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 近頃は、異性関係にガツガツしない「草食系男子」を通り越し、異性との深い関係を持つ事を避ける「絶食系男子」なるものが増えているらしい。まあ、こうも世の中の女性から「慎み」というものが失われてしまえば、元来女性よりも圧倒的にナイーブでロマンチストな生き物である男子の腰が引けてしまうのも、土台無理からぬ事ではあるのだろう。

 会社の後輩でF君という子がいる。F君は童貞である。

 ヤった事ないだけで女性と交際した事はあるとか、メイド喫茶には通っているだとか、風俗に行った事あるから素人童貞なだけ、だとかそんな中途半端なファッション童貞ではない。F君は学校のフォークダンス以外で女子と手を繋いだ事も無ければ、女子とどうお喋りすればいいかも分からず一人もんもん悩むという、混じりっ気無し純度100%の童貞である。

 F君を連れて昼飯を食いに行った時も、その話になった。

「いや、実際彼女メチャ欲しいですし、セックスだって一日も早くしてみたいです。でも、女の子を前にすると、どう振舞ったらいいのか全然分からなくなっちゃうんです」

 ちなみにF君は22歳でマイカーもあれば1000CCの大型バイクも持っていて、趣味はもちろん乗り物、身だしなみもきちんとしていれば、人柄も真面目で極めて優しい。異性からはモテないが、同性からはおおよそ嫌われる事などない「イイ奴」である。もっとも、いくらF君がイイ奴だったとしても、女子に話しかける事もせず、女子のいるような場所に顔を出す事も無ければ、そりゃ彼女が出来ようはずも無い。敵は常に自分自身の内側にいるのだ。

 F君としばらく話をしていて思ったのだが、どうやらF君には、「女子にモテるためには、いわゆるリア充な振る舞いや話をしなければならない」という思い込みがあるようだった。かといって、「リア充とはこのような話をするもの」という教科書があるわけでもなし。それで「どうしたらいいのか分からない」となっているようだと僕には感じられた。

「Fはさ、世の中にはリア充と非モテしか道が無いと思ってるみたいだけど、そうじゃないよ」
「えっ・・・? じゃあ、他にどんな道があるんですか?」
「そもそも、リア充になるか非モテになるかなんて、十代の学生のうちに全部決まっちゃってるんだから。社会人になった今更モテ側になろうなんて、到底無理だよ。自分の周りのモテてる奴は、みんな学生のうちからモテてるだろ? そういうのは、生物学的に十代の頃にはもう決まっちゃってるワケ」
「たしかにそうですけど・・・、それなら、もうこの先モテるのは無理なんですかね?」
「大人になってからモテだすという事も確かにある。オッサンでも身だしなみに清潔感さえあれば、女子は基本的にオッサンが好きなものだから。ただその場合は『カネを持っている』というのが絶対条件になる」
「でも僕はまだ22で、社会人にもなったばかりで給料も安いですし・・・。それは当分無理そうですね」
「まあ、そう結論を焦るな。初めに言ったように、世に中にはリア充と非モテの他に、もう一つ道があるんだ。その道をうまく行けば、リア充にも負けないモテ側にまわる事だって不可能ではない」
「それはいったい・・・」
「それは、『変態』というオルタナティブな選択肢だ!」
「はあ・・・。変態ですか・・・?」
 F君の期待に満ちた眼差しは一転「何言ってんだこのオッサン」という軽蔑の色に変わる。
「まあそんな目で人をみるな。別に適当言ってるわけじゃない。変態と言ってもロリコンだとか、下着泥棒とか痴漢だとかいうワケじゃない。そういう犯罪臭のするやつはもちろんダメだ」
「まあ、『下着を盗んでくれるから好き』なんていう話は聞いた事ないですもんね・・・」
「だけど、度を過ぎたSとか、とんでもないMとか、ものすげえ熟女好きだとか、他人に迷惑をかけないジャンルでの偏った性癖というのは、世間的には聞こえが悪いかもしれないけど、実際のところはけっこう需要があるものなんだ」
「なるほど」
「ただし中途半端ではダメだ。飲み会で俺ドSだから、なんて冗談めかして言っちゃうような生ぬるいファッションSMではどうにもならない。まず自分自身がそれにとことん本気でなければダメなんだ。それに本気になって経験を積んで、それが人格形成の芯の部分にまでいければ、必ずそこには一定数の需要がある」
「たしかにそうかもしれませんね」
「それは別に性癖だけじゃなくていい。電車が好き、携帯電話が好き、科学実験が何よりも好き、内容は基本的になんでもいい。なんでもいいけど、本気でなければならないし、世間的に見て明らかに度が過ぎている所までいっていなければいけない。中途半端にそういったキャラを演じた所で、引かれるだけで他には何も残らない。ただ、誰が見ても明らかに『変態だなコイツ・・・』と思える所まで行ってしまうと、結構モテたりする。何よりもまず、変態の領域にまで達する事ができれば、同性からはまず人気を得る事ができる。同性から人気者になれば、自然と女子もよってくるもんだよ。どう見てもそいつは『面白い』からね」
「確かに! なるほど、そういう道もあるんですね! よし、僕も変態になれるよう頑張ります!!」


 F君はいたく感心してくれた。その場の勢いで適当に言っていただけなのだが、思った以上に芯を食ったらしい。まあ、この先F君がどうなったとしても、僕にとっては他人事だし、どう転んでも面白そうだからそのまま放っておく事にしている。後で怒られるような事になったら、「そんな事言ったっけ?」と白を切るつもりだ。

 でも、適当に言ったわりには結構真実を突いているんじゃないかと思ってる。
 F君のこの先の人生に幸あれ(適当)。