往来―all right―別館【俺屍サマナー】

俺屍+デビルサマナー=俺屍サマナーというダブルパロ(クロスオーバー)小説を扱っております。俺屍に登場する神々や鬼を現代で使役していたら・・・という発想で生まれたいわゆる三次創作小説です。俺の屍を越えてゆけと真・女神転生シリーズ(主にⅣ)の設定を独自に融合させて捏造しております。女神転生や俺屍の人物名称や設定をかなり変更しております。こういったのが苦手な方は閲覧をご遠慮下さい。 やたノ黒蝿とサマナーになってしまった少女の物語です。

タグ:シド・デイビス

 マハジオによる電撃の痺れが抜けきらなく上手く身体に力が入らないところへ、灼熱の炎の玉がシド・デイビスに向かって放たれた。
 炎の精霊・サラマンダーがアギラオを打ってくる。マカラカーンを展開させてはいるがもうすぐこの盾は破られるだろう。シドは、聖書型コンプを開き、自分の仲魔のうち最も強力で最も高位の大天使を喚んだ。

 「マンセマット!」

 すると急に辺りの空気が変わり、シド達をかばうかのごとく大きな黒翼が現れたかと思うと、その黒翼の持ち主である大天使・マンセマットは指先をサラマンダーに向けた。するとサラマンダーは一瞬で氷漬けにされる。マンセマットは仮面の下の表情を変えることなく、更に手を一振りし、氷漬けのサラマンダーを砕いて見せた。
 
 「一体なんです? 貴方ほどの者が私を呼ぶなど」
 
 主であるシドに対し、マンセマットは冷たいと呼べるほどの口調で尋ねた。シドは苦笑した。
 
 「私としたことが、ジオを喰らって身体が上手く動かなかったものでね。で、そっちはどうだ? 地下の侵入者は見つけたのかい?」
 
 シドの問いに、今度はマンセマットが苦笑する番であった。
 
 「ええ、いましたよ。悪魔が一匹と、人間が二人。悪魔の方は何やら私を恨んでいるようで私に向かって攻撃してきましたが、軽くあしらっておきました。しかし、あの悪魔はかなりの手練れ。恐らくヤソマガツヒは今頃やられているでしょうね」
 
 シドの眉間にしわが寄り、マンセマットを睨む。が、睨まれた黒翼の大天使は意に介さず薄ら笑いを浮かべている。
 シドはこう問いかけたかった。何故ヤソマガツヒがやられるのを知ってほうっておいたのか、あの地下の違法薬物製造工場を何故侵入者から守らなかったのか、と。しかし問いかけたところで答えをはぐらかされてしまうだろう。
 このマンセマットという大天使は形式上はシドの仲魔ではあるが、通常の主従関係にない。シドの言う事を一応聞きはするが、その行動はシドにも読めない。今もそうだ。地下の侵入者を見てこいという命には従ったが、それだけである。彼にとってここの地下で行われていることなど興味もないし、ましてや侵入者がいても脅威に感じない。マンセマットに我ら人間の価値観を求めること自体が無意味なのだ。
 シドは嘆息し、現在の状況を推測する。あの九楼重女という少女と侵入者は最初から繋がっていたと考えていい。だからあの少女は「リフレッシュ」の時間にこっそり部屋を抜け出し他の部屋の様子を探ろうとしていた。そして時を同じくして地下の工場施設に侵入者があった。番人として置いていたヤソマガツヒは既に倒されたらしい。
 そもそも何故地下に侵入する必要があったのか。それは「赤玉」の情報が何処かから漏れたからだろう。九楼重女達は最初から「赤玉」の製造方法の入手・世間への暴露が目的だったのではないか。
 だとしたら状況は最悪だ。ヤソマガツヒが倒された今、奴らはコンピューター・ルームに到達している可能性が高い。あそこにはここでの最重要機密である「赤玉」の製造方法が保管されている。もちろんプロテクトはかけてあるが、彼らがそれを破り、製造方法や実験記録などを持ち帰られてしまっていたとしたら……?
 
 「ミスター・デイビス?」
 
 部下の一人がシドへ心配そうに声をかける。が、その時シドは既に決意していた。
 
 「ここを“廃棄”する」
 「え!? 今なんと?」
 「地下の侵入者達に「赤玉」の製造方法を入手された可能性が高い。なにより九楼重女には「赤玉」の製造過程の一部を見られたまま逃げられてしまった。彼女達がこの施設から抜け出す前に、機密保持のため、被験体ごとここを“廃棄”する」
 
 赤玉製造プロジェクト兼この施設の責任者としてのシドの決定の言葉である。しかし部下はまだ納得がいかないようで、シドに食い下がる。
 
 「し、しかし被験体の少年達のほか、ホールや上のクラブに今日も沢山の客が集まっております。彼らに見つからないようどうやってここを“廃棄”するおつもりですか?」
 「ここを全て燃やす」
 
 部下の男は絶句した。
 
 「つ、つまり、関係ないクラブの一般人も一緒に始末する、そう言いたいのですか?」
 「勿論。ここは軍事施設ではないから自爆装置もないしな。跡形もなく全て燃やし尽くした方がヤタガラスのためにはいいだろう」
 「しかし……」
 「忘れるな。私たちは“そういった”仕事を請け負う班だ。君も私の班員になったからには覚悟を決めたまえ」
 
 男はもう何も言わなかった。シドはかまわず「マンセマット、そういうわけだ」と仲魔の大天使に言う。
 
 「君のアギの威力ならこの施設を上のクラブごと焼き払えるだろう。頼む」
 「……やれやれ、そんなことをこの私がしなくてはならないなんて。もっとましな理由で召喚してほしいものですね、シド?」
 
 マンセマットが両手をかざすと、そこには巨大な炎の玉が出来ていた。先ほどのサラマンダーのとは、大きさも、質も、全てが桁違いである。
 
 「シド。君たち人間はさっさと避難したほうがいいですよ? この火に焼かれたいのであれば話は別ですが」
 「言われなくてもそうする。さあ、ひきあげるぞ」
 
 シド達が避難したのを見届けてから、マンセマットは炎の玉を振り下ろした。その炎は死体の山を焼き、酸素を求め荒れ狂い通路を抜けホール、医務室、「リフレッシュ」に使っていた部屋、上のクラブ・ミルトン、更に地下に至る全ての人と物を包み、骨の一片も残さない程の、まさに天の裁きの業火のごとき威力を発揮してみせた。
 そしてその業火の魔の手は、フジワラのいるコンピューター・ルームにまで届こうとしていた。
 
 ―――
 
 「な、なんだ!? 一体何があったって言うんだい!」

 コンピューター・ルームにて、データ抽出を行っていたフジワラの元に、ツギハギと、その仲魔に担がれた血まみれの黒蝿と、ツギハギの肩に担ぎ上げられている同じく血まみれの重女が勢いよく入ってきた。
 目を白黒させているフジワラを尻目に、ツギハギは通路の様子を見て顔を険しくさせる。

 「時間がねえ。フジワラ、ここを脱出するぞ」
 「な、何を急に! まさか私たちの行動がばれたのかい!?」
 「それだけならいいんだけどな……」

 ツギハギは渋面で黒蝿と重女を交互に見る。黒蝿の方は左胸に大きな刺し傷があり、気を失っている。一方重女はスモックのような簡易な服を血で汚してはいるが、目立った傷は見当たらない。意識もあるようで、先ほどから彼女の呼吸音が連続して聞こえてくる。
 恐らく重女がここのヤタガラス職員と戦闘になり、仲魔の黒蝿が重傷を負ったところをツギハギが助けた、というところだろうか。それにしては、ツギハギの様子が変だ。自身の肩に乗っている重女に、怒りとも憐れみともとれない複雑な表情を向けている。

 ――一体、彼女達に何があった?

 問いただそうと口を開きかけ息を吸うと、粘ついた空気が喉に張り付き思わず咳き込んでしまった。視界が白く濁り始め、ここコンピューター・ルームに、焼け焦げる匂いを纏った煙が徐々に入り込んできている。

 「奴ら、証拠隠滅のためにここに火をつけやがったな」
 「何だって!?」
 「恐らくこのお嬢ちゃんが違法薬物の製造でも見てしまったんだろうよ。それか俺たちがここに侵入したのと、お前がコンピューター・ルームで情報を入手したのがばれたか、その両方か……。
どっちにせよ火はすぐここまでやってくる。今すぐ脱出だ! フジワラ!」

 ツギハギの言葉で渋々データ抽出をストップさせ、ノートパソコンを閉じ背中のリュックに入れ立ち上がる。本当なら全てのデータを手に入れたかったが、火が迫っているとなれば話は別だ。フジワラはツギハギと共にコンピューター・ルームのドアを開けた。するとぶわっと濃い煙が襲ってきて、二人は思わず口と鼻を押さえる。
 上の方向は何も見えない程に煙が立ちこめていて、酷く焦げ臭い。だが地下への階段はまだ煙が薄い。これなら侵入の時に倉庫に空けた穴から脱出できそうだ。
 ツギハギを先頭に、重傷の黒蝿を担いだ彼の仲魔の妖鬼・キンキと、最後尾にフジワラが続く。三人と二体は必死に階段を降り、最下層の倉庫へ向かって走った。
 そこで見てしまった。ツギハギの肩に身体を預ける重女が、涙を流し、何事か唇を動かしているのを。その唇の形が、ごめんなさい、という謝罪の言葉を紡いでいたのを、フジワラはしっかりと見てしまった。

―――

 マンセマットの生み出した業火は、シドの命じたとおり、全ての施設を焼き、消滅させていく。逃げ遅れた職員、パーティに招かれていた少年少女達、“赤玉”の材料となる被験体、そしてクラブ・ミルトンで遊んでいた何も知らない客まで見事に燃やし尽くした。
 死体も、生きた人間も、そして薬物の製造工場まで跡形もなく燃やす。魔力の高い者だけが生み出せる黒い炎。それはこの世の憎悪が凝縮されているかのように漆黒で、執拗に対象物を炭化してもまだ燃やし続ける。
 黒い炎に焼かれるクラブ・ミルトンを一目見ようと、野次馬達が集まってくる。駆けつけた消防隊が必死に野次馬達を押さえ、消化活動にあたる。しかし火はなかなか消えない。
 その様子を、三キロ離れた廃屋で重女達は見ていた。距離が離れていても分かるほど、クラブ・ミルトンの炎は強烈であった。恐らく地下の赤玉製造工場も、コンピューター・ルームに保管してあった赤玉の製造方法やそのプロジェクトの詳細も、全て燃やされているであろう。必死に逃げてきたフジワラ達は、悔しそうに炎を見つめていた。

 「くそっ!」

 煤だらけのツギハギが怒りにまかせて廃屋の壁を殴った。乾いた音が鳴る。そんなツギハギを諫めるようフジワラは言った。

 「まあ、落ち着けよ。全部ではないとはいえデータは半分手に入ったんだ。これを元にあそこで行われていたことを暴露させる。手に入ったデータは半分程度とはいえヤタガラスの悪事を暴くには十分で……」

 そこまで話して、ざしゅ、と奇妙な音が後方で聞こえた。肉を斬ったかのように不快な音だ。ツギハギと後ろを向くと、そこには重女が黒い剣で、左手首を思いっきり斬りつけている光景があった。
 
 「おい! お前なにやってるんだ!」

 慌ててツギハギが重女を取り押さえる。重女はそれでも暴れていた。黒い剣を自身の身体に突き刺そうともがいていた。
 自殺――それに思い当たった時、フジワラもツギハギと共に重女を取り押さえた。
 しばらく暴れていた重女だったが、急に身体を弛緩させ動かなくなった。そして喉から湿った呻き声のようなものを発する。
 それは、慟哭であった。声を出せない少女は満腔の謝意を、月夜に向かって声の出ない喉で叫び続けた。自分のせいで死なせてしまった人たち、助けてくれたツギハギ、フジワラ、黒蝿、そして自分に向かって“ダークサマナー”と言い銃弾を放ったシドに、血涙を流しながら、ずっと叫び続けていた。

 このとき、重女は感じた。
 今までの自分はここで死に、新たな自分が産まれるのを。

 そしてあることを決意した。

 その決意は酷く冷たく、おぞましいものだったが、大罪を犯してしまった自分にはこの道しか罪を償えるものはない、と確信していた。

 すなわち、欲望のために力を振るう、“ダークサマナー”への道を歩いて行き、どんな手段を使ってもヤタガラスを倒さなくてはいけないことを――

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 国家機関ヤタガラスのとある支部のロビーにて、シド・デイビスは資料をめくっていた。
 新人のサマナー、職員用に作られた、自分が所属している機関の広報用の資料だ。
 そこには、主に国家機関ヤタガラスの仕事内容、ヤタガラスの歴史、そして組織の名にもなっている八咫烏についてが書かれている。

 「ミスター・デイビス、何を読んでらっしゃるのですか?」

 シドの部下の男が問いかけた。
 大柄な黒人種である老齢のシドとは違い、この男は小柄な黄色人種の若年の日本人である。

 「いや、たまたまテーブルに広報用の資料があったから目を通していただけだよ。神の遣いである霊鳥・八咫烏。昔は本当にいたんだな」
 「はあ……少なくともこの組織が設立された頃は、時の帝によって目撃されたと文献に残っております」
 「人ではない“何か”を崇める……それは洋の東西を問わず人々の健康的な精神活動である……と誰かが言ってたような気がするがな。この国は特に顕著だね」
 
 部下の男は首を傾げた。シドの言いたいことが何か分からないからだ。
シド・デイビスは何十年も前からヤタガラスで活躍しているベテラン中のベテランのサマナーで、男はつい数ヶ月前にシドの元に配属された新米のサマナーだ。
 数ヶ月共に行動していても、このシドという男はよくわからない。人当りの良い笑顔を浮かべてはいるが、時折ぞっとするような気配を漂わせているときもある。噂ではヤタガラスの暗部にまで関わっていると聞くが、この男の掴みどころのない雰囲気はそれが原因なのかもしれない。

 「で、私に何か用かい?」

 広報用の資料を閉じながら、シドは男に問うた。男は居住まいを正しながら答える。

 「は、例の“監視対象”ですが、先ほどやっと行方がわかりまして……どうやらこの時代にアマラ経絡を繋げた痕跡を見つけました」

 シドは眼鏡を外すと、めがね拭きで面を拭き、ゆっくりとかけ直す。

 「居場所は今、私の仲魔が調べておりますが、見つかるのは時間の問題でしょう。すぐに捕獲して……」
 「いや、その必要はない」

 す、とシドはロビーのソファーから腰を上げる。齢七十過ぎとは思えない長身とがっしりとした体躯は、典型的な日本人体型の部下の男とは比べものにならないほどの威圧感を放っていた。

 「まだ、泳がせておけ」
 「……何故、でしょう?」
 「君が知る必要はない。捕獲の際は私が直接出向く」

 シドは、笑みを浮かべた。微笑んでいるはずなのに、男にはその笑みが酷く冷たいものに見え、背筋が寒くなった。
 ロビーをあとにするシドに頭をさげ見送りながら、男はシドの英語の歌を聞いた。英語に明るくない男にはその歌はあまり聞き取れなかったが、それは、マザー・グースの「There was a little girl」であった。

―――

 ――ここは、どこ?

 重女の頭に浮かんだ単語は、まずそれであった。
 綺麗に舗装された道路には、車が沢山走っている。どれも重女の見たことのない車種で、数も多い。
 ビルもとてもスマートで立派なのが幾つも並んでいる。そこから出てくる人の多さ。今日は暖かいからか、皆薄着だ。下着みたいな服を着た若い女、アタッシュケースを持ったサラリーマンらしき男。麦わら帽子を被った子供と手を繋いで歩く母親。風景だけみれば重女の時代の繁華街を更に立派にしたもののようだが、それよりずっと人が多く色彩豊かで、どこか無機質な感じだ。
 いつもの癖で状況確認をしてみたが、今回はいままでのどれよりも重女のいた時代に近い。だが、ここは私の住んでいた時代ではない。
 日本であることは人々の話している言葉や看板の日本語でわかるが、建物や車や人々の服装や雰囲気が違う。こんなに茶髪の人は多くなかったし、空も輝度が下がっている。空気が妙に清潔すぎるし、匂いも全然違う。尖った音が大音量であちらこちらから聞こえてくる。

 ――恐らく、ここは私のいた時代より未来。黒蝿の言ってた通りだ。

 しかしどれくらい先の時代なんだろう? 車は空を走ってないし、ファッション以外には人々が昔よりすごく違うということはない。アメリカとソ連の第三次世界大戦は起こらなかったのだろうか? それとももう過去に起こってしまったのだろうか? それにしては街の様子は平和だ。宇宙旅行は一般人でも行けるようになったのだろうか。
 疑問は沢山あるが、まずは買い物を済まさないと。
 黒蝿が砂金を貴金属店に持っていき、この時代の貨幣に換金し、まずは日用品と食糧を買ってこいと金を渡した。
 あの換金の手慣れた様子、恐らくあいつはこの時代に来たことがあるな。時空を渡って悪さをしていたところをシドに捕まったと言っていたし、きっとそうだろう。
 ポケットの中の数枚の札を出し金額を確認する。この時代には五百円札がなく、五百円は硬貨に変わったし、千円札も五千円札も一万円札も図柄や大きさが変わっている。ここは日本のはずなのに、まるで知らない国に来たようだ。
 周りの異質な空気に気圧され、くらくらする頭を押さえ、重女は目の前の店らしき建物に足を踏み入れた。

 ―――

 「いらっしゃーせー!」

 自動ドアを開けて中に入ると、いきなり店員らしき男が声を張り上げたので少し驚いた。
 レジカウンターと思わしき壁の向こうで立っている男は、重女を一瞬ちらりと見ただけで、あとは話しかけてこなかった。嫌な顔もされなければ、歓迎されているようでもない。業務を果たすので忙しいらしく、重女に絡んでくることはなかった。
 クーラーが効いているのか、外より涼しい。店には音楽がかかっている。勿論重女の知らない歌だ。声の高い女性グループのアップテンポな曲。歌詞から察するに恋愛の歌らしい。
 店内には重女の他にも何人か客がいた。金に近い茶髪の人はいても、青い目の人はいなかった。
 他の人が通りすがるとき、やはり髪と目の色が珍しいのか、こちらに視線を寄越してくることはあったが、それだけであった。みんな自分の買い物のことで精いっぱいらしい。店員と同じだ。自分の容姿について色々聞いてくることも差別的な視線を受けることもないのは有難いが、みんな自分のことしか見えてないように重女の目には映った。
 しかし、ここは小さな店なのに、随分と品揃えが豊富だ。食料品はもちろん、本や日用品まである。広さは個人商店くらいなのに、重女の知っている近所のお店とは桁外れに品物が多い。その品物も、見たことのないものが多かった。まるで小さなデパートみたいだ。

 特に重女の目をひいたのは、菓子コーナーである。

 駄菓子のようなものから、ケーキまで揃ってる! ケーキなんて大きいお店に行かないと売ってないと思ってたのに! しかも安い! 一個大体三百円くらい。手持ちの所持金からすればかなり買える。重女は嬉々としてかごに幾つも入れた。
 ケーキの次は、あるモノを探す。この時代にもあるだろうか。

 (あった!)

 菓子コーナーの棚にそれはあった。細長い黒い長方形のスティック状のチョコ、スニッカーズだ。

 『良かった、あって……』

 スニッカーズを一本とってしげしげと眺めた。パッケージ自体はそれ程変わってないようにみえる。
 最後に自分で買って食べたのはいつだったか。多分シドと鞍馬山に行くより前だったような気がする。あの頃は母の死や何やらで忙しくてお菓子を食べる余裕なんてなかった。なら、それより前、ちょうど私の言葉が現実になってしまって、殆ど話さなくなった頃だろうか。

 「………」

 ふいに、悲しい思い出が蘇ってきた。私の言葉で起きた沢山の悪いこと、シドに「悪魔がとりついている」と言われ、母に暴言を吐いてしまったこと。そして母の死。アキラとの別れ、鞍馬山の地下で見た悲惨な光景――

 「……!!」

 胸の奥が見えないナイフで抉り取られたかのように痛くなる。ぎゅう、と胸元の十字架を握った。辛い時や苦しい時の癖。目もぎゅっと固く瞑り、心をしめる痛みに耐えた。

 ――私の声に悪魔なんて宿ってない、て黒蝿は言った。じゃあシドが嘘吐いたの? なんで?
 ………わからない。考えても始まらない。やはりシドに会わなくちゃ。会ってしっかり話をしよう。そのために今まで旅をしてきたのだから。
 でも、今は昭和何年なんだろう? 街並みやこの店を見ればわかるが、私が生きていたころよりかなり先の未来だろう。シドは、生きているのだろうか。

 〔……お次は、ニュースと気象情報です。今日トップのニュースは、2020年開催予定の東京オリンピックについて……〕
 「!?」

 店内のラジオが恋愛ソングからニュースに変わり、その第一声を聞いたとき、重女は持っていたスニッカーズを驚きのあまり床に落としてしまった。

 2020年!? 2020年て言った今!? しかも東京オリンピック開催予定って!?
 確か私が小さい時、東京オリンピックが開催されたと母から聞いた。幼かったので記憶に残ってないが、日本中が盛り上がり、母もラジオで大会の模様を聞いていたらしい。あの時は、えーとえーと……1964年! 昭和39年!
 じゃあ今は何年? さっきのニュースでは2020年開催予定と言っていた。じゃあまだこの時代の東京オリンピックは開催されてなく、だとすると今は2020年より前ということだ。まさかもう二十一世紀を迎えたの?

 がんがんする頭を押さえながら、重女は震える手で雑誌コーナーから新聞をとった。そして上に書いてある日時を確認した。
 そこには、平成2X年(20XX年)6月6日(土)と記してあった。

―――

 大量の菓子が入ったビニール袋を持ちながら、青ざめた顔で重女はコンクリートの道を歩いていた。
 道行く人々は、さっきのコンビニの店員のように少しだけ重女に視線を寄越したが、無遠慮にじろじろ眺めてくる者はいなく、皆働きアリみたく規則正しく目的地に向かって歩いている。
 一方重女は、まるで幽鬼のような表情で下をむいてとぼとぼと歩いていた。黒蝿のいる隠れ家に帰ることなど頭から抜けていた。

 (今は20XX年……元号も昭和ではなく「平成」というのに変わっていた……今は二十一世紀……じゃあ私は? 私はもう50過ぎのおばあちゃん!?)

 重女は慌てて顔に手を当てた。長い間の時間移動の旅で多少荒れてはいるが、手のひらに感じるのは弾力のある肌の質感であった。
 近くのショーウインドウのガラスで自分の顔を確認した。そこに映っていたのは、白髪の老婆、ではなく、金髪碧眼の十代の少女――まごうことなき自分の姿だった。
 とりあえず容姿は変わっていなかった。が、重女は酷く落ち込み、無性に泣きたい気持ちになった。

 ――もう14じゃない、本当は50過ぎのお婆さんなんだ……見た目は変わってないけど、物凄く年をとってしまった……どうしよう……いきなり老け込んだら……

 「はい! ではお次は「今日は何の日?」コーナーです! 今日6月6日はロールケーキの日! ロールケーキの「ロ」と、ロールケーキが断面が「6」の字に見えることからつけられたんですよお」

 やけに高いビルの壁面に設置された街頭テレビらしきものから呑気な女性の声が聞こえた。「平成」の時代のテレビはとても薄く、怖くなるほど大きく、色もカラーでびっくりするくらい鮮やかだ。
 6月6日……ロールケーキの日……

 「それと、ホラー映画で有名ですが、新約聖書のヨハネの黙示録に登場する「獣の数字」が666……それにちなんで「悪魔の日」なんて言われたりしますね」
 「やだもう明石さん、そんな怖い事言わないでくださいよ! 今日お誕生日の方、こわがっちゃうじゃないですかあ」

 あ、と重女は頭の中で声をあげた。

 『そうだ、六月六日は、私の誕生日だ……』

 雑踏の中で、重女は立ち止まり梅雨直前の空を見上げた。六月六日は自分の生まれた日……。
 過去から来た声と名を奪われた少女は、今日、十五回目の誕生日を迎えた。

 ―――

 「俺は日用品と食料を買ってこいと言ったんだ。誰がこんなに菓子を買ってこいと言った?」

 繁華街から離れた廃神社。その社に足を踏み入れると、そこはアパートの一部屋であった。
 重女が作った影の結界の様子である。その結界は主の重女の深層意識に刻まれた、自分が生まれ育った六畳一間のアパートの部屋の幻影を造りだしていた。
 そこで重女は黒蝿に怒られていた。言われたとおりのものを買ってこないでお菓子ばっかり買ってきたのだから当然だ。重女は親に叱られる子供のように首をちぢこませていた。

 『ごめんなさい……』

 はあ、と黒蝿が盛大に溜息をつく。黒蝿は自分の生きていた時代から、この時代までに何があったか把握しているのだろうか。それと……

 『ねえ、私、何歳に見える?』
 「はあ?」

 いきなりの質問に黒蝿は素っ頓狂な声をあげた。いきなり何を言い出すかと思ったら……。しかし目の前の少女は真剣な顔でこちらを見ている。

 「……十四、五のガキ」

 見たままを言っただけだが、重女の顔は目に見えて明るくなり、嬉しそうになる。なんでこいつは喜んでるんだ。まともに買い物もできなかったくせに。

 「お前反省してるのか?」
 『う、うん! 勿論!』

 そう念波で送ってきても、重女は嬉しそうな顔を崩さない。それどころかがさごそとビニール袋をあさりロールケーキを取り出した。

 『今日六月六日はロールケーキの日の日なんだって。一緒に食べよ』
 「いらない」

 即答した黒蝿に重女は少しムッとしたが、すぐにケーキのプラスチックのカバーを外し、一緒に袋に入っていたフォークで勝手に食べ始めた。凄く久しぶりに食べたケーキは、濃厚な甘さで舌を痺れさせた。

 「……そういえば、六月六日はお前の誕生日だったか」

 重女は驚きのあまりフォークを動かす手を止めてしまった。

 『なんで知ってるの!?』
 「東のミカド国で、お前の中からアキラのマグネタイトを奪ったときに知った」

 弟のアキラと悪魔合体プログラムにて合体した弊害で、重女は記憶の混濁が酷かった時期があった。その時黒蝿は重女の体内にあったアキラのマグネタイトを吸い取ることで、やっと重女を正気に戻させた。
 マグネタイトには必ず持ち主の感情や記憶が付随する――それなら、アキラの記憶の中から、姉である重女の誕生日を知ったとしてもおかしくはない。

 『……祝ってくれるの?』
 「馬鹿言え。なんで俺がお前の誕生日を祝わなきゃいけないんだ。買い物すらろくにできない小娘に」
 『………だから、ごめんってば』

 なんとなく腹が立った黒蝿は、重女のフォークを奪い、ケーキの欠片を食べた。あ、という抗議の念波を送る間もなく黒蝿はケーキの欠片を食べてしまった。
 人間とは味覚が違う黒蝿は、そのケーキが美味いとはとても思えなかった。なんで人間はこんなもんを食いたがるのか理解に苦しむ。

 『な、なにすんのよ!』

 顔を真っ赤にしながら抗議する重女に黒蝿は不思議そうな顔をした。なんでこいつは赤くなってんだ?

 「そんなに食い意地が張ってるのか」
 『そうじゃなくて!』

 ひったくるように黒蝿からフォークを奪うと、重女はじーと眉間に皺を寄せてフォークを凝視している。

 「? なんで食わないんだ?」
 『いや……その……』

 再び真っ赤になって重女は俯いたまま黙ってしまう。その心理が黒蝿には全く理解できなかった。
 影の結界内には、現代に来てしまった少女とその仲魔が、ケーキと菓子の甘い匂いが漂った空間で、息苦しい誕生会を開いていた。

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 アキラ、後に東のミカド国の初代王アキュラと名乗る少年は、空想癖が強い子供であった。
 母は仕事が忙しく、六歳違いの姉が幼いアキラの世話をしてくれた。
 アキラは周りの子と異なった目と髪の色をしていた。明るい青の瞳に金色の髪。姉は髪こそ黒髪だったが、瞳はアキラと同じく青く、その姿は他の子供達のイジメのターゲットとなった。
 石をぶつけられたり、髪をひっぱられたりして、泣くしかないアキラと対照的に、姉はいじめっ子に果敢に立ち向かっていった。
 そのせいで姉は生傷が絶えなかった。そんな姉の手当てをするのはアキラの役目であった。
 傷だらけで悲しそうに微笑む姉を見て、幼いアキラは密かに決意した。
 ――僕が、もっと大きく強くなって、姉ちゃんを守ってやる!

―――

 「姉ちゃん、みかどってなに?」

 ある日、姉が学校から借りてきた幼児向け絵本の「竹取物語」を自宅で読んでいて、アキラは家事をしていた姉に聞いた。
 姉とアキラが住んでいたアパートはとても古く、六畳一間に小さな台所がついているだけで、当時普及し始めたテレビもクーラーもなかった。姉は仕事で忙しい母の代わりによく家事をこなしていた。そのせいで姉の手にはあかぎれがいくつもあった。

 「みかど?」
 「うん、ここに書いてあるよ。“みかど”てなに?」

 姉が洗い物の手を止めて絵本を覗く。

 「帝ってのはね、昔の王様の呼び方だよ」
 「おうさま?」
 「うん、一番偉い人の事を、この時は“ミカド”て呼んでたの。簡単に言えば王様だね」

 王様。絵本で呼んだことがある。一番偉い人。王様は偉くてなんでも思い通りにできる。食べ物に困る事も、他の皆からいじめられることもなくなるんだ。

 「じゃあ僕、ミカドになるよ!」

 いきなりの弟の発言に、姉は目を丸くした。しかしアキラは真剣そのものだ。

 「僕が“ミカド”になったら、一番偉いんでしょ? そうしたら皆僕達の事いじめたりしなくなるし、お腹いっぱいご飯も食べられるよね! だから僕沢山勉強して、この国の“ミカド”になるんだ!」

 今の日本に、帝なんて役職はないことくらい小学生の姉にはわかっていた。だがアキラのキラキラ光る目を見ていると、否定しようという気にはなれなかった。

 「うん、頑張って“ミカド”になってね。そしてお姉ちゃんとお母さんを守ってね」
 「うん、僕偉くなるよ。誰にもいじめられないくらい偉く!」

 大人が聞けば微笑ましい子供の妄想だと笑われただろう。だがアキラは真剣だった。幼い姉弟は微笑みながら、そっと指切りをした。

―――

 「姉ちゃん、こっちこっち!」
 「待ってよ、アキラ」

 ある晴れた日曜日。アキラが姉の手を引っ張って近くの原っぱに連れて行った。
 長い間空き地だったそこは、草が生え放題で、二人の子供は草に埋もれて歩いていた。

 「こんなところに何があるの?」

 姉の問いかけにアキラはへへ、と悪戯っぽく笑ってみせた。

 「じゃーん!」

 アキラが指を指したものを見て姉は息を飲んだ。
 そこは、幾つも草を結び作られた、小さなドーム状の空間であった。
 生い茂る背の高い草は、其処だけぽっかりと口を開けており、中にはほんの少しの雑誌と駄菓子、そして小さな木の枝で作られた十字架が土に刺されている。

 「どうしたの、ここ?」
 「秘密基地だよ! 僕がこっそり作ったんだ! 祭壇もあるんだよ、ほら」

 枝を紐で結んで作った十字架を刺した土の盛り上がりが、アキラのいう「祭壇」らしい。シド先生の影響だな、と姉はくすりと笑った。

 「ここでね、僕ずっとお祈りしてたんだ。家がお金持ちになりますように、お母さんが家にいてくれますようにって。此処は僕だけの“教会”なんだ」

 嬉々として喋るアキラを姉は複雑そうな顔で見ていた。

 「アキラは……神様とか信じるの?」

 その言葉にしまった、とアキラは口を押さえた。何日か前、姉はシド先生に反論したのだ。神様なんかいない、神様なんか信じない、認めない、と。

 「あ、あの、僕は……」

 ぎゅ、と胸の十字架のペンダントを握る。あの言い合いの後、シド先生が自分と姉にくれたものだ。姉と、シド先生とお揃いのペンダント。姉は今でも神様を信じていないのだろうか。

 「そうね……シド先生の言う事は全部は信じられないけど……でも、いい神様ならいるといいね」

 寂しそうに姉は言う。その胸にはアキラと同じ十字架のペンダント。それに姉はそっと触れる。自分が触れては壊れてしまうかのように。

 「僕は……神様はいると思うんだ」

 腰をかがめてアキラは「祭壇」の方に近づく。そして手を組み目を瞑る。

 「こうやって祈ってると、いつか天使様が現れて、僕達を幸せにしてくれるような気がするんだ。だって、こんなにも僕達が辛い目にあってるんだから、神様が助けてくれないわけないよ」

 アキラの幼い横顔は、真剣に祈りを捧げている。常に虐げられてきた、幼い子供の唯一の拠り所が、ここで祈ることだった。
 人はどうしようもないほど辛い事に直面したとき、人ではない何かに縋る。それが偶像であれなんであれ。アキラは幼いながら自分の無力さを痛感していた。その気持ちが神への信仰心に変わったのかもしれない。

 「……そうだね、少しなら願いを叶えてくれるかもね」

 姉はアキラの隣に来て、同じように手を組み祈った。
 神様でもなんでもいい、私とアキラとお母さんがこれ以上辛い目に合わないように、心の中で願った。
 原っぱの、小さな「秘密基地」の中で、幼い二人の姉弟が互いの幸せを願って祈り続けた。

―――

 それから数年後、姉は中学に進級し、アキラは小学校に入学した。
 家は相変わらず貧しく、クラスの子からのいじめは続いたが、辛い時は心を宙に飛ばし空想に耽った。

 空想の中では、母が常に家におり、きちんと料理を作ってくれ、姉も自分も笑っていて、顔の知らない父親もいて、学校ではいじめられてなく、幸せな気持ちで毎日を過ごす、そんな今の生活とは正反対の空想を抱いた。
 外部からの辛い仕打ちに対する、一種の心の自己防衛であったが、いつしかアキラは空想の世界の方が本当な気さえしてきた。
 ここは本当の世界じゃない。本当の世界は別にある――子供には良くある妄想であったが、アキラのそれはとても強かった。綿密に、細部まで理想の世界を思い描く事ができた。
 いつか、きっと「あっちの世界」に姉ちゃんとお母さんも連れて行きたい。そんな決意すら固めていた。

―――

 そして姉が中学二年に進級し、アキラが小学二年生になった頃、一つの変化が訪れた。

 母が死んだのだ。
 原因は交通事故であったが、姉は自分が殺したのだと驚愕していた。
 姉はある時期から極端に喋らなくなった。理由を聞くと、「私の言葉は人を不幸にする」かららしい。
 母が事故に合う前の日、姉が母と口論になった。

 「嫌い、大っ嫌い! お母さんなんか死んじゃえばいいんだ!」

 はっとして口を押さえた姉の横で、アキラはオロオロするしかなかった。そして姉は自分の手を引き、シド先生の教会に連れて行った。
 その夜はそこで過ごした。姉は泣いていた。お母さんに酷いこと言っちゃった、どうしよう、と涙をポロポロ流しながら自分を抱きしめてきた。
 アキラもどうしたらいいかわからなく、ただ姉の背中をさすっていた。泣きながら。
 狭い椅子で泣きじゃくる姉弟をシドは何も言わず見つめていた。

―――

 そして母の埋葬が済み、アキラと姉は施設に引き取られたが、姉はシド先生と京都に行く事を告げた。
 なんでも姉の声には悪魔が宿っていて、シド先生は魔をもって魔を制すデビルサマナーらしく、京都の鞍馬山に行けば姉に取り付いている悪魔を払うことが出来るらしい。

 「姉ちゃん、何処に行くの?」
 「お姉さんは私と一緒に京都に行ってくるよ。なに、心配はいらない、ほんの二、三日で帰ってくるよ」

 シドの横に立っていた姉が、アキラの頭を優しく撫でる。亡き母にも似た細く小さな柔らかい手。

 「すぐ……かえっ、て、くるから……まって、てね」

 泣き出したいのをこらえてアキラは頷く。
 約束だよ。姉ちゃんが帰ってくるまでに、僕、もっともっと強くなるよ。もうお母さんはいないし、家にはお父さんがいないから、男の僕が姉ちゃんを守ってあげなくちゃ!

 シドと姉を見送ったその晩、アキラは神にお願いをした。

 ――神様、僕を、姉ちゃんを守れるように強くしてください。今まで姉ちゃんが僕を守ってくれたから、今度は僕が姉ちゃんを守る番。だから、心も身体も強くなりたいです――

 それから三日、一週間たったが、姉が帰ってくる気配はなかった。
 施設に手紙すら届かなかった。アキラは不安な日々を過ごし、ひたすら、秘密基地に行って姉の無事を祈った。
 だが一ヶ月経っても、姉は帰ってこなかった。
 流石におかしい、と感じたアキラは、施設を抜け出し、シドの教会へ向かった。シド先生なら何か知っているはず。もしかして姉より先に帰ってきているかもしれない。
 しかし、公園の外れにあるはずだった教会は、どこにもその姿がなかった。
 場所を間違えたのか? そんなはずはない。何年も通いつめた場所だ。間違える訳がない。
 近くを通りかかった通行人に教会の事を聞いた。すると通行人は訝しげに眉を寄せて言い放った。

 「何言ってるんだ。ここには最初から教会なんてなかっただろう」
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 八咫烏――それは、日本だけではなく、世界中の神話に登場する三本足の霊鳥。
 日本で最初に目撃されたのは平安時代、当時の天皇の東国への遠征の折り、妖怪や鬼から救い、導いたのが始めと言われている――と少女に渡された資料には書いてあった。なんでも「ヤタガラス」設立当時は、あの有名な陰陽師の阿部晴明が長を務めていたらしい。
 太陽の化身であり、吉兆を告げるとも言われるその霊鳥の名を冠した組織は、京都府の鞍馬山の鞍馬寺、魔王殿奥の院の地下にあった。

 キツイ山道を上り、魔王拝殿という社にシドと共に入り、地下へと続く隠し階段を降りると、其処には巨大な空間があった。
 コンクリートの壁で囲まれた大きな部屋は、少女が見たこともない機械があちこちに配置され、白衣の大人達がせわしなく動いている。こども雑誌で見た21世紀の予想図のような近未来的な雰囲気を少女は感じた。

 少女は白い貫頭衣のような服を着せられ、個室に案内された。其処には二段ベットが壁際に二つ、小さなテーブルと椅子が一つづつ、そして少女と同じ年頃の女の子達が三人いた。
 女の子達は、皆猜疑の色を瞳に宿している。
 少女の胸のプレートには、「F-14」と書かれていた。それが少女のここでの名らしい。

 何故、自分はこんな格好をさせられ、こんな部屋に入れられるのだろう。シドに聞きたくても、シドは此処に来てすぐ少女を別の大人に引き渡し、何処かへ行ってしまった。私は悪魔を祓ってもらいに来たのに、いつそれは行われるのだろう。そして部屋のこの子達は何者なんだろう。この子達も私と同じく、悪魔にとりつかれているのだろうか。

 「ねえ、あんた何歳? なんて名前?」

 三人の女の子のうちの、栗色のパーマをかけたショートカットの髪型の子が、少女に話しかける。日焼けした肌にそばかすが浮いている。

 「…………」
 喋るのを躊躇い、少女は、空中に指で「14」と書いた。そばかすの少女が眉を潜めた。

 「もしかしてあんた、喋れないのかい?」

 その問いかけに、少女はやや間を置いて頷いた。
 喋れないわけじゃない。私の声には悪魔がとりついているから、私が言葉を発すると周りの人が不幸になるから喋らないだけ。そう説明しようにも酷くどもるだろうし、ずっと喋るのを押さえてきた喉は、大きな声が発せない。ならそう誤解させといた方が面倒がなくて済む。

 「そっか、あんたも色々あったんだね。あ、あたしは京子。あんたより一つ上の15歳」

 そう言って、京子と名乗った少女はにっと笑ってみせた。歯が何本かかけている。京子の胸のプレートには「F-15」と書かれている。
 京子はそれから残り二人の紹介をした。三つ編みおさげの小太りの子は紗香、背の高いキツイ目付きのソバージュの子は清美。それぞれ16と17らしい。
 少女が会釈しても、紗香は怯えたように俯き、清美はぷいとそっぽを向いた。

 京子は少女に好意的で、「どうして目が青いの?」「なんで此処に来たの?」と少女に喋りかけた。その目にはからかいの色はなく、ただ単純に好奇心で聞いているようだ。
 少女は京子が持っていたスケッチブックに、渡された鉛筆で素直に答えを書いた。

 [目が青いのは生まれつき、多分父親が外人だったから]
 [悪魔がとりついているっていわれてここにきた]

 そう書かれたのを見て、京子が目を丸くした。

 「へえ、あたしもだよ。あたしがこんな不良になったのは悪魔がとりついてるんだって、感化院のババアに言われてさ、無理矢理ここに送られたってわけ」

 京子の話によると、京子は両親が蒸発し、好きだった絵を描くのを止め、お金欲しさに窃盗、恐喝を繰り返し、警察に捕まり感化院に送られた。そこの職員の女性に「悪魔にとりつかれている」と告げられ、京都のヤタガラスという組織なら悪魔を祓えると言われ、嫌々ながら此処に来たらしい。

 「別に悪魔とか全然信じてないんだけどさ、ここの方がクソみたいな感化院よりはマシかなーて。紗香と清美も同じようなもんだよ。あの子達も親がいないし、周りの大人に「悪魔がとりついている」って言われてここに送り込まれたみたい」

 紗香は二段ベットの上で膝を抱えて丸くなっているし、清美は下のベットの中で横になっている。ふて寝しているのだろうか。

 シド以外に好意的に接してくれる人がいる。しかも同じ年頃の。ずっと敵意と差別に晒されてきた少女は、京子に気さくに話しかけてくれたのが嬉しくて、久々に顔の筋肉を動かし、笑顔を作った。
 それは物凄くぎこちない笑みだったが、京子は大きな口を開け、ところどころ欠けた歯を見せ笑ってくれた。

―――

 そこでの暮らしは退屈だった。
 最初の日に知能テストと身体測定が行われた以外は、特にやることもなく、三食食事が出てくるのはありがたかったが、それだけだった。施設内で歩く事が出来たのは限られた区画だけで、少女はシドを探して何度か施設内を彷徨い歩いた。
 そこでわかったことは、どうやら私達以外にも同い年くらいの子が、幾つものグループに別れて部屋に入れられており、男女別にAからFのグループに分かれているという事だった。

 この子達は皆悪魔にとりつかれてる子なのだろうか。
 何故シドはあれから私の目の前に現れてくれないのだろう。早く悪魔を祓ってほしいのに、早くアキラの元に帰りたいのに。

 「あんた、弟がいるんだ?」

 一週間目の日、京子と二人で筆談でアキラの事を話したら、京子は同情的な視線を寄越してそう呟いた。
 今、この部屋には京子と少女の二人しかいない。
 三日目に清美が白衣のおじさんに呼ばれて部屋を出ていった。五日目に紗香が同じく呼ばれて、そしてそのまま二人は戻って来ない。
 順番に悪魔祓いを行なっているのだろうか。清美と紗香は無事に悪魔を祓ってもらえて家に帰ったのだろうか。羨ましい。私も早く帰りたい。アキラはまだ八歳だ。早く帰ってあげないと、あの子は寂しくて泣いてないだろうか。施設で苛められてないだろうか。

 「あたしもね、妹がいるよ。あたしに似て別嬪なの。ほら」

 そう言って京子はスケッチブックを捲る。するとあるページに、精密なタッチで巻き毛の幼女が描かれていた。確かに目元が京子にそっくりだ。

 「親が蒸発してから、あたしと妹は別々の親戚に引き取られたの。それからずっと会ってない。でも、此処から出たら会いに行こうと思うんだ。家は東京だけど、もし妹と会えたらあんたと弟にも会いに行くよ。横浜でしょ?  電車で行けば近い近い!」

 それは素敵な申し出だ。アキラと私が京子と妹さんと一緒に横浜で遊ぶ。ずっと二人っきりだった私とアキラに「友達」が出来る。世の中には悪意をぶつけてくる子ばかりじゃない、京子のように人と違う目の色をからかったりしない、苛めたりしない子もいるんだ――そう気付いた時、胸の奥が暖かくなるのを少女は感じた。

 「約束だよ。一緒に遊ぼうね」

 京子の小指に自分の小指を絡ませる。初めての指きりをしながら、少女は涙ぐんだのを悟られないよう俯きながら小さく頷いた。

―――

 八日目、ついに京子が呼ばれた。

 「悪魔とやらを祓ってもらったら、すぐに戻ってくるよ」

 そう言った京子は、しかし一日経っても戻ってこなかった。清美や紗香と同じく。
 十日目の夜、少女の我慢は限界に達した。これ以上待てない。部屋に独りぼっちは耐えられない。シドを探そう。そして悪魔をとっとと祓ってもらって、横浜に帰ろう。京子を探して一緒に此処を出るんだ。
 貫頭衣を脱ぎ捨て、来たときと同じ半袖のタートルネックにベージュのカーゴパンツ、そしてシドから貰った軍靴を履き、十字架のペンダントを首から下げ、少女は部屋の換気口の蓋を外し、そこに身体をよじいれた。
 換気口があるなら、ここを渡っていけばきっと地上に出れる。ドアには外側から鍵がかかっているし、換気口以外に地上へ出られる道はない。
 換気口の路は狭く、少女の小柄な身体でギリギリの大きさであった。酷く埃っぽい。とりあえず、明かりの見える方向に向かって匍匐全身で進んだ。
 腰と手足ががくがくになり、全身が埃まみれになった頃、ようやく人がいる部屋を覗けた。

 「……ああ、これも失敗だ。やはりもっと幼い子供の方がいいのではないか?」

 聞き覚えのある声がした。シド先生だ! シドは何時もの神父服ではなく、白衣に身を包んでいる。

 「“種男”と“畑女”の方は?」
 「あれは効率が悪い。苗が芽吹くのにどれくらい時間がかかると思う? やはり直接採取した方が……」

 種男? 畑女? なんの話だろう。そういえば何だか血の匂いがするが――

 うす暗い部屋を目を細めてじっと見る。すると、奥の方に病院の診察ベットのようなものが見えた。そこに人が拘束されている。
 パーマをかけた栗色の髪、日焼けした肌、だらしなく開いた口からは幾つも欠けた歯が見える――

 (……京子!?)

 京子は虚ろな視線を宙に浮かべ、口から涎を溢したままだ。頭にはいくつも管のようなものが刺さっている。
 その光景を直視してしまった少女は、身体中の血が引くのを感じた。身体が震える。胸の奥から得体のしれない感情が沸き上がってくる。
 ――嫌だ、シド、何をしているの? 京子に何したの? 嫌だ、やめて、やめて――!

 『おい、お前』

 悲鳴を上げる寸前、少女の頭に声が響いた。低い男の声だ。
 シドの声ではない、誰、誰の声?

 『こっちだ、もっと奥に来い』

 狭い路の奥、微かに赤い光が漏れている。あの部屋に行けばいいのだろうか。
 換気口の窓の向こうの凄惨な光景を振り切り、少女は奥の光の方向に前進した。

―――

 その部屋は、赤色灯で赤く照らされているコンクリートの基礎が剥き出しの壁の部屋だった。
 換気口の窓を蹴破り、少女は部屋に降りた。
 何もない小さな部屋である。真ん中に置かれている奇妙な札が張られている大きな鳥籠を除けば。

 『来たか』
 「……?」

 鳥籠の中に、黒い鳥が捕まっている。随分大きな鳥だ。少女より少し小さいくらいで、子供くらいの大きさはあるのではないか。

 『お前、この札破れるか?』

 その鳥は少女に語りかける。何故鳥が私に話しかけてくるのだろう。何故こんな大きな鳥がこの部屋で鳥籠に入っているのだろう。

 「…………」

 疑問に思う事はあったが、少女は言われた通り鳥籠の札を剥がそうとする。途端、指先にびりっと電流のようなものが走り、少女は思わず手を引っ込めた。

 『やっぱり駄目か』

 鳥が残念そうに呟く。
 ひりひりする指先を押さえながら、少女はじっと鳥を見る。良く見ると鳥の足が三本ある。黒い鳥、鴉、三本足の鴉――もしかして、この鳥は、八咫烏――?

 『違う』

 少女の考えを読んだかのように鴉はぴしゃりと否定した。頭の中に響いた声は、どこか不機嫌そうだ。

 『そんなのはお前ら人間共が勝手に作り出した存在だ。俺の名は―――』

 鴉は名乗った。八咫烏に無理矢理「させられる」前の、自分の真名を。

 「――――」

 その禍々しい名を聞いた少女は、無意識に復唱してしまった。
 数ヶ月喋るのを押さえてきた少女が、吃りもなく、喉を震わせ声を発してその鴉の姿をした「悪魔」の名を口にしてしまった。強い言霊を得た、その声で。

 それが始まりだった。

 少女の目の前の鳥籠から、黒い風のようなものが噴き出す。そのあまりの威力に少女は驚愕し、たたらを踏んだ。
 鳥籠に張られていた札に破れが生じる。

 『貴、様……俺…の……名を……』

 風はどんどん強くなっていく。身を切り裂かれるようにその風は鋭く、強い。何? 何が起きているの!?
 先程の光景が頭に浮かんだ。白衣のシド、診察台に拘束された京子、虚ろな視線、血の匂い、やだ、やだ、怖い、此処は怖い、早く此処から出なくちゃ、帰らなくちゃ、家に―――!

 途端、一際強い風が吹いたかと思うと、少女の身体が宙に浮かび、視界が真っ暗に染まった。

 そして、次の瞬間、尻に衝撃が走る。
 あまりの痛さに目を開けると、そこは赤色灯に照らされたコンクリートの部屋ではなく、夜の鞍馬山の山中であった。

 霧雨が降っている。生温かい雨が少女を濡らす。
 何? 一体何がおこったの!? さっきまで私は地下にいたはずなのに、何故地上に出られたの――?

 混乱する頭を押さえ、少女は立ち上がり、そっと足を踏み出した。
 暗く、険しい獣道を数歩歩いたところで、少女はぬかるみに足を滑らせた。

 「!」

 急な斜面を転がる少女の身体。木々の枝が少女の身体を引っ掻き、泥が身体中にへばりつく。そして、斜面に飛び出していた大きな石に頭をぶつける。

 「うっ!」

 強く鋭い衝撃が頭に走った。雨に濡れた地面に小柄な身体が放り出され、そのまま少女の身体は動かなくなった。

 しとしと、しとしと、雨が降り続く。少女の右側頭部から、血が流れ、赤い血の溜まりを作っていた。
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 少女が中学に上がって数ヶ月経った時の事、
 ある日、体育の時間から教室に帰ってくると、脱いで袋に入れてあったはずの制服がズタズタに切り裂かれていた。
 呆然とする少女の周りから、くすくすと嘲笑う声が聞こえる。
周りを睨みながら見渡す。クラスの皆は誰も少女と目を合わせようとしなかった。

 近頃、こういう嫌がらせが多くなった。

 犯人が誰か分からない陰湿な嫌がらせ。皆、少女が怖くて、そして疎ましかったのだろう。異色の瞳を持つ、貧乏な家庭の私生児。それだけではなく、少女は学校の成績が良かった。
 テストなんて、教科書を記憶して、問題の規則性を覚えてしまえば少女にとっては簡単に解けた。それが、クラスの皆の嫉妬心を煽ったのだろう。

 ぎゅ、と少女は血が出るまで拳を握った。

 犯人が誰か分かっていれば、そいつを締め上げてやるのに、コイツらはそれを分かってて、わざと私に分からないよう嫌がらせを続けている。
 担任に言ったって解決しない。あいつも私を疎ましく思っている。常に小汚ない格好をして、常にクラスの子といざこざを起こしている問題児の私の言葉など、聞き届けてはくれないだろう。

 全員が敵。私の周りは皆敵。私の味方は、アキラと、デイビス先生だけ!
 体育着に隠した十字架のペンダントを固く握る。

 強くならなきゃ、こんな嫌がらせに負けないよう、心も身体も強く!

―――

 その日の帰り、いつものようにシドの教会に行った少女は、教会に置いてあった寄付箱の中に、古い男ものの服を見つけた。
 近くの米軍基地の親切な兵士からの寄付だろう。ベージュのカーゴパンツに半袖の黒いタートルネック。
少女は迷わずそれを取った。

 「それは大人の男の服だよ? 君には大きすぎるんじゃないかい? もっと可愛い女の子の服もあるが……」
 「いいの、私はこれがいい」

 体育着を脱いで早速それを着てみた。やはりかなりダブダブだったが、少女は嬉しかった。
 近所の兵隊さんと同じ格好をしている。銃を持って闘う強い兵隊さん。あんな風に強くなれたらってずっと思っていた。私は痩せっぽっちで女だけど、この服を着たら不思議と強くなった気がする。兵隊さんと同じになれた気がしてなんだか嬉しい。

 「アキラ、似合う?」
 「……あんまり似合わないかも」

 大きすぎるズボンを手で押さえる姉に、アキラは苦笑いを浮かべながらそう言った。シドも苦笑し、裸足の少女にゴツい軍靴を差し出した。

 「……これは?」
 「靴も隠されてしまったんだろう? 私のお古だが履くかい?」
 「デイビス先生も……」
 「シドでいい」
 「じゃあ、シド、先生も兵隊さんだったの?」
 「そうだよ。昔の事だがね」

 それを聞いて、少女はもっと嬉しくなった。
 シド先生は元兵隊さんで、神父さんで、こんなにも強くて優しい。シド先生と同じ格好をしたら、私はきっと先生のように強くなれる。どんな事にも負けないくらい強く!
 大きすぎる軍靴を履いた姉を見て、アキラは困ったように笑ったが、少女はそれがまた可笑しくて久々に笑った。

―――

 世の中は高度経済成長の真っ只中。オイルショックで教科書が薄くなり、ベトナム戦争が終結した時代、少女は中学二年に進級し、そして遅い初潮を迎えた。

 この頃から、少女にある変化が見られた。

 きっかけは些細な事。
 ある夏の事、その日はうだるように暑かった。だから少女は口にしたのだ。
 「雨が降ればいいのに」と。

 そして一時間後、雲ひとつない晴天の空に黒い雨雲が広がり、バケツをひっくり返したような雨が降った。
 その時は、ただの偶然だと思ってたいして気にしていなかった。

 でもその後、少女の発した言葉はよく実現した。

 ある時は、アキラと二人で家で留守番をしていて、お腹が空いて、「ケーキが食べたいな」と呟くと、その日は母が珍しく早く帰ってきた。そしてパチンコで大勝したと言って、ケーキをお土産に買ってきた。

 ある時は、アキラを迎えに隣の小学校まで行くと、檻に飼われていたウサギがなんとなく元気がないように見えたので、「もうすぐ死んじゃうのかな」と発すると、翌日、ウサギの姿は見えなくなった。アキラの話によると、朝、生物係が檻の中を覗くと全羽死んでいたという。

 またある時は、同級生が少女に聞こえよがしに悪口を言った時に、いつもなら無視するのに、たまたま虫の居所の悪かった少女が、「うるさいよ、階段から落ちちゃえば?」と捨て吐くと、その同級生は三日後に、本当に階段から足を滑らせて亡くなった。

 偶然ではない、自分の言った言葉が本当になってしまう――しかも、ほとんどが悪いこと――その事実に少女は驚愕し、自分が喋っては誰かが不幸になると怯え、なるべく言葉を発しないよう努めていたら、いつしか少女は、学校でも、家でも、殆ど喋る事をしなくなった。

―――

 「それは、悪魔がとりついているね」

 ある日、学校をサボって教会で本を読んでいた時の事、何故最近殆ど喋らないのか、とシドに問われて、ありのままを話すと、シドはそう答えた。

 「あ、く……ま?」

 二ヶ月近くも喋るのを押さえていた少女は、最早言葉を発しようとしても、酷く吃り、また音量も小さかった。

 「そう」
 パタン、とシドが聖書を閉じながら言う。

 「君のその声にね、どうやら悪魔がとりついてしまったらしいね。君の言霊を増幅させ、その結果、言葉の内容が現実に具現化してしまった」
 「こと……だま……て、な、に?」
 「人間の言葉の力、とでもいうのかな。言葉には力が宿るとこの国では古来から伝えられてきた。誰にでも持っている力だけど、君の言霊はかなり異常だ」

 異常? 皆とは違うこと? この瞳の色のせいで、アキラの金髪のせいで、私たちはずっと阻害されてきた。全ては皆と違うから。私はそれに抗ってきた。
 でも、外見だけじゃなく、言葉まで皆と違うだなんて、私は、一体なんなの? 何時になったら皆から虐められなくなるの――?

 「大丈夫だ。君は普通だ。ただ今は声に悪魔がとりついているだけだ」

 顔を伏せ、しくしくと涙を流す少女に、シドは優しく語りかけた。
 悪魔――神に仇なす悪い奴だと前に教わった。人を誑かし、陥れ、堕落させると聖書にも書いている。

 「君にとりついている悪魔を祓う事、できなくもないよ。ただちょっと遠出することになるけど」

 悪魔を祓える? シド先生が? 本当に? 遠出? どこまで行くの? 神奈川から出るの?

 「京都にある鞍馬山。そこに、私の所属している「ヤタガラス」という組織があるんだ。……内緒だよ。実は私は、悪魔召喚師、デビルサマナーなんだ」

 その後、シドが話してくれた事によると、
 シドは妖精や天使といった異形のものを異界から呼び出して、邪なるもの、鬼や悪魔を祓う悪魔召喚師・デビルサマナーらしい。
 古くはエクソシスト、陰陽師と呼ばれていた者が異形のものを使役し、魔を討ってきた。現在でもその血をひく家系はデビルサマナーとしてこの国で暗躍しているとのことだ。

 「でも、悪魔召喚プログラムというのが開発されてね。私のような一般人でも、ほら!」

 シドが聖書に手を翳すと、途端聖書から光の玉が生まれ、驚いている少女の目の前で小さな羽を持った女の子に変わった。
 妖精・ピクシー。小さな女の子の姿をした妖精は、驚愕に目を丸くしている少女の周りを蝶のように飛びまわった。

 「これで信じてくれたかい? 私達は魔を持って魔を制するデビルサマナーなんだ。だから君のその声についている悪魔も祓うことができる」

 でも、と少女の目の前に人差し指を出し、ピクシーを収容したシドは続ける。

 「君の言霊を蝕んでいる悪魔は、ちょっと厄介な奴だ。だから、私と一緒にヤタガラスに来てほしい。そこには私以外に強力なデビルサマナーが沢山いる。必ず君にとりついている悪魔を退治してみせるよ。
 今すぐに答えは出さなくていい、家に帰って、お母さんに許しを貰っておいで」

―――

 その日、帰ってきた母の機嫌は悪かった。

 「またこんなに散らかして! 足の踏み場もありゃしない! さっさと片付けろ!」

 少女としては六畳一間の部屋はいつもと変わらない、大して散らかってはないように見えたが、酒臭い母は更に怒鳴った。

 「ほら、早く飯を作って! ああお腹空いた! なんだいその格好? そんな汚い格好して、またろくでもない事でもしてきたんでしょ!?」

 少女とアキラが突き飛ばされる。肘を畳に擦ってしまい、肘がじんじんする。

 小汚ないのはいつもの事じゃないか。家が貧しいから、満足に銭湯にも行けないし、お母さんが洗濯をしてくれないから、私がいつも慣れない手付きで洗濯機を動かし、衣服を干している。
 お腹が空いているのはこちらも同じだ。お母さんはお店でご馳走をお酒と男の人と一緒に食べてくるのに、私とアキラはいつも給食とシド先生のくれるお菓子以外食べてなくて、とてもお腹が空いているのに、なのに何故私がご飯を作るのが当たり前になってるの? いつからお母さんは何もしてくれなくなったの? 何故子供の私達がこんなに働かなきゃいけないの――!?

 「……嫌い」

 ボソッと呟いたその言葉に、母の肩が揺れる。母の濁った眼が少女を見つめる。

 「お母さんがちゃんとしてないから、私とアキラは皆から虐められるんだ! なんで子供の私達がこんな目に合わなきゃいけないの!? なんでお母さんはちゃんとしてくれないの!?」

 ずっと胸にあった不満が爆発した。その時の声には吃りもなく、音量も大きかった。言葉が抑えきれない。母が口を開けてぽかんとしている。アキラが怯えてこちらを見ている。

 「嫌い、大嫌い! お母さんなんか、死んじゃえばいいんだ!」

 それは、思春期に入った者なら、親への反抗で、感情に任せて言ってしまうありふれた言葉かもしれない。普通の子供ならば。
 しかし、少女は事情が違う。少女の言葉は“本当に”なってしまうのだから――。

 はっ、と少女は口を覆う。しかし口から出た言葉は元に戻せない。母は酷く傷ついた顔をし、アキラは姉の剣幕に怯え、今にも泣きそうだ。
 どうしたらいいのか分からなくて、少女は弟の手を引き、家の外へ飛び出した。閉める前のドアの隙間から、母が呆然とした顔でこちらを見ていたが、少女はそれを見なかったことにした。

 その日はシドの教会に逃げ込み、そこでアキラと二人夜を過ごした。
 シドは何も聞かなかった。

 お母さんに酷いことを言ってしまった。私の言葉は本当になっちゃうのに。どうしよう、どうしたらいいの――?
 弟と二人、泣きながら身を寄せ合って、教会の固い椅子の上で一緒に寝た。

―――

 そして、やはり少女の言葉は現実になってしまった。

 翌日、母が死んだのだ。
 酔っ払って車道に出た所を、車に跳ねられて亡くなった。

 その後の事はよく覚えていない。

 病院で変わり果てた母と面会し、シドが葬儀の手続きを行ってくれた。参列者は少女とアキラだけだった。
 そして母は外人墓地に無縁仏として埋葬された。それが正しい事なのか少女には理解できなかったし、呆然自失となってしまった少女にはシドや周りの人間の言葉は届かなかった。

 ――私が、母を殺してしまった。母にあんな事を言ったから、私が悪魔にとりつかれているから――

 シドの用意してくれた喪服に身を包んだアキラは泣きじゃくっている。少女はその手をぎゅっと握りしめた。

 ――このままだと、私はアキラまで殺してしまう。行かなきゃ。シド先生に悪魔を祓ってもらわなきゃ――!

 その後、身寄りのなかった二人は施設に引き取られたが、施設に入ってから一週間も経たないうちに、少女はシドと共に鞍馬山に行く決意をした。

 「姉ちゃん、何処に行くの?」
 「お姉さんは私とちょっと京都まで言ってくるよ。何、心配はいらない。ほんの二、三日で帰ってくるよ」

 支度を済ませた少女が、心配そうな顔をしているアキラをそっと抱き寄せた。

 「すぐ……かえ、って、くるから……まって、てね」

 手をアキラの頭に乗せる。柔らかい金髪。私と同じ青い目。私の、血の繋がった弟――。
 必ず帰る。その時はまたいつもみたく遊ぼう。手を繋いで海にも行こう。山下公園に遊びに行こう。お母さんのお墓参りにも行こう。だから、待っててね、アキラ。

 思えばこの時、私はなんとしても留まるべきだったのだ。
そうすれば「あいつ」と出会うことなく、運命も大きく変わらなかったのに――
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 九楼重女――。後にそう偽名を名乗る少女は、
 1960年代前半、ベトナム戦争が勃発し、安保闘争が激化、東京オリンピック開催、ソ連有人宇宙船が地球一周に成功し、アメリカのケネディ大統領が暗殺される等の激動の時代に、神奈川県横浜市の米軍根岸住宅地区の近くの古いアパートで生まれた。

 生まれた時に父はいなく、ただ自分の白い肌と青い瞳が、父が外国人であることを物語っていた。
 母は、米軍の根岸住宅地区の近くのバーでホステスとして働いていた。そこは近くの基地の米軍兵士御用達のバーで、恐らく少女の父ともそこで出会ったのだろう。
 母が休みの日は、少女と母の二人で夜遅くに公園で遊ぶ事が多かった。昼間に公園に行けば、少女の青い瞳は近所の子供達のイジメの対象となる。見知らぬ外国人との間に私生児を生んだ女――母がそう近所の人々から陰口を叩かれ、白い目で見られているのを鋭敏な少女は感じ取っていた。
 夜の公園は暗かったが、母が笑顔でブランコを押してくれる、遊び疲れた自分をおんぶしてくれる――友達は出来なかったが、それだけで少女は幸せだった。

 少女が六歳の時、弟が生まれた。名はアキラと名付けられた。
 目の色は少女と同じ青だったが、アキラは少女の黒い髪とは違う、錦糸のような金髪を持って生まれた。

 アキラが三歳になってから、母は仕事を増やし、前より忙しくなり、家には少女と弟の二人っきりになることが多かった。
 母がいない間、ずっと独りぼっちだった少女に、弟ができた。可愛いアキラ。もう一人じゃないんだ。忙しいお母さんに代わって、私がこの子を守ってあげなくちゃ!

 少女は弟に絵本を読み聞かせ、ご飯を作り、手を繋いでよく散歩に出掛けた。
 近所の子供のイジメは、黒髪の少女より、金髪碧眼のアキラに集中した。
 石を投げてきたり髪を引っ張ったりする子供達に、少女は殴りかかって反発した。全てはアキラを守るため。これらの経験から少女は決して悪童に屈しない反骨精神を身につけた。

 そうして弟の面倒を見、夜遅くクタクタになって帰ってくる母親の代わりに家事を行い、その合間に宿題を行う。ご飯は学校の給食の残りのパン等を貰ってくる。貧乏な母子家庭で、異色の目を持つ少女は学校でイジメにあったが、イジメっ子は全員叩きのめした。その結果益々少女は孤立したが、そんなのは少女にとって些細な事だった。

 少女にとって大事なのは、母とアキラ。それだけが全て。その二人を私が守らなくちゃ。家には父がいないから、私がお父さんにならなくちゃ。もっと強くならなきゃいけない。家の近くの兵隊さんのように強く!

―――

 ある日、アキラと少女が近くの公園を散歩していたとき、それを見つけた。

 アキラとじゃれあって、公園の散歩道から外れて迷子になってしまい、半べそをかきながら見つけたそれは、古い小さな教会だった。
 教会の木製の古いドアを開けると、大きな十字架、貼り付けられた痩せっぽっちの男、色とりどりのステンドグラス、今まで白と黒と灰の色の世界でしか生きてこなかった少女には、その色彩はあまりに強烈だった。

 教会にいた黒人の神父は、シド・デイビスと名乗った。

 シドは、突然入ってきた子供達に怒ることもなく、ただ、二人がお腹を鳴らすと優しく微笑み、少女とアキラにチョコを与えてくれた。
 人から施しを受けたことのない二人は、最初警戒していたが、シドの眼鏡ごしの笑顔を見ていると、不思議と安心し、チョコを貰った。
 そのチョコは、とても甘く、また美味しかった。
 貪るように食べる二人を、シドは微笑みながら見ていた。そして、何時でも来ていい、と言って二人にお土産のチョコまで渡してくれた。

 それから、少女とアキラは学校帰りによくその教会に寄った。

 最初はお菓子を貰うのが目的だったが、シドは決して嫌な顔をしなかったし、寧ろ歓迎してくれた。少女とアキラにとって、そこは家以外で初めて心から安らげる場所となった。

 シドの教えてくれる事は学校の授業より面白かった。

 この世界には神がいて、天使はその使いで、悪魔は神に仇なす悪いやつ、日々口にする食糧に必ず感謝の祈りを捧げること、神はいつも自分達を見守っていること、生きている間に悪いことをすれば地獄に落ち、逆にいいことをすれば天国へ行ける。そんな事をシドは二人の子供に根気強く教えた。

 「でも、神様がいるとしたら、なんで私達は不幸なの?」

 ある日の教会、少女は常々疑問に思っていた事を口にした。
 聖書を読むシドの声が止まる。

 「だって……うちは貧乏だし、お母さんもアキラも私も、沢山意地悪されて……私がこんな変な目を持っているから、アキラがみんなと違う髪と目の色だから、皆意地悪するの? 神様は皆を平等に幸せにしてくれないの!?」

 ぎゅ、と隣の弟の手を握る。他の子より白い肌。みんなとは違う青い瞳。アキラのきらきら光る金髪。
 何故私とアキラがこんな色を持って生まれたのか、理由は明白だ。母はホステスだけをしているのではないと少女は知っていた。

 時々、家に外人の兵隊さんが母と共に来ることがあった。
 外人さんが来ると、少女とアキラは必ず家から出された。その時の母は、酒と香水が混じった臭いがして、子供ながらに、なにか淫らな事をするんだと感じ取ってしまっていた。
 今日だってそうだ、今頃あの家で、母は外人さんと肌を合わせている。私もアキラもそうして生まれたんだろう。
 汚らわしい。母は汚い。昔は優しかった母、柔らかく暖かい背中、頭を撫でてくれた細い手。それが今では男に寄りかかるだらしない女になってしまった。
 家でも酒を呑み、何処にも遊びにつれていってくれない。あんなお母さんなんか、大嫌い!

 「神は平等にいつも見ていてくれているよ」

 頭上から、優しい声が降ってきた。見上げれば、シドが眼鏡の奥の瞳を細めて少女を見ていた。

 「嘘。平等なんかじゃない、だって……」
 「父は、悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせて下さる」

 滑らかに、唄うように発せられたその文節に、少女は魅せられた。

 「父?」
 「神の事だよ。神は人類皆のお父さんなんだよ」
 「私達の?」

 シドが頷く。

 「私達の父は、天にいる。そこで、人間全員を愛している。
 私も、君も、アキラ君も、君達のお母さんも愛している。どんなに罪深い人でも、あるがままに愛してくれている」
 「違う! そんな事ない!」

 少女が食ってかかっても、シドはそっと目を伏せるだけ。

 「君達が苦しい思いをしているのは、神が試練を与えているのだよ」
 「試練?」
 「そう。今、苦しいのは神がわざと意地悪しているんだよ。君達が本当の愛に気づく為に。越えられない試練はない。今の苦しい状況を我慢すれば、神は君達をきっと幸せにしてくれる――」
 「そんなの、嘘!」

 ガタッ、と少女が椅子から立ち上がる。隣のアキラがびくっと身体を震わせた。

 「意地悪する神様なんて、そんなのお父さんじゃない! そんなの間違ってる! そんなのが神様だなんて、父親だなんて、私は嫌、認めない!」

 十二歳になったばかりの、多感な少女は、しかし胸のもやもやを言葉に上手く変換出来なかった。
シドが、困ったように此方を向いている。アキラが、心配そうに姉である少女の袖を引く。

 「……っ!」

 自分の気持ちを上手く言葉に出来ない。その事が無性に悔しく、涙が滲んできた。
 それを見られたくなくて、そのまま少女は教会を飛び出した。

―――

 外は雨が降っていた。

 しとしと、しとしと。雨が、全身に振りかかる。雨が少女の涙を誤魔化してくれた。

 ――違うのに、あんな事が言いたかったわけじゃないのに。デイビス先生の事は好きなのに。先生の言葉は暖かいのに。
 でも、何かが違う。上手く言えないけど、何かこう、あの言葉を聞いたとき、反射的に「違う」て叫んじゃった。
 神は平等? 今の私達は試練を与えられている?
 石を投げられるのも、机に落書きされるのも、悪口を言われるのも、母がああなってしまったのも、私とアキラが他の人と違うのも、神様の試練だというの?

 冗談じゃない、そんな神様認めない、私は絶対認めない――!

 す、と少女に影が落ちた。
 しゃがんでいた少女は後ろを振り返る。そこには傘を持ったシドが立っていた。
 
 「……あ」
 「風邪を引くよ」

 シドが少女に傘を渡す。少女は顔を背けながらそれを受け取る。デイビス先生の顔が見れない。恥ずかしくて。
 シドの隣にアキラが立っていた。金髪碧眼の私の弟。私が守るべき、いとおしい存在――。

 「姉ちゃん」

 そっと、アキラが何かを目の前に出した。キラリと光るそれは、十字架のペンダントだ。

 「……これは?」
 「デイビス先生がくれたの。「お守り」だって。これがあれば悪魔から身を守ってくれるんだって」

 にこにこと笑いながら語るアキラとシドを見比べる。
シドは少女に対して怒ってる様子はない。先程と変わらず微笑んでいる。

 「あげるよ、それ」
 「え、でも……」
 このペンダントは何で出来ているんだろう。随分きらきら光っているが、もしかして純銀製なのか?

 「あの……うち、これを買えるだけのお金がなくて……」
 「これは私からの贈り物だよ」

 少し困ったように肩を竦めてシドは言った。

 「なんで……なんでそこまで私達に……」

 渡されるものには必ず代価が生じる。それが物でも、愛情でも。私はまだ十二年しか生きていないが、それくらいの事は分かる。人が、他人に完全な善意で施しを行うわけがない――。

 「私が君達を愛している。それが理由だよ」

 ぴく、と少女の肩が動いた。

 「愛している?」
 「ああ」
 「……何故?」

 疑心暗鬼な少女の言葉に、シドは黒い大きな手を肩に乗せる。

 「人が人を愛するのに、理由が必要かい?」

 少女はシドの顔を見上げる。デイビス先生の背は大きい。黒い肌、銀の髪、眼鏡ごしの青い瞳。私と、アキラと同じ、皆と違う姿――。

 そっと、黙ったまま、少女は十字架のペンダントを受け取る。そしてそれを首から下げる。

 「姉ちゃん、お揃いだね!」
 アキラが少女に抱きつく。アキラの首にも、十字架のペンダントが光っている。
 お揃い。アキラと、私と、デイビス先生と同じ十字架。皆とは「違う」者同士の印。

 デイビス先生の言葉は全部は信じられないけど、きっとこの十字架を渡してくれたのは善意だから、それは信じよう。これは素直に受け取ろう。

 少女がはにかんだのを見て、シドは満足そうに微笑んだ。
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