2011年03月24日

あの日、電話ボックスで。

 
 あの地震の後の停電のとき、わたしがいた首都圏某所の駅前の公衆電話ボックスには、長蛇の行列ができていました。というのも、4個あるボックスのうち、“使える”電話が1個に限られていて、そこへ、自宅の電話が(停電により)使えなくなった人達や、携帯電話が使えなくなった人達が、一気に殺到したからです。
 1人1回3分程度、という暗黙のルールがあったのかなかったのか。みんな、基本的には、“後の人”に気を遣って手短に用件を済ませる。“次の人”には「お待たせしました」と声を掛けて譲る。わたしは自分の置かれた状況も忘れて、「日本人も捨てたもんじゃないなぁ」なんて呑気に感心していたりもして。

 30分〜1時間も同じ行列に並んでいると、不安もあってか、前後の人と軽く話すようになって、少し仲良くなります。だから、
「こんなとき携帯電話って役に立たない」とか、
「停電で自宅の電話も使えなくなっちゃって」とか、
「ここらへんの公衆電話で使えるのココだけなの」とか、
 そーゆー情報交換から、おたがいの置かれた状況まで、相談するわけでも愚痴るわけでもなく、ポツリポツリと語ったりするわけ。

    ◆

 突然、電話ボックスから「ファッキン××」的な下品な怒鳴り声が聞こえてきました。行列していた人達は、突然の大声に驚いて、ボックスに注目。すると、ガイジンの男性が激しい身ぶり手ぶりで大変な剣幕です。会話の内容は滅多に聞き取れないのですが、合間合間で声を張り上げるときは、必ず「ファッキン××」が差し挟まれます。こえー。
 挙句の果てに、やっぱり「ファッキン××」つきの捨て台詞っぽい言葉を吐くと、彼はガシャン!! と受話機をフックに叩きつけ、仁王像みたいな怖い顔でボックスから出てきて、そのドアをバシン!! と叩きつけ、ブツブツ文句(たぶん)をたれながら去って行きました。

 その直後、わたしの前のオバサンが、
「ここらへんで唯一の電話なのに、あんなので壊されちゃたまんないわよね」
 と呟きました。
「たしかに……。スミマセンじゃ済みませんよね」
 わたしが思わず苦笑すると、前後の数人も顔を見合わせて笑います。ちょっとした連帯感が生まれます。

    ◆

 日本人のオネエサンも、いろんな意味で、スゴかったです。
 この人は、そもそも行列に並んでいるときからスゴかった。電話ボックスの中の人が、一瞬でもモタモタしようものなら、もう容赦ないったらありゃしない。
「この緊急時にナニ長電話してんのよ!!」
 周囲に聞こえるように、毒づきます。そして、御本人様は、何故か2台も所有しておいでの携帯電話を、とっかえひっかえプチプチ操作なさりつつ、絵に描いたようなイラつきっぷり。

 ようやくオネエサンの順番が回ってきて。
 最初、なんとなく、今にも泣きそうな表情と声色でボソボソ喋っておいででした。わたしとしては、「なあんだ不安でイライラしていただけなんだ、かわいいとこあるんじゃん」なんて思いながら、彼女の様子を見守っていたのです。が、
「自分が一番長電話してるじゃないか!」
 オネエサンの次に並んでいたオジサンが怒鳴ったとおりで、オネエサンの電話は、なかなか終わらない。そして、そのうちに、ボックスからオネエサンの大声まで聞こえてくるように。

「だーかーらー!!」すっげぇ金切り声です。
「公衆電話1台に1時間も並んだの! いいから早く迎えに来てって!」
「は? そんなの知らないわよ! 寒くて今にも死にそう! ○○駅の前!!」

 わたしはつい、
「すげー(^^;」
 と呟いてしまいました。
 そしたら、前のオバサンが、
「あんな言い方されたら、わたしなら迎えには行ってやらないわ。『勝手にしろ』って、電話きっちゃうわ」
 オバサンの前のオジサンも、
「キレイな格好してんのになぁ」
 ささやかな失笑が周囲に起こります。

 観察されていることにも気づかずに、オネエサンは公衆電話コントを続けました。

「だから知らないっつってんの! とにかく待ってるから! ○○駅前にいるから!」
 たぶん相手は、「○○駅の何処だ」と質問したんだと思う。
「着いたら電話くれればいいんでしょ!?」
 たぶん相手は、「ケイタイは使えない状態なんじゃないのか」と意見したんだと思う。
「駅前の○○○○(コーヒー屋)にいるわよ! 見れば分かるし、探せばいいじゃない!」
 たぶん相手は、コーヒー屋の名前を聞き返したんだと思う。
「耳おかしいんじゃないの!? ○○○○! ○ー○ー○ー○ー!! 分かった!? ○○○○よ!」

 やっぱり、受話器をフックに叩きつけて、オネエサンは出てきたのです。その表情は、表情というより、むしろ形相。いわゆるひとつの「般若の形相」。
 次の番のオジサンから、何か文句を言われたのかも知れません。すっげぇ「チッ!!」と顔を顰めて、オジサンを睨みつけると、足早に○○○○のほうへ去って行きました。

 あの、電話の相手、誰だったんだろう?
 恋人だったら、あの電話の時点でサヨナラ確定だよな。ま、もしかしたら「気の強い女が大好き」な相手なのかも知れないけどさ。
 旦那とか父親とか、家族が相手だったら、あの態度も分からなくはない。ただし、ほんとうに迎えに来てくれたときには、どんなに恥ずかしくても、態度豹変させて感謝しなきゃいけないよね。
 あのオネエサンの場合、自動車が大渋滞でエラいことになっている最中、停電で信号も点かない危険な中を、ほんとうに迎えに来てくれた相手に対してでも、
「遅かったじゃない!」とか
「いつまで待たせる気よ!」とか
 言っちゃいそうで怖いけど。

    ◆

 ちなみに、わたしの前のオバサンは、自宅で1人で料理しているときに地震に遭って、めちゃくちゃ怖かったそうだ。それから停電して徐々に薄暗くなってくる中で、自宅電話は使えない、携帯電話も使えない、不安で不安で仕方ないので意を決して外に出て、近所の公衆電話を探して歩いて辿り着いたのが、唯一“生きている”ココだったと。
 一緒に行列している人達に話しているときは、オバサンは、どれだけ家族のことを心配しているか、そして自分がどれだけ不安か、そればかりアピールしていた。

 でも、自分の番が回ってきたときは、前の人がボックスのドアを支えて入りやすくしてくれていたのへ、「ありがとう」と笑顔で言うのだ。
 電話の相手(たぶん息子さん)にも、自分が無事であることと、停電で不便だけど何も心配は要らないこと、それから「あなた達は無理に帰ろうとしないで会社に止まってくれればいい」と伝えていた。
 ボックスを出るべく振り向いたとき、わたしと目が合うと、「よかったー」と言って、泣きそうな顔をした。そして、わたしに向けて「お待たせ」を言うと、ポンポンと肩を叩いてくれて、立ち去った。

    ◆

 いろいろな人がいます。
 そーゆーことを書きたかったわけじゃないんだけどな。
 でも、いろいろな人がいて、いろいろに思う人がいて、日本や世界が動いているんだなぁと思いました。

 人間を歯車にたとえるのは、陳腐な上に、マイナス思考で好きじゃないんだけど。ギスギスした歯車は、ギスギスしたものしか次の歯車に伝えない。けれど、わたしの前のオバサンみたいな人は“潤滑油”になりうると思う。
 どうせ歯車のひとつに過ぎない存在なら、わたしは“潤滑油”つきの歯車になりたいなぁ。

 そーゆーことを書きたかったわけじゃないんだけどな。
 なんでか、そーゆーことになっちゃいました。


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oresamagician at 23:59│Comments(0)TrackBack(0)徒然語録 

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