最初に異変に気づいたのは黒蝿であった。
 粘つく風が黒蝿の心の奥に絡みつく。この風を感じるのは初めてではない。人間が、内なる怒りを爆発させた時に起こるよどんだ風。しかし、黒蝿の注意を引いたのは、性質ではない。風を発生させている人物のことだ。

 「……あいつ!」

 数分前まで感知できなかった、黒蝿の真名を奪った少女の気。捕らえられていた場所から脱出できたのか? いや、それは問題ではない。この徐々に強くなっていく風は、術者の精神と肉体を蝕んでしまう。
 危険だ、止めなくては――そう感じた瞬間、黒蝿は走り出していた。

 「おい黒蝿! どこに行く!」
 「決まっている! “あいつ”のところだ!」

 後に続くツギハギの存在を無視して、黒蝿は地上への階段を昇り始めた。早くあいつを止めなくては! この風があいつを侵食してしまう前に!

―――

 M60回転式拳銃から弾丸が放たれるたび、重女の手首から肩にかけて激しい振動が駆け上がっていく。しかし今の重女には、この振動が酷く心地よかった。
 銃弾が敵の肉体にめり込み、貫通していく。相手は悲鳴と血飛沫を上げて死んでいく。顔や服に返り血が付き、一人、また一人と“敵”が死んでいくのを見て、重女の精神は更に高揚する。

 重女は、笑っていた。

 こんなにいい気持ちなのは生まれて初めてかもしれない。味わったことのない感情だ。
 敵をねじふせているという快楽。
 助けを請う敵を殺す快楽。
 この場を完全に支配しているという快楽。
 そしてなにより―――“自分たちを虐げてきた相手”に、同等かそれ以上の痛みを味合わせているという優越感が、重女の脳に心地よい酩酊にも似た感覚を刻み込んでいった。

 「や、やめ……」

 敵が助けを請う。ぴくり、と重女は眉根を寄せる。
 あの時もお母さんはそう言っていた。嫌だって。米兵さんに、“お前達”に、乱暴にしないで、って言っていた。でも誰も母の言うことを聞いてくれなかった。私たちが弱いから、“お前達”は何をしてもいいと思っている。
 アキラが髪を引っ張られて泣いている。私の体育着がボロボロに引き裂かれている。皆が私たちに暴言を吐いてくる。私たちが他の人と違うから、私たちが“弱い”から、お前達は調子に乗って酷い仕打ちを仕掛けてくる。
 引き金を引くと耳を聾する音とともに弾丸が放たれる。助けを請うた敵の身体が弾を受け止め後ろへ吹っ飛んでいく。
 ぞく、とした感触が頭の後ろから全身に走っていった。体中に鳥肌がたつ。それは恐怖からではない、敵を“圧倒している”という気持ち良さから来るものだ。
 先ほど打たれた薬剤が、体中を巡り、心の奥底の感情を掻き乱す。何かを支配する事によって生じる優越感。今まで私たちに苦痛を与えてきた“敵”が味わっていたのと同じ感情。

 ――そうか、これだったんだ。
 ――私はこれが欲しかったんだ。

 敵が反撃の銃弾を撃ってくる。重女は影の盾を造りそれらを全て無効化した。敵がおののく。かつての私と同じ、蹂躙されることによる怯えの表情を浮かべている。重女はそれがたまらなく愉快だった。

 ――あいつらを屈服させる力。
 ――誰にも負けない力。
 ――この力さえあれば、どんな相手にも負けない。
 ――惨めに泣き寝入りしなくていい、悔しさを感じなくたっていい、
 だって私は、“最強の力”を手に入れたのだから!

 弾が切れた。ち、と舌打ちすると、重女は銃を捨て、今度は右手に影で黒く大きな剣を造り出した。

 『スペードのエース……また貴女に相応しいカードが来ましたね』
 『スペードのエースは剣。つまり武器、力の象徴。最強の力のカードというわけだ』

 最強の力のカード、剣を象徴するスペードのエース。今、まさに私はそれを持っている。何者をも斬れ、何者にも折られない最強の剣。フジワラさんの言ったとおりだ。私は最強の剣を持った女王。誰にも虐げられない、誰をも支配出来る。この力さえあれば、あいつらを、私たちに屈辱を与えてきたあいつらに復讐することが出来る!
 銃弾を影の盾で防ぎ、黒い剣で相手を切り刻んでいく。何の痛痒も感じなかった。血が、肉片が辺りにまき散らされるほど、重女の気分は最高潮に達していく。
 楽しい。楽しくって仕方がない。あいつらはこんな気持ちで私たちを虐げていたのか。力を持つことがこんなにも愉快なことだったなんて、なんでもっと早く気づかなかったんだろう。
 剣の刀身を伸ばし、相手を滅多打ちに刺す。後ろから襲ってきた奴は十字に切り刻む。影が膨らみ重女を守る。血にまみれた黒い剣を持ち、影を纏い柔らかく笑う少女の姿は、もはや人の姿には見えなかった。

 「……悪魔、だ」

 満身創痍の生き残りが呻くのと同時に、ふわ、と重女がジャンプする。身体が軽く羽が生えているみたいだった。そして生き残りの敵の前に向かって笑顔で剣を突き出す。
 重女の周りは敵しかいない。自分と、自分の大切な人を虐げる敵。それを駆除するのが今の私の役目。重女の頭はそのことで一杯だった。
 だから、そこに急に飛び出してきた奴が、黒い羽を広げて重女を止めようとする者が、やたノ黒蝿という仲魔であることも、その時の重女にはわからなかった――

―――

 一瞬の出来事だった。
 目の前に黒い者が飛び出してきたかと思うと、剣は“そいつ”に深々と刺さっていた。
 “そいつ”は口からげほっと大量の血を吐き出す。すると胸に刺さっている剣を、籠手を装着した手でしっかりと握りしめたではないか。
 怪訝に思った重女が剣を抜こうとしても、“そいつ”は決して剣から手を離そうとしない。不思議に思って逆にもっと突き刺してみた。苦鳴が血とともに口の端からにじみ出る。一体こいつはなんなんだろう。なぜ突然飛び出してきたんだろう。なぜ頑なに剣を離そうとしないのだろう?

 「……■■■」

 びく、と身体が反応した。今まで忘れていた何かを思い出したように。

 「■■■!!」

 今度のは怒声であった。自分を激しく叱る声。何度も聞いたことのある声。いつも側で私を呼んでいた低い、男の声―――
 目の前を覆っていた膜が剥がれていくのを感じた。膜が晴れた先に瞳に飛び込んできた人物は、
 
 黒い剣が胸に突き刺さり、口と胸から大量に出血しながら、鋭い眼光でこちらを睨んできている、重女が真名を奪った仲魔、やたノ黒蝿であった。

 右手を見る。血にまみれた手は、黒蝿の胸に刺さっている黒い剣の柄をしっかりと握っていた。
 ぽたり、ぽたり。血が、黒蝿の胸から滴り落ちる。赤黒い血だまりが床に形成される。焦点の定まらない目で、右手を再び見る。

 私、黒蝿の身体に、剣を突き立てている――!?

 ひ、と声にならない悲鳴をあげ、手を剣の柄から離す。黒蝿が何か言ったようだが重女には聞き取れなかった。
 辺りを見渡す。そこには夥しい数の死体が倒れている。銃で脳天を貫かれた者、銃弾を何発も浴びた者、身体の一部が切り落とされている者、全員恐怖の表情で絶命している。
 血と臓物の生臭さと、硝煙の匂いが、重女の鼻腔に届いた。

 「がはっ!」

 はっとして、黒蝿の方を向く。黒蝿がゆっくりと、自分の胸から剣を抜こうとしている。

 (あ、あ……)

 無意識に、すがるように黒蝿の肩に触れる。が、黒蝿は重女の手を勢いをつけて振り払った。

 「俺に……触るな!」

 血とともに吐き出された拒絶の言葉が、突風のように重女の脳内に突き刺さった。欲望で濁った頭が揺り動かされ、自分の犯してしまった過ちと対面するはめになった。
 
 人が、沢山死んでいる。私が殺したんだ。私が、この人達を殺して、黒蝿を傷つけてしまった――!!

 がたがた、がたがた。身体が震える。歯の根が合わなくがちがちと音を立てる。咽喉マイク入りチョーカーを外された喉からは、まるで墓場に吹く幽霊の喘鳴のような音しか出なかった。
 自分がとんでもない間違いを犯してしまったという事実が、全身を支配する。先ほどまであんなに熱かった身体が、冷却剤を注入されたかのように芯から冷えていく。
 私、わたし、わたし、は―――

 「ぐ、あっ!」

 黒蝿が歯を食いしばり、剣を身体から抜くのに成功した。剣はその衝撃で消滅したが、代わりに胸の穴から大量の血が吹き出る。黒蝿の身体が前傾する。

 『黒蝿!』

 思わずその身体を受け止めてしまった。今度は黒蝿は抵抗しなかった。抵抗したくとも出来ないのかもしれない。胸の傷は背中まで貫通し、左の翼まで傷つけていたのだから。

 「おま、えな……」

 それっきり黒蝿は瞳を閉じ黙りきってしまった。身体を揺さぶっても反応がない。ただ胸の傷からどくどくと大量に出血しているだけ。
 冷えていく黒蝿の身体を、重女は思いっきり抱きしめた。半分ちぎれかけた左翼ごと血が止まるよう強く、自分より大きな肢体をぎゅう、と抱きしめた。

 ――ごめんなさい、黒蝿、ごめんなさい――

 何度も何度も念波で謝り続けた。しかし返答はない。それでも謝り続けた。深い傷を負わせてしまったことへの懺悔、身を挺して私を止めようとしてくれたことへの感謝、力に酔って、沢山の命を奪ってしまった自らに対する叱責――そんなものがごっちゃになって、重女は嗚咽混じりに泣き始めた。泣いてもどうしようもないことくらいわかる。だが涙は後から後から沸いてくる。声の出ない喉が張り詰めて、湿った咳を発した。

 『重女さん。黒のスペードのエースには死の意味もある。強い力は貴女を助けてくれるだけじゃなく、扱いを間違えると、とてつもない不幸を招くかもしれない』

 なぜフジワラさんの忠告を今の今まで忘れていたのだろう。私は剣を持った女王なんかじゃない。ただ他人から与えられた力を欲望のままに奮って、得意げにしていた無知で愚かなただの子供だ。
 どうすれば、私はこれからどうすればいい? 誰もその問いには答えてくれない。そして自分でも答えがわからない。治癒術も使えない私は、こうやって黒蝿の身体の出血を抑えるのが精一杯だ。
 私はあいつらと同じ過ちを犯してしまった。私たちを迫害してきた奴らと同じく、相手を力で支配することで生じる甘美さに酔いしれてしまった、その結果がこれだ。
 どうすればいい? わからない。でももう身体が凍ってしまったみたいに動かない。誰でもいい、どうか私を、黒蝿を、助けて―――

 「いたぞ! あそこだ!」

 くぐもった男の声が鈍麻した耳に聞こえてきた。重女は返り血のついた顔をゆっくりあげる。ガスマスクをつけ、武装した男達が十人ほど通路へとやってきた。大勢の人間が死んでいるのをみて、先頭の男は、うっと呻き声を漏らし、すぐに死骸の中心にいる重女と黒蝿に目を向けた。

 「……まさか、あの子供が!?」
 「いや、そんなまさか……」
 「待て、あの女、確か要注意人物リストに載っていたはずだ」
 「アマラ経絡を無作為に造り出したっていう悪魔召喚師か!?」

 なんの、話をしているのだろう。会話は聞こえても今の重女には、その内容を理解できない。頭が悲しみや後悔で飽和状態にあるからだ。
 そういえば、シドは? シド先生はどこ? 私のことを忘れてしまったシド先生。私を拘束して“畑女”とやらにしようとしたシド先生。だけどお願い、どうかここに来て。いつもみたいに優しい笑顔で、私を“許し”て――

 「おやおや、なんだねこれは」

 場違いにのどかな男の声に、重女は目を大きくする。黒い肌に銀髪のオールバック、眼鏡越しの緑の瞳――今さっき心の中で呼んだ、シド先生だ!

 (シド、先生……)

 ひゅう、ひゅう、と声の出ない喉で重女は必死に訴えかけた。お願い、私たちを助けて、と。
 しかしシドは無慈悲だった。重女が殺した人々の死骸をゆっくりと見渡し、そして今気づいたというように、重女の方に目を向けた。その顔にはこの状況を作った重女を嘲弄するかのような残酷な笑みを浮かべていた。

 「武装していたうちのスタッフを、たった一人で全滅させるとはな。九楼重女。私は君のことをどうやら見誤っていたようだね」

 胸元から、シドはコルト・ガバメントを取り出した。がちゃり、とこちらに銃口が向けられたが、重女はもう何も考えられなかった。

 「“ダークサマナー”は我々「ヤタガラス」の敵。九楼重女、これだけの人間を殺戮した君は危険なダークサマナーだ。今ここで死んでもらう」

 (ダーク、サマナー……?)

 言葉の意味もわからず、ただ呆然としている重女に、45口径の大口径弾が銃声とともに放たれた。重女はそこから一歩も動けず、やがて銃弾は重女の眉間に近づき――
 ―――

 「テトラカーン!」

 ピシ、と重女と銃弾の間に盾が現れた。あらゆる物理攻撃を跳ね返す不可視の盾。銃弾は天井の方に跳ね返され、重女は盾が形成された衝撃で黒蝿の身体共々後ろに跳んだ。
 死体の山が二人の身体を受け止める。その拍子に死体の骨がパキパキと折れる音がしたが、重女はその音に気づかず、ただ目の前の広い背中を呆然と見上げていた。

 「お嬢ちゃん、怪我はないか!」

 ガンプを携えたツギハギが問いかけるが、重女は答えない。呆然とした顔を、先ほどのテトラカーンによって弾き返された銃弾がめり込んだ天井の方に向ける。
 大口径弾は鉄製の天井に深くめり込んでおり、周りに亀裂まで生じさせている。あの弾が自分の頭部に撃たれていたら、確実に頭蓋骨と脳を破壊し、自分は絶命していただろう。そう認識したとき、重女の身体が再び小刻みに震え始めた。
 その振動が伝播したのか、抱いている黒蝿の身体も震えた。だが彼の意識は依然戻らない。左の翼がちぎれかけ、大量に出血して気を失っている黒蝿を見て、ツギハギは重女に問いかける。

 「おい、黒蝿の奴はどうしたんだ? こいつらにやられたのか?」

 違う、と伝えたくて、喉がひゅうと鳴る。そう、違うんだ。黒蝿は私が、影の剣で突き刺してしまって……

 『銃を持つってことは、誰かを殺すってことだ。その誰かが人であれ悪魔であれ、俺はお前みたいなガキが銃を持ってる姿を見るなんてもうごめんなんだよ』

 初めてツギハギさんの射撃場に入って言われた叱責の真意が今なら良くわかる。武器を持つことの意味、人を傷つけ殺すという行為の重み、何も分かっていなかった。言葉の表面だけ捉えて分かったような気になって、結局私は一番大切な人を傷つけてしまった。その大切な人は今、私の手の中で死にかけている。
 醜い痣がついている喉元から、重女は必死に訴えた。それは声にならなく荒い息となって声帯を揺らし、その呼吸音の裏で重女は必死に訴えた。

 ――お願い、黒蝿を助けて――

 ドン!と空気を切り裂く音が鼓膜を揺らしたと思うと、またしても張られたテトラカーンが銃弾を弾いた。ツギハギは咄嗟に体勢を整えガンプを構え、死体で満ちている通路の奥の、銃弾を発射した張本人――シド・デイビスに向け銃口を向けた。

 「誰だてめえ! なんで攻撃してくる!」
 「何故、だって? そんなの決まっているじゃないか」

 言いながらシドは、ツギハギの後ろの少女を睨んだ。少女――重女は相変わらず下を向いたまま身体を小刻みに震えさせ、ひゅー、ひゅーと喉から虚ろな音を発している。

 「状況が分からないのか? この者達を殺したのは誰か、欲望のおもむくまま殺人を犯したのは誰か? それは死者しかいないこの通路で、ただ一人生き残っているそこの血まみれのお嬢さんしかいない」

 ツギハギの目が見開かれる。そしてその視線は後ろで震えながらへたり込んでいる、一人の少女に向けられた。

 「おい……まさか、これはお前が……?」

 重女は顔を上げず相変わらず震えている。返り血にまみれたスモック、足下に落ちているM60回転式拳銃。いくつもの薬莢、そして胸に大きな刺傷を拵え、ぐったりと重女に寄りかかっている、意識のない彼女の仲魔である、やたノ黒蝿。
 それだけで十分だった。重女がこの死骸の山を造り出した張本人であるということの証明は。

 「信じられないかい? 何ならここの防犯カメラの映像にばっちり映っているはずだよ。彼女が私たちの同胞を殺害している様子がね」

 ツギハギはガンプの銃口をシドに向けながら重女を凝視する。その瞳には当惑の色があった。なんで、お前はこんなことを――

 「君も悪魔召喚師らしいが、なら分かるだろう? 自らの欲望で力を行使し、秩序を乱し罪を犯す者――それを我々ヤタガラスは黒暗召喚師――ダークサマナーと呼んでいる。
 九楼重女は闇に自ら足を踏み入れた。見事にダークサマナーに墜ちたというわけだ。彼女は我々が処罰する。だから君にはどいてもらい、そこの“ダークサマナー”をこちらに渡してもらいたい」

 シドとツギハギは視線を合わせた。そのまま膠着状態が続く。最初に動いたのはツギハギであった。ガンプをSUMMON――悪魔召喚モードに変更すると、扁平な銃身がまるで蝶の羽のように開く。ツギハギが引き金を引くと、銃弾ではなく、仲魔の一体である妖鬼・キンキが現れた。

 「キンキ! “マハジオ”だ!」

 呼び出された妖鬼は、主の下知の通り黄金色の太い腕をシド達に向け、広範囲に渡る電撃の術を発生させる。シドとその他の悪魔召喚師は電撃を喰らい身体の自由を奪われた。
 その隙にツギハギは、キンキに気を失っている黒蝿を預け、自分は重女の手を引きこの場を立ち去ろうとした。が、重女は立とうとしない。

 「おい! 立て!」
 「…………」

 重女は弱々しく首を横に振った。どうやら足腰に力が入らず立つことが出来ないようだ。

 「……ち!」

 ツギハギは重女の華奢な身体を持ち上げ、肩に担いだ。重女は抵抗もせずされるがままだった。

 「事情はあとでたっぷり聞かせてもらう! 今はここを出てフジワラと合流するのが先だ!」

 そのまま走りだそうとしたツギハギの足下に、一発の銃弾が打ち込まれる。まだジオの電撃が身体に残っていながら、シドは辛くも体勢を立て直しツギハギの行く手を拒んだ。

 「く! サラマンダー!」

 再びガンプから仲魔を召喚した。炎の精霊・サラマンダーは、召喚されると通路の天井や壁を炎で撫でる。

 「こいつらとしばらく遊んでやれ! いいな!」

 サラマンダーは自身の纏っている炎を膨らませ、シド達に襲いかかる。シドが氷の術である「ブフダイン」を唱え炎と相殺する。その隙にツギハギと仲魔の妖鬼は重女と黒蝿を抱えながら走り出していた。後ろでサラマンダーとシド達が戦う轟音が聞こえたが、ツギハギは無視しひたすら走り続けた。地下のコンピューター・ルームにいるであろうフジワラの元へ向かって。
 その間、重女は身体を揺すられながらずっと頭の中で呪文のように、ある一語だけを唱えていた。

 ――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――

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