2017年05月31日

休載のお詫び

長らく更新しておりません。誠に申し訳なくおもっております。

今しばらくお待ちいただけますように、勝手なお願いを申しあげます。  
Posted by osamuwaka at 00:33

2009年07月30日

沈下橋

・沈下橋


しばらくマーケットを歩いていた。


朝の数時間、開かれる市だった。


店舗を持てない人達が、露天で様々な物品を持ち寄る。


震災後、あちらこちらに存在していた。


ここは、その中でも一番大きい。


人と物が限られていたので、毎日、一日中商われている訳ではなかった。


時折、それとなく人々は、ある日を解っているのだった。


その場所を人は、マーケットと呼んだ。


オサムが十字路に差し掛かると、行き成り、4,5人の男達が一人の男を


追い立てて雪崩れ込んできた。


男は道に倒れこんで這いつくばって悲鳴を上げている。


その上を男達の蹴りが襲う。


袋叩きだった。男と男達の声は、人を集める。


怒号と悲鳴、既に見慣れたものだった。


オサムは、無関心であった。



騒ぎの中心にいる男は動かないでいた。


その様子を見極めた一人が、動かない男の胸元をまさぐった。


財布らしき物を取り出し、お金を抜いた。


これが、この地のもうひとつの現実だった。


何故、一人の男が袋叩きにされていたのか、誰も考えることはなかった。


そのこと事態、無駄なのだ。


人々は、今を生きるしかなかった。



オサムが気付いていたのは、お金を手にした男から手荒くもぎ取ったヤツがいたことだ。


男の顔に見覚えがあった。


仁美の部屋から出てきた、あの男だった。


その場で分け前を貰うと、男達は慌てて散らばろうとした。


オサムは身動き出来ないでいた。


関わりたくない、見たくもないこんな様子を無視したかった。


その場に足止めをくってしまった。


集まった野次馬、群集は、この男達からさえも略奪しかねない。


男達は、それを知っていた。


必死で、走りだそうとうごめく。


しかし、それは始まってしまい、治まりがつかない。


悪態と怒号を撒き散らし、逃げようとする男達めがけ鉄槌が跳ぶ。


自分たちがした様にされていた。


仲間を尻目に、逃げ去ったのか、あの男は消えていた。



爛れた関係、仁美という女の生き方だった。  
Posted by osamuwaka at 16:36

2009年01月02日

Hitomi

・Hitomi


オサムには、双子の弟がいた。


弟は美雪の店にいた、仁美というホステスに入れあげていたことがあった。


札付きのアバズレなのに、お金まで貢いでいたことは、後で知った。


新しい客、イコール男が出来ると、弟は捨てられた。


それだけで済めば、心に痛手は残るものの、笑い話で終わった事だろう。


しかし、弟は、激情にかられ、仁美とその男を刺した。


男は大怪我をしたが、一命を取りとめ、仁美は足を骨折しただけだった。


その場には、警官が駆けつけたが、仁美を刺そうとする時、警官の発砲により、


絶命した。


事を起こす前に、弟が書いた遺書があった。


その、あくる日に震災にみまわれた。


全ては、悪夢だった。


僅かな幸いは、事件が世間に知れ渡らなかったことだろうか。


最近、あの仁美が生きていることが分った。


凝りもせず、男をあさり、引きずり込み怠惰な生活をしている。


遺書には、「ハートのない、生きる屍」と記されていた。


「あの仁美は、生きる屍か」


どのような女か、解かる様な気がした。


「オレがあいつだったら、手首を掻っ切って死ぬ」とも書かれてあった。


弟は思いすぎた。


オサムは、側に居て遣れなかったことを悔いていたが、


誰にも止められなかったことも理解していた。


酷い扱いをされていた。そのことが悔しく心を焦がした。


弟は人を殺せない。


そういう男だった。


自分との違いは、そこのところだろう。


震災以降、治安は最悪となっていた。


自分の身は自分で守るしかなかった。


術を知らない者は、生きていけない。


美雪を残してきたが、その術を彼女は知っている。


オサムは目的の場所へと向かっていた。


朝市が開かれる、マーケットがあった。


その裏に崩れかけのビルの二階に仁美がいた。


客を装い、オサムはマーケットを歩いた。


そのビルから、男が外に出てきた。仁美の情夫か。


暫く、様子を伺い、直ぐにビルの二階に駆け上がった。


部屋の戸は板ばりで、オサムは一気に蹴破り、なだれ込んだ。


朝市の喧騒で、その音も、消されてしまう。


ワンルームの部屋の隅にベッド。


だらしなく全裸で寝そべる仁美を見てとると、


用意したハンマーをだし、女の上に馬乗りになった。


仰向きに寝そべる仁美の首を左手で押さえ、ハンマーを打ち下ろした。


鼻がくずれ、片目を潰した。


引きつった低い音がしたが、動かなくなった。


血の着いたハンマーを捨てる音がやけに響いた。


オサムは顔の血の跳ね返りを、仁美を辛うじて覆っていた、
ピンク色のシーツを剥ぎ取り、拭った。


汚いもので拭ってしまったと感じた。


「ふん、生きる屍だ」


オサムはゆっくり部屋を後にした。


出ると、変わりない朝市の喧騒に紛れ込んでいた。  
Posted by osamuwaka at 22:56

2008年09月26日

再会

誰かが階段を登ってくる気配がある。


鉄制の登り階段は、軽い音を発していた。


ぼろアパートだから、よく響く。


珍しいと思いながら、それでも、オサムは日焼けた畳に寝そべっていた。


すぐに、ドアを叩くものがあった。


躊躇いながら、それでも身体は素早く反応していた。


身構え、ドアを開いた。


震災の後、数年は経っているが、治安はまだまだ危うい。


外側に開くドア、相手がまだ確認できない。


開ききったとき、美雪の顔があった。


笑みはなかった。何とも情けなさそうに突っ立っている。


「オサム」と、美雪が口を切った。


そういったきり、美雪の目が潤んでいることが見て取れた。


オサムは言葉がでなかった。ため息ともつかない声が出そうになったが、堪えた。


一度、目を伏せ「入れよ」というのが精一杯だった。


美雪を中に招き入れたものの、入り口のタタキに靴も脱がずに、美雪はいる。


「上がって、座れよ」と促す。


一呼吸間をおいて、美雪は靴を脱ぎ、崩れるように座った。


疲れている。そう思った。オサムは冷蔵庫から、牛乳とハムサンドを出し
美雪の前に置いた。


「とにかく、これを食べな」


緊張というものは、突然崩れるようで、「クウー」という音がした。


美雪は恥ずかしそうに表情がくずれ、泣き出した。


オサムはそんな美雪に声をかけるでもなく、ただ、見つめている。


やがて、泣きじゃくりながら、美雪はパンに手をのばし、ほう張りはじめた。


まだ、泣き止まない。


オサムは少し離れ、煙草に火をつけた。



翌朝、美雪はまだ、オサムのベットにいた。


明け方近くまで、これまでのことを語りあった。


美雪は語り足りないようすだったが、とにかくベッドに寝かせた。


オサムは畳に横になった。美雪はそれでも、話していた。


だが、直ぐに寝息が聞こえ出した。


オサムは美雪に書置きをして、部屋を出た。


今朝はどうしても、決着を着けなければならない日だった。


オサムには、許せない奴らがいたのだ。  
Posted by osamuwaka at 00:34

2008年08月31日

真田山ストリート


( はじめに )

オサムと美雪の物語が始まります。

・真田山ストリート



石鹸を購入する。


深夜のコンビニは、何時もまばらに人がいた。


オサムのポケットには、小銭しかない。


それでも、缶コーヒーを一つ取り、石鹸と一緒にレジに置いた。


あまり、咽喉は渇いていなかった。


家族がいた頃には、石鹸を買った記憶すらなかったのに。


そんなことを考えながら、アパートの階段を昇る。


六世帯入る小さな建物だった。


今居るのはオサムだけだった。


まだ、建って5年もしないのにと、思う。


戸を開け、なかに入る。明かりはつけっ放しで外出する。


夜はその方が用心のためだと、大家さんの言葉だ。


「気の毒だよな」修は思わず声にだしていた。


オサムの部屋は、パソコンが一台、


あとは、革製のコートやブルゾン、ジャンパーが多数吊るされていた。


〜三日目だったよな!〜


まだ、暑さが残る9月。


美雪が戻ってきた。震災の10日前にお茶をしたきり、


姿を見ることはなかった。


既に、一年、いや、二年が経っていた。


まだ、郵便事情がわるく、届かないことが多いのだ。


そんな時に手紙がオサムの郵便受けに一通の手紙が入っていた。


消印は一ヶ月も前のものであった。



暫くです。美雪です。

この手紙が届くことを祈って、筆をとりました。

きっと、お元気のことと信じています。

あたしは、辛うじて生き残ちゃいました。

オサムに逢える日が来ると思っています。



そんな、内容の手紙だった。


あれから、三日目。


美雪が目の前にいた。












  
Posted by osamuwaka at 17:51

2008年03月16日

哀悼

・哀悼



ヒロは美雪を見送り、貰ったカンパンを抱え、瓦礫の中に消えて行った。


リヤカーは軽く、美雪にも引くことが出来た。


既に、ヒロが集めて修理した鍋や釜、ヤカンなどが積み込まれていた。


これらは、キャンプで使用するが、近隣の人々にも分けられる。


ヒロの造る道具類は良く出来ていた。


何より使いやすいのだ。


中華鍋のような深いフライパンをつくる。


これ一つで、たいていの用は足りるものであった。


鉄の蓋もついていて、アウトドアで使うダッチ型の鍋にも似ている。


違うのは、鋳物ではないことだ。


ヒロは鉄を叩く。



美雪は、ヒロからコークスを別けて貰うことがある。


キャンプでは燃料が足りないでいる。


ヒロはこの石炭コークスを持っていた。


かなり大量に確保しているらしいのだ。


美雪は秘密にすることを、ヒロと約束していた。


瓦礫の中では、思わぬものが手に入るのだ。




美雪は、今の生活に充実感を覚えていた。


学校を終え、田舎から出て来た。


都会の生活は、決して満ち足りたものではなかった。


就職した会社では、いつも物足りなさを感じていた。


生活のためもあったが、夜はキャバクラで働いていた。


色んな男を見ることが出来た。


同じ年頃の仲間との出会いと交流があった。


それは、楽しいことであったし、嫌なことも多く経験した。


今は、まるで違う境遇にある。


数ヶ月前までの日常が、別世界のことのように思える。


何より、当時の知り合い、仲間と逢うことが出来ないでいた。


誰も安否が解からないのだった。


そのことが余計に、あの頃を夢のように感じるのであった。


しかし、美雪には今の自分があった。本来の自分。


地震、津波によって人々の日常は崩壊した。


その辛い現実はあったが、以前のように自分を偽ることのない、

今の生活が良かった。


都会の生活は小さな「嘘」をつくような毎日だった。


その為に余計な事を記憶しなければならなかった。


「嘘」を繕う為に、嘘を覚えて置かなければならない。


悲惨な現実を乗り越えつつある人々にとって、

今は、そんな「嘘」など必要のないことであった。


少なくとも、美雪の知る人達は率直にものを言っていた。


災害のあとには、デマが飛び交った。


生き残った人々は、それが生命にかかわる事態となることを経験してきた。


人々は、曖昧な物言いを避けるようになったのだ。


死線を乗り越えた人達の、不運にも帰らぬ人となった同胞への、

「哀悼」の思いであるかのように。

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Posted by osamuwaka at 22:58

2008年01月27日

ヒロ

・ヒロ



毎日が慌しく過ぎていった。


このキャンプに来てから、三ヶ月がたっていた。


身体が快復してから、ここでの手伝いが美雪の生活となっていた。


美雪は、家族や知り合いとの連絡は未だにとれずにいた。


そんなことは、ここでは当たり前のことだった。


自分だけではないことを誰もが共有していた。


とにかく、今は、ここでの生活を続けて行く、そう決めてからは余計な
ことは考えずにすんだ。


美雪は何でもする。やれることは自ら進んで働いた。


いつの間にか、全国から送られてくる救援物資の仕分け作業を
任されるようになっていた。


薬や衣類、生活用品、食料、飲料水、送られてくる物資はありがたかった。


キャンプだけではなく、周辺の人達にも届ける。


ここが、救援物資の配送の拠点となっている。


それでも不足するものはあり、それらの調整役を美雪が窓口となり、


忙しい日々を送っていた。


被災者の生活は、三ヶ月たった今でも、困窮している。


被災地域が広範囲であり、都市が幾つも壊滅状態に陥っていた。


何十万という人達が被災し、生死のわからない行方不明者は想像以上に
多く、被害状況は未だ把握されていない。


都市としての機能はもはやなく、単なる瓦礫の山と化していた。


到底ここでは、生活できない。何にもないのだ。


美雪は、忙しく働くことで、自分は救われていると感じている。


何時までも、ここに居られないことも理解していた。


早く生活の自律を、とも考えないわけではない。


しかし、この状況では、それも難しく、


美雪は自分の出来ることを精一杯する、と決心していた。


誰かは判らないが、美雪をここへ連れきた人がいた。


美雪は、その見知らぬ人や、このキャンプの人たちに救われたのだ。


だから、・・ここで役に立ちたい。そう思っていた。




津波はあらゆるものを持ち去っていった。


それでも、瓦礫の下には、いろいろな物がある。


金属類は、容易くてにはいる。


それを集めてきて、加工する。即席の鍛冶屋が現われていた。


ヒロはそういう中の一人であった。


「美雪、リヤカーが出来たから持っていきなよ」


「へ〜ぇ、すごいじゃない。ありがとうヒロ。でも・・・」


「いいよ、只で。いつも食べ物、運んでもらっているしね」


「ありがとう。使わせてもらうわ」


少年は優しい目をしている。


普段は瓦礫の中で暮らしている。


美雪が発見したときは、雨に濡れ、体を震わせていた。


辛うじて意識があったが、美雪と共にきた捜索隊がキャンプに収容した。


身体が快復すると、ヒロはここへ戻ってきた。


何度も美雪にキャンプに戻るように説得されたが、ここにいた。


美雪が食料を時々運んでいた。


ヒロは十六歳。


美雪は、今でもこの少年が気がかりでいる。


しかし、ここにいる理由があるんだと感じていた。


何となく、それだけなのだが、そう思ってからは、戻ることを言わなくなった。


リヤカーは、美雪にも軽く引くことが出来た。


「助かるヒロ。これ良く出来ているね」


手にしたリヤカーを引いてみた。


「大事に使わせてもらうからね」


ヒロは照れて笑った。  
Posted by osamuwaka at 18:04

2007年12月16日

天幕

・天幕


長い夢からさめたような、深い眠りのあとの壮快さがあった。


美雪は目覚めた。ぼんやりと青色の天幕を見ていた。


美雪は最初どこに居るのか理解できないでいた。


簡易ベッドに寝かされていることに気付くのに大して時間はかからなかった。


衣服はそのままで、思ったより汚れてはいなかった。


断片的に記憶が蘇る。


地震と津波、ふいに恐怖が押し寄せる。


大声が咽喉の奥まで、息を詰めていた。それを吐き出す。


動揺は回避できた。


必死で高台まで登り、そこで意識を失っていた。


誰に・・誰かが助けてくれたのだ。


そう思うと、胸が熱くなった。


周りに目を向けると、天幕は思いのほか手狭な感じがした。


そこには、7・8人寝かされていて、男性が一人動き廻っている。


その人がこちらを見た。直ぐに声をかけてきたが、


不意に声が飛んできたので、それが自分に向けられているのか、


解からないでいた。


「気がつかれましたか?」


にこやかな表情と穏やかさが美雪を安心させていた。


丸い眼鏡をした中年の男には、やはり髭があった。


「はい」美雪は答えた。


声が出たことと、自分の声が他人のもののように思えたことが、


心を震えさせた。


「もう心配ありませんよ。ゆっくりと休んでください」


そう言うと男は天幕を出て行った。


美雪は再び青い天幕に目おやった。


涙が溢れて止まらない。

  
Posted by osamuwaka at 00:20

2007年11月06日

御詫び

長らく更新をいたしませんでした。

ここに、御詫びいたします。

地震のことを書いた後、間もなく新潟中越での地震が発生いたしました。

そのこともあり、物語を続けることを躊躇っておりました。現在も、その気持ちに変化はなく、どうしようかと思案しています。

出来れば、新作をと考えています。近日中に答えを出したいとおもっています。

その時も、今までと変わりなく拙ブログをご愛顧願いたいと思っています。

管理人 和夏  
Posted by osamuwaka at 01:08

2007年07月12日

津波

・津波



美雪は、本能的に高い場所に歩き出していた。


街が崩壊して見ると、この都市が起伏の多い地形であったことがわかる。


瓦礫と化したビルや、自動車から、火の手があがっていた。


難を逃れた人々は、目の前の現実に言葉を失っている。


最早、泣き叫ぶものもいなかった。


聞こえるものは、風の音だけであった。


先ほどまでの、人々の喧騒は消え、不気味なほどの静寂があった。


その中をひたすら美雪は歩いた。


周りの状況は酷いものであった。


美雪は地震の直後から暫く気を失っていたことに気付く。


人と出逢わない。動ける人は何処かに非難したようであった。


近くに高台の公園があったことを思い出していた。


足を止めることなく、ただ歩いた。


もう周りは見ない。


息があがる。身体が悲鳴をあげ始めたころ、公園にたどり着いた。


そこも、木々が倒れ、木の根が剥き出しになっていた。


その時、別の音が聞えて来た。土が唸り、大気が響き出す。


こんな音は聞いた覚えがない。


遠くに黒く山のような盛り上がりを見た。


それは、素早く動き、倒壊した全てのものを飲み込んでいった。


(こちらに、来る)


「津波!」美雪は声をあげた。


その声を聞く人はいなかった。


轟音と共に、衝撃があった。


それは、何度も、何度も繰り返されて、美雪は木の根元に身体を伏せた。


音が消えたとき、美雪はさらに高い場所を目指した。


(もう一度来る!)


大きく波が引いた。


更に高いところへと、美雪は走り出した。


その刹那、あらたな振動と轟音を感じたとき、


美雪はよろけて倒れてしまった。


黒い波の山が大地とぶつかり削って行く。


取って返すように、全てを飲み込んだ黒いものは、


自分の場所へと身を引いていった。


暴風の音だけを残し、最早、戻ることはなかった。


やがて、雷鳴が轟き、雨が降り出した。


美雪は、雨にうたれながら、初めて泣いた。大声を出して泣いた。

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Posted by osamuwaka at 16:22