1. 組織論的視点の重要性
  広域災害後の避難所でボランティアとして活動する際,目の前にいる被災者の状態に気がとられるあまりつい見逃しがちになることがあります。それは,避難所がひとつの組織体として機能しているということです。

  もちろん,個々のボランティアが被災者のサポートに力を注ぐことが何よりも重要であることは言うまでもありません。しかし,さまざまに異なったニーズを持つ多くの人びとが生活する避難所を適切に運営していくためには,避難所全体を見渡し,それらの中で自身がとるべき立ち位置をしっかりと認識することもきわめて重要です。特に,避難所生活が長期化すればするほど,組織論的な視点の重要性は増します。そこで,ここでは特にボランティアの方々に知っておいていただきたい組織としての避難所の特徴について述べます。


2.
避難所の構造と目標
  避難所という組織の中には多くの場合3つの異なったグループがあります。1つ目はいうまでもなく,被災者のグループです。2つ目はボランティアのグループ。そして3つ目は,避難所となっている施設の職員や利用者のグループです。たとえば,学校が避難所になっているとすれば,そこには被災者とボランティアの人たち,そして学校の教職員と児童・生徒たちがいるということです。

  これら3つのグループは避難所という1つの組織としての目標を共有するとともに,それぞれのグループ独自の目標も持っています。これらの目標はそれぞれ被災後の時間経過とともに変化します。そしてそのような個々の目標の変化に伴って目標間の関係のあり方も変わります。このような変化のあり方を理解しておくことは,避難所をうまく運営する上でとても重要です。

3.
被災直後
  まず被災直後の避難組織について考えます。この段階での組織としての目標は,言うまでもなく,被災者の救命,安全確保,避難生活の安定など。すなわち,被災者が生き延びることです。そしてこの目標は避難所の3つのグループともに共有できているはずです。その意味で,組織目標の共有という点では,あまり問題はありません。しかし,目標が共有されているからと言って,その目標がうまく達成されるとは限りません。実際,今回の震災では,交通・ライフラインの遮断,自治体そのものの崩壊,原子力発電所の事故等によって,被災者の生命も生活も大きな危機にさらされています。

  このような時に必要な行動原則は,必要と平等です。このことについては,辻竜平さんによる詳しい解説があるので,ここでは繰り返しません。また今回の場合,被災直後の段階ではボランティアの受け入れがかなり制限されているので,ここで述べるべきことはあまり多くありません。


  ただし,次のことは言っておくべきだと思います。それは,「被災直後」の状況に貢献できる資源を持たないボランティアは,この状況が落ち着くまで被災地に入ることは控えなければならないということです。今回の震災ではこの時期がかなり長引くことが予想さます。上で述べたことの繰り返しになりますが,現段階の被災地では,交通・ライフラインの遮断,自治体そのものの崩壊,原子力発電所の事故等の影響で,被災者の生命を維持するための最低限の資源さえ十分に届かない可能性もあります。そのような,生きていく上でのさまざまな資源が枯渇しがちな状況の中に入るのです。人が増えれば増えただけ,一人一人に配分される資源は減ります。それらの資源を減らしてまでも,被災者たちにあるいは避難所の運営に貢献できる何かが自身にあるかをよく考えて下さい。


  被災者の役に立ちたいという気持ちは崇高です。被災地に入ってボランティアとして活動したいという気持ちも大切にして下さい。でも,被災直後の時期においては被災者たちが生き延びることが何よりも優先されるべき目標です。その目標の実現に貢献できる資源を持たないのであれば,今いる場所でできることを精一杯して下さい。たとえば,各自治体では今,被災地に送る物資の仕分けに多くの人手を必要としています。当然,ボランティアは大歓迎です。

  なお,ここで言う「資源」はかなり幅広く捉えていただきたいと思います。何か専門的な職業訓練を受けていること,というような狭い範囲でこの言葉を使っているわけではありません。もちろん,医療や看護,救命といった専門性は今の段階でとても貴重な資源です。しかしそれらだけではなく,たとえば,交通が滞っている地域で物流を何とか保とうとすれば,人海戦術に頼らざるを得ません。そこでは,体力のある若い力が不可欠です。どこで何が求められているかを見極めることが大切です。

※ちょうどこの原稿を書いている時,宮城県がボランティアの受け入れを始めたという報道がありました。ただし,被災地までのガソリンや被災地での宿泊場所を自分自身で確保できる人に限るとのことです。ボランティアが乏しい資源を奪わないようにする必要があるからこその制限であると言えます。