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名南経営 人事労務コンサルタント 大津章敬公式ブログ

2013年09月

今後急増が懸念される精神障害の労災認定からの民事請求トラブル 労働トラブルは相変わらず高水準で発生しており、私のクライアントからも頻繁に相談が舞い込みます。内容としては労働基準監督署からの是正勧告のようなものもあれば、退職者(場合によっては在職者)からの未払い残業代請求、期間契約従業員からの育児休業の請求、職場でのいじめやハラスメントなど様々ですが、今後、増加が懸念されているのがうつ病などの精神障害にかかる労災申請とその後の民事請求です。

 精神障害の問題はここ10年で急増しており、企業としてもその対策が求められるところでありますが、一昨年12月26日に「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改定され、うつ病などの精神障害にかかる労災認定の基準が具体化されました。これにより昨年度の精神障害にかかる労災支給決定件数は、前年比146%の475件となり、過去最高を記録しています。中でも認定率は前年度の30.3%から39.0%に上昇しており、認定基準改定により、認定率が大幅に上昇しているのです。

 また労災認定後の状況にも変化が見られるようになっています。以前であれば、労災として認定されればそれで終わりという例が多かったのですが、最近はそれに止まらず、安全配慮義務違反等に基づき、企業に高額の民事賠償が請求されるケースが急増しています。最近では今年6月に熊本の肥後銀行で起きたうつ自殺の案件で、遺族が同行に対して約1億7000万円の損害賠償を求める訴えを熊本地裁に起こしたというケースがありましたが、この事件でも事前に労災が認められています。このような裁判はこの他にも多く見られるようになっており、今後の労働トラブルの中心になっていくことが懸念されています。特に自殺の場合には億を超える賠償となることも多く、金銭的な面だけを見ても、企業にとっては非常に大きなリスクとなります。

 その他、人材採用などのマイナスなどの各種事業リスクも抱えることになるため、その対策が求められますが、それ以上に、会社のことを信じて入社してくれた社員が職場環境を原因として健康を阻害し、最悪の場合は命をも絶ってしまうような環境を改善しなければならないと考えることが重要です。メンタルヘルス不調の問題を取り上げる際にはどうしても企業のリスク管理という考えが前面に出やすいのですが、一番重要なことは社員とその家族を守ることであるという当たり前の事実を確認しておきたいものです。
関連blog記事
2013年6月24日「精神障害にかかる労災支給決定件数は前年比146%の475件で過去最高」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51997857.html
2012年4月25日「精神障害等の労災認定」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/51190994.html
2011年12月28日「精神障害の労災認定基準が遂に見直されました」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51900102.html

参考リンク
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を策定」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html

高年齢雇用継続給付 現在、厚生労働省の労働政策審議会 職業安定分科会 雇用保険部会では、今後の雇用保険制度に関する様々な議論を行っています。その論点としては、長期失業者への基本手当給付水準の見直しや育児休業給付の給付率の引上げなど様々なものがありますが、本日は高年齢雇用継続給付の見直しに係る議論の状況について取り上げましょう。

 高年齢雇用継続給付は、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者が、原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて、75%未満に低下した状態で働き続ける場合に賃金の補填の意味から支給されるという給付金制度です。この制度が導入されたのは1994年でしたが、この年は年金の支給開始年齢の段階的な引き上げが決定し、それを受けた高齢者雇用安定法改正により60歳定年の義務化が行われた年でした。その際、60歳以降、賃金が低下する中で継続雇用される従業員に、低下した賃金に応じた給付金を支給し、雇用継続を図るための制度として創設されたのが高年齢雇用継続給付でした。つまり、今後、年金の支給が段階的になくなっていく60歳代前半について継続雇用を促進し、賃金、在職老齢年金、高年齢雇用継続給付の三本立てでその所得の確保を目指すものだったのです。

 こうした背景を持つ高年齢雇用継続給付ですが、今年の春、この制度に大きな影響を与える法改正が実施されました。これが高年齢雇用安定法改正による原則希望者全員の65歳までの雇用確保の仕組みの導入です。希望者全員を65歳まで雇用する必要があるのであれば、その年代に給付金を支給する意味はないのではないかといった疑問が当然に起こります。それだけにこの制度の今後について大きな注目が集まっていました。

 今回の雇用保険部会の議論の中ではこのテーマも取り上げられていますが、現時点では以下のような意見が出されています。
60歳以上の安定的な収入の確保、雇用の継続という観点から高年齢継続給付は引き続き存置するべき。また、以前設けられていた国庫負担についても検討するべき。
年金の支給開始齢引上げを踏まえると、65歳までの雇用確保が第一。高年齢者雇用継続給付が再雇用時の賃金に影響を与えている一方で、再雇用時の公的給付の役割も担っていることから、引き続き多面的な議論が必要。

 つまり、現時点では65歳までの雇用確保を優先するため、高年齢雇用継続給付は継続すべきという意見が出されているのです。最終的にどのような結論になるのかは分かりませんが、多くの企業ではこの給付の支給を勘案した上で60歳以降の賃金設定を行っています。そうした企業にとっては良いニュースになるのではないかと思います。今後、60歳以降の人事制度の見直しを検討する企業が急増すると予想されていますが、そこにも大きな影響を与えることになるでしょう。
参考リンク
厚生労働省「第91回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会資料」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000023019.html
ハローワーク「高年齢雇用継続給付」
https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_continue.html

労働契約 今春施行された改正労働契約法では、有期労働契約が通算5年間を超えて反復更新された場合には、その有期契約労働者が使用者に対し無期転換申込権を有することとなり、申し込むを行うことで、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するという仕組みが導入されました。雇用が不安定である有期契約労働者の雇用を安定させるために設けられたこのルールですが、企業としては雇用のリスクを回避するためにこれまで有期労働契約を選択してきた訳であり、法改正になったからと言って、「はい、そうですか」と無期転換を受け入れるはずはありません。結果としては有期契約労働者を5年以内で雇止めすることによって、無期転換を避けるという選択肢を考えることになります。法改正から約半年が経過し、様々なところでその対応が見られるようになってきました。

 具体的には労働契約の内容を変更し、有期契約を反復更新しても最大5年以内とするという条項を契約書に追加する例が増えていますが、中でも大学の非常勤教員でこうしたルールの導入が多く見られており、一部で問題となっています。企業の理屈を考えれば、こうした状況が発生することは容易に予想できたと思うのですが、ここに来て、この労働契約法の無期転換ルールを見直そうという動きが出始めています。

 まずは内閣府の規制改革会議が9月12日に行った第15回規制改革会議の資料を見ると、雇用ワーキング・グループの検討項目(案)の中に「6.研究者等の有期労働契約に係る環境整備」という項目が盛り込まれています。これは「研究者等の有期労働契約の労働者については、改正労働契約法の施行により労働契約期間が5年に達する前に雇止めされる場合があるとの指摘があり、労働契約期間に係る見直しを行うべきではないか」という内容であり、文字通り、現在問題となっている非常勤教員等の雇止め問題を正面から取り上げています。

 また内閣内部に設置された日本経済再生本部が9月20日に行った第1回 産業競争力会議課題別会合の資料を見ると、その中にも有期雇用の特例提案が盛り込まれており、「特区内の一定の事業所(外国人比率の高い事業所)を対象に、有期雇用の特例(使用者が、無期転換を気にせずに有期雇用できる制度に)」という規制改革提言が述べられています。これに対して、厚生労働省は「労働者に対し無期転換権を放棄するよう、使用者が強要する可能性があるため、不可」という見解を示していますが、ワーキンググループは「交渉力の比較的高い労働者の集まる事業所を対象に、労使双方の同意を前提とした上で、かつ、不当労働行為や契約強要・不履行などに対する監視機能強化を特区内で行うなら、検討可能」としています。

 このように見ていくと、無期転換ルールは厚生労働省が主導して導入されたものの、新政権はそれを見直す方向で議論を積極的に進めているということが見えてきます。最終的にはどのような結論になるかは分かりませんが、この無期転換ルールには一定の修正が入る可能性は高いのかも知れません。労働者派遣制度や労働時間法制など、政権交代により今後、企業の労務管理に大きな影響を与える法改正等が検討されています。企業の実務担当者としてはこうした動きをフォローし、自社の労務管理のあり方を継続的に検討していくことが求められます。
関連blog記事
2013年9月18日「今後も実務を大きく揺るがす改正が検討される労働関係法」
http://blog.livedoor.jp/otsuakinori/archives/32158762.html
2013年2月7日「[改正労働契約法]定年後の継続雇用で通算5年を超えた場合に無期転換ルールは適用されるか」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51977623.html
2013年1月29日「[改正労働契約法]無期転換の申込みができることを労働者に伝えることが必要か?」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51976292.html
2012年12月6日「改正労働契約法により無期転換する場合のクーリングの考え方」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51967577.html
2012年10月29日「改正労働契約法パンフレットのダウンロード開始!」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51960265.html
2012年8月29日「[改正労契法(3)]有期労働契約の無期転換ルール適用時の労働条件」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51949785.html
2012年8月27日「[改正労契法(2)]有期労働契約の無期転換ルールにおける5年の考え方」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51949782.html

参考リンク
内閣府「規制改革会議(平成25年9月12日) 議事次第」
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee2/130912/agenda.html
首相官邸「第1回 産業競争力会議課題別会合 配布資料」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai1/siryou.html

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