プロローグ パンティー

「今日の天気は……晴れ」
 俺の予想は当たった。
 目の前には悔しそうに体を震わせている女子が一人。
 俺は誇らしく彼女に告げる。
「俺の勝ちだ」
「なぜですの! なぜ貴方には今日の天気が分かったのですの? 予報では雨の確率の方が圧倒的に高かったはずです! 気象予報士の細かい予測でも――」
「天気予報? 気象予報士? そんなもの関係無い」
 あえて、なぜ俺が天気を当てられたのかは教えない。
 彼女は雨だと言い、俺は晴れると言った。
 ただそれだけが事実であり結果だ。
「さぁ、約束は守ってもらおうか、先輩?」
 この時ばかりは紳士な俺もニヤけずにはいられない。
「くっ、屈辱ですわッ! しかし、私は約束は守ります!」
 彼女はそう言ってスカートが捲れない様に身を屈めてスカートの中に手を入れた。
 恥辱に頬が真っ赤に染まっている。
「これだ! この瞬間のために俺は生きている!」
「この変態ッ!」
「何とでもいってくれ。それより先輩、早く脱いでよ」
 俺の言葉に彼女は黙り、スカートの中に入った手が何かを掴んで下がってくる。
 何かってなんだって?

 それはもちろん! パンティーさ!!

第一話 少年を変えたもの

 十年に一人のバカと呼ばれた少年がいた。
 彼の名前は天野川(あまのがわ) 才児(さいじ)。
 同年代の誰よりも言葉を覚えるのは遅く、中学に入学する時にやっとデジタル時計の読み方を修得するという残念ぶり。
 そんな彼に期待する者は誰もいなかった。
 どうか君みたいな人は他人に迷惑をかけないように生きてくれと!
 事件とか、事案だけは作らないでくれと、純粋な中学一年生に向かって大人たちはそんな言葉を浴びせた。
 しかし、中学二年の時の事だった。
 ある事をきっかけに少年は覚醒する。
 と、まぁ。
 聞いた様に話してるけど、実はこれ全部俺の事なんだよね。
 さて、唐突に話は変わるんだけど。
 ――人間にとってもっとも重要な事は?
 こう聞かれて『努力』だの『才能』だの『顔』だのと答える奴は分かってない。
 何が分かってないかって、『人間は所詮動物である』という事だ。
 人類は知性があるからって動物ではないって? じゃあ猿とか犬とかイルカはどうなんだ、彼等だって人間を抜けばトップクラスの知能だろう。虫けらと比べれば彼等だって知能的には動物じゃないって言えてしまうではないか。
 つまり、人間は知能があるから自身に鎖を繋いでしまったのだ。理性という鎖を!
 自身の能力を縛るのであればそんなものは解いてしまえばいい!
 鎖を解き、全力全開で生きてこその人生ではないか!
 本能のままに生きてこそ人は報われる。
 もちろん、その上で文明の発展だの精神レベルの向上を目指せばいいのだ。
 これこそ俺の信条!
 つまり俺の解答はこうだ。
 人間にとってもっとも重要な物、それは――ッ

「性欲だ!!」

 俺は叫んだ。
 瞑想から現実に戻り目を開ける。
 そこにはドン引きしたクラスメイト達と、デコに青筋を浮かべた担任教師がいた。
「あ、そういえば今ホームルーム中だったか。先生失礼、続けてください」
「先生失礼じゃないんじゃ、ボケェ!!」
 広島出身の先生が怒鳴ると迫力満点だ。しかし言葉というものは土地によって独自の進化を遂げているもので、受ける印象が異なっても恐れる事はない。
 ただ先生は怒っている。それだけの事だ。
 先生が俺を睨む。俺は座る事もできずに立ち尽くす。
 しかし、手だてがないという訳ではないのだ。
「あと10秒ってところか……」
「何をいっておるか! 突然性欲だと叫んだ後には教師に喧嘩売ろうってか? あぁん!?」
「いやいや先生そんな事はないのですよ……5、4、3」
「何のカウントダウンじゃ!」
「何のって、先生ここは学校ですよ? 学校と言ったらほら――」
 ――キーンコーンカーンコーン
 鳴り響くチャイム。つまりは終業の合図だ。
 これで俺は自由の身、ここに縛られている必要はない。
「それでは先生、また明日!」
 俺は先生に深くお辞儀をしてから走りだす。
「おらー! 逃げるな天野川ぁああ! 入試の成績がトップだからって俺は特別扱いせんぞぉおおおおお!」
 先生は廊下に飛び出して怒鳴っていたけど、今の俺を止める事はできない!
 なぜなら、彼女達が俺を呼んでいるから!
 校内を疾走し、渡り廊下を渡った先が俺の目的地。
 『ブックメーカー部』
 部室棟の二階大きめの看板をかけているこの部活。俺はこの部活に入るためにこの学校に入学したといってもいい。というかこの部活がなければこの高校に入学する意味はない。
「たのもーう!!」
 俺はブックメーカー部の扉を開く。
「ふ、現れましたわねこの変態!!」
 待ちかまえていたのは部長の桜ヶ咲(さくらがさき)レイナ、三年だ。
 金髪ツインテに巨乳、お嬢様、予定ではツンデレ! ちょっとキャラ立ちすぎじゃないですかって感じのお嬢様だ。大きな目とキメが細やかな肌がチャームポイント(自称)!
「せ、先輩! もう関わるのはやめましょうよ。この前だって先輩の方が……」
 レイナの後ろでオドオドしているのは東大寺(とうだいじ)撫子(なでしこ)、二年だ。
 黒髪ロングで丸メガネ、貧乳! 後輩キャラとしては優秀だがレイナが卒業したらお前は大丈夫なのかってなるタイプだ! 飾らないが美少女、やはり素材さえ良ければ女の子は飾らなくても可愛いのだ!
 キャラは薄め。堅実な性格はこの部活では珍しいといえる。
 ちなみに、冒頭でパンティーを脱いでいたのはレイナの方だ。
 ま、あの後実は彼女が穿いてたのはブルマで、ブルマはパンティーか否かという重大な論争が起こったのだけど答えは出ず。
 結局ブルマをもらっただけで終わってしまった。
「撫子! これは俺とレイナの問題だ! 口を挟まないでくれるか」
「才児(さいじ)! 先輩には敬語を使いなさいとと言ったはずですわよ!」
「ふふ、レイナそれは聞けないな! なぜならこれが俺の個性だから! ゆとり教育の今! 個性を潰す事はできない!」
「くッ! ゆとり教育の隙をついてくるとは……なかなかやりますわね!」
「いや、なかなかやりますわね! じゃないですよレイナ先輩! ゆとり教育の本質はそこにはありません」
 レイナが論破されそうになっている所を撫子がツッコム。この撫子、本来はツッコミなんてやりそうもないのにレイナといるうちに必要なスキルだったのだろう、すっかりツッコミを修得していた。
「く、私とした事がまた丸めこまれる所でしたわ。そう、では今日の賭ける物は敬語という事にしましょうか」
 ニヤリとレイナが笑った。
 そう、ここはブックメーカー部。
 ブックメーカーとは欧米の賭け屋の事だ。まぁ聡明な人なら名前くらいは聞いた事があるだろう。
 ブックメーカーの主な仕事は倍率付けと、何を賭けにするのかの選択だ。 それは翌日の天気から新しい王子の名前まで何でもかんでも賭けにする!
 しかしこの部活がちょっと違うのは『自分達が賭けを楽しむため』に賭けを作っている事だ。
 普通ブックメーカーは賭けをマネジメントするだけで自分が賭けに参加する事はない。しかしここは日本、そもそも賭けが○チンコか公営の物しかないという事で、「なら自分達で作ればいい」とレイナがこの部活を作ってしまったのだ。
 だから今みたいに『何を賭けにするか』よりも『何か欲しいから賭けの内容は何にしようか』って感じで目的と方法が逆転してしまう事が多い。
 まぁ何でも賭けにするというポイントはズレてないからいいんだけどね。
 話は元に戻る。
「私が勝てば貴方には敬語を使ってもらいますわ! 私を敬いなさい!」
「ふふ、では俺が勝ったら今度こそレイナのパンティーを頂くとするよ! 今回はブルマでは納得しない!! 賭けるものはレイナのパンティーだ!」
「相変わらずですわね……よろしくてよ! 賭けるものはそれで問題ありませんわ」
 何とも美味しい話だった。
 俺の敬語を賭けるだけでパンティー(脱ぎたてホカホカ)がもらえるかもしれないだなんて、俺の敬語も価値が上がったもんだ。個性万歳。ゆとり教育、万歳!
 ちなみに、冒頭での賭けではレイナはパンティーを、俺はこの部活への入部を賭けていた。
 元々入部しようと思っていたのに優秀な人材(入試トップ=俺)が欲しかったレイナが先走り、俺に賭けを申し込んで来たのだ。その内容が『翌日の天気』で、まぁ結果は知っての通り俺の勝ちだったけどね。
 その後「あ、入部はするよー」って言った時のレイナの表情といったら、喜びと屈辱が入り混じった絶妙のものになっていた。今思い出してもゾクゾクする!
「レイナ先輩、今日は何を賭けに使いますか?」
 撫子が目を爛々と輝かせて聞いていた。そう彼女も大人しい様でこの部活の一員、賭けごとは大好きなのだ。
「そうですわね……」
 レイナがキョロキョロと賭けの対象となる物を探す。
 窓の外に目を移し、彼女の口角が少し上がった。面白い物を見つけた時の顔になる。
「では、あちらにしましょうか」
 そう言って彼女が指さした所には一組の男女が立っていた。
 今は放課後、そしてあの場所は裏庭。
 男女の両方がそわそわし、頬を赤く染めている。
 これはもう何が起きているかは一目瞭然。
「告白かッ!」
「告白ですね!」
 レイナ同様、俺も面白いと思った。
 告白の結果を賭けにするなんて、これぞまさにブックメイク。
 賭けは何が起こるか分からないからこそ面白いのだ。
 賭けた物によっては告白している本人よりも興奮できる。これぞ賭けの醍醐味ってもんだ。
 俺達三人は速やかに告白カップルを陰から見守れる距離に近づいた。
「ふん、それでルールはどうする? 単純に告白の成功か否かでいいのか?」
 ルールの確認は重要だ。
 ジャンケンをした後に「今回は負けたら勝ちだよ!」と言われた事、誰しも一度は経験があるはずだ。
 それほどまでに勝負の結果というのは曖昧なもの、ルールが決まっていなければ勝敗なんて決定しないのだ。
「そうですわね、それでいいと思いますが……これは私と才児のギャンブル。当人達がルールを決めてはどちらかに有利なものになってしまう事がありますわ。なので、撫子! ルールは貴方に任せます!」
 腰に両手を当てて仁王立ち、キメポーズなのか? レイナはあまり斬新ではないキメポーズを取って撫子に賭けの重要な部分を任せた。
「わ、私ですか……分かりました、少し待っていてください」
 撫子は自信なさげに頷くと状況をよく見て考えた後、意を決したように口を開く。
「まず勝敗は告白の成否を当てた方の勝ちとします。また、本来は賭けのオッズで利益の調整をするのですが、今回は二人の直接対決のため調整はしません。また勝負を持ちかけたレイナ先輩は後から賭けるものとします。同じ方に賭けるのは禁止です。賭けをおりるタイミングはベット前までとします。告白の返事がその場で出るとは限りませんので、その際は私が意地でも結果を調べます。また、制限時間は今から五分後とします……これでどうでしょう?」
 ブックメーカーはこんな風に賭けのオッズやルールを決める事がある。
 ちなみにオッズというのは当たりにくさを示す数値だ。競馬とかだと単純に倍率の事を言ったりする。
 簡単に言えば、当たりにくいほど当てた時の配当が大きくなるって事だ。ちゃんと計算式とかもあるし気になった人はググってみよう!
「よろしくてよ!」
「俺もオーケー。でも撫子、大好きな先輩に不利な条件を付けるなんて……俺に惚れたか。うんそうか」
「答える前に納得しないで欲しいのですが!? うぅ、でもレイナ先輩には本当に申し訳ないです」
「よくてよ撫子! 賭けを持ちかけた方が何らかのディスアドバンテージを与えられるのは当然のこと! 私はその上でこの生意気な後輩に敬語を使わせてみせますわ!」
 レイナは意気込んでいるけど、二択しかないのに後から賭けるものを選ぶという事は相当不利だ。
 なぜなら、相手が選択した時点で残りの選択肢は一つだけ。実質選べていない事になる。
 しかしこの先輩はそれを理解したうえで俺に勝つ自信があるのだろう。
 ここで、「は? 勝つ自信も何も、運勝負じゃん」
 なんて考えてしまう人は賭けの才能がない。
 センスもない。
 面白みもない。
 何もないクソ野郎だ!
 ここで「なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ」と思った人は……普通の感性だから問題はない、正直言いすぎだよなって俺も思ってた。ごめんなさい。
 しかし、センスがないってのは本当なんだ。
 賭けにおいて重要なのは何に賭けるかだ。
 でも、それだけじゃない。
 何に賭けさせるかも重要なんだ。
 まぁセンスのない人には言葉の意味が分からないかも知れないけど、少なくともレイナは違う。
 彼女の賭けのセンスには一目置かざるを得ない。
 この後の彼女の言動を見ていればセンスのない人も嫌でも気が付く事になるだろう。賭けにおいて対戦相手がどれだけ重要かということを。
「さて、もちろん才児は失敗する方に賭けますわよね?」
 早速だ。
 振り向いてレイナの表情を確認する。実にいい笑顔を浮かべていた。
 本来不利なはずの後手でありながらこのプレッシャー、賭けに慣れている者でなければ通常通りの思考を巡らせる事すら出来なくなっているだろう。
 賭けには心理的なものが大きく影響する。
 本来なら傲岸不遜だと取られる彼女の余裕も、対戦相手へのプレッシャーを考えた時には大きな武器となりうる。
 相手に何か不気味な物、もしくはノイズを感じさせる事は心理的な面で大きなアドバンテージを生む。
 だから俺もあえて敬語は使わない。
「そうだねぇ……」
 普通ならばレイナの言う事は正しい。
 つまり告白は失敗に終わるという事。
 思春期にある高校生、しかもあのネクタイの色からして俺と同じ一年だ。つまり入学して間もなく告白をしているという事になる。
 そんな性欲に負けた告白が上手くいかない事は、実証済みである。
 もちろん実体験として!
 今でも思い出す「いや、無理。あ、私に告白したって誰にも言わないでね? 才児君に告白されたなんて他の人に知られたら……」と言って俺の事を振った彼女。中々のSっぷりだったなぁ……。
 なんて、感傷に浸っている場合じゃない。
 真面目に考えなくては。
 頭を切り替えて、真剣モードに入っていく。
 周りの音が聞こえなくなるほど思考にのめり込むこの感覚は心地が良い。
 まずは賭けの対象となっている男女の確認だ。
 ここからだと男子の顔しか見えないが、それで十分。自信があるかどうかは男子の顔さえ見えれば分かる。
 あれは……自信のない表情だ!
 右斜め上の方を見ていることから見ても多分間違いはない。
 しかも女子は俯いてしまっている!
 状況を整理してみると。
 ・告白の成功率は低い
 ・入学してまもないうちに告白している
 ・男子の表情は冴えなく、女子の反応も悪い
「普通に考えたら、失敗だよな」
「えぇ間違いありませんわね。あの男子の告白は失敗するでしょう」
 エリナは相変わらず余裕の笑みを浮かべたままだ。 
 だけども逆に。
 ここまでレイナに自信があるのなら、逆に成功する確信を持っていると言っていい。
 そしてその上で、失敗の選択肢しか選べない俺を笑っている、そう思えてくる。
 あるいは、俺にそう考えさせるのが目的か……。
 ここまで思考を晒せばセンスの無い人でも分かっただろう。
 賭けは自分の感覚だけでは成立しないという事が!
 確かに自分の考えだけで答えを出すのは簡単だ。
 しかし賭けには対戦相手がいる。
 勝ちたいがために対戦相手からも情報を得ようとするけど、その情報が答えを惑わせる要因になりえる。
 つまり後手の発言次第で、先手に何に賭けさせるか操作できるという事だ。
「残り三分です!」
 場を取り仕切る撫子が時間を告げる。告白の様子を見ていても制限時間は妥当なところだったろう。
「分からないなぁ……」
 つい、声に出してしまっていた。
「分からない、というわりには随分と楽しそうですわね?」
 エリナは不思議そうに俺を見つめている。
「ふふ、当たり前だよ。この賭けに勝てばレイナのパンティーが貰えるとなれば……楽しいに決まっている!」
「決め顔でなんて台詞言ってるんですかねこの人は!?」
「……」
 撫子がツッコミをし、レイナは口を半開きにして俺を見ていた。
 やはりこの二人には理解できないか、パンティーが青少年にもたらすエネルギーの膨大さ!!
「残り一分です!」
 残された時間は僅か。
 今考えるべきなのはレイナは俺がどっちを選ぶのを望んでいるかという事だ。
 彼女の確信めいた表情から察するに、彼女は答えをほぼ確信している。つまり、彼女の思惑の逆を行けば、かなりの高確率で俺が賭けに勝つという事だ。
 告白の成否の統計を見れば、成功が30%で失敗が70%とか、数字が出ているだろう。もちろんそれを軸に賭けるのが間違いなのではない。
 しかし、もしも相手が答えを確信しているのであれば相手の思惑を読み切れば統計よりも高い確率で賭けに勝つ事が出来る。
 これが賭けの面白さだ。
 もちろん、本当に相手の答えが当たっている場合の話だけどね。
 相手が間違った答えを確信していた場合には、話がそのまま逆転する事になる。
 もう一度告白中の男女を見る。状況は先ほどと変わらない。
 ……ッ!!
 一瞬の気付きが閃きとなり、電流の様に俺の脳内を駆け巡った。
「よし、俺が賭けるのは『成功』だ」
 一瞬の閃きを信じ、撫子に向けていう。
 撫子は頷き、レイナの方を向き直る。
「それでは、レイナ先輩は『失敗』に賭けるという事でいいですね?」
 ここで降りる、という選択肢もあるけど恐らくレイナはそうしない。ここで降りれば賭け金の半分、今回でいうとパンティーの半分を俺に渡す必要があるというのはもちろん、彼女は勝ちを確信しているはずだから。
「ええもちろん! 私は『失敗』に賭けますわ!」
 やはりレイナは自信満々に、もはや勝ちを確信したかのように首を縦に振った。
「まだ告白の結果が出ないようなので、レイナ先輩がなぜ失敗するのかを聞かせて頂けますか?」
「えぇ撫子、よろしくてよ!」
 賭けがリアルタイムで進行している場合、ベット後のお互いの思考を話し合う事が賭けの醍醐味だったりする。
「まず、私が注目したのは彼の視線と……利き手ですわ!」
「視線と利き手、ですか……すみません私にはそれだけだと少し意味が……」
 撫子はここまで言われても分からない様だ。申し訳無さそうに首を傾げる仕草が可愛いのは言うまでもない!
「よろしくてよ撫子! 一般の高校生では確かにあまり知られていない事! 高校では心理学は必修単位にありませんからね」
「心理学ですか。……つまり、視線と利き手でその人の考えが分かると」
「えぇ! その通りですわ。相変わらず撫子は察しがよろしいですわね!」
 レイナの言っている利き手と視線の法則は俺も知っていた。
 これは人は嘘をつく時には嘘を造るために右脳を使い、本当の事をいう時には記憶を思い出す時には左脳を使う事に関係している。そしてそれが視線と連動している事が科学的に証明されているのだ。そしてそれは利き手によって精度が変わる。
 つまり、人は嘘をつく時に無意識に右上を見てしまう。そういう訳だ。
 そして、あの男子は右上を見ていた。
 これは多分女子に「私のどこが好きなの?」と聞かれたに違いない。そしてその答えに困った男子はその場しのぎの嘘をつこうとしたに違いない!
 そんな奴の告白が成功するはずがない! という訳だ。
「そしてもちろん統計的なデータも根拠の一つですわ。告白の成功率は残念ながら20%程度。つまり普通に考えても80パーセントは失敗することになりますわ!」
「さすがですレイナ先輩! そんなデータまで持っているなんて……」
「あらゆるデータに興味を持つのはブックメーカーとして当然ですわ!! さらに加えて、あのネクタイの色は一年生のもの。つまり、入学してまもないのに告白している事になりますわ! これらを考えてみて、この告白は失敗すべくして失敗しますわ!」
 ビシッと俺に向かって指をさすレイナ。
 やはり、勝ちを確信しているらしい。
「失敗すると断言していたのは俺に成功を選ばせるためにわざとって事か?」
「えぇ、そうですわ。あえて、私が本当に正解だと思っている方を教えましたの」
「でもそれにしては駆け引きが少なすぎないか?」
「えぇ、確かに! 初対面の相手ならばもっと心理的に揺さぶらなければ、確実に『成功』を選ばせる事はできませんわ。でも、私は既に貴方の選択の傾向をしっています! 先日、私が貴方に飲み物を恵んで差し上げたことは覚えてますわね!?」
 レイナが突然数日前の事を言いだした。確かに俺はレイナに飲み物をおごられた事がある。
「でもそれが何になるっていうんだ?」
「マジシャンズセレクトという言葉はご存じかしら?」
 ふふん、と鼻高々にレイナがいう。
 なんだか『熱膨張って知ってるか?』と似てるけど、意識しての事なのだろうか?
 まぁでも、残念ながら俺はその言葉を知らなかった。
 何も言い返すことができない。
「ご存じない様ですわね。ならば教えて差し上げますわ! マジシャンズセレクトとは相手にある情報を与える事で特定の選択をさせる方法! つまりあの時選んだ飲み物がは私がコントロールしたという事です」
「確かに、俺はあの時冷たいジュースか暖かいコーヒーかを選ばされた。そして俺はジュースを選んだ」
「えぇ、私はコーヒーを選ばせるための言動をしていたのにも関わらず、貴方はジュースを選びましたわ!」
「コーヒーを選ばせるための言動? 言いたい事が分からないな、俺の選択肢を完璧に操作するって話じゃないのか?」
「そうですわ。本来マジシャンズセレクトとはそれが目的、しかし捻くれ者には通じない事があるのですわ」
「通じない事がある? なら今ここでマジシャンズセレクトの事を偉そうに話す意味が分からないな。俺には通用しないんだろう? なら今回の選択肢だってコントロールできないじゃないか」
「ええ、貴方はコントロールできない。初対面だとしたらマジシャンズセレクトは成立しなかったでしょう……しかし! 私は貴方がマジシャンズセレクトに逆らう事を知っていた!」
 レイナが再び俺を指さした。
「……つまり、傾向が分かっていれば捻くれ者(俺)にもマジシャンズセレクトは成立すると?」
「ふふ、そういう事ですわ!!」
 今度は仁王立ちになるレイナ。
「きゃー! レイナ先輩カッコいいです! いつか来るであろう勝負のために、日常から布石を打っておいたって事ですね!?」
「その通りですわ! 本当に撫子はいい子ですわ!」
「くふぅ、そんな事ないですよぉ!」
 二人はイチャイチャして入っていけない世界を作っている。
「つまりレイナは俺に『成功』を選ばせたかったと、そういう事だよな?」
「えぇ! そして貴方は成功を選んだ! ほとんどの確率で失敗するにも関わらず! 背先手という圧倒的に有利な状況でいながら、私に失敗を譲ってしまった! これこそ、マジシャンズセレクト!!」
 三度(みたび)ビシッと指をさすレイナ。
 なんか元インチキセールスマンが監督をやっている野球マンガのワンシーンみたいだけど、気にしちゃいけない。
「それまでか?」
「は?」
 完全に勝った気でいたレイナは予想外の俺の言葉に理解が追いついていない様だった。
 優しい俺はもう一度いってやる。
「それまでか? って聞いたんだよ」
「え、えぇそうですわ! それまでかって、これ以上の説明なんて必要ありませんわ! 私はベストを尽くし、貴方に『成功』を選ばせた! これが全てです! 今、勝利に限りなく近いのは私! 強がりはおよしなさい!!」
 一瞬怯んだレイナだが、よほど自分の答えに自信があるのだろう。すぐに勢いを取り戻した。
 確かに、レイナのプレイング(賭けでの行動)は見事だ。
 普通なら、俺の負けだったかも知れない。
 でも――!
「一手届かずだ」
「あ、貴方は何を――そこまで言うのなら根拠を述べなさい! あなたは私の様に何か策を打っていたというのですか!?」
「そうです! 私にもレイナ先輩が勝つように思います! たまたま告白が成功したとしても、確率的に見たらレイナ先輩はベストを尽くしています!!」
 二人が声を荒げた。
 俺は二人に問う事にする。
「ねぇ二人共――人間にとってもっとも重要な事は、なんだと思う?」
「今それが関係あるとでも仰るのかしら!?」
「もちろんだよレイナ」
「くっ! まぁ、いいでしょう。私は自分の勝ちは揺るぎないと考えています! 貴方に付き合ってあげるのも面白い。人間にとって一番大切な事ですか……もちろんこの賭けにも関係すると、そうなると洞察力ですわね! 今回の私の勝利はまさに洞察力の勝利ともいえるものですからね」
「ふんふん、撫子君は?」
「わ、私は閃きだと思います。エジソンが言った様に、1%の閃きがなければどうしようも無い事があると、私はそう思ってますから」
 レイナも撫子も自分の意見を持っていて非常によろしい。よろしいのだけど、違うな。
「ふふふ、アーハッハッハ!!」
 二人の真剣な顔を見ていたらつい笑ってしまった。
「な、何がおかしいのですの!? バカにするのもいい加減にしなさい! 私達の答えが間違っているというなら、何が正解だというのですか!?」
「正解? それはもちろん――」
 俺は自分の信念を胸に答える。
「――性欲だ!」
 本当は叫んで主張したい所だけど、それをしてしまうと告白が中断されちゃうかも知れないからね。でも声は小さくても熱意は十分に込めた。
「せ、性欲!? 馬鹿らしいですわ! そんなものが一番大切だなんてありえな――」
「残念、有り得るんだよね。事実今の俺があるのは性欲のおかげだと言っても良い」
「真面目な顔で何言ってるんですかねこの人は」
 レイナが言葉を失っている中、撫子は冷えた目で俺を見ながらツッコミを入れていた。
 そして、こちらの会話が途切れた所で都合よく本当に都合よく告白の方も佳境に入っているようだ。
 男子が女子に言葉をかけると、俯いていた女子が顔をあげる。
「御覧なさい! 貴方が何を主張しても、今答えが出ますわ! 今からあの女の子が男の子を振って――」
「だから、そこが間違ってるんだよ」
「なっ!?」
「どういう事です?」
 俺の言葉に二人はクエスチョンマークを頭の上に浮かべている。
「まぁ、見てれば分かるって」
 俺のいう事をやっと素直に聞いた二人は、告白中の男女に注目する。
 こっちが静かになったせいか、会話が聞こえてくる。
「ご、ごめんなさい、進藤君、何も言えなくって」
「い、いや俺もその……」
「ちがうの! 進藤君は悪くない。私が呼び出したんだから」
「あ、あぁ。それで藤崎、話って?」
 藤崎と呼ばれた女子は、深呼吸をしてからいう。
「うん、私進藤君のこと、好きなんだ。よかったら私と付き合ってください!」
 進藤が告白を受けて、藤崎の手を取った。
「お、俺で良ければ喜んで!!」
「ほ、本当に!? 嬉しい!」
 そして二人は仲睦まじく手を取り合って帰りましたとさ。
 めでたしめでたし。
 あー、リア充爆発しろ。
 割とガチで。
「と、言う訳で告白は成功。俺の勝ちってわけで! さぁレイナ、パンティーを脱いで貰おうか!!」
 リア充は置いといて、俺は俺の幸せを掴もう!
 そう思ったんだけど、レイナと撫子は固まっていた。目の前で起きた事が理解できないといった様子だ。
 俺の言葉を聞いて、首がガクガクいいそうなくらい不自然にこっちを向き直る。
「な、なななななぜですの!? なぜ、女の子から告白してるんですの!?」
「そ、そそそうです! 普通告白といったら男子から!」
「ふふ、だからそこがずれてるんだって」
「あ、貴方! 貴方は初めから女の子が告白するって気付いてましたの!?」
「あー、初めからではないかな。声も聞こえなかったし、見た限りでは区別がつかなかったよ。普通なら、男子が告白してると思うさ。その意味では、二人とも恥ずかしがる事はない」
「そ、そうですわよね。しかし、途中にも気付く事なんてありませんでしたわ! 私はずっとあの二人を見ていましたが、判断できる物はなかった!」
「まぁ確かに、女子が告白する側って心理的に死角だよね。気付かなくても無理はない」
「そうですわ! そのはずです! なのになぜ貴方だけが気付いたといいますの!? 一体ッ! どうやって!?」
 レイナは必至の形相だった。それほどまでに勝ちを確信していたのだろう。
「そうだなぁ、人間に一番大切な事はなんだか覚えてるかな?」
「せ、性欲ですわね!?」
 レイナは飛び付くような勢いで答える。
 こんなに可愛いレイナが人間に一番大切な事は性欲って! なんだかとっても興奮してきたぜ!!
「そ、そう。性欲だ! そして今回の勝敗を分けたのも、性欲だった!!」
「な、なぜですの!?」
「ふふ、レイナは気付かなかっただろうね。彼――進藤の異変に!」
「い、異変!? ええ気付きませんでしたわ! しかし異変があったとしてそれと性欲に何の関係が!?」
「ふふ、教えて欲しいかい? 教えて欲しかったら『バカな私に教えてくださいませ、ご主人様』と言ってごらん」
 俺は調子に乗っていた。もちろん自覚はしているとも!
 でも、今だったなんか流れで言ってくれそうだったから!
 これ後で言わせようとしたらまた賭けでも起きそうレベルだからね!? それが勢いで手に入るかもしれないなら、言ってみる価値はあるだろ!
「バ、バカな私に教えてくださいませ。ご、ご主人様」
 さすがにレイナの恥じらっていたが、その恥じらいがまた良かった。
「あぁ、レイナ先輩。私の憧れ……ハァハァ」
 様子を見ていた撫子が悲しむ振りをしながら明らかに興奮していた! こいつ……変態かッ!?
「ま、まぁそこまで言ってくれたのなら教えよう」
「ありがとうございますわ!」
「そう、勝負を分けた彼の異変! それは!!」
「「そ、それは!?」」
 俺の言葉に二人が息を飲む。
「進藤の息子が! 途中からスタンディングオベーションだったのさ!!」
 俺は今日一番の大きな声で、高らかに告げた!
 賭けの勝敗を分けた、進藤の見事なスタンディングを!!
「む、むすこ? スタンディングオベーション?」
「レイナ先輩! 息子というのはですねゴニョゴニョで、それがスタンディングオベーションという事はゴニョゴニョがピーしちゃったという訳です!」
 理解できてなかったレイナに撫子が説明をしていた。
 なんか直接的に表現するのは進藤に悪い気がしたので誤魔化したのだけど、育ちの良さそうなレイナには伝わらなかったようだ。
 むしろさっきの言い方で即座に理解する撫子って……ッ!!
「おっと、危うく俺の息子がスタンディングオベーションをする所だぜ」
「な、何を訳の分からない事を仰ってますの!?」
 レイナにボカンと頭を叩かれる。
 しかしレイナは叩いた後に俺の下腹部をチラチラと見ていた。見逃さないぜ!
 ここはこれでもかとイジリ倒してもいいのだけど、既にレイナの顔は真っ赤になってしまっているのでこれ以上下の話をするのはやめておこう。
 それが紳士(へんたい)の美学ってもんさ。
「訳の分からない事って……でも、これで俺が女子が告白してるって気付いた理由は分かっただろう?」
「いいえ!? まったく分かりませんけども!? その、す、スタンディングな事と何の関係が……?」
 レイナは本当に分からない様だった。
 そっか、考えてみればこれは男にしか分からない感覚なのかも知れない。
「つまり、男が告白する時にはスタンディング状態にはならないって事だよ!」
「な、何ですって!? まさかアレにそんな特性があったなんてッ! ぬかりましたわ」
 残念そうにするレイナだけど、真面目に特性っていうほどの事じゃないんだよなぁ。
 でも男子だったら分かる感覚だろう?
 告白の時に縮みあがる事はあってもスタンディングになる事はないと!!
 そうだろう!? なぁ!
「そしてもちろん、スタンディングした状態で告白を断れるほど男は大人じゃないのさ……つまり彼女の告白は成功する!! 納得したかな?」
「え、えぇ。知識の面で私の完全な敗北ですわ……」
 レイナが項垂れている。いやだから、知識って程の事じゃないんだけどね?
「今になって分かりましたわ。人間にとって一番重要な事が性欲だという事の意味が!!」
「分かっちゃったよこの人!?」
「あぁレイナ先輩が汚れていく……私の憧れの人が……でも、これもまた……じゅるり」
「撫子は一体どんな性格をしているの!? その反応もはや何らかの癖(へき)だよね!?」
「私は先輩が可愛ければそれでいいのです。純白が汚される美学というのもあるのですよ」
 撫子は真剣な表情だった。
 彼女のその清々しい表情を見て、俺は思う――何言ってんだこいつ、と。
「ま、まぁ! 告白は『成功』ってことで、俺の勝ちだな!」
「い、いえ! 確か撫子は『あの男子の告白の成否』といった様な!」
「いいや、あくまで『告白の成否』だった。どっちの告白が、なんて事は言ってなかったよ」
「そんな……な、撫子ッ!」
「レイナ先輩、すみません。今の私は先輩の事を心の底から愛している撫子である前に……賭けの審判なんです。賭けの事で嘘は付けません! 私は……男子の告白が、とは言っていません」
「うぅ、撫子までそんな……」
 レイナが最後の希望を失い、顔を伏せた。
「という事はどういう事かな? 撫子、明言してくれ!」
「はい、この賭けは才児君の勝ちとします!」
 撫子が俺の勝ちを確定付ける一言を放った!
 その瞬間、俺の頭の中には祝福のファンファーレが鳴り響く。
 目の前の何でもない光景が輝いて見える!!
「あぁ、生きてるって素晴らしい!」
「素晴らしくなんて、ないですわぁああああああ!!」
 俺の言葉を上書きするようにレイナが叫んだ。
 この後自分の身に何が起きるかを分かっているみたいだ。
「さてレイナ、部室に戻ろうか」
「いやッ! 嫌ですわぁ! 撫子! 助けて下さいましッ!」
「レイナ先輩、そんな目で見られたら私……鼻血が出てしまいます」
 やっぱり撫子は変態だった。まさか変態とかいて紳士と読むこっち側の人間だったなんて、気が付かなかったなぁ。
 俺と撫子の二人でレイナの肩を持ち、部室まで運ぶ。
「さぁ、パンティーを頂こうか!!」
 ドアをしめて早速俺はいった。
「く、屈辱ですわ……! しかし、私も女! 賭けを反故にする事なんて致しませんわ!」
 レイナは覚悟を決めたのか、顔を真っ赤にしながら自分のスカートの中に手を入れる。
 あぁ、この瞬間のために俺は生きている!
 ビバ! パンティー!
 ありがとうパンティー!
 今度こそ! ブルマではない本物のパンティー!
 思ってみれば俺の成績が上がったのも、中2の時にパンティーラを見て性欲に目覚め、この学校には何でも賭けにしてしまう部活がある事を知ったのがキッカケ!
 あんなバカだった俺が死ぬほど勉強して覚醒したのも、全てはパンティーのため!
 つまりは性欲!
 人間、性欲さえあれば何でも出来るよね!
 性欲の対象は何だっていいんだ! 胸だって太ももだって熟女だってロリだって!!
 ただ、俺はパンティーだった! それだけの事!
 あぁ、俺は証明するよ!
 性欲があれば、人間は何だって出来るんだって事を!!
 余りの幸福に死亡フラグっぽいのを立ててしまった!
 そんな事を考えているうちに、レイナの手を少しずつ上に登っていた。スカートが少し捲れている写真に収めたい!!
 ジリジリと手が手が登るにつれて俺の心拍数も上がっていく!!
 きっとあと少しだ! あと少しで手がパンティーに手がッ! 手がぁああああああ!!
「なんて、本当に脱ぐと思いまして?」
 俺のテンションがマックスに達しかけた時、レイナがイタズラが成功した子供の様に舌をペロっと出して言った。
「……へ?」
 訳が分からなかった。
 レイナはスカートの中から手を出して部屋の隅に歩いて行く。
 もちろんその手にパンティーはない。
 そしてレイナは部屋の隅にある自分のバッグを開き、何かを取り出した。
「はい、才児。これが約束の物だよ」
 レイナは満面の笑みで取り出した物を俺に手渡す。
 俺は渡されたそれを見て、驚愕する!!
「こ、これは――ドロワーズ!? よくかぼちゃパンツと間違えられる、下着らしさの欠片もない下着ドロワーズか!!」
「えぇ、そうですわ。ドロワーズもれっきとした下着ですもの。これで文句はありませんわね!」
「違うんだ……ドロワーズは俺の中でパンティーじゃないんだよぉおおおお!」
「そんな事言われましても、私が賭けたのは『自分のパンティー』ですから? パンティーの種類なんて指定されてませんしもの!」
 レイナが憎らしい顔をして俺を嘲笑う。
「で、でも! レイナのパンティーには違いないんだ! に、匂いとかは染みついているはず!!」
「あら、誰がそれを穿いた事があると言いました?」
「へ? ま、まさか!」
「えぇ、もちろん使用してませんわ。使用しなくても買った時点で私の下着ですもの。なんら問題はありませんわね!? オーホッホッホ!!」
 レイナがお嬢様特有の笑い声を上げる。
「ブルマは穿いていただけマシだったぁああああああ! くぉおおおおん!」
 彼女とは反対に悲しみを叫ぶ俺。
「さすがです! レイナ先輩! 勝負に負けても試合には勝つ! 格好良いです!」
「そういう事です! 撫子! これが最善を尽くすという事ですわよ! 自らの負けをも想定する、それが私! 桜ヶ咲レイナですわ!」
 ビッシィと仁王立ちを決めるレイナ。
 そんな彼女を足元にへたり込んだ俺に出来る事は、ただ叫ぶ事だけだった。
「くっそぉおおおお!! ドロワーズなんてパンティーを作った奴は誰だぁアアアア!!」
「いや、そこは問題じゃないですよ!?」
 俺の言葉に撫子が冷静にツッコミを入れる。
 こうして、第二次パンティー大戦は幕を閉じたのだった。
 今回、俺は確かにパンティーを手に入れた! 
 だけどもそれは、俺の目指した物ではなかった。
 しかし、俺のブックメーカーとしての日々はまだまだ続いて行く。
 第三次パンティー大戦を起こすべく! 俺は戦い続けるのだッ!!