5-2. 地域を支える
  1つの前の記事では,被災前の地域における相互扶助のネットワークが避難所での対人関係に反映された場合の強さと脆さについて指摘しました。このような強さを生かし弱さを補うためには何が必要なのでしょうか。この問いについてはさまざまな観点からの答えが考えられますが,ここではボランティアの視点からどのようにアプローチするかを考えます。


  ボランティアの多くは被災地域の外からやってきます。そのため,被災地域固有の対人関係の詳細についてはほとんど何も知らない状態で避難所での支援を始めます。このことは被災者とのさまざまな認識のギャップとなってトラブルの原因になるでしょう。しかし,被災者との認識のギャップがあるからといって,被災者側の認識がいつも正しくボランティア側の認識が常に間違いであるというわけではありません。たとえば,特定の地域内の被災者とその地域外の被災者との間に不平等があるとすれば,それにいち早く気づくのはおそらく「よそ者」としてのボランティアでしょう。


  もちろん,目に見える物資の配分に不平等については,どのような立場にある人でも気づきやすいでしょう。しかし,心の支えがどれくらい与えられているのかといった目に見えにくいものについての不平等は,立場によって見え方が異なります。たとえば,地域外部から逃れてきた被災者には,同じ避難所内に普段から近所つきあいをしていた親しい知人や友人はいないかもしれません。その寂しさやつらさは,地域内の被災者には見えにくいものです。それに気づきやすく,また共感を持ちやすいのはよそ者であるボランティアではないでしょうか。


  また,避難所において被災前の地域における有力なメンバーにさまざまな権限やリーダーシップが集中していたとしても,地域内部の被災者にとってそれは日常的な光景であるために,その問題点がかえって見えにくいかもしれません。それに対して,よそ者であるボランティアには,そのような権限やリーダーシップの集中は見えやすいものであるため,それの持つ問題点に気づき,指摘することが可能です。


  このように,ボランティアの「地域外からの視点」は,避難所の適正な運営にとってとても重要な役割を演じます。ただし,繰り返しになりますが,地域外からの視点であるが故に,地域内からの視点とぶつかることも少なくないでしょう。しかし,そのようなぶつかり合いを恐れて押し黙ってしまうことは,短期的な心地よさにはつながっても避難所の長期的で安定的な運営にとってはマイナスに働くことが多いのです。


  もちろん,なんでもかんでも対立すれば良いというわけではありません。被災者への普段からの惜しみない支援があって初めて信頼感が生まれます。人は信頼している他者からの意見であれば,それが少々耳に痛いものであってもいったんは受け入れてみようかという気持ちになるものです。


  何よりも認識しておくべきことは,避難所でのボランティアの役割は何か,ということです。避難所の安定的な運営と被災者の一日も早い自立を支援することでしょう。これを別の言葉で表現すれば,避難所の持続と縮小を支援することです。この一見相矛盾する目標の達成がボランティアに求められているのです。そのためには,被災者への惜しみない支援とほどよい緊張感がともに不可欠であると言えます。