四半世紀前のあの詐欺事件が再び?! 架空のモンゴル開発事業名目で出資金を集めたとして6人が逮捕された詐欺事件で、今月初め、新たに男3人が金融商品取引法違反容疑で警視庁生活経済課に逮捕された。3人の中には、戦後最大級の巨額詐欺事件で知られる「豊田商事」の元社員も含まれていた。高齢者を狙って資金を募る手法は、過去のあの事件とそっくり。捜査関係者は「何度も同じことが繰り返されるとは…」とため息をつく。(西尾美穂子)

中心人物が刺殺、会社は破産…あの事件の記憶


 逮捕された3人のうち、東京都江戸川区の投資会社「東京プリンシパル・セキュリティーズ・ホールディング」の元経営者、斎藤清秀容疑者(60)の名前が、詐欺事件をめぐって浮上するのは、これが初めてではなかった。

 「実は、斎藤容疑者はあの有名な豊田商事の幹部だった経験がある」

 ある捜査関係者が打ち明ける。斎藤容疑者は昭和58年5月から約4カ月間、豊田商事の銀座第2支店で支店長として勤務していたというのだ。

 豊田商事は56年に大阪豊田商事として設立され、57年に改名された会社で、地金の販売名目などで資金を募る商法で全国の約2万9000人から約2000億円を集めた。中心人物の男が32歳で刺殺され、そのほかの幹部が詐欺罪で起訴されるなどし、会社自体も60年には破産している。

 斎藤容疑者自身は58年9月に退社しており、逮捕や起訴もされなかったことから、この事件自体に関係があったとはいえないが、その後、別の架空の先物取引をめぐる別の詐欺事件に関与したとして、61年11月、詐欺容疑で逮捕されている。公判では懲役7年の実刑判決を受け、服役した。

 それから25年近く経過した今月6日、斎藤容疑者は共犯者とともに、モンゴル投資詐欺事件に関係したとして再び、逮捕された。

ターゲットは高齢者 浮かび上がる共通点


 逮捕容疑は、平成20年12月~21年7月、無登録で金融商品取引業を営み、目黒区の女性(82)ら3人に、モンゴルの鉱物採掘会社に重機などをリースするなど架空の事業に「投資すれば高配当が得られる」などと持ちかけ、計約1430万円を集めたとしている。

 警視庁によると、同じ手口で20年6月~22年2月に計71人から計約6億5000万円を集めていた。そのうち9割にあたる64人は60歳以上だったという。

 先に逮捕された6人とは異なり、容疑は金融商品取引法上の無登録営業で、出資金をだましとった詐欺容疑ではないため、斎藤容疑者らが架空の事業と知った上でカネ集めをした「詐欺」を行った疑いがあるとはいえない。

 しかし、捜査関係者は「金融商品に疎い高齢者を狙った手法は、豊田商事事件と共通点がある」と指摘する。

 その手法はこうだ。まず無差別に電話をして、投資話に興味を持ちそうな、独り暮らしの高齢者が出ると、早速、自宅を訪問する。高齢者のプライベートに入り込み、“人情”に訴え、大事な老後の資金を集める。25年近く前の豊田商事の営業手法とよく似ているのだ。

このままではノルマが達成できない…


 斎藤容疑者は実際の資金集めでは、あまり表には出なかったようだ。前面に立ったのは斎藤容疑者が経営する投資会社の元社員、松濤(まつなみ)文徳容疑者(55)=金融商品取引法違反容疑で逮捕=だった。

 松濤容疑者は、清潔な襟付きのシャツに背広を着て、鼻筋の通った品のいい表情でほほ笑みを浮かべながら、実の息子が母親を思いやるように、高齢者に話しかけていたという。

 「年金が受給できるのは偶数月だけでしょ。これに投資すれば、奇数月に配当がある。銀行は信用できないけど、俺のことを息子だと思って信用してほしい。おかあちゃんの今後が心配なんだよ」 

 広大なモンゴルの土地を撮した写真やモンゴルの資源開発をめぐるグラフ付きのカラフルなパンフレットや雑誌を示し、黒ペンで真っ黒になるほど書き込みながら、長時間にわたって説明する。独り暮らしの高齢者は寂しい毎日を送っていることも多く、つい話を聞いてしまう。

 豊田商事でも「5時間トーク」といわれるほど、長い時間の営業話で、高齢者らを説得する手法があったが、今回の事件も、手法はほぼ同じだ。

 松濤容疑者は高齢者の家に何度も足を運んだが、その際は、亡くなった親族の仏壇に線香を上げるなどした上で、高齢者の悩みをじっくり聞いてやり、まるで子供のようにふるまう。高齢者が気を許したところで、「このままだと、会社から課されたノルマを達成できない…」と逆に泣きつくのだ。

高級住宅街に一軒家、軽井沢に別荘、キャバクラ三昧


 そうして集められた資金は、一部で配当などという形で顧客に還元されていたが、多くは斎藤容疑者らの遊興や生活費に使われていた。

 斎藤容疑者は東京都世田谷区千歳台に一軒家を構え、長野・軽井沢に別荘を持ち、高級外車も所有。日が暮れると、毎晩のように高級キャバクラで豪遊したという。

 「斎藤容疑者が豊田商事のノウハウを利用していたかは、分からない。本人は警視庁の調べにも、この点については、あまり話したがらないようだ。しかし、数日で1000万円程度の資金を集められるという世界を一度、経験してしまうと、その“うまみ”を忘れるのは、なかなか難しい」

 生活経済課によると、調べに対し、斎藤容疑者は「そういうことはやっていない」と否認したという。

 投資詐欺に詳しい荒井哲朗弁護士は「豊田商事に限らず、高齢者の寂しさにつけ込むのは常套手段。家族や周囲が高齢者に気を配ってあげることが大事。また、高齢者自身が、貯蓄から大金を引き出す行為はしないというスタンスを持つことが最も大切」と話した。