気付けば関西コミティア終了から三ヶ月放置。ここがどうぶつの森なら、すっかり荒れ果てて
雑草やキノコ生え放題、魔窟となっていたところ。もしかしたら新たに生まれた生態系と
モンハンばりのバトルも繰り広げていたかもしれません。
ブログで良かった。再開するのに草むしりや討伐から始めなくていいのは本当に助かります。
次の関西コミティア(2015/10/4開催予定)パンフに掲載される小説レビューを書き終わりました。
提出された小説見本誌は134冊。近年総サークル数が増えたとのとは反して、文字本は
減っております。やはり人が増えた分、小説・評論系は手に取られにくい傾向があるのでしょうか。
こいつぁレビュアーとして責任重大だぜ。
総冊数こそ減ったものの、全体的にやや質の向上が感じられた気がしました。
文章力はやはり近年話題の小説投稿サイトで読む力、書く力が身についているのでしょう。
製本、フォント、レイアウトのノウハウもスマホ等で気軽に検索できるようになったこと、SNS等
での情報共有が大きく影響していると感じます。
前置きが長くなりました。それでですね、今回はいつも以上に選定が難産だったこと、
紹介できなかった本が多かったので、ここで取り上げられたらなと思ったのです。
いつも言ってるように、レビューはおいらの独断と偏見で選んでおります。
もしかしたら選外(この言い方もえらそうな感じがして気が重い)となった作品が、誰かにとって
最高の一冊になるかもしれない。出会いのお手伝い、きっかけになればいいなと思います。
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『タカノ理髪店』 雨水のエアメール
お兄さん店主と喋る日本人形、そんな不思議だけど全然普通な理髪店にまつわるお話。
大抵はお客さんが何か困って、それに店主らが巻き込まれたり相談に乗ったりという流れ。
一冊に漫画と小説一編ずつ入っていて、文字に慣れていない人でも読みやすい構成に
なっています。同人小説はどうしてもコアな方に寄りがちなジャンルなので、こういう初心者歓迎、
間口の広い作りになっている本はとても貴重です。
ガチの文字読みにはちょっと物足りない。
でも、ここから小説読み始める人だっているかもしれないのですから。
『三百年といくつか生きた男の話』 アソートプロダクション
タイトル通り、不老不死にまつわるお話。巻末にある「何をもって不老不死と定義するか」の
考察から膨らんでこの物語が生まれたそうで。老化しない→代謝が活発(細胞分裂に制限も
異常も起きない)、ならば通常の生物よりも多くのエネルギー摂取が必要、という考えは
(もちろん妄想の域を出ないのですが)、大変興味深いものでした。超越者として書かれがちな
不老不死に妄想考察を加味することで、ヒト以上の人間らしさ、ドラマが生まれたというこの
不可思議な化学反応。工夫一つで創作の種はどうにでも芽吹くのだなと唸らされました。
『メイドと紅茶とお嬢様 ~ヴィクトリア王国紅茶商 交易録~』
コーヒーブレイク
何やらサブタイが真面目なので貿易やら商業やらの堅苦しいお話かと思えば、さにあらず。
紅茶商を営むお嬢様の元に、新人メイドがやってきます。最初はドジばかりですが、次第に
仕事にも慣れ、そのうちにお嬢様の話し相手、ひいては助手を務めることに。紅茶商を横取り
しようとする意地悪叔父の暗躍。追い詰められるお嬢様。なんとかせねばと知恵を絞るメイド。
ぶっちゃけ展開はベタ王道ですが、それだけに安心して(?)ハラハラできる一品であります。
あと重要なこと忘れてた。百合。ものっそい百合。超甘い。いいぞもっとやれ。
『初恋とマイセン3mg』 春夏冬
正統派な短編集。話そのものはどれも些細な(ともすれば何も起きない!)掌編です。
純文寄りの言葉遊びというか、文体を味わう(ともすればニヤニヤする)のが正しい楽しみ方
なのかもしれません。そういう意味では一服とかけてのタイトルもまた言葉遊びの一環
なのかなと勝手に考えて、またニヤニヤするのであります。なお、現在マイセンは改名され、
メビウスの名で流通されております。風情がない!
『はなずかん』 春夏冬
同じサークル様ですが、作者が違うので別枠で。タイトルの通り、花にまつわる短編集。
「花」そのものを扱ったものもあれば、印象的な小道具として彩りを添えるものもあり。
単に「花」とひとくくりにしても色々あるように、本書の短編も一つとして似たもののない、
それぞれの鮮やかさを見せてくれます。
『白の世界』 梅竹堂
BLです。淡々と大人の会話が綴られていきます。図書館で出会った三十代半ばの男性、
朝倉さん。彼には妻がいて、やがて離婚して、その間に自分は学生から社会人になって。
時間が流れても、自分と朝倉さんの付き合いは変わらず続いて。ドラマチックなときめきはなく、
燃え上がるような熱もなく、ラブシーンも甘い囁きも声を荒げる痴話喧嘩もありません。二人の
大人が会話して、遠出して、お酒を飲んで、そんな静かなお話です。でもその静けさがたまらなく
色っぽいのです。
『あいして』『明けない夜』 昆虫図鑑
どちらも切ない話です。「あいして」は幼馴染みが恋人になって九年。小さい頃は病弱だった彼も
今は大人になり、このまま二人いつまでも、と思っていた矢先、別れ話を切り出されます。
嫌いになったわけではない。離れる理由は病気の再発。大人になって完治したと思っていた病は、
彼の残り時間を無情にも食い尽くしていました。
もう一つの「明けない夜」は短編集。そしてこちらも救いがないものづくし。読みやすく、美しい文体
ですが、読めば読むほど気持ちが沈む困った作風をお持ちです。ただ、内容は重苦しくとも、引き
つけられる力強さが根底にあります。おかしな例えですが、小説版中島みゆき、と表現すれば少し
は伝わるでしょうか。
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そんなこんなの小説レビュー番外でございました。
泣く泣く外した鬱憤をブログにぶつけただけとも言う。今回も大変楽しい読書でございました。
そしておいらはレビュー原稿&番外仕上げたご褒美にと、今から「六花の勇者 第六巻」を読むのです。
続きがすげえ気になっていたのだ。最新刊未読だとネタバレ怖くてあっちこっち見ないふりするのが
大変だったのだ。
ふふふ、これでもう何も怖くないぜー。
あんだけ読んでてまだ読むのかよ、なんて突っ込みは野暮ですよダンナ。
読書のご褒美もまた読書。文字キチとはそういうものですのだ。