2012年09月04日

チャイコフスキー:「18の小品」作品72

この作品は、1893年出版商の友人ユルゲンソンの依頼により取りかかった作品で、丁度チャイコフスキーが最後の交響曲となる第6番「悲愴」を作曲する合間に綴ったものです。バレエの雰囲気をたたえた珠玉のピアノ曲集で、晩年の練達した技法により緻密な仕上がりを見せています。

urgenson

※出版商でありチャイコフスキーの良き友人でもあったピョートル・ユルゲンソン(1836-1904)


第1曲「即興曲」ヘ長調。落ち着きなく軽妙に動き回り焦燥感を煽りますが、リズムは軽く重い印象を残しません。

第2曲「子守唄」変イ長調。夢うつつな気だるさのある子守唄です。

第3曲「やさしい非難」嬰ハ短調。下降する旋律が印象的です。

第4曲「性格的舞曲」ニ長調。繊細な感じではなく、ロシア田舎の素朴な踊りを彷彿させます。生き生きしたリズムが農夫の逞しさを思わせます。

第5曲「瞑想」ニ長調。恍惚とした開始から、情熱的な山を作ります。曲は印象的な長いトリルで閉じます。

第6曲「マズルカ」変ロ長調。ポーランドの民族舞曲のマズルカ。バレエで培われた手腕はここでも充分に発揮されています。

第7曲「演奏会用ポロネーズ」変ホ長調。ポーランド舞曲が続きます。18の小品の中でも最初の頂点を築く大きな曲で、技巧的かつ堂々たるポロネーズです。オクターブが連続し豪快です。

第8曲「対話」ロ長調。静かに語り合う二人の様子が描写されます。高音と低音との掛け合いは恋人か。父子なのか。聴き手の想像力に委ねられます。

第9曲「シューマン風に」ヘ長調。シューマンが好んで使用した「タータ、タッタッ」というリズムの反復が印象的です。

第10曲「幻想的スケルツォ」変ホ短調。規模の大きい形式で書かれた技巧的な曲で、管弦楽をイメージして書かれたかのようです。実際、1950年代にソビエトの音楽学者であり作曲家セミヨン・ボガトイリョフが管弦楽化してチャイコフスキーの交響曲第7番として発表した楽曲の第3楽章に据えられています。

第11曲「きらめくワルツ」変ホ長調。鳥のカッコウの鳴き声を模したような旋律が印象的です。チャイコフスキーの死後、バレエ「白鳥の湖」再演の際に管弦楽化され挿入されたこともあります。

第12曲「いたずらっ子」ヘ長調。予測のつかない無邪気な子供の動きを変幻自在に描写しています。

第13曲「ひなびたこだま」変ホ長調。ユーモラスな楽曲で、重々しい足取りと軽やかな足取りが対比されています。

第14曲「悲しい歌」ニ長調。この小品集の中で、もっとも深い情感を呼び覚ましてくれる楽曲で、リストの「愛の夢」を彷彿させます。ほのかに諦観が垣間見られます。

第15曲「少しショパン風に」嬰ハ短調。バレエを彷彿させるもので、ポーランド舞曲のマズルカにより書かれています。中間部はショパンの有名なワルツ第7番嬰ハ短調作品64-2そっくりです。

第16曲「5拍子のワルツ」ニ長調。チャイコフスキーは、交響曲第6番の第2楽章にも5拍子のワルツを書いていますが、ここでは、一陣の旋風のように目まぐるしく過ぎ去っていきます。

第17曲「寂しい野原」変イ長調。単純な音階の並びを巧みに扱ってロマンティックな旋律に変化させています。作曲技法の応用と工夫なのか、チャイコフスキーの魅力的な旋律を作りだすコツのようなものが詰まっているように感じます。

第18曲「踊りの情景〜トレパークへの誘い」変ニ長調。躁鬱の激しい楽曲でロシア舞曲トレパークが熱狂へ導いたかと思うと、急に静まり返り、手短に終結します。

■ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)
「18の小品」作品72(全曲)


IMGP1294

アレキセイ・ナセトキン(ピアノ)
(1971年録音 ソ連Melodiya原盤Victor VIC-4509 LP)


ナセトキンは1942年モスクワ生まれ。幼い頃より音楽の才能を開花させてリューボフ・チモフェーエワと共に中央音楽専門学校に学び、その後モスクワ音楽院で名教師ゲンリッヒ・ネイガウスやレフ・ナウモフに師事します。1966年に卒業しています。チャイコフスキー国際コンクールやリーズ国際コンクールに入賞するなど輝かしい経歴を持ち、メロディヤへも多数優れた吹き込みを行っています。ナセトキンは、チャイコフスキーの音符の一つ一つを丁寧に歌わせて旋律の美しさを紡いでいます。後のプレトニョフのリズムを基調とした演奏とはまるで印象が異なります。中央に寄りあまり広がりを感じませんがステレオ録音です。
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IMGP0923

ミハイル・プレトニョフ(ピアノ)
(1982年録音 ソ連Melodiya C10-18217 LP)


彼はこの録音からほどなく来日した時も、東京文化会館でこの曲集から選んで弾いていました。当時この作品が演奏されるのは珍しかったと記憶します。この演奏会の模様はFMで放送されたのですが、私はそれをテープに録り、それは繰り返し聴きました。続いて国内の出版社から全曲収録したピアノ譜も発売になったため、この曲を弾く人も増えました。プレトニョフの演奏で特筆すべきは、バレエを彷彿させるリズムの良さと旋律の明快な提示です。高度な技巧に支えられた完全な演奏に思います。楽曲の特徴を的確に把握し豊かに表現するプレトニョフの傑出した才能が示され、このプレトニョフ盤を聴いてしまうと、同曲の他の盤を蒐集する意欲がなくなります。曲の土台ともいえる基礎が安定しぶれることがありません。各声部を明瞭に響かせ曖昧さを排除しています。音符の打鍵が均質に揃えられ気持ちいいことこの上ない演奏です。くっきりと焦点の定まった演奏でありこの作品の冠たる名演に思います。強音でやや歪が出ますが、間接音が豊かに取り入れられた良好なステレオ録音です。
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■ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)
「18の小品」作品72より

・第5曲「瞑想」ニ長調
・第12曲「いたずらっ子」ヘ長調
・第15曲「少しショパン風に」嬰ハ短調


IMGP0233

スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
(録音年不詳 ソ連Melodiya A10-89 LP)


旧ソ連を代表するピアニスト、リヒテルも、この作品から3曲選んでデジタルで録音を残しています。強靭なピアニズムで徹底的に表現し尽くすイメージの強い彼が、かのバッハの平均律でみせたような優しい音色で丁寧に演奏しています。行き届いた弱音のコントロールの扱い、地味ながら深い情緒を抽出しています。録音は、楽器をやや遠くに配置しているのか間接音を十分にとり、心地よい豊かな響きがあります。レコードには録音年が記載されておらず不明ですが、レコード番号がAから始まっていますのでデジタル方式の録音です。
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■ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)
「18の小品」作品72より

・第5曲「瞑想」ニ長調

COCQ-84250

オレグ・ボシュニアコーヴィチ(ピアノ)
(1970年録音 DENON COCQ-84250 CD)


ボシュニアコーヴィチは1920年生まれ。モスクワ音楽院でコンスタンティン・イグムノフに、グネーシン音楽院でゲンリッヒ・ネイガウスに学んでいます。この音源は1970年モスクワ近郊クリンにあるチャイコフスキー記念館で収録されたもので、チャイコフスキーが愛用したピアノを使用して録音しています。古いピアノの為か音色は痩せていますがボシュニアコーヴィチの語りかけるような演奏は身に染み込みます。モノラルです。

ot521 at 23:53│TrackBack(0)▼作曲家名タ行 |   チャイコフスキー

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