2011年04月29日

チャイコフスキー:管弦楽組曲第1番ニ短調作品43

チャイコフスキーの交響曲第4番と第5番には11年もの間隔が開けられていますが、その間に4つの管弦楽組曲が作曲されています。これら4つの組曲は、今日あまり顧みられる機会がありませんが、作曲家の円熟への過程で重要な役割を果たしています。これら組曲で、フーガ、ガヴォットから精巧な変奏まで、多種多様な様式や技巧を盛り込んでいますが、自身の作曲技法修練、習熟を図っているようです。

組曲第1番は、交響曲第4番が書かれた年にあたる1878年の夏ごろより書き始められ、翌年4月に管弦楽版およびピアノデュオ版として完成しました。友人ユルゲンソンへの手紙に「私の思い違いでなければ、この作品は早い時期に聴衆に受け入れられ人気を得るだろう」と書き送っています。

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※出版商の友人ピョートル・ユルゲンソン(1836-1904)

管弦楽版の初演は、1879年暮れの12月、モスクワでニコライ・ルービンシュテインの指揮で行われました。この時チャイコフスキー自身はローマに滞在中のため立ち会えませんでしたが、作曲家が予見した通り、相当な成功を収めたようです。少し遅れてレニングラードでもエドゥアルド・ナプラヴニクの指揮で演奏され更なる賞賛を得たとのことです。

当初全5楽章で計画されましたが、タイトルの変更や、6つ目の楽章を加えるなどされ、今日聴くスタイルに落ち着いたようです。当初「アンダンテ」としていた楽章も「間奏曲」と呼ばれています。

・第1曲「序奏とフーガ」
半音階的な序奏は、揺れ動く不安な情緒を醸しますが、堅牢なフーガを後続させて対照を強め、印象深い音楽を構築しています。序奏部は、1876年作曲の幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」の地獄の描写を彷彿させます。

・第2曲「ディヴェルティメント」
のどかなクラリネットの呟きに、管弦楽が呼応し開始します。バレエ音楽のような優美な雰囲気を持ちます。

・第3曲「間奏曲」
憂鬱な感情を帯びますが、深い情緒をあらわした美しい音楽です。中間部で熱を帯びます。

・第4曲「行進曲」
ユーモラスな曲想を持つ楽章で、小さな妖精の行進とのことです。晩年のバレエ「くるみ割り人形」の序曲を思わせます。

・第5曲「スケルツォ」
楽天的な明るさを備えた楽章です。中間部は民謡風でローカルな味わいが堪りません。この楽章もバレエ音楽の雰囲気が多分にあります。

・第6曲「ガヴォット」
古風な典雅に包まれていますが、これもバレエ音楽の様相です。多種多様な要素を詰め込んだこの多楽章の組曲をまとめる為か最後に第1曲のフーガ旋律を回想して統率を図っています。

■ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)
管弦楽組曲第1番ニ短調作品43


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アルヴィード・ヤンソンス指揮
国立モスクワ放送交響楽団

(1965年録音 ソ連Melodiya原盤EMI SXLP-30244 LP)

1914年ラトヴィア出身のアルヴィード・ヤンソンスは、ムラヴィンスキーとともに絶頂期のレニングラード・フィルを支えた重要な指揮者の一人に思います。聴く限り神経の行きとどいた丁寧な演奏で、荒々しさは感じられません。このレコードで強調しておきたいのはヤコフ・シャピロを彷彿させる柔らかいホルンの音色です。この著しく個性のある音はローカルな味を発散していて堪らない感覚にとらわれます。今日このような個性を発する奏者にはまず遭遇しない為貴重です。それにしてもこのホルンは素晴らしいです。
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アレクサンドル・ドミトリエフ指揮
国立レニングラード・フィルハーモニー交響楽団

(1978年録音 ソ連Melodiya原盤Victor VIC-4117 LP)

1935年レニングラード生まれのドミトリエフは、1966年第2回全ソ指揮者コンクールに入賞し、1977年からレニングラード・フィルの指揮者に就任しています。ドミトリエフが就任したレニングラード・フィルは1931年創立の新しい団体で、あのムラヴィンスキー率いるレニングラード・フィルと同名称で別団体となります。このレコードでは、そのどちらの団体を指揮して吹き込んだのかはっきりしません。録音のせいか篭りがあり音色に精彩が欠けるのですが、演奏は、誠実で丁寧さがあり、チャイコフスキーのあまり知られていない作品に明るい光を与えています。
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エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮
ソビエト国立交響楽団

(1985年録音 ソ連Melodiya原盤Eurodisc 302620435 LP)
(同音源 仏Chant Du Monde LDC-278825 CD)
(同音源 ソ連Melodiya MCD-109 CD)

スヴェトラーノフが1985年に一気に録音を進めた組曲全集は、デジタル方式で行われ極めて鮮明なものとなっています。技師セヴェリン・パズーヒンが手掛けており、いつもながら打楽器が至近に聞こえる違和感のあるバランスで、特に強奏時の不快さが残念です。しかし、木管や、弦楽器の磨き抜かれた美しさは、この全集録音を輝きあるものにしており、スヴェトラーノフの熱の篭った歌心が聴かれます。組曲第1番の仕上がりは素晴らしく、序奏とフーガの張りつめた緊張感は格別です。バレエの小品を思わせる後続楽章に至ってはスヴェトラーノフの手際のよい処理が光ります。劇場での経験が活きているのではないでしょうか。余談ですが全集を求めている方には、上記中段に掲載したフランスのシャンデモンド盤には注意が必要です。厳密には全曲収録盤ではありません。第2番の第2楽章「ワルツ」が欠落しています。
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■ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)
管弦楽組曲第1番ニ短調作品43より

・第4曲「行進曲」


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コンスタンティン・イワーノフ指揮
国立モスクワ放送交響楽団

(1976年録音 ソ連Melodiya原盤Victor VIC-28015 LP)

あいにく第4曲「行進曲」のみの収録ですが、モスクワ放送交響楽団の明るい音色が爽快です。イワーノフがこの作品を全曲録音していたならと悔やまれます。

ot521 at 18:24│TrackBack(0) ▼作曲家名タ行 |   チャイコフスキー

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筆者

Takeshi.O

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