2008年01月27日

ヒロ

・ヒロ



毎日が慌しく過ぎていった。


このキャンプに来てから、三ヶ月がたっていた。


身体が快復してから、ここでの手伝いが美雪の生活となっていた。


美雪は、家族や知り合いとの連絡は未だにとれずにいた。


そんなことは、ここでは当たり前のことだった。


自分だけではないことを誰もが共有していた。


とにかく、今は、ここでの生活を続けて行く、そう決めてからは余計な
ことは考えずにすんだ。


美雪は何でもする。やれることは自ら進んで働いた。


いつの間にか、全国から送られてくる救援物資の仕分け作業を
任されるようになっていた。


薬や衣類、生活用品、食料、飲料水、送られてくる物資はありがたかった。


キャンプだけではなく、周辺の人達にも届ける。


ここが、救援物資の配送の拠点となっている。


それでも不足するものはあり、それらの調整役を美雪が窓口となり、


忙しい日々を送っていた。


被災者の生活は、三ヶ月たった今でも、困窮している。


被災地域が広範囲であり、都市が幾つも壊滅状態に陥っていた。


何十万という人達が被災し、生死のわからない行方不明者は想像以上に
多く、被害状況は未だ把握されていない。


都市としての機能はもはやなく、単なる瓦礫の山と化していた。


到底ここでは、生活できない。何にもないのだ。


美雪は、忙しく働くことで、自分は救われていると感じている。


何時までも、ここに居られないことも理解していた。


早く生活の自律を、とも考えないわけではない。


しかし、この状況では、それも難しく、


美雪は自分の出来ることを精一杯する、と決心していた。


誰かは判らないが、美雪をここへ連れきた人がいた。


美雪は、その見知らぬ人や、このキャンプの人たちに救われたのだ。


だから、・・ここで役に立ちたい。そう思っていた。




津波はあらゆるものを持ち去っていった。


それでも、瓦礫の下には、いろいろな物がある。


金属類は、容易くてにはいる。


それを集めてきて、加工する。即席の鍛冶屋が現われていた。


ヒロはそういう中の一人であった。


「美雪、リヤカーが出来たから持っていきなよ」


「へ〜ぇ、すごいじゃない。ありがとうヒロ。でも・・・」


「いいよ、只で。いつも食べ物、運んでもらっているしね」


「ありがとう。使わせてもらうわ」


少年は優しい目をしている。


普段は瓦礫の中で暮らしている。


美雪が発見したときは、雨に濡れ、体を震わせていた。


辛うじて意識があったが、美雪と共にきた捜索隊がキャンプに収容した。


身体が快復すると、ヒロはここへ戻ってきた。


何度も美雪にキャンプに戻るように説得されたが、ここにいた。


美雪が食料を時々運んでいた。


ヒロは十六歳。


美雪は、今でもこの少年が気がかりでいる。


しかし、ここにいる理由があるんだと感じていた。


何となく、それだけなのだが、そう思ってからは、戻ることを言わなくなった。


リヤカーは、美雪にも軽く引くことが出来た。


「助かるヒロ。これ良く出来ているね」


手にしたリヤカーを引いてみた。


「大事に使わせてもらうからね」


ヒロは照れて笑った。

Posted by osamuwaka at 18:04