4. ボランティアは何を支えるのか
  避難所でのボランティアたちの役割は言うまでもなく被災者をサポートすることです。では,そのサポートとは具体的にはどのようなものなのでしょうか。

  まず1つ理解しておかなければならないことは,多くの被災者は決して弱者ではないということです。被災直前までは力強く生きてきた人たちです。そして近い将来,きっと新しい人生に向けて力強く歩き始めるはずの人たちです。ボランティアの役割はそのような力強さを支えることです。

  しかし,被災直後にはそのような力強さの多くは失われています。圧倒的な自然の力によって多くのものを奪われ,立ち上がる気力さえ無くしている人もいるでしょう。そのような人たちに「あなた方は強い人たちだ,だからがんばれ,立ち上がれ,自立せよ」と言っても,それは無理な話です。阪神淡路大震災後も「みんな『がんばれ,がんばれ』って言うけど,こんな状態でどうがんばればいいのか」という声をたびたび聞きました。

4-1.
弱さを支える

  そんな状況にある被災者たちに対しては当然のことながら物心両面に渡る全面的な支援が必要です。体を動かし,知恵を働かせ,正確な情報を得,それを的確に伝え,被災者に共感し,心を寄せ合い,話を聞く。ソーシャル・サポートの機能分類でいえば,実体的サポート,情報的サポート,評価的サポート,情緒的サポートのすべてが求められます。

  もちろん,一人のボランティアがこれらすべてのサポートを提供できるはずはありません。だからこそ,ボランティアグループの組織的な動きが重要です。誰に何ができるのか,避難所が必要としているもののうち何が提供できて何が提供できないのか。 提供できないものはどのように調達するのか,といったことについてきちんと話し合い共通の認識を持つことが求められます。

  ここで1つ理解しておいていただきたいことがあります。上で述べたように,被災者は弱者ではありません。言い換えれば,被災者の中にも有益なサポート資源を持つ人材は多数います。そして,被災のダメージから速やかに回復し避難所の組織的な運営のために力を尽くそうという人もいます。その人たちとの連携は,特に総力戦となる被災直後の緊急時に不可欠です。

  ただし,いくら元気そうに見えるからといって,被災者に頼りすぎることは禁物です。被災直後には緊張と興奮によって普段以上に効力感が高まったり,時には全能感を覚えたりする人がいます。
そもそも,被災直後で外部からの支援が届いていない段階でも多くの避難所でそれなりの秩序が保たれているのは,そのような被災者の獅子奮迅の努力による部分が大きいと言ってよいでしょう。しかし,そのようなぎりぎりの状態での努力はいつまでも続くものではなく,突然のバーンアウトの可能性さえあります。

4-2.
ネットワークで支える
  総力戦が効果を発揮し始めるまでにはかなりの時間を要します。特に今回の震災のダメージはあまりにも大きく,いつになれば被災者の状態が落ち着き始めるのかの予測はつきません。このような状況では避難所間の横の連携が重要な意味を持ちます。サポート資源が偏在していることが多いからです。

  被災直後には,ボランティアたちがとにかく行ける場所まで行ってみる,という行動をとりがちです。そのため,比較的交通の便がよかったり被害の程度が少なかったりする被災地に多くのボランティアが集まり,大きなダメージを受け物資も十分に届かない被災地にはわずかしかボランティアがいないということが起こります。結果として,より多くの支援が必要な地域ほど支援が届きにくいということになってしまいます。

  そのようなことを防ぐには,人材が潤沢な避難所からそれの乏しい避難所に人材を移動させなければなりません。また,被災者たちのニーズは時の経過とともに変化するので,人材の臨機応変なやりくりも必要です。そのためには,地域を超えたボランティアのネットワークが不可欠です

  ただし,今回のように被災地が広範囲にわたっている場合,個々のボランティアの草の根的な行動だけでは,サポート資源を有効にやりくりすることは困難です。幸いわが国には,広い範囲にわたってボランティア情報を集約している団体が複数あります。とにかく行けるところまで行ってみようとする前に,そのような団体から情報を得て冷静な行動をとることが求められます。