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 ケイコとケイタ(ともに仮名)の恋物語。


 男と女の珍事件簿、という課題とは、微妙にズレているような気がしないでもないのだが。このコンテストの参加条件(課題文)を読んでいるうち、走馬灯のように蘇ってきた悪夢のような思い出があって。思い出すと、今でも全身から豚骨スープもとい脂汗が滲み出すような恥ずかしい事件なので、できれば永遠に忘却の彼方に葬り去っておきたかったのだが。
 書け書け。書いて笑い話にしちまえ。と、耳元で悪魔が囁くんですもの。もう書かずにはいられません。
 勇気を出して、書きます……!


 当時、ケイコは高校生。
 花も恥らう高校生。
 今でこそ、オレサマ主義だの変わり者だの言ったり言われたりしているケイコではあるが、当時は、ごくごく普通の、番茶も出花な女子高生だった。文句あんのかコノヤロー。
 実は、そんなケイコに、カレシというのができていた。その経緯まで説明すると、それだけで陳腐な詩集が数冊できあがってしまうぐらい、メロドラマ的な紆余曲折があったりなかったりして、なんだかんだの神保町(超死語)、とにかくケイコはカレシとラブラブなんだったっつう話。
 皆様も経験おありでしょーけど、カレシやカノジョができて最初の1ヵ月ってえのは、もうね、ラブラブのベタベタのアマアマだわね。学校においては、授業の合間の休憩の度に廊下で落ち合って喋る喋る喋る。放課後になっても教室やら学食やら駐輪場やらで落ち合って喋る喋る喋る。帰宅してからも長電話で喋り倒し、夜中になれば今度はラブレターなんぞしたためたりして。あれだけ喋り倒して、またぞろ何を情報交換しようかってぐらい、寝ても覚めても相手と喋ることしか考えていない。

 そんなこんなの、ある日ある時。
 いきなりピー(効果音と×××の掛詞)な話で申し訳ございませんが何卒御了承くださいませね?
 ケイコは、あんまり腹具合がよろしくなくて、ごふじょ(所謂トイレ)の神様と仲良くなっていた。あ、これは勿論、ケイコ@自宅での話。オナカに雷神を宿してしまったケイコさん、そーゆーわけで、その日は帰宅するや否や、天岩戸にお隠れになられた天照大神の如く、ごふじょに籠もってピーヒャララ。テメェが神楽を奏でてどうするんだ(笑)。余談が過ぎましたが、雰囲気だけ嗅ぎ取って(ごふじょ話だけにね)くだされば御の字。
 でもって、そのとき電話が鳴った(※プロジェクトX風)。
 まだ携帯電話なんて普及していなかった頃だから、電話が鳴ったといえば自宅電話のこと。電話に出たのは、ケイコの弟(中学生)だった。しばらく電話の主と弟はモソモソ話していたが、やがて弟は、ごふじょのドアを叩いて、こう言った。

「姉ちゃん、ケイタくんから電話。子機ここに置いておくから

 ――げっ。
 頭かくして尻かくさず、ケイコは焦った。
 子機ここに置いておくから、ってアナタ、いくらなんでも、ごふじょの前に置くこたーなかろうに。
 いやいや落ち着け。いくらクソガキでも、弟は中学生、さすがに保留をかけるぐらいの知恵は持っているだろう。

 とにかく、愛する(うふっ)ケイタを長く待たせるわけにはいきません。
 あの、お食事中だったりって方には本当に本当に本当に申し訳ありませんが、ケイコは急いで用を済ませて、嫌な思い出は全て水に流して、ごふじょのドアを開けた。

 ――ゴツッ!

 開けたドアが固い物に当たった。
 床に転がされた電話の子機、だった。

 ――ま……まさか……。

 おそるおそる拾い上げ、受話器を耳に当ててみる。

 ――し〜〜ん……。

 無音。と、いうことは。
 電話は保留になっておらず、しかも、まだホカホカのオンライン状態である。

 その瞬間、ケイコの心の中では、女性として人間として大事な“なにか”が、ひとつ、音を立てて、砕け散った。

 あたしは、もといケイコは、手にした子機を弟の頭めがけて投げつけたい衝動に駆られた。が、そんなことできるわけもなく。

「……も……もしもし……」
「……あ……」
「おまたせ……いたしました……(半泣き)」
「……うん……(あきらかに無表情な声色)」

 その後の会話が弾むはずもなく。
 もう、何を話したのかも覚えていないぐらい、頭の中は赤一色。真白でも真黒でもなく真赤! それは、血の色。血の涙の色。または、弟に対する憤怒と憎悪の炎の色だったかも知れない。


 そこそこ、恋愛はして。
 そこそこ、痛いの辛いの苦しいの味わってきたけれど。
 この思い出は別格。
 あらゆる失敗談を笑い話にして友人知人に披露してきたボクも、流石に、これを話したのは初めてかも知れない。

 ああ弟よ君を泣く。
 そーゆー話でございました。





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