往来―all right―別館【俺屍サマナー】

俺屍+デビルサマナー=俺屍サマナーというダブルパロ(クロスオーバー)小説を扱っております。俺屍に登場する神々や鬼を現代で使役していたら・・・という発想で生まれたいわゆる三次創作小説です。俺の屍を越えてゆけと真・女神転生シリーズ(主にⅣ)の設定を独自に融合させて捏造しております。女神転生や俺屍の人物名称や設定をかなり変更しております。こういったのが苦手な方は閲覧をご遠慮下さい。 やたノ黒蝿とサマナーになってしまった少女の物語です。

カテゴリ:俺屍サマナー > 序章

今いまし、昔いまし、やがてきたるべき者、全能者にして主なる神が仰せになる。

「わたしはアルファであり、オメガである」

「最初の者であり、最後の者である。初めであり、終わりである」

ヨハネの黙示録第1章8節、第22章13節より






人気ブログランキングへ

 しとしと、しとしと。
 雨が降っている。春先に降る温かい霧雨。その霧雨が、少女の顔や身体を濡らす。

 しかし少女は動かない。鞍馬山の山中、足を滑らせた少女は全身を強く打ち、頭から血を流していたから。
 紅い血が、少女の右側頭部から流れ、血の溜まりを作る。
 黒くて長い髪が、土に広がり顔にへばりつき、青い瞳は濁り始めていたが、

 ――少女は生きていた。

 寒い。身体から、どんどん熱が奪われていく。
 痛い。頭が、身体中が痛い。どくどく、どくどく、血が流れているのを感じる。

 身体が、動かない。こんなところで死ねない。だって、「あの子」が待っている。「あの子」はきっと家で泣いているだろう。「あの子」はまだ小さくて弱いから。私が守ってあげないと。「あの子」を独りにしてはいけない。
帰らなくちゃ、家に。でも、足が動かない。手も動かない。さむい。いたいよ。
 目の前が段々白くなる。死ぬ。私、ここでしんじゃうの?

 「無様だな」

 声が、聞こえた。声のした方向に視線を移すと、ぶうんと耳障りな音をたてて、小さな黒い塊が顔の周りを飛び回っていた。
 これは、なに。蝿?

 「お前が俺の真名を奪ってくれたお陰で、俺はこんな姿になってしまった」

 蝿のような黒い塊が、低い声を発した。
 真名? 何を、何を言っているの? 分からない。

 「しかもそのせいでこの時間軸に固定されてしまった」

 じかん? この蝿は何を言っているのだろう。何故、この蝿は私に話しかけてくるのだろう。

 「とっとと俺の名を返せ。それまで死ぬのは許さんぞ」

 朦朧とした意識の中、少女は蝿の声を聞いていた。言葉が理解出来ない。この蝿が何者なのかも分からない。
 ただひとつだけ理解できた言葉――。

 『死ぬのは許さんぞ』

 しぬのをゆるさない、そう理解できた。
 私も死にたくない。死ぬわけにはいかない。こいつが何者でも構わない。私を助けてくれるなら。

 「うわ!」
 力を振り絞って右手を動かし、黒い塊を捕らえた。
 ぶうん、ぶうん。蝿の羽音が一層けたたましく響く。

 「……わたし、を」

 ひゅー、ひゅーと息を吐きながら少女が言葉を発する。高く、柔らかい少女の声。

 「たす、け、て」

 その言葉は黒い塊を縛った。少女が生まれつきもってしまった、強い魔力が宿った、言霊。

 「助けろ、ねえ」

 少女の手の中で黒い塊がごちる。塊から真名を奪った憎き少女は、頭から血を流し、血の気のない真っ白な顔。青い瞳で塊を凝視している。
 手が、冷たい。このまま捨て置けばこの少女は数分後に絶命するだろう。それは塊にとっても都合が悪い。こいつから真名を返してもらわなくては、塊はずっとこのまま、本来の力を取り戻すことが出来ない。

 「いいだろう。助けてやる。ただし」

 少女は相変わらず塊を見ていた。だが、血の流し過ぎなのか、塊を捕まえている右手が痙攣し始め、顔色が土気色に変化している。

 「お前の真名と、俺の真名を奪ったその忌々しい言霊を頂く。さあ、名乗れ」

 名乗れ。今、この蝿はそう言った? 私の名前を言えばいいの? 簡単だ。それで助かるなら、いくらでも言おう。

 「―――」

 少女は発した。自らの名を。親から貰った、馴染んだ名を。

 「名乗ったな」

 途端、右手の中の黒い塊が大きくなった。
 その塊はやがて人の形へと変わった。少女の強い言霊を得て、黒い翼を携えた大きな人の形に変化した。

 がし、と、その形が少女の首を掴む。
 そして、形の手から黒い影のようなものが発生した。その影は少女の身体の中へと侵入していく。

 「!?」

 手を、足を、心臓を、脳髄を、黒い影が侵食していく。身体の内側から、得体のしれない熱が生まれる。熱い、いたい、いたい!

 「俺の力、人間に使いこなせるとは思えんがな。大体は死ぬと思うが……お前はどうかな」

 少女の身体に激痛が走る。内臓を灼熱の炎で炙られ、脳髄を滅多刺しにされる。痛い、いたいいたいいたい――!

 ぱん、と少女の頭の中で音がした。

 すると、少女の身体を黒い影が包む。
 影はどんどん大きくなり、やがて鞍馬山を包む程の大きさへ変わったかと思うと、次の瞬間、山を覆い尽くす影は消えた。
 消えた後に残っていたのは、少女の血痕だけ。他には何もなかった。黒い人の形も、少女も。

 雨足が強くなる。
 雨が少女の血を洗い流し、やがて、鞍馬山は、元の静寂を取り戻した。


 これが、全ての始まりであった――。


人気ブログランキングへ

このページのトップヘ