもそれはそっちの方がそれなりのメリットがある場合で……」

 

 なんとか反論しようとするが途中で竹井に割り込まれてしまう。

 

 「末原さん。洋榎が世間から、いえ、プロからどういう目で見られてるか知ってる?」

 

 「どういう意味や?」

 

 私の問に、竹井はスマートフォンを取り出して操作し、私に見せてきた。

 それはどこかの麻雀評論家が今年のドラフトについて語っている記事であった。洋榎のことも載っている。

 

 「これは……」

 

 竹井は頷く。

 記事の内容を要約するとこうだ。

 洋榎は高校入学当初からプロ入りを期待されていた逸材である。そのため高校でも活躍するだろうと言われていた。

 しかし、終わってみればインターハイではベスト8が最高で、しかも自身はチームの伝統とはいえ中堅を務めていた。

 確かに個人としての成績はいいが、それは対戦相手にめぐまれただけではないか。早い話が格上には通用しないんではないかという疑問を持たれている。

 そのためか、洋榎は『 プロ入りできる実力はあるが上位指名するほどの選手ではない』とプロ側には評価されているらしい。

 

 「……プロの目も節穴やな」

 

 「ええ、私もそう思うわ。でもこんな評価をされていることは事実なの。このままじゃ洋榎は下位指名だわ」

 

 確かにこのままでは洋榎は不当な評価をされたままプロ入りすることになる。

 しかしだからと言ってそれが竹井の作るチームに入る理由になるだろうか?

 

 「でも末原さん。もし私と洋榎が新しくチームを作って大学の麻雀リーグで優勝でもしたらどうなると思う?」

 

 「……凄まじく評価されるやろうな」

 

 「そう。しかもそこでエースを務めていた洋榎には特に注目が集まるでしょうね。そうすれば大学を卒業するころにはこんな評価を覆して、洋榎は晴れて上位指名でプロに行けるってわけ」

 

 「洋榎にとっても悪い話じゃないはずよ」

 

 竹井の話を聞き、私は黙って考え込んでしまった。

 そんな寄せ集めの新チームが都合よく簡単に優勝できるわけがない、と切り捨てることもできる。しかし目の前にいるのは竹井久なのだ。

 清澄というなんの実績もないチームを全国大会に出場させ優勝させるという離れ業を実際に成し遂げてしまった人物なのだ。

 そんな女が作り上げたチームで愛宕洋榎が戦う。

 全国大会優勝ぐらい成し遂げてしまうかもしれない。

 それどころかどんなところまででもいけそうな夢を感じてしまう。

 プロからの評価を上げるなどとそんな理由がなくとも、賭けてみたくなるロマンを感じてしまうのだ。

 くやしいが目の前の竹井久にはそんなカリスマ性があった。

 

 「……その話を聞いて洋榎はどう答えたんや?」

 

 これは竹井と洋榎両方にした質問だったが、答えたのは竹井だった。

 

 「洋榎とはLINEや電話で連絡を取り合ってたけど、その時は『おもしろそうやな 』『 うちも協力したいわ』って言ってたわ」

 

 私は素早く洋榎の方を向き直り睨みつける。が、洋榎は私の視線から逃げるように机の下に避難していた。いやほんまええ加減にせえよお前。

 

 「でも、ハッキリとした答えはしてもらえなかったから、今日直接ここにきて答えをもらおうと思ってたの」

 

 「……なるほどな。竹井、お前の話はわかったわ」

 

 私は深く頷く。

 確かに洋榎がプロに低く評価されているのは確かだし、竹井と洋榎が同じチームになることにはメリットも夢もある。

 洋榎がやぶさかでないなら私に言えることは無い。

 

 「でもな、そんな話はお断りや」

 

 私は竹井の目を見てハッキリとそう言った。

 竹井はしばらくきょとんとしていたが、やがて少し苦笑する。

 

 「お断りって……決めるのは洋榎でしょう?」

 

 「その通りや。でもな竹井、お前は洋榎の目標を知っとるか?」

 

 「……洋榎の目標?」

 

 「愛宕雅枝プロや」

 

 「それって……洋榎のお母さん、よね? 千里山の監督の」

 

 「ちょ!? 恭子!」

 

 洋榎があわてて机の下から飛び出してきたが、その頭を抑えて私は続けた。

 

 「そうや。……洋榎は普段は雅枝さんのことをめったに口にせん。褒めることなんてほぼない」

 

 「でも洋榎は、ずっと雅枝さんに憧れとったんや」

 

 洋榎は本当は姫松ではなく雅枝さんのいる千里山に入ろうとしていた。しかし、雅枝さんは洋榎が高校に入る年の特待生には江口セーラを選んだ。

 洋榎はそれをずっと気にしていた。

 憧れている母に選ばれなかった。

 その事実から逃げるように姫松に入学した洋榎は、母のいる千里山と母に選ばれた江口セーラをより一層意識するようになり、見返すかのように決して遅れをとることはなかった。

 そして、かつて母が活躍したプロの舞台へ一刻も早く上がれるよう勝利を積み重ねてきたのだ。

 守りの化身、愛宕洋榎。

 何時いかなる時も隙をみせないその打ち筋は、決して失敗をせず目標である母への最短距離をひた走るための彼女の決意の表れだったのだ。

 

 「確かにプロからの評価は低いかもしれん。下位指名になるかもしれん。でも洋榎にはそんな前評判なんか覆せる実力と決意があるはずや……やから、洋榎は一刻も早くプロにならんとあかんねん」

 

 「やから……洋榎の夢を邪魔せんでやってくれ。頼む」

 

 

 〜

 

 

 

 私の話を聞き終えた竹井は神妙な顔つきで洋榎の方に向き直る。それはこの日初めて竹井が見せる表情だった。

 

 「今の話は本当なのね? 洋榎」

 

 竹井に聞かれ、それまで俯き黙り込んでいた洋榎は、ばつが悪そうに口を開いた。

 

 「……すまん、久。お前のやろうとしてること、おもしろそうやと思ったし、協力したいて思ったのもホンマや」

 

 「でも、やっぱりうちはプロに行きたい。……曖昧な態度をとってこんなとこまで来させて本当にすまんかった」

 

 そう言って洋榎は頭を下げる。

 それを見た竹井は諦めたようにゆっくりとため息をついた。

 

 「いいのよ。洋榎、頭を上げてちょうだい」

 

 「ホントはね。今日断られるんじゃないかなって思ってここまで来たの」

 

 「え?」

 

 「だって洋榎、私が新チーム作るって誘ったら本当に嬉しそうにしてたのに、なかなかハッキリと返事してくれなかったんだもの。これはなにか深い訳があるんだろうなぁって」

 

 「でも末原さんの口から本当の理由を聞けてスッキリしたわ」

 

 「……すまん」

 

 再度謝る洋榎に竹井は「いいってば」と手を振る。

 

 「私ね、洋榎が少し羨ましくなっちゃった」

 

 「羨ましいて?」

 

 「だって、こんなに洋榎のことを思ってくれる人がいるんだもの。普通、いくら友達だからって人の進路にここまで必死にならないわよ」

 

 そう言って竹井は楽しそうに笑った。

 言われてみれば、なんで私はこんなに必死になってしまったのだろうか。

 顔が火照るのを感じた私は曖昧に笑って誤魔化す。

 見れば洋榎も似たような顔をしていた。

 そんな私たちを見て満足そうに微笑んだ竹井は鞄を持って立ち上がる。

 

 「さて……それじゃあ私はもういくわね」

 

 「そうか、じゃあここの支払いはうちが……」

 

 お詫びのつもりか、そう言って伝票を取ろうとした洋榎よりも早く竹井がとった。

 

 「ここは私がもつわ。いいものも見せてもらったしね」


 「なんやねん? いいものて」

 

 私の問いに竹井は振り返る。

 

 「ふたりの絆、よ」

 

 そう言って竹井はウインクをした。

 

 「また会いましょう。洋榎、末原さん」

 

 竹井がいってしまい、後に残された私と洋榎の間にはなんとも気恥ずかしい沈黙が流れるのだった。

 

 

 

 

 〜

 

 

 

 

 「……迷惑やったか?」

 

 私たちがファミレスから帰る頃には、もう日が傾いて空が赤く染まっていた。

 横を並んで歩く洋榎に私は尋ねる。

 

 「……なんのことや?」

 

 「お前、ホンマは竹井のチームに入ろ思っとったんやろ?」

 

 私のその問いにしばらく洋榎は答えなかった。

 が、やがて口を開く。

 

 「あいつは本気やったからな……。一緒にやってみたくなって、迷うてしもうたのもホンマや」

 

 「誰かに相談しよか思ってたんやけど……結局言い出せずにズルズルしてしもうた」


 「めっちゃ挙動不審やったらしいやないか。由子や絹ちゃんが心配しとったで」


 「そか……今度ちゃんと謝らんとな」


 そう言って洋榎は力が抜けたように笑う。

 だがすぐに真剣な顔つきになりこちらに向き直る。

 

 「でも、今日は断るつもりやったで」

 

 「……ホンマか?」

 

 「ホンマや」

 

 その洋榎の台詞が嘘か誠かは判断出来なかった。

 しかし、そのときの洋榎の顔は昼間のビクビクしたものではない。

  

 「さっきの恭子の言葉のとおりや。久には悪いが、うちに寄り道しとる時間はない」


 そう言い切る洋榎の顔は、いつもの、強い愛宕洋榎の顔であった。

 

 「そうか……」

 

 「そんならよかったわ。実は申し訳なく思ってたんや。人の進路に勝手に口出すなんてどう考えてもマトモやないもんな」


 そう言って私が笑うと洋榎も「ホンマやな」と笑った。

 

 「……でもな、うちはそれが例え迷惑やったとしても」

 

 「洋榎の夢を守りたかったんや」

 

 「恭子……」

 

 私をみつめる洋榎の顔が心なしか赤く染まっているように見えた。

 もしかしたら私の顔もそうなのかもしれない。

 でもそれはたぶん夕日のせいだ。たぶん。

 

 

 

 

 ~

 

 

 

 

 「……それにしてもや」

 

 「なんや?」

 

 「久だの洋榎だの、えらい親しげに呼びあったとったな?」

 

 「え? ああ、まあ。あいつとはしょっちゅうLINEとか電話とかしとったからな。自然にな」

 

 「……ほー、しょっちゅうかいな」

 

 「……恭子? もしかしてやきもち妬いとるんか?」

 

 「や、やきもちなんか妬いてへんわアホ言うな!」

 

 「妬いとるやないか! なんや恭子お前さんざんかっこええこと言っときながら結局はうちと久が同じチームになるのが嫌やったんやろう!」

 

 「んなわけあるかい! べ、べつにお前がどこのチームに入ろうがうちにはどうでもええ話や! どこにでもいってまえドアホ! 」

 

 「なんやとー!? なにが『 洋榎の夢を守りたかったんや』キリッや! うちのトキメキを返せ!」

 

 「なんのことやねん! よそのガッコのやつと馴れ合いおってからに! この浮気もん!」

 

 「は〜!? 自分かて宮永(妹)や獅子原といちゃこらしおったやろが! うちだけ束縛すなアホ!」

 

 「なんや!」

 

 「なんや!」

 

 

 

 

 〜

 

 

 

 

 数ヶ月後。

 

 『 さあ、今日からいよいよ今年のプロ麻雀リーグが開幕します!』

 

 『 本日の試合の注目はなんといってもこの選手、大阪ドミネーターズのルーキー愛宕洋榎!』

 

 『ドラフトでは下位指名でありながらオープン戦での大活躍により見事この開幕戦でのスターティングオーダーに名を連ねました! 』

 

 『注目しましょう! 愛宕洋榎! 』

 

 

 

 ぶちんっ。

 

 

 

 「あら? テレビ切っちゃったの?」

 

 「ああ、練習の時間やからな」

 

 「べつに洋榎の試合ぐらいみてもいいのよ?」

 

 「アカン。今シーズンのうちらの目標は関西大学リーグ1部昇格が最低ノルマなんやろ。休んでる暇があったら練習するで」

 

 「ホント真面目よね、恭子って」

 

 「あいつに負けてられへんってだけや。あと下の名前でよぶのやめろ竹井」

 

 「つれないわねえ」